落語の大きな出番がひとつ終わったので、今回覚えた演目「風呂敷」を文字起こししてみた。

 

自分が頭で覚えたネタを文字起こしするのは、何だか不思議な感覚。

 

元ネタは談志のそれ。

 

ただ、素人でもやりやすいように、かなりシンプルにした。

 

なので、興味のある方は使ってください。

 

あと、こちら地元(岩見沢)でも受けるような「くすぐり」を入れた(地元のデパート「であえーる」を入れるなど)。

 

いい男の描写に「東出くんみたい」も入れた。

 

まあ、賞味期限はせいぜい1~2週間だろう。

 

落語はその時々の話題を入れられるのも面白い。

 

ネタ中に「新さん」とあるのは談志のを元ネタにしているため。

 

本当は「半七」なんだとか。まあ、いいや。

 

それでは、どうぞ。

 

かなり長いです。

 

■■■

 

お崎:たいへーん。政五郎、政五郎、大変、大変、聞いて、聞いて、聞いて。

政五郎:けたたましいねぇ。駆け込んで来やがって。一体どうしたい?

お崎:大変ったらないのよー。もー、大変、大変、大変、大変…。

政五郎:ったくボキャブラリーの少ない女だなー。大変、大変って。ほかに言うことないのかい?

お崎:大変かける高さ割る2。

政五郎:何だよ、それ。

お崎:ダジャレじゃない。そんなことより、大変なのよ、聞いて、聞いて。

政五郎:北朝鮮でも攻めてきたのかい?

お崎:アラ、北朝鮮なんて攻めてきたって、うちは町内会がしっかりしてるから驚かないわよ。そうじゃなくてねー、うちの亭主がねー…。

政五郎:死んだのか?

お崎:亭主が死んで、何で大変って言わなきゃなんないのよ。亭主が死んだら三月ばかりおとなしくして、あとは東南アジア行っちゃうわよ。そうじゃなくてねー、うちの亭主がねー、今朝、イッたのよ。

政五郎:亭主が今朝、イッたぁ? 朝からンなことしてんのか、てめぇんとこは

お崎:仕事に行ったの。

政五郎:仕事、あいつ何してんだっけ?

お崎:アラ、ハンコ屋じゃない。

政五郎:ハンコ屋ぁ? こないだ市場でもってアサリむいてたぞ。

お崎:そ。アサリむいたり、ハマグリむいたり、時々、五寸釘打ったりしてんだけどね。

政五郎:で、今日は何の仕事だよ?

お崎:今日はね、横浜の方へオブラートとセロハン売りに行く仕事でね。

政五郎:オブラートとセロハン? だんだん、分かんなくなってきたぞ。

お崎:だって似てるじゃん!

政五郎:似てるけど用途が違うだろうよ。で、どうしたんだよ?

お崎:それでね、「今日は遅くなるよ」って言って出てったもんだから、私はまた寝たの。

政五郎:亭主が仕事行って、お前が寝てんのか?

お崎:ったり前じゃないの、体力蓄えておかないと。亭主より先に死んだら、何のために結婚したか分からないじゃない、ねー。で、お昼前に起きてブランチ。

政五郎:ブランチなんか出んのか、お前んとこは。

お崎:それからまた寝てね。

政五郎:よく寝るねぇ。

お崎:で、お昼過ぎに起きて、片付けものなんかして。で、夕方近くになって、新さんっていう町内の男の人が訪ねてきてね。うちの亭主が弟分みたいにかわいがってる人なんだけどね。シュッとしたいい男で、東出くんに似ててね。町内の女の子たちから騒がれてるんだけどさ。「いるかい?」って言うから、「いないわよ」って言ったのよ。「いないけど、上がってく?」って言ったのね。こっちはお世辞で言ったのよ。そしたらさー、真に受けて上がってくるじゃない。今さら帰すわけにもいかないしさ。お茶なんか出して、世間話なんかしているうちに、さっきの雨でしょう? 吹き込まれるのやだからさ、雨戸を閉めて、それから話なんかしているところへ…亭主が仕事から帰ってきたのよー。大変でしょ?

政五郎:何が大変なんだよ?

