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妖刀・村雨

全体公開
2020-07-10 01:23:32

妖刀にまつわるお話。某お船のゲームのネタが含まれます

「首尾はどうよ」
「上々だな」

V高専C棟、三階の簡易闘技場。幾つかの銃創を携えて立つ鉄城大和に、そこそこのサイズのダンボール箱を持った敷島佑斗が話しかけた。闘技場の反対側には、肩で息をして座り込む偽姓果名がいる。

「身のこなしと射撃精度は中々。あとは装填速度と能力、そしてアレがあれば、俺なら勝率半々くらいか。敷島、お前は多分勝てない」
「だろうなぁ…元々銃弾の類いには相性悪かったし。んで、アレ出来たぞ」
「お、出来たか。果名、こっち来い」
「はーいパイセン!」

息を整えた果名が駆け寄って来るのを尻目に、ダンボール箱を地面に置き、封を解く。
そこには、黒地に金のラインが二本入った拳銃が二丁、入っていた。

「おー、これが…」
「『果名さんの手に馴染むように作りました。普通の9mmパラベラム弾以外にも色々撃てますよ、散弾とか貫通弾とか属性弾とか』って如月ちゃんが言ってた」
「結構凄いがなんでそんなの撃てるんだコレ」
「知るか」

銃を手にもって、矯めつ眇めつ眺めていた果名は、訊ねた。

「そういえばこの銃、名前とかあるんです?」
「名称不定って言ってた」
「いや草。…それなら敷島さん名前付けてくださいよ」
「何で俺が」

唐突な無茶振りにたじろぐ。

「いやだって敷島さん名付け上手いじゃないですか」
「そんなに上手いと思ったことないが…うーん、雨下さんの刀って確か『村雨』って名前だったよなぁ。なら、二丁纏めて『松風』でどうよ」
((どうやって村雨から松風に繋がったんだ)ろう…)

