今後も金価格は上がるのですか
はじめての金〔まとめ編・その3〕
森下 金の価格はますます上がりますかね~?
豊島 ここ10年くらいの金価格の推移のグラフを見てみると、ぐーっとあがっているでしょ。どんな相場でもこんなに上げ続けることは稀(まれ)だから、まぁ売りが出る可能性は高いでしょうね。
森下 それはどういうきっかけなんですか。突然ワーッとさがったりしないですよね?
豊島 一時的に下がることはあるよ。それは金利が上がるとき。高い利息が取れるときに金利を生まない金を買う人は少ないから。つまり米国の中央銀行的な存在であるFRB(連邦準備制度理事会)が利上げに動くときです。ただ、米国の景気はまだ足元が心もとないから、2011年後半以降かな。
森下 株が急落したときなどはキャッシュが必要なので、すぐに売れる金を売る人が増えることがありますよね。
豊島 株も下がって金も下がるときは買いどき。金が売りに出るのは株で損したからであって、金ではもうかっているわけだから、そういうときは買ってもいいときです。あとはニューヨークで投機筋が金を売り浴びせて相場急落、なんていうときも買い。いわゆる逆張り、バーゲンハンター的に買って置いておくのが、賢い金の持ち方だと思います。
森下 逆にまだ金価格が上がるとしたらどんなときですか。今まで教えていただいたのは、通貨への不信認、安心できる実物資産へのシフト、インフレヘッジ、低金利、中国やインドの経済成長などが価格が上がる要因ということでしたが。
豊島 いま、存在感を増しているのが欧米の年金マネー。金ETF(上場投資信託)という新しい金関連商品が出てきたことで、金への分散投資がやりやすくなったんだね。こうした機関投資家の参入が金価格を底上げし、下支えしている現状があります。国内の年金基金も興味を示すところが増えているので金価格上昇のきっかけになる可能性があります。
もう1つは金の生産量の減少。地球全体での埋蔵量が少ない上に、残っているのは途方もない採掘コストがかかるところばかり。まぁ、金はなくならないのでリサイクルで市場に出てくるものがそれなりにあるけれど、産出量が増えないので、今後希少価値は増すだろうね。
森下 なるほど~。では逆に価格が下がるのは……。米国経済が持ち直す、金利が上がる――他にどんな原因がありますか。
豊島 価格が上昇する要因と裏腹だったりするんだけどね。ヘッジファンドや国際通貨基金(IMF)が大量に金を売却すると、一時的にせよ下がる要因になります。あと、例えば金価格が上がるとリサイクル品が出てきて金価格が下がる可能性もあるね。インドの異常気象で農家の収入が減り、宝飾需要が下落することだってあるんだ。
また、先の話だけれどベビーブーマー、日本で言うと団塊の世代が年金を取り崩すときは、運用資産を取り崩して生活していくから、金ETFが売られるかな。ただ、いずれにしても金価格がいきなり10分の1になるなどということは考えにくい。だからリスク分散のために一部を金で持っておくことは、意味があると思うよ。
森下 自分の人生で「積立」をすることがあるなんて思いもしなかったのですけれど、毎月純金積立をコツコツと続けて、いつかあの地金バーを手に入れたい~。取り出して眺めてはニヤニヤしたいですね。毎月1万円積み立てて、1キロのバーを手に入れるまでどれくらいかかるんだろう。
豊島 うーん。今の価格だと30年位かな。
森下 30年! えーっ、30年ですか。長過ぎですよ。
豊島 価格が下がったときにスポットで買ったり、もっとおカネができたら積立額を増やしたりすればいいんだよ。
森下 そっか。3万円積み立てれば10年ですよね。頑張ります(笑)
テレビ、映画などでタレント、女優として幅広く活躍中。2006年に『日経マネー』誌の連載コラムで株式投資デビュー。2009年にはマネーマネジメント検定1級、2011年にはFP技能検定2級も取得。

ワールド ゴールド カウンシル(WGC)日韓地域代表。1948年東京生まれ。一橋大学経済学部卒。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて貴金属ディーラーとなる。同行で南アフリカやロシアなどから金を買い、アジアや中近東の実需家に金を売る仲介業務に従事。さらにニューヨーク金市場にフロアトレーダーとして派遣され、金取引の現場経験を積む。その後東京金市場の創設期に参画。ディーラー引退後、WGCに移り、非営利法人の立場から金の調査研究、啓蒙活動に従事。金の第一人者であり、素人にもわかりやすく金相場の話を説く。
[日経マネー2010年11月号特別付録の記事を基に再構成]