お崎:アラ、そんなところへ亭主が仕事から帰ってきたら大変じゃない。

政五郎:待っつくれ。亭主が仕事から帰ってきて大変てんなら、毎日大変だよ、お前。

お崎:そうじゃなくてよ。遅くなるって言って早く帰ってきたのよ。これ、大変でしょう?

政五郎:よく分かんねーな。遅くなるって言って早く帰ってきたんだろう? いいじゃねーか。早く帰るよって言って、待てど暮らせど帰ってこなくて、そのうち一月後に山梨県の山中から遺体で見つかったってんなら大変だけどよ。いいじゃねーか、早く帰ってきて。

お崎:よくないわよ。

政五郎:何でだよ。

お崎:だってうちには新さんがいるじゃない。

政五郎:ははぁ、何か変なことしやがったな?

お崎:するわけないじゃない。そうじゃなくて、うちの亭主はやきもち焼きなの。

政五郎:やきもちくらい、誰だって多少焼くだろう。

お崎:多少なんてもんじゃないのよ、うちの亭主の場合。もー、私が男の人としゃべっただけでもやきもち焼くんだから。こないだだってね町内を2人で歩いてたら、「弁天様はどこですか?」って道聞く人がいたのよ。私が教えてあげたらね、亭主が「今のは誰だ?」って。「いや、知らないわよ」って答えたら、「ンなわけねーだろ。お前の目つきが違う」って。もー驚いちゃうわよ。八百屋の小僧さんと話して立ってやきもち焼くんだから。

政五郎:そりゃ大変だな。

お崎:大変なんてもんじゃないわよ。こないだなんてね、おわい屋さんが来てね。

政五郎:おわい屋って汲み取り屋か。

お崎:そうそう、汲み取り屋さんが来てね。たまってるから早く汲んでってよって言ったのよ。アレ、あんまりたまるとさ、おつりがピチャンとお知りに跳ねたりするじゃない? それが嫌だから底の方に新聞紙敷いたりするんだけどさ。

政五郎:そんな話、分かるやつもだんだん少なくなってきたぞ。

お崎:そうよねー。でね、早く汲んでってって言ったら、汲み取り屋さんが「お宅はションベンばっかり多いからな」って。「新聞紙なんかワンタンみたいで嫌だ」って。

政五郎:汚いね。どうでもいいけど。

お崎:そしたらね、そのやり取りを聞いていた亭主が、何を勘違いしたのか台所から出刃包丁を持ってきて「この野郎、てめぇは、汲み取り屋の汲みっぷりのいいところに惚れたんだろう!」って。驚いちゃったわよ、もー。汲み取り屋だけに「恋(肥)に迷ってるのか」って言ったわよ。

政五郎:シャレにも何にもなんないよ。

お崎:「臭い仲」とも言ったわね。

政五郎:そりゃ言ったかもしれないけど、わざわざこっち来て言うことないだろう。

お崎:それで汲み取り屋さんも驚いちゃって、「ごめんなさーい」って帰っちゃったじゃない。それから怖がって汲み取りに来ないから、たまっちゃってしょうがないのよ、ねー。あ、それから政五郎さ。その時に半分汲んだ桶と柄杓あんだけど、アレお願いだから引き取ってくんない?

政五郎:お前、何しに来たの、うちへ。汲み取りの相談に来たのか?

お崎:そ、そ、そーじゃないけどさ。それだけやきもち焼くって人よ。そんな人が帰ってきて、うちは雨戸を閉め切った中に新さんと二人でしょう。そんなの見つかった日にゃ、どんな騒動が起きるかと思うからさー。亭主が家に上がってくる前に慌てて新さんを押し入れに隠して、戸を閉めて、それから亭主を寝かしつけて、その間に逃がしてあげようとしたんだけどさ。これが寝ないのよ、うちの亭主がねー。お酒なんか飲み始めちゃってさー。新さんだって生身の人間でしょう? そりゃ、くしゃみもすれば欠伸も出るでしょうし、時々歌だって歌いたくなるんでしょうし。そんなんでもしバレでもしたらと思ったら、もー、怖くて怖くて。それで亭主に「ちょ、ちょっとお酒買ってくるから待ってて」って言って、こっち飛んで来たのよ。もー、大変大変大変。何とかしてー。