疑問は残しつつも、三人は闘技場を後にした。



「いやー、ようやく終わりが見えてきたなー!」
「そうだな。まだ練習することはあるが、そろそろ一通りか」

短距離転移魔法(『ショートテレポート』)で直接別棟に向かった敷島と別れ、二人は傘を差して雨の中を進む。

「これでパイセン達と一緒に戦えるね!」
「そんなに嬉しいのか」
「勿論!」
「そうかそうか。…ん?」

雨で煙る視界の先、一本の刀を腰に差してこちらを向いている少女が居た。

「あれは…青猫?」
「雨下さんなんで傘差してないんだろう…」

大和の勘が警鐘を鳴らす。傘も差さず、ずぶ濡れで立つ和風セーラー服の彼女は、よく見れば、こちらを憎々しげに睨んでいた。辺りには、邪悪な何かが漂っている。

「いいとこ…見せるって……無理しちゃって…。お馬鹿…さん……ッ!」

呟いた雨下の手が腰の刀に掛けられる。

「危ないッ!」

即座に果名を抱えて横に飛ぶ。刹那、刀が抜かれ、そのまま彼女の眼前の空間を斬り裂きーーー
大和達が居た場所の更に後方にあった木の枝が、数本纏めて斬り落とされた。

「……な、ななな」
「…暴走している?刀に操られているのか…?」

唖然とする果名と対称的に、冷静に考察する大和。このままでは止める所か、反撃すら儘ならないだろう。

「っち、果名!黒夢を呼んでこい!他に戦力になりそうな奴も見つけたらこっちに向かわせろ!」
「えっパイセンは!?」
「足止めする!さっさと行け!」

黒肌で不定形な親友を思い浮かべる。彼ならば、暴走している雨下も無傷で取り押さえられるだろう。

「っ……死なないでねパイセン!多分死んでも可愛いけど!」

応援を背に受けながら、覚悟を決める。
果名は無事に離脱した。黒夢が来れば、それで何とかなるだろう。ならば奴が来るまで耐えれば、この場は勝利だ。

「来い、青猫!」
「怒らないと…わからないの!?」
「…」 F棟の屋上から、伏せた姿勢で戦場を俯瞰する。 航空機、おそらくはとが飛んでいる。巡洋戦艦と航空母艦を足して二で割らなかった結果がこれか。 地上近くの窓が数枚、粉々に割れている。大音響を操る音楽教師の力の巻き添えだろうか。 そして、切創だらけの男が果敢にも白兵戦を挑んでいる。自分が来るまでずっと持ちこたえていた様だ。 「…それで、それも雨下さんに?」 「ああ。正直ここまで届くとは思わなかったよ。最初は届いてなかった筈なんだが」 後ろでしゃがみこむ、右肘から先がない敷島の返答。F棟は四階建てのE棟の真上にある為、その屋上ともなれば20mくらいの高さはある筈だが… 「アレ本当に刀なんですかねぇ…」 「最早戦術兵器だよアレは。…まぁ、それでも物理攻撃の域は出ていないっぽいが」 戦略兵器が何を言うか、という言葉を飲み込んで、下を見る。物理攻撃オンリーなら自分の独擅場だ。大和が自分を最優先で呼んだのも頷ける。 「…んじゃ、止めに行きますかね」 呟いて、躊躇なく建物の縁に足を掛けーーー後ろからの風の魔法を受け、前方へと跳んだ。 「はっ!」 掛け声と共に、体を槍のように細く、鋭く伸ばし、右手に持つ刀に向けて刺突を放つ。しかしその攻撃は刀で迎撃され、二つに別れた体が地面に突き刺さった。 外した事を確認した黒夢は、すぐに体を液状にし、地面に潜る。 「ようやく来たか!全員退却、あとは黒夢に任せるぞ!」 大和の退却指令を聞きながら、黒夢は地中を少し移動し、再度刀へ強襲を仕掛ける。 「おりゃあ!」 「っ!?」 地中から液状のまま飛び出し、鞭のようにした体で、雨下の右手を刀ごと絡めとる。よく見れば、和風セーラー服の右手の裾だけぼろぼろになっていた。先程まで応戦していた彼らも、執拗に右手付近だけ狙っていたのだろう。 「こ…んの…!」 「やめてって…」 絡めている左手、そして右手以外は人型に戻し、右手も左手と同じく鞭状にして、左手と合わせて雨下の右手と刀の間へ差し込んだ。 「気持ちを隠すからっ…駄目なのよぉ!!」 絡めとられたまま、無理やり右腕を振り抜かれる。黒夢の胴が凪ぎ払われた。しかし不定形生物は、一瞬上半身と下半身に別たれるも、直ぐに再結合する。 「雨下さんを…離せえええええぇぇぇ!!!」 反撃とばかりに、鞭状の両手に力を加えーーー 「っ、あっ…」 雨下の手から、刀を手放させた。
