2019/08/22
九州大数理学府の院試
先日九州大学数理学府の院試を受けてきた。すでに名古屋大には合格していたので翌年無所属になる不安からは解放されたが、こっちに合格しないと自分がやりたい数学ができなくなるのでそういう意味でまた別の不安があった。九大の試験に向けた対策は過去問を3年、5年分くらい解いただけで、それ以前に名古屋大の勉強で微積と線形代数はある程度やっていたので、専門の問題(自分の場合は代数)を中心にやった。
試験はまず初日に筆記試験。午前に基礎科目と称した線形代数と微積を2問ずつ、午後は専門科目の試験でおおよそ代数、幾何、解析、その他(?)から2つ選択して解くという流れになっている。午前の試験はまず直交行列で対角化する問題で、さっそくシュミットの直交化のやり方を忘れてめちゃめちゃ焦った。残りの線形代数と微積の問題も難しくてあまりできなかった。結局シュミットの直交化は思い出して(というかベクトルが直交するように試行錯誤した)できたが、名古屋大の午前と比べても全然解けなくてまずいなぁと思った。午後の専門の試験は、問題を見ると群論は表現論っぽいなぁと思い、(時間をかけても完答できそうになかったので)即捨てて、環論と体論(っぽい)の問題に絞った。が、こっちもなかなか解けなくて、いったん複素関数論の問題に逃げようとしたけどこれも無理そうだったので、環論と体論に全時間を捧げることにした。昼にコーヒーを飲み過ぎて2回もトイレに行ったりとバタバタして、結局どちらとも半分くらいしか解けなかった。(しかも体論は後から嘘の議論を重ねてしまったことがわかり、かなりまずいことになっっていた)
翌日の口頭試問は、数グループに分けられて僕は7人中6番目だった。最初の方の人はは10分15分くらいでスムーズに進んでいたが、僕の一つ前の人が行っていよいよか~と緊張していたのだが15分たっても呼ばれず、30分たっても呼ばれず・・・。他のグループはほとんど試問がおわってしまっていた。そして1時間後やっと自分の番になった。最初に事務的な質問の後、前日の試験の話になった。「今だったら解けるという問題はありますか?」と聞かれ、専門の3(体論の問題)と答えた。で、ときなおすのかなと思いきや、「君の答案には~~って書いてあるけどそれは何でですか?」と聞かれ、それを説明することに。一応ちゃんと説明したのだが、試験官「きみフェルマーの小定理って知らないの?」僕「知りません。」(フェルマーの小定理を直接適用するだけの話だったのだが、(整数論やりたいにも関わらず)フェルマーの小定理そんな名前の定理あったっけなぁくらいにしか記憶していなかった。恥ずかしい。。)
試験管「では君は試験中はそれは明らかだから書かなかったんですね?」僕「(これを明らかというのはあんまりだけど)おそらくなり立つと思ったのと時間を気にして焦っていたので。」
そして話が変わり、「では君が興味をもって勉強していることを話してください。」といわれ、セミナーでやっている楕円曲線について話した。ワイエルシュトラス方程式を書いてから、何をしゃべろうか迷った。前期のセミナーが中途半端なところで終わってしまい、ハッセの定理やヴェイユ予想、モーデルヴェイユの定理までたどり着けなくて、面白いことないよ。というのが本音だったので言葉に詰まった。それで私「有限体上の楕円曲線のハッセの定理というのがあって、正確な主張は忘れたんですけど位数が有限個で抑えられます。(式を苦し紛れに書く)」が、面接官の反応がどうもあまり良くなかった。で、面接官「その式の何が面白いとか、なんでその式なのかとか(話すこと)ないですか?」といわれ、「リーマンロッホの定理から種数1の非特異射影曲線はこの式で定義される曲線になります。」と答えてようやくまともな受け答えができた。面接官「その楕円曲線の式は一般化はできないのですか?たとえば4乗がでてくるとか・・・」私「(たしかヤコビ多様体っていうのがあったような。あーでもきちんとした定義知らないからな)分かりません。」ここで謎に有限体上の話に戻り、面接官「君ヴェイユ予想って知ってますか?」私「話として聞いたことはありますが勉強したことはありません。」面接官「何で種数1の曲線を考えるんですか?」私「種数0が一番簡単で、次に簡単なのが1だからだと思います。」面接官「では、種数0の曲線の例は?」僕「種数が0であることの証明は分からないんですけど・・・(といいながら書く)」面接官「ああ、証明は結構です。」私「放物線、楕円、双曲線は種数0です。(それぞれの定義式をかく)」面接官「はい。では直線の種数はいくらですか?」僕「(は?しらねえよ。いやセミナーでなんか聞いたような気もするけど。リーマンロッホの定理からすぐでるかな?)・・・。」面接官「まあそれはいいです(苦笑)。後で考えてみてください。