政五郎:ったく、お前はよくそういうことするよ。ほんとに先が読めないよ。どうして先々考えて行動しないわけ? え? その若い奴を押し入れに入れて、亭主を寝かそうとするところまではいいや。でも、もし寝なかったらっていう、どうしてこの「もし」「イフ」に気づかないわけ? え? そういうところが「女心の赤坂」って言うんだよ。

お崎:何? 「女心の赤坂」って? 「女心の浅はかさ」ってンなら聞いたことあるけど、それとは違うの?

政五郎:ち、違うよ。

お崎:何が違うの?

政五郎:「女心の赤坂」ってのはな、女ってのは赤坂あたりで買い物したいだろ? だけど、そういうところは高いからダメだって言ってるんだ。

お崎:どこならいいの?

政五郎:北千住。

お崎:北千住ねー。でも、このあたりの人は北千住じゃわかんないわよね。札幌の大丸じゃダメなの?

政五郎:ダメだよ、あそこだって高いんだから。

お崎:どこならいいの?

政五郎:であえーる。

お崎:地域経済の活性化ね。

政五郎:そういうふうに考えんだよ。え? いいか? 「女三界に家なし」と言ってな。

お崎:「女三界に家なし」って何?

政五郎:ん? 三界(三階)ってのは遠いだろ? 行って帰ってくんのも大変だし。「おーい」って言ってもこだまが返ってくるわけじゃなし。そういう時は二階より上行っちゃいけねってんだ。

お崎:あー、三階に家なしだー。分かるー。

政五郎:そうだろうよ。「貞女屏風にまみえず」と言ってな。男が亭主、女が貞女。間に屏風があるとお互いにめーねー。めーねーとまみえずだろ?

お崎:あー、だから、坊主が屏風に上手に絵を描くのね?

政五郎:だんだん分かってきたじゃねーか。「おでんに靴を履かず」「直に冠をかぶらず」と言ってな。

お崎:おでんに靴を履くとどうなるの? それ煮て食べるの? チャップリンの映画ね!

政五郎:まあ、そういう意味もあるけどな。

お崎:私、キートンの方が好き。

政五郎:うるせーな、ったく。

お崎:「直に冠をかぶらず」は?

政五郎:ん? 直に冠をかぶるといてぇだろ、頭が。そういう時は手ぬぐいか何かを載せてやれって言うんだ。

お崎:はー、直に冠をかぶると痛いのねー。かぶったことないけどさ。今度、お雛さまに入れてあげようかしら。

政五郎:そういう優しさが大事だって言ってんだ。

お崎:そー。っていうか、それどころじゃないの。ね? 本当に大変なの。分かる? もー、大変大変大変大変…。

政五郎:分かった分かった分かった。俺が直に行って何とかしてやるから。お前は酒屋で酒でも選んでろ。な?

お崎:じゃあ、お願いよ。

 

政五郎:あー、分かった分かった。行っとけ行っとけ。あー、行きやがった。どうして、こう女ってのは浅はかなのかね。あーいうのを「女心の浅はかさ」ってんだろうな。あ、アレは「女心の浅はかさ」って言うのか。まあ、いいや。おっかー、おっかー、おっかー。押し入れに風呂敷入ってるだろ? アレ、取ってくれ。

女房:どうして私が取らなきゃならないの?

政五郎:おめぇが取るんだよぉ。

女房:誰が決めたのよ?

政五郎:お、俺が決めたんだよぉ。

女房:反対。

政五郎:いーじゃねーか。お前、押し入れの前にいるんだからよぉ。そうそう開けて開けて、奥の方に入ってるだろ、風呂敷。急いでくれよ、時間ないんだから。早く早く、ファーストファーストファースト、クイックリークイックリー、かいかいでーかいかいでー。どうしてお前のはまんまんでーになるの? こっちにケツを見せんじゃないよ。

