インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
「行くよ!!」
セシリアが2機の無人IS(α1とα2)を抑えている間に、
ごく自然に、そんな役割分担。
識別コードα3は一夏が入れたダメージで、もう殆ど移動出来ない。代わりにアリーナ外周にポジショニングして固定砲台化。おかげで射撃精度が高い。
(本当なら、機動力で撹乱しながら削るところだけど――――――)
ハイパーセンサーが、2対1にも関わらず敵を封じ込めている、セシリアの姿を捉える。
(――――――あんな無茶が長く続くはずが無い。やるなら、速攻で決めないと)
この際、少々の被弾は仕方が無い。
時間を掛ければ掛けるほど、こっちが不利になってしまう。
なら最短の時間で終わらせる。
両手のトリガーを引き絞り、弾幕を張りながらブーストダッシュ。
この時僕が考えていたのは、α3を接近して撃破。と同時に距離を取ったα1と2に対して、ラファールの遠距離戦における要の一つ。多弾頭多連装ミサイルを撃ち込むというもの。
近距離戦じゃ使いづらい兵器だけど、この状況なら!!
近付く程に濃密になるα3の迎撃。
だけど湧き上がる恐怖心は、トレーニングを思い出せば耐えられた。
「ショウの攻撃は、もっと怖かったよ!!」
右にワンステップ。
コンマ1秒前まで居た空間を、腕部ビーム砲が貫いてくいく。
今度は左に。肩部ビームマシンガンがエネルギーシールドを掠めていく。
もう一歩左に。避わし切れなかった腕部ビーム砲が、エネルギーシールドを削っていく。
ゲージがイエロー表示に。
でも、ここまで踏み込めば!!
前方に向かってジャンプ。近付いたα3に対してトップアタックを――――――すると見せかけてPIC制御。勢い良く跳び上がった慣性をキャンセルして垂直降下。
この瞬間、フェイントに引っかかったα3の上体は完全に開いていた。
両腕も、顔も、僕が本来居たであろう位置に向けられている。
やるなら、今!!
―――
本当なら隠しておく気だった切り札。
一瞬でトップスピードに到達。左手のバズーカをリリースしながら腕を引き絞る。
そうして懐に潜り込んだ瞬間。
「コレは、一夏のみたいにキレイに切れる訳じゃないからね」
人間で言うところのわき腹から心臓に向かう角度で放った鉄杭が、エネルギーシールドを貫き、無人ISに根元まで突き刺さる。
やった!!
――――――この時、シャルロットの選択は決して間違っていなかった。
本人が知る由も無い事だが、この一撃でα3は機能の大半を喪失。
戦闘能力など、もう“ほとんど”残ってはいなかった。
だが彼女にとって不幸だったのは、残った部分に再起動システムが含まれていた事。
損傷がボディに集中していた為に、ビーム砲のあるアームユニットが無事だった事の2つ。
そんな無人ISを前にして、彼女がとった行動は――――――
僕は突き刺した
と同時に崩れ落ちるα3。
両手に持つ武器をリリース。
次に使う武器を
出現するのは、デュノア社の傑作兵器の一つ。
手持ち型の多弾頭多連装ミサイル。
外見は
1発につき、6発の小型ミサイルに分裂。それが片方だけで4発。つまり24発。それを両手に持っているから計48発のミサイル攻撃。
ロック――――――オン!!