ところで今君aとかb(有理数)とかそこに書いたけど、方程式の有理数解を判定するみたいな話を知っていますか?」私「(黒板に書きながら)Q上の2次形式に関してはハッセ・ミンコウスキの定理といってQ上で解をもつのとQ_p上、R上で解を持つことが同値になります。」面接官「では、そのような解があることの判定はそれでできるとして、もし解があったときに具体的にその解はどう書けるのか、とか一つ解が分かっているときに他の解はどう書けるのかとかいうのは分かりますか?」私「(分からなくて黒板に書いて考えようとする)・・・。」面接官「ああ、分からないですか。まあいいです。う~ん君願書には楕円曲線の群構造って書いてるのに・・・。(苦笑)」私「あっ・・・(吹き出す)」面接官「他に何か聞くことありますかね?(面接官同士で顔を合わせるも特にないらしい)」面接官「では面接は以上です。黒板を消して退出してください。」
体感では20分、30分かかったかな?という感じだったがこうして書き出すと結構長々しゃべっていたらしい。筆記試験が悪いかつ外部からの受験だから長くなることは覚悟していた。内容的には筆記試験のときなおしより日頃の勉強のことばかり聞かれたのは意外だった。それと、面接は決して高圧的ではなく、面接官の先生方は私が口ごもったり受け答えにオロオロしていると何かしらフォローしてくれたり、私が答えはじめるまで待ってくれたりと私が話しやすいようにしてくれた。あと、私自身が意識したのは分からないことははっきり「分かりません」ということと、できるだけ自分がしゃべれる話題に持ち込むことの二点。
私の手応えとしては壊滅的、特に筆記試験は絶望的で落ちても文句言えないなと思っていた。面接は上述の通り知ってることだけ話してあとは知りません分かりませんと連呼していただけな気がした。が、結果としては合格だった。精神的に辛かったが、受かったのでよかった。
最後に使った参考書のリンクを並べておく。個人的には名古屋大(多元数理)より九大数理の対策(試験問題が解けるようになるための対策。受かりやすさとは別)の方が難しいと思う。(面接に関しては日頃セミナーでどれだけ訓練しているかが全てだと思う。)
微分積分学講義(野村隆昭)
価格:2,420円 |
九大の微積の講義で使用されている教科書。著者も九大の先生(もう退官されたかも(?))。受験する大学の講義で使ってある教科書を見てたほうがいいだろうなと思って目を通した。(精読はしていない)ランダウの無限小の記号を積極的に使った方が分かりやすいって本に書いてあった(かな?それか著者がネットにupしてるpdfに書いてあったかも)、それでロピタルの定理よりそちらを積極的に使っているのが印象的だった。収束の早い遅いの感覚(たとえばe^xは多項式関数の収束よりも早いとか)を磨くにはその通りで、良く理解もせずにロピタルの定理を濫用する私は何も言い返せない。
微積と線形代数に関しては名古屋大(多元数理)の対策で使った本をこのほかには利用した。九大は微積と線形、それと専門(代数解析幾何その他(?))で、集合位相と関数論の試験はない。専門の対策(といっても過去問をちょっと解いただけ)で使った本を挙げておく。(以下の本は院試と関係なしに1年かけて精読した。つまり院試の対策のためではなく自分がより専門的なことを勉強するために読んだ。)
体とGalois理論(藤崎源二郎)
(楽天のリンクなかった。アマゾンであるかな?)
かなり分厚くてガロア理論のことはだいたい網羅してある。見た目格調高くて個人的に気に入ってるのだが、(その見かけに反して)説明が丁寧でサラサラ読める。
Introduction to commutative algebra(M.F.Atiyah I.G.Macdonald)
(訳書 可換代数入門 新妻弘)
価格:3,960円 |
環論の本。過去問で根基イデアルの基本的な問題が出ていた(おれの年もこれくらいの難易度にしてくれたらよかったのに・・・。)ので、定義の確認のために見返した。ちなみに京大の代数系(代数幾何、数論の人かな?)志望の人は学部2年でこれを読んでその後ハーツホーンを読むんですってとある先生が言っていた。(後にこれは一部の先を急いで失敗する人達がやっていることだと聞いた・・・。)これを2年生で読むって優秀な人はやっぱり(理解できる能力もこんな味気ない内容を勉強し続ける根性も)すごいなぁと思う。ちなみにハーツホーンとはこれ。
価格:4,180円 |
和訳は三分冊(上のに続いて2,3がある)になっている。原著の方は一冊ですむので、買うなら洋書のほうが持ち運びやすいしまだ安いからいいのでは。しかし和訳には演習問題の解答や日本語の参考文献案内があり使い勝手が良い。(けどそもそもこの本めちゃめちゃ難しいから細かいこと気にしても仕方ないかもしれない)