女房:あのね、私だって見せたくて見せてんじゃないよ。見たいってンなら見せるけど。

政五郎:見たかないよ、そんなケツ。

女房:言っとくけどね、私だって頭が2つあるわけじゃないの。ね? 頭を押し入れに入れるとね、自然とお尻がそっち向いちゃうの。そのくらい分かるでしょ? 犬が西向きゃ尾は東。ね? 政五郎、あたしより年が上。後ろに目があったら神楽坂へ行くよ。

政五郎:何だよそれ。

女房:後ろ目の神楽坂。

政五郎:くだらないこと言ってんじゃないよ。早く、風呂敷を探してくれよ。おー、それだそれだ、風呂敷。寄越せ寄越せ。あっ、放り投げやがって。ただ放り投げんじゃねぇや。

女房:ドリブルしてやろうか?

政五郎:何言ってやがんだ。ったく、しょうがねぇなー。じゃあ、行ってくるよ。

女房:どこ行くの? どこ行くのーっ!!

政五郎:船を見送るような大きな声を出してんじゃないよ。え? どこ行こうと俺の勝手だ。お前は家で丸くなって寝てろ。

女房:丸くなって寝ようが三角ンなって寝ようが大きなお世話だい。

 

政五郎:じゃあ、行ってくるよ。ったく、どうして、こう減らず口ばかり叩くのかね、うちの女房ときたら。ったく。あいつンちはどこだったかな? ここを真っつぐ行って、あの角を曲がってか。あ、ここだここだ。どら、どんな様子になってるのか。ちょっと見てみるか。ああ、押し入れの前でどっかと胡坐をかいて酒を飲んでやがる。目なんかギンギンだ。こりゃ寝ないよ。よし、じゃあ、ちょっと行ってくるか。おーい、邪魔するよー。

熊五郎:おー、兄ぃ、どうした、どうした。よく来たなー。まあ、上がっつくれ上がっつくれ。上がってそのまま真っつぐ裏へ抜けると郵便局の角だよ。はは。まあ、上がっつくれ上がっつくれ。

政五郎:じゃあ、邪魔するよ。

熊五郎:せっかく来てくれて兄ぃのめぇだがよ。俺はいま、ちょっと機嫌が悪いんだよ。

政五郎:何かあったのかい?

熊五郎:何かあったなんてもんじゃねぇや。うちの女房だけどよぉ。俺が今朝仕事へ行ってね。ハマの方の仕事でよ。オブラートとセロハン売ってきたんだよ。

政五郎:本当に売ったのかよ?

熊五郎:ああ。これが意外と受けてよ。次から次へ飛ぶように売れて、昼前には完売よ。それから仕事もとんとん拍子で進んでね。まあ、女房には「遅くなる」って言った手前、約束違反のようではあるが、我が家と思えばこそ、いそいそと帰ってきたんだよ。そしたら女房、何て言ったと思う? 「お前さん、もうお帰りかい?」と言ったよ。「もうお帰りかいとは何だ」って言ったら、「いや、お前さん、丑年だから」とくだらないことを言いやがる。ったく。「だいたい亭主が帰ってきて目を白黒させて驚くような女房がどこにいる?」って言ったら、「いや、私は驚くような性分で」とこう言うんだな。ったく、しょうがねぇな。まあ、まだ日もたけぇからよ。こうなったら一杯と思って酒なんか飲んでたら、女房、何て言ったと思う? 「お前さん、早いからもう寝ようよ」と言ったよ。え? 「遅いからもう寝よう」てンなら分かるが、「早いからもう寝よう」とはどういう言い草だと。そう言ったんだけどよ。「いいから寝よう」「早く寝よう」って俺を誘ってきやがる。だいだい、夫婦の間で「もう寝よう」なんてのはよ。所帯を持って半年か、せいぜい1年か。お互いのことが分かんなくってよぉ、知りてぇからよぉ、こう、いろいろヤんじゃねぇか。なあ? 若ぇかみさんが、湯上がりでポーっと頬を桃色に染めてよぉ、鬢のほつれが2、3本額に垂れ下がって、長襦袢姿で九の字ンなって、杉野兵曹長の銅像みてぇになって。それで「お前さん、もう寝ようよ」と言われりゃあ俺だって寝たくもなるよ。お前なんか見てみろと。頭なんか霜降りみてぇになって、顔なんてアブラムシの背中みてぇな色して、手なんかベースボールの手袋みてぇンなって、あんなもんで掴まれたらどうしようかと思う、ゾワッとくるわなぁ。だいたい、お前なんか、寝ようなんて言われて寝たくなるような顔じゃねぇっつったんだ。寝てるもんが飛び起きて駆け出す顔だって、そう言ってやったんだ。なのに、どうしてお前は亭主に向かって「寝よう」などという恐ろしい言葉を吐くんだと。俺はだから怯えてるんだ。怯えてるっ。っつーわけでよ。俺は今日は機嫌が悪いんだよ。ところで、兄貴は今日はどうしたんだよ?