「セシリア!!」
トリガー。と同時に
放たれたミサイルが、それぞれ分裂。
α1と2が迎撃を始めるけど、もう遅い。
そのミサイルは、ランダム回避を繰り返しながら目標に迫るっていう、凶悪な代物だよ。
―――システム再起動。
―――自己診断プログラム開始・・・・・終了。
―――エネルギー回路バイパス。
―――10秒の限定起動時間確保。
―――ターゲット。ラファール・リヴァイヴ・カスタムII
僕は全弾発射後、すぐに手持ちミサイルをリリース。
次に呼び出すのは、120mmアンチマテリアルキャノン。
全長3mを越える取り回しの悪さに加え、ISの性能を持ってしても、両手を使わなければ押さえ込めないという強烈な反動。
使い辛い事この上ない兵器だけど、そんなものが専用機に組み込まれている理由はたった一つ。
「コレは、痛いじゃすまないよ」
腰だめに構え、ミサイルに追い立てられて機動が単調になったα1を照準。
FCSがロックオンの完了を告げる。
この時、僕はもっと注意するべきだった。
今までは
だから今回もそうだと、心のどこかで思ってしまっていたんだ。
その油断がα3の再起動を、その初動を見落す事に繋がってしまった。
―――形状特性から120mmアンチマテリアルキャノンを確認。
―――攻撃有効箇所検索・・・・・終了。
―――弾倉部を確認。
―――射線クリア。
―――照準。
―――右腕ビーム砲エネルギーチャージ。
―――充填率36%
―――発射。
気付いたのは、ビームが放たれた瞬間だった。
咄嗟にキャノンを手放したけど、出来たのはそこまで。
120mm弾頭が最大装填されている弾倉が爆発。
そこで、僕の意識は途切れたんだ。
◇
多弾頭多連装ミサイルに追い立てられる無人機を見た
この後、敵が反撃するチャンスなんてもうありませんもの。
私の多角同時攻撃と、
そう思っていました。
直後に聞こえた、予想外の爆発音。
振り返れば、吹き飛ぶ彼女の姿。
「え?」
思わずそんな言葉が漏れてしまう程、その光景が理解出来ませんでした。
何故、吹き飛んでいますの?
1秒にも満たない思考の空白。
でも2対1という状況において、それは致命的でした。
まして
「!? しまっ――――――」
制御下を離れ、停滞したビットが無人機に撃ち落される。
1、2、3機も!?
慌てて再制御。それ以上の被害を防ぐ。でも純粋に火力が減ってしまった今、敵の行動を抑制出来ない。
距離を取ろうにも、アリーナという閉鎖空間に加えて2対1という数的不利。
どうにかして自分の距離を、距離さえ取れれば――――――。
でも敵が、それを許してくれるはずもありませんでした。
数の利を生かし、1機は頭を抑え、もう1機が私を追い詰める。
高度が徐々に奪われ、逃げる空間を潰され、残っていたビットも撃墜され、最後はスナイパーライフルにも被弾。
武器を失い、気付けば吹き飛んで倒れている
すると無人機は、憎たらしいほど機械的で冷徹で合理的な判断。
射撃武器を持たない私に対して両腕を向け、エネルギーチャージ。
避わせば、倒れている彼女に直撃。避わさなければ、当然私に直撃。
そして反撃手段は有りません。
でも友人を見捨てるなど、オルコット家の人間がする事ではありませんわ。
なら、取るべき行動は一つ。
そう覚悟を決めた時でした。
ハイパーセンサーが、桁違いのエネルギー反応を感知したのは。
上?
私が見上げると同時に、無人機達は攻撃を中断して回避機動。
直後、アリーナに突き刺さる6本の光の柱。
放たれた圧倒的なエネルギーの奔流は、一番初め、無人ISが上空の大出力エネルギーシールドを貫いたのとは、比較にならない大爆発を引き起こす。
余りの衝撃に、アリーナ全体が震えるのが分かりました。
そんな爆炎と爆風が吹き荒れる中、ゆっくりと降下してくるNEXT。
背中に見える新しい武装が、どうしようもなく天使という言葉を連想させる。
それも只の天使ではなく、暴力を持って敵を駆逐する黒色の破壊天使。
「――――――セシリア。良く持たせてくれた。後は俺に任せて、シャルロットを頼む」
オープン回線で聞こえてきた彼の声に頷いた私は、彼女を抱き抱えてピットに下がりました。
この至近距離ですら、リアルタイムで捕捉出来ないNEXTをレーダーに見ながら。
◇
「――――――セシリア。良く持たせてくれた。後は俺に任せて、シャルロットを頼む」
振り返らずに、努めていつもと変わらない口調で言った
安堵は、言うまでも無い。
仲間が無事だったから。
データリンクでシャルロットのバイタルデータが乱れた時、そしてセシリアが追い詰められていると分かった時、速いはずのNEXTの移動速度が、どれだけ遅く感じた事か。
そして歓喜は、この黒い感情をぶつける相手が、まだ生き残ってくれていた事に対してだ。
誰にだってあるだろう?
