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「『フロギストンバースト』!」
斜め前方から、私の少し前に向けて、炎のレーザーが放たれる。これを後ろに下がって避けてしまえば、レーザーによって彼の姿が見えなくなってしまうわね。そうなれば、次にどんな攻撃が来るか分かったものじゃない。故に、レーザーに向かって垂直に、彼に近づくように移動する。
「『イージスシューティング』!」
「っ!」
危なっ!?こちらに向かってきた十数発の赤いレーザーを、無理矢理方向転換して避ける。そんな事もしてくるのね。切れる手札が多くて羨ましいこと。でも、『手加減はする』とは聞いていたけれど、私に効きにくい火属性の魔法ばかりなんて、手加減しすぎじゃないかしら。この力を私に植え付けたのは造物主たるアイツなのだから、『知らない』では済まされないわ。
間違いなく、舐められている。
「『ハイサーチライト』!」
あぁ、まただ。龍殺しにして属性殺しのエネルギーを身に纏い、光と熱の奔流の中を突っ切る。一応対策は施したのだけど、そもそも副産物に過ぎないこの熱は私には涼しい物だし、目くらましにもそれなりに耐性がある。私に対して使う魔法では無い筈よ。足に力と怒りを込めて、踏み出す。
「『レッドスプライト』!」
ようやく火属性以外の魔法を使ってきたわね。でも、遅い!
「どうりゃああああああああああ!!」
大地を踏みしめて、跳んだ。紅い雷が"前方の空間"から奔り、私の居た場所を貫こうとしているのが見える。空中を滑るように移動し、そのままアイツが立つ地面ごと、アイツを蹴り飛ばそうとして―――
「『ゲート・ザ・アルトラス』」
"斜め後ろ"から、紅い雷に貫かれた。
翡翠色の液体で満たされたカプセルの中で、少女が眠っていた。紅い髪と白い肩口、それ以外はカプセルが顔の部分以外は金属で覆われているために見えない。
「…本当に、ホムンクルスなんですね…」
カプセルの中の少女、ルベリア・エウブリデスをのぞき込んでいた川崎梅雨が、ぽつりと呟く。
「そりゃあな。何?本当は人間だと思ってた?」
「そういうわけじゃないですけど…一緒に話したりしていると、普通の人のように思えて…」
「それはまぁ、それなりのAI積んでるからな」
「えぇ…」
敷島佑斗のにべもない返答に呆れる川崎をよそに、敷島は物思いに耽る。
(龍属性のオーラ、火耐性、そしてあの飛び蹴り、いや"滑空"。"飛竜"の力はしっかり根付いている。扱い切れているとはまだ言えないが、そこはこれから鍛練積ませればいいか)
「所で、回復にはどれくらい時間が掛かるんですか?」
「ん?数分掛かるか掛からんかくらいだと思うぞ?」
一瞬反応が遅れるも、すぐに返答する。
「そんなに早いんですか!?」
「そもそも、雷耐性もそれなりにあるからなそいつ。ダメージは多分10%程度だぞ。初戦だからさっさと切り上げて"修復"させてるけど」
そうこう言っている間に、カプセルからピーッという音が鳴る。どうやら修復が終了したようだ。カプセルの中の液体が排出され、カプセルの蓋が開く。
「んん…」
「気分はどうよ」
「最悪ね。なんで居るのよスケベ」
「そりゃお前の回復状況の監視出来るのが俺しか居ないからだ」
「本当かしらね」
「ほんとほんと。造物主だからな、敬え」
「嫌よ」
ルベリアのジト目を受け流しながら、敷島は次の話に移る。
「とりあえず、能力はしっかり根付いているようなので、次また誰かと戦う事になるのでそこんとこよろしく」
「そう。…というか、服を着たいのだけれど」
「そうか、どうぞどうぞ」
「出てけと言ってんのよ」
「んんー…飛狐さんに石さん、あれ何かわかりますか?」
V高専F棟、E棟の真上に浮いているその建物の屋上で、天城杏李は同じ亜人仲間の空辺飛狐と石に問いかけた。
「えーっと…ちょっとわからないなー」
「……あの黒いのですか?よく見つけましたねあれ」
石は見つけられなかったが、飛狐は辛うじて見つけることが出来た。最も、それが何なのか、という問いには答えられなかったが。それもそのはず、彼女達が蒼穹から見つけたのは、距離が遠すぎて黒い点にしか見えない物だった。
「あれ何なんでしょうねー」
「鳥だ!」
「飛行機だ!」
「いや、スーパーマンだ!…じゃなくてですね」
ボケを挟みながらも会話を続ける。
「とりあえず、アレが何なのかわからないことには…」
「といっても、ワイには見えないので何とも…あぁいや、見つけた。アレかー」
「…ひょっとして近づいてきている?」
飛狐の呟きに、三人は顔を見合わせる。危険な物なら対策を取らなければならないだろう。
「…『未確認の黒い飛行物体が接近中、警戒に入る』」
「まぁそんなところでしょうかねー。石さんナイス」
「何事もなければ良いですけど」
「飛狐さんの今の言葉で、何事も無い確率下がりましたね」
「ですね」
「何でですかー?!」
学生課に連絡を入れ、軽いやりとりをしながらも警戒を強める。
これが終わりなき絶望の始まりであると、未だ知らぬまま。