鈍色の空と溟い海、そして強い雨。私はいつの間にか、そこに立っていた。 周囲には、飴色のツーサイドアップと、赤と黄色のオッドアイ、そして黒いセーラー服の、左右非対称な少女と。白い両三つ編みに白い服、そして角が生えたベレー帽を被った、全体的に白い少女。 海上に立つ非対称な少女と対称的に、白い少女は海面に横たわり、浮いている。 「はいはーい、雨下青猫さん。気分はどう?」 非対称な少女が訊いてくる。 「…少し、すっきりしたような気がします。これは一体…何があったのでしょう」 暫し逡巡し、答える。それと同時に、問いかけた。 「あの子、妖刀に支配されていたのを、貴女の仲間達が助け出した様よ。なかなか強いのね、あの人達」 「…では、貴女達は」 白い少女を『妖刀』と呼んだ、非対称な少女の言葉に気付く。 「えぇ、私は『宝刀・村雨』。邪を退け、妖を治める宝刀。そしてあの子は、私の中の製作者の残留思念と貴女の意思が反応して生まれた、妖刀の力よ」 「妖刀の、力…」 おうむ返しに呟く。 「そうよ。血を吸えば吸うほど、獲物を喰らえば喰らうほど、斬撃の威力を増すありきたりな妖刀ね」 「つまり、妖刀を産み出したのは、私…」 「まぁ、そういうことになるかしら。言っておくけど、そんなに思い詰める必要無いわよ?妖刀も使い方によりけりだし」 項垂れる私を、村雨が慰める。その時、妖刀の方から声が聞こえてきた。 「良いとこ見せようとしたのに……やられちゃったぁ…」 「っ!?」 「そんなに驚く必要ないわよ…おはよう、妖刀さん?」 村雨が妖刀に呼び掛ける。意外と悪い人ではないのでしょうか…? 妖刀も横たえていた身を起こした。 「…ふふっ。おはようございます、村雨さん、持ち主さん」 「あっはい、おはようございます…」 思わず挨拶を返してしまった。邪気の感じられない笑顔を浮かべる妖刀は、言われてもなかなかそれと気づけないだろう。 「…貴女は、何故…」 生まれてきてしまったのか。そう続けようとして、止める。これでは、彼女を否定しているようではないか。 そんな考えを見透かしたかのように妖刀は答える。 「ーーー私も、貴女の役に立ちたかったんです」 それを聴いてハッとした。 妖刀、とは言うものの、本質は村雨と特に変わらない。ただ力の方向性が少しまずかっただけだ。 「そう、ですか……村雨さん」 「なあに?」 「私と一緒に、みんなに謝ってくれませんか」 「もっちろん!」 いつの間にか雨は上がり、雲の切れ間から陽の光が差し込んでいた。
「……」 見知らぬ、天井。真っ白な天井は、保健室かどこかだろうか。 少し起き上がり、視線をさ迷わせる。 「あ…」 ベッドの脇で椅子に座ったまま、うたた寝をしている霜暮黒夢が居た。不意に目を開き、 こちらを見る。 途端に目を見開き、立ち上がりーーー 「雨下さん大丈夫ですか?!腕とか足とか頭とか痛く無いですか?!あぁそうだ果名さんやみんなに連絡ーーー」 凄まじい勢いで捲し立てた。 あまりの勢いに気圧されてしまう。 「ちょ、だ、大丈夫、大丈夫ですから落ち着いてください」 「えーと、あと…あっ、すいません、取り乱しました」 どうやら落ち着いてくれたようだ。 ベッドの上で佇まいを正し、頭を下げる。 「あの、すみません。私のせいでこんなことになってしまって」 それから、事情を説明した。果名に修行を決断させてしまった事。それを悔やみ、更なる力を求めた事。その意思が妖刀を創り出した事。一つ一つ、ゆっくりと。 話を聞き終わった黒夢は。 「いいですよ」 「…え?」 「いいですよ。そもそも皆、怒っていませんでしたし」 「え、えぇ…」 あっさり許した。身内に甘い連中である。 そのとき、ドタドタという煩い音が聞こえてきた。 「…あの、黒夢さん、この音って」 「あー…対衝撃防御態勢?」 音は段々と近づいて来て、部屋の前まで来た時。 「雨下さああああああぁぁぁぁん!!!」 扉を乱暴に開けて、偽姓果名が飛び込んできた。 「ぐむっ、果名さん飛び込んでくるのはちょっと」 「雨下さん大丈夫?!腕とか足とか頭とか痛くない?!」 「黒夢さんと全く同じこと言ってる!?ちょ、ちょっと離れてください!」 「あー、やっぱりこうなったか」 苦笑いで包帯だらけの鉄城大和が入室してくる。その後ろには秋風御礼の姿も。 「皆心配したんですよママ下さん」 「心配かけたのは悪かったですけど雨下さんママじゃないです」 秋風の言葉に突っ込みを返す。そして部屋に居る四人を見回して。 「ただいま、みなさん」

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