ストレートに暴力をぶつけたくなる事が。
そして敵に、反撃を許す気は無かった。
つまりここから先は戦闘じゃない。
只の蹂躙戦だ。
しかし壁面にぶつかるような事は無い。
強化人間の反応速度とAMSの制御能力があれば、例え超音速領域だろうとミリ単位で機体をコントロール出来る。
そして視界の先では、無人機共が回避機動に入ろうとしていた。が、遅過ぎる。
シールドの上から容赦無く弾丸を叩き付け、引きちぎり、本体に風穴を開けながら接近。
辛うじて四肢が繋がった状態のα1の懐に飛び込み、設計時から近接打撃が考慮されている04-MARVEの銃身を突き刺す。ここでOBを停止し、前進しようとする慣性を
敵を地面に向かって叩き落とし、再びダブルトリガー。弾丸の豪雨が、今度こそα1を蜂の巣にする。
そうして1機目を粉砕したところで、α2は腕部ビーム砲を、セシリアが入って行ったピットへと向けた。
普通ならここは、「何て卑怯な」と怒るところかもしれない。
でも俺みたいな捻くれた人間にとって、その手の行動は分かり易過ぎる。むしろ戦闘中に弱っている敵を狙うなんて常識だ。
だから怒りもしないし卑下もしない。
むしろ無人ISの戦闘プログラムを組んだ人間は良く分かっている。
でも、それが届く事は無い。
読めてるという事は、先手が取れるという事なんだから。
先んじて俺は、両手の武器をリリース。
―――
ロックオン。トリガー。そして着弾までがほぼ同時に行われ、α2は攻撃を放つ事無く、衝撃で体勢を崩される。
ここで俺は、再び手持ち武器をリリース。と同時に再度
よろけたα2の懐に潜り込む。
そうして次に呼び出したのは、KB-O004。
束博士曰く、「真っ当な
引き絞った腕を全力で打ち込むと、圧縮によって杭という形を成していたエネルギーの塊が、敵本体の中で拡散。瞬く間に脆弱な内部機構を焼き尽くし、余りの高熱に全身が赤熱化。ついには内部爆発を引き起こして、跡形も無く消滅する。
この間、僅か1秒弱。
当たれば、まさに必殺と言える威力だった。
一瞬KB-O004でこれなら、
が、それを考えるのは後で良いだろう。
今は――――――と思考を切り替えようとしたところで、更識から通信が入った。
「依頼は片付けたよ。ところで一つお願いがあるんだけど、良いかな?」
「内容による」
「そんなに難しい事じゃないよ。単に、今私が鹵獲した無人機の解析を、篠ノ之束博士に依頼したいんだ。取次ぎを、お願い出来ないかな?」
「鹵獲? よく出来たな」
「空にいたとは言っても海の上。引きずり込めばどうとでも出来るよ」
「怖い話だ。敵には回したくないな」
「君にそう言ってもらえるとは光栄だね。で、取次ぎはしてくれるの?」
「無人機のデータは俺も欲しいからな。取次ぎはしてみる。しかし博士が受けるかどうかは――――――」
分からない。
と答えようとしたところで、博士から通信が入った。
「いいよ薙原。私も興味があるから、その話受けようじゃないか」
「聞いていたのか?」
「勿論。状況は全て把握しているよ」
「分かった。ならすぐに鹵獲機を運ぼう」
「うん。よろしく。――――――と、そうだ。えーと、さらしき、サラシキ、更識? に、ちょっと繋いでくれる」
他人にコンタクトを取るなんて珍しいと思いながら、言われた通りに通信を繋いでみる。
すると博士は、予想もしていなかったような事を言いだした。
「ご褒美は、お金以外はあげないからね。彼を使って何かしようとするのは、許さないよ」
・・・・・これは、俺はどう反応すれば良いのだろうか?
少し固まっていると、更識からの返答。
「あははははは。了解了解。博士の愛しい愛しいガーディアンに手を出すような真似はしませんよ。でも――――――」
彼女は1度言葉を区切り、分かり易くゆっくりと言葉を続けた。
「――――――お仕事で近付く分には、仕方ないですよね? 束博士」
ちょっ!? そこで何挑発しているんですか!?
原作の
多分・・・・・無理だろうなぁ。
何故だか一難去ってまた一難な気がしてならないのは、気のせいだろうか?
いや、気のせいだと思いたい。ぜひともそう思いたい。
2人とも大人だから、困った事にはならないはずだ。
そんな希望的過ぎる考えで問題を先送りにしながら、俺は鹵獲機の回収に向かうのだった。
通信機から聞こえてくる声は、聞こえないフリをしながら・・・・・
第24話に続く