文部科学省によると、2018年度に児童生徒へのわいせつ行為などで、処分を受けた全国の公立小中高校などの教職員は、282人と過去最多を更新した。そして処分数は、2013年度以降200人から減ることなく推移している。なぜ教員による児童生徒への性暴力は無くならないのか?
中学生時代に受けた教員の性暴力を提訴
中学生時代に教員からの性暴力被害に遭い、性被害でPTSDを発症したとして札幌市教育委員会と教員に対し2019年2月に東京地裁に提訴した石田郁子さん(42)。現在係争中である石田さんは、教育現場での性暴力被害の実態調査に取り組んでいる。
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訴えに至った経緯を石田さんはこう語る。
「当時、恋愛経験も性的経験も全くなく、まして疑う発想もない学校の教師だったことから、犯罪だと気づくのに時間がかかりました。刑事事件の時効が過ぎているのはわかっていましたが、地方公務員の懲戒処分に時効の規定がないことで、札幌市教育委員会に申し入れることにしました」
申し入れ前に石田さんは加害者教員に会い、当時の出来事について互いの記憶はほぼ一致したという。石田さんは、その時の会話音声なども証拠として札幌市教委に提出したが、教員は一貫して否認し、札幌市教委から「事実か分からないので懲戒処分できない」と回答を受けた。
「加害者教師の学校に何も知らない子どもが通う姿、それを黙っている市教委のことを考えると、このまま黙って生きていくのは耐えられないと思い提訴に至りました」(石田さん)
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教員による性暴力にはいくつかの傾向がある
一方、石田さんは今年5月11日から31日の間、支援者らの協力を得て、教員による性暴力被害のアンケート調査をインターネット上で行った(※)。
まず、「学校の教師から在学中または卒業後に、性的な経験(※※)、性暴力被害にあったことはありますか?」との問いに対して、「あったことがある」と答えたのは約4割。
被害の内訳は「性的な発言・会話」が41.1%、「体を触られる・触らせられる」が29.2%、「衣服をめくられる」(8.5%)、「性的な行為をされる・させられる」(7.7%)などであった(複数回答可)。
(※)回答総数731、有効回答726。回答者の性別は、女性83.1%・男性14.5%・その他2.4%、年代は10代17.4%、20代26.9%、30代24.5%、40代20.6%、50代以上10.6%
(※※)回答者が「犯罪」「被害」と自覚していないケースを想定し、「性的経験」という言葉を使った
アンケートでは、受けた性暴力被害について具体的に聞く設問があり、石田さんはこれらの回