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「日本は正しい決断を行った」天才哲学者マルクス・ガブリエルが語る理由



2021年04月29日 公開

マルクス・ガブリエル(ドイツ・ボン大学教授)

 

倫理的価値と経済的価値はまったく同じである

「ネイチャー・ポジティブ」な経済は実現可能です。経済的価値体系を、倫理的価値体系と一致させればよいのではないでしょうか。私はこれを「善の収益化」と呼んでいます。

善を収益化できるのに、我々はなぜ悪を収益化するのでしょうか。搾取が最高のビジネスモデルだと決めたのは誰でしょう?搾取モデルはちっとも良いモデルではなく、今崩壊しつつあります。

グローバリゼーションのネオリベラリズム(新自由主義)的解釈は、アフリカ、そして過去には中国やインドなどの弱者に対し搾取が行われたことに基づいていました。

中国などのかつての弱者は今強くなってきています。中国は、現在も多くの人が思っているほどには強くないと思いますが、以前よりは強くなってきているのは確かです。

今起きていることはすべて、市場経済は労働をアウトソーシング(外部委託)して、人を搾取することによって成立するという間違った考えに基づいています。

ドイツの豊かさは外国の工場労働者の搾取の上に成り立っていますが、このやり方は間違っていました。現在ドイツが直面している経済危機は、過去の非倫理的な行動がもたらした結果だといえます。

したがって私は、倫理的価値と経済的価値はまったく同じであると考えることを提唱します。経済的に良いことと倫理的に良いことに大きな違いはありません。

悪い経済とは、倫理的価値のあるものと経済的価値のあるものが異なり、儲けるためには人を搾取しなければならないようなシステムです。倫理的に正しい行動を取った結果、お金が儲かるような経済体制を作れれば良いのではないでしょうか? それは十分可能であり、ぜひ作るべきだと思います。

 

多くの不道徳な決断をしたスペイン

これがパンデミックから得た最大の教訓です。ドイツは他国と比べて、危機の最中にありながら経済的にはうまくやっている方です。それは倫理的に優れた決断を行ってきたからです。

例えばスペインは子供を含むすべての国民を自宅待機させました。国民が公園に行くことすら禁じたわけですが、これは不道徳です。子供たちをアパートの中に閉じ込めるなど許すまじきことです。

その結果、何が起きましたか?経済の破綻です。スペインがめちゃくちゃな状態に陥ったのは、パンデミックと闘うためにあまりに多くの不道徳な決断をしたからです。

ドイツは倫理的なモデルを選びました。一部良くない措置もありましたが、概ね倫理的に正しい決断を行ってきたと思います。ドイツのロックダウンは非常に緩やかなものでした。

レストランは比較的早く再開しましたし、閉まっている間も森の中をジョギングしたり、スーパーマーケットで買い物することはできました。もちろんマスクはしなければなりませんでしたが、スペインやフランスのロックダウンとは性質が違いました。フランスではジョギングは禁じられました。

ドイツではジョギングも買い物も、森で友達に会うこともできました。生活全体が森に移動したようなもので、人に会いたければ森に行きました。空気は綺麗で、ロックダウンの間中素晴らしい天気に恵まれました。ドイツはまるでカリフォルニアのようでした。

日本は経済的には打撃を受けましたが、倫理的に正しい決断を多く行いました。例えば日本の人々は早くからマスクをし、ソーシャル・ディスタンスを保っていました。

ウイルスへの反応というより、もともとの生活習慣の一部だったのだと理解していますが。他にも倫理的に正しい決断を行ったので、日本はブラジルなど多くの国が辿った道(感染爆発)は辿らないと思います。

 



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