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剝き出しの本能

全体公開
2020-06-22 06:44:00

FFの人のツイートから電波を受信したSS。今回少しグロ注意です

「はぁ…遅くなっちゃったなぁ…」

草木も眠る丑三つ時。電灯に照らされた夜道にて、偽姓果名は家路を急いでいた。
提出ギリギリの課題を学校に居残ってやっていたら、陽が落ちるまで掛かってしまったのである。

「雨下さんもう晩御飯食べちゃったかなー…おなか減ったなぁ…」

ブツブツと呟きながら、薄明かりの下を歩く。
その耳が、震える空気を捉えた。

「…?なんだろこの音…」

ずじゅるるるる……ずずずずず……

「あっ………あぁっ……」

何か、液体を啜るような音と。女性の呻き声のような音。

(……ちょっとだけ、ちょっと見に行くだけ……)

よせばいいのに、好奇心に唆されて、音が聞こえてきた方の路地へと足を踏み入れる。
路地の奥に居たのは―――

「あ…………に、げ……」

―――生気のない、青白い顔でへたり込んでいる女と。

「グルルルル……」

―――八重歯を剝き出しにして、こちらを…正確には、こちらの首筋を見据える男だった。
逃げる、逃げる、逃げる。 追いかけてくる男から、ずっと首に向いている視線から、身も竦む殺意から。 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…!」 重くなってくる足を必死に回す。 逃げられなければ喰われてしまうだろう。あの青白い顔の女性のように。 「っ…!」 思わず身を震わせる。恐怖に足を取られてしまいそうだ。 言うことを聞かなくなってきた足を叱咤しながら、十字路を左に曲がり、そこで立ち止まる。 「はぁ、はぁ、はぁ、……っ」 息を必死で整えながら、時間を計る。 曲がる直前にちらっと確認した彼我の距離と、奴の移動速度を掛け合わせて、タイミングを図る。 1秒、2秒―――体感で3秒半程を数えて、奴が十字路をこちらに曲がってきた。 「こ、んの…!」 それと共に、奴の体を全力で突き飛ばしながら、正面、つまりは元来た方から見て右へと進む。 目論見通り、奴は体勢を崩したようだった。そのまま一目散に走る。 しかし、このまま宛ても無く逃げ回っていても、遠からず体力の限界が来てしまうだろう。 それでも、今はただ、逃げるしかなかった。
「はぁ、はぁ…っ、げほっげほっ」 息が荒い。酸欠で頭がくらくらしてきた。 それでも逃げ続けて、かれこれ四半刻。ついに体力の限界が訪れる。 「ガアッ!」 「あ"っ…あ、あぁ…」 両腕を掴まれ、壁に抑えつけられてしまった。 すぐ近くから男の荒い吐息が聞こえる。 殺意が突き刺さるのを感じて、果名は思わず堅く目を閉じ――― 「俺の果名に何さらしとんじゃこの野郎オオオオォォォォ!!!」 ―――その叫び声と同時に、唐突に拘束が解かれた。 振り返って見れば、そこには拳を振り切った鉄城大和が居た。 「大和…パイセン…?」 「ハテナ!?大丈夫!?」 マリア・スミスも駆け付け、果名を保護する。 それを確認した大和は、先の一撃で吹き飛ばされた男へ追撃をかけた。 「どう、りゃああああああああああぁぁぁぁ!!!」 拳が一閃。鮮紅と、首が宙を舞った。
「んじゃあアレは大和がぶっ飛ばしたのか」 「『ぶっ飛ばされた』なんてモノじゃなかったですけどね。相変わらず、なんで徒手空拳であんなことが出来るのか全くわかりませんよ」 「そこは最早『大和だから』としか言いようが無いと思うが。というか、アレがだから出来たんであって、もうちょい格が高ければ、もっと複雑な殺し方が必要になるところだったぞ」 「マジですか」 翌朝、他に誰も居ないある教室で、黒肌紫髪の男と、黒と赤のパーカーの男が話していた。 話題は当然、昨晩の『化け物』についてである。 「というか、お前は助けに行かなかったのか?」 「別の所探していて、連絡受けて向かったらもう終わった後だったんですよ。そういう貴方は助けに行かなかったんです?」 「寝てた」 「オイコラ」 「しゃーねーだろ徹夜明けだったんだから。というか、俺がアレどうにかしようとしたら街が吹っ飛ぶが?」 「流石魔王」 「誰が魔王だ」 最早決まりきった、定番のやり取り。それに日常を感じてクスリと笑いながら、今日も一日が始まる。

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