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「っ…」
相対する彼の残像が、俺の右に奔った。
即座に、左手を左側の腰の方へと回す。
掌に手応えを感じた刹那、彼の手を捕まえようと手を握る。
しかしいつの間に離れたのか、ただ握り拳を作っただけに終わった。
「チッ…」
舌打ちを一つ。しかしその口許の動きとは裏腹に、俺の心は静かだった。
音を置き去りにして駆ける彼を捕まえるには、捕まえられる距離に来てから動いても遅い。
そのことは既に散々知っている。故に、先ほどの舌打ちは、『演技』でしかない。
次の動きを予測する。音より速く動く彼の動きを予測するには、雷電より早く思考する外ない。
「はっ!」
右前方に左足で膝蹴りを放った。
もっとも―――
「喰らうか!」
予測が中ったとて、攻撃が当たるとは限らない。
とりわけ、右後方に着地した彼――鉄城大和は、所謂"超反応"とでも言うべき反射神経と、音を置き去りにする程の身体能力の持ち主である。
運動不足気味な俺、敷島佑斗がそう簡単に触れられる存在ではないのだ。
しかし、予測自体は功を奏したようだ。膝蹴りを直前で跳躍して回避した大和が
着地して姿を現したのがその証左だろう。
「…相変わらず無茶苦茶な身体能力してんな」
「そりゃ、鍛えてるからな。お前はもっと運動した方がいいんじゃねぇか、佑斗?」
「喧しい。俺は
魔術師なんだよ」
「だったら使えばいいだろ?魔法。というかいつの間に魔術師になったんだ」
暫し、思考する。魔術師を名乗った以上、魔法を使わない道理は無い。
否、使っていなかったわけではない。だが少なくとも大和は、俺が魔法を使っていることを知らない。
このまま使わずに闘いを終え、「魔術師(笑)」などと言われるよりは、何か手札を切る方がいいだろう。
しかし、ここで手札を切って、次に対策される。それだけが気がかりだった。
ただでさえ、毎度毎度違う
切り札(を切って、その上勝てるのは三割程度なのだ。絶対に勝たねばならない闘いでもない今、切り札を消費する理由は、そんなに無い。
だが――
「…『ウィンドストリーム』」
一つ呟く。途端に俺の周りで風が舞った。風は俺が腰に付けているものを抑え、大和が腰に付けているものを翻そうとする。
なんだかんだで、俺もこんな馬鹿みたいな闘いを楽しんでいるのだ。
「そうこなくっちゃな」
いつもの学生服の上から穿いている、翻りそうになっているそれを手で押さえながら、大和は言う。
勝負は未だ、始まったばかりである―――
雨下「あの二人は一体何やってんでしょうね」
黒夢「スカート捲りゲームらしいです」
雨下「…突っ込みどころが一気に増えました。なんなんですかそのゲーム」
黒夢「スカートを捲ったら勝ちらしいです。V高専の先輩達から代々伝わってるらしいです」
雨下「なんでそんなモノを代々伝えてるんですか。そしてつまり、あの二人が穿いているのは」
黒夢「高専だからじゃないですかね。穿いているのはスカートですね。このゲーム用に学生会室かどっかで借りることが出来たはずです」
雨下「なんで学生会室でスカートを借りられるんですか。学生会公認なんですか。そしてなんでそんなのやってんですか」
黒夢「スカート自体は女装や女体化する人が借りたりします。ゲーム自体はちょっとした諍いを解決したり、暇つぶしに命令権を賭けて闘ったりするのに丁度いいらしいです。今やってるのは暇つぶしの為です」
雨下「なんで諍いを解決するのにスカート捲りなんですか。もっと別のがあったはずでしょう」
黒夢「高専だからじゃないですかね」
雨下「あぁもう埒が明かない…魔法まで使い始めちゃって」
黒夢「絶対楽しんでますねあの二人…面白いので眺めてましょうか」