政五郎:俺か? 俺は今、脇で一件片付けてきたんだ。

熊五郎:脇で一件って、一件落着か? 何だよ、何だよ、教えてくれよ。

政五郎:まあ、教えねぇでもねーんだけどよ。

熊五郎:何だよ、何だよ、隠すなよ。

政五郎:この近くによ。俺の知ってる男が住んでてよ。そいつが朝、仕事に出掛けたんだな。で、一人残った女房がよ、片付けものなんかしてるところへ、その亭主の弟分が訪ねてきたんだとよ。如才ねぇ女房だから家に上げてやって、茶なんか出して、世間話なんかしてるところへ雨が降ってきたと。吹き込まれるの嫌だからよ、雨戸を閉めて、それで二人で話しているところへ、亭主が帰ってきたから大変よ。

熊五郎:何が大変なんだよ?

政五郎:その亭主がやきもち焼きなんだとよ。

熊五郎:男のくせにやきもち焼きなのか? 嫌な野郎だな。

政五郎:そうだろ? それで女房も咄嗟の機転でよ。亭主が家に上がってくる前に、その若ぇのを押し入れに隠して、戸を閉めて、それで亭主を寝かしつけて、その間に逃がしてやろうと思ったんだけどよ。これが寝ねぇんだとよ、この亭主が。

熊五郎:かー、早く寝ろってんだよなー。もどかしいなー。

政五郎:そうだろう? で女房もいよいよ困り果てちまってよ。俺ンところへ駆け込んできて、「何とかしてくれ」って言うから、俺がこの風呂敷を持って一件片付けてきたってわけよ。

熊五郎:風呂敷なんかで片がつくのかい?

政五郎:ああ、すっかり片が付いたよ。「風呂敷時の神頼み」っつってな。

熊五郎:どやってやったの? どやってやったの?

政五郎:まあ、俺だって手妻使いでもなきゃ、忍術使いでもないからよ。どんどろんってなわけにはいかねぇよ。こうなりゃ腕づくでもってよ。あ、お前が仮にそのやきもち焼きの亭主とするか? 仮にだよ。その亭主の頭にこう風呂敷をかぶせてやってよ、前をめぇなくしてな。それでクルクルっとこう結んでよ。こんなことなんかしてよ。そしたら、おめぇンちと一緒で、向こうにも押し入れがあったよ、後ろにな。だから、こう押し入れの戸を開けてよ。そしたらいたよ、その若ぇのがよ。だから「今の話は聞いてて分かるな? お前の今置かれている状況は分かるな?」って言ってやったんだ。そしたらよ、向こうで頷くからよぉ。「分かったンなら行け」と。「早く行け行け行け行け」って、そう言ってやってな。「頭なんか下げなくていいから、忘れ物すんなー」とか言ってやってな。「草履間違えンじゃねぇぞ」とかも言ってな。そうして見てたら頭下げて角曲がっていなくなったから、もう大丈夫だろってんで風呂敷をパッと取ったと。こういうわけなんだ。

熊五郎:へー。うまく逃がしたねぇ。

政五郎:うまく逃がしたろぉ。

熊五郎:でも、兄さん、その風呂敷、穴が開いてるよ。大きな穴が。

政五郎:えっ? あ、あららららららららら…。ま、まあ、穴は開いてるけどもさ。俺が向こう行ってやった話は分かったろ?

熊五郎:ああ、よく分かったよ。兄貴の話があんまりうめぇから、目の前に見えたよ。

 

AD