有害事象と副反応の根本的な違い~新型コロナワクチンに備えよう②

このシリーズは、新型コロナウイルスワクチンが日本に導入されるにあたり、読者の方がワクチンの安全性や副反応についての正しい基本的知識を身につけていただくことを目的としています。

まずは前回の記事も合わせて読んでいただければわかりやすいかと思います。

前回は、「ワクチンの後に起こったからといってワクチンが原因とは限らない(前後関係があるからといってそのまま因果関係になるわけではない)」ことをお伝えしました。

今回は、それを踏まえて厚生労働省などの資料をみながらワクチンの安全性に関する用語を説明していきたいと思います。

有害事象と副反応の言葉の違い

さて、いきなり仰々しい言葉がでてきました。有害事象。なんて恐ろしい名前なんでしょう、字をみるかぎり有害そのもののような印象です。しかし、実際は予防接種の分野で有害事象(Adverse Event)といっても、そのままワクチンによる悪い事象ということでは全くありません。つまり、ここでは、有害事象(副反応疑い)=副反応ではないということを説明します。

1有害事象は、ワクチン接種後に起こった事柄のすべてを指します。

ワクチン接種の後に起こったもので好ましい結果でないものはすべて有害事象として扱われます。つまり前後関係さえあれば、なんでも有害事象です。この時点では因果関係なんて関係ありません。たとえ前回の例であげたような、交通事故による死亡例、友達からうつったインフルエンザによる脳症例であっても、もしも誰かによってワクチンのせいだと報告されてしまえば、それは有害事象として扱われるのです。繰り返しますが、有害事象は因果関係の有無は求めず、前後関係のみを必要とします。つまり、有害事象といっても、予防接種が原因かどうかは全く分からない状態のことを指しているのです。ですので、厚生労働省では有害事象を「副反応疑い」として報告を受けています(この疑いという言葉も誤解されやすい気がしますが。。。)。

2副反応とは、裏の取れた(因果関係の証拠がそろった)有害事象のことです。

では副反応(俗にいうと副作用)とはなんでしょうか?それは、前後関係さえあればなんでもよかった有害事象のなかで、慎重な検討および適切な研究によって因果関係の証明されたものを特に副反応と呼びます。例えば、ロタウイルスワクチン後に極まれに腸重積という病気にかかる場合があるのですが(ちなみに新しいタイプのロタウイルスワクチンはこの確率はずっと少ないです)、これは大規模な疫学研究を行うことによって証明されました。つまり、有害事象はどんな事柄でも含めてしまいますが、副反応については因果関係を証明するために、専門的な検討、高度な安全性モニタリングシステム、そして質の高い研究が必ず必要になります。このため、専門家は軽々しく副反応があると口にできません。しっかりとした検証が必要だからです。

つまり、下記の図のように、本当に予防接種による害である副反応とは、有害事象の事柄のほんの一部なのです。

ではなぜこのような誤解されやすい言葉の違いがあるのでしょうか?

それは、万が一にも本当の副反応を見逃さないように、どんな事象でもまずはいったんすべて有害事象として受けつけましょう、そしてその中から本当に副反応である可能性があるものをきちんと調べていきましょうと、2段階のアプローチをしているからです。これは、専門家や科学者、行政の方々の予防接種に対する誠実な姿勢によるものともいえます。

しかし、誠実なのは良いものの、残念ながら非常に誤解されやすいです。有害事象(副反応疑い)という言葉。それでは例を見ていきましょう。

こちらは厚生労働省のMRワクチンの副反応疑い報告(平成31年4月30日報告分まで)の抜粋なのですが、平成25年から31年までになんと144例の重篤例が報告されたというレポートです。これをみて、

えー!?144人も有害事象があるなんて知らなかった!やはりワクチンは怖い!!!

と一般の方々なら怖がってしまいます。でもここまでブログをよんでくださった方は、気づいたかと思います。そうです、これはあくまで「有害事象・副反応疑い」の段階なので、前後関係しかない事象のことなのです。因果関係は全く分かっていないもの、その精査が行われていないものも含むのです。しかも、このデータをよく見てみると、この重篤といわれているものの中には、「中耳炎」、「咳」といった、ん?中耳炎?重篤?と首をかしげるものも含まれているのです。この資料には下記のような注意書きがきちんと記載されていますが、見落とされやすいです。

そして、もしもこの数字のみを記事の見出しにして、

なんてヤフーニュースとかに出た日には、もう目も当てられません。この有害事象と副反応の言葉の違いを知らない一般の方々はすぐに、なんて危険なワクチンだと考え始めるでしょう。因果関係は全く証明されていないのにも関わらず、数だけが独り歩きして、非常に危険な誤情報になります。実は、この言葉の定義を正しく理解している方は多くはなく、一般の方やメディアの方だけでなく、医療者であっても混同している方もいらっしゃいますが、これはやはりややこしい言葉のせいもあると思います。今後、コロナのワクチン関連の情報はたくさんでてくるかと思いますが、まずはこの基本となる言葉の定義をおさえて備えていただけましたら嬉しいです。

次回は、さらにどうやって国はこういった有害事象をキャッチしていくのかを解説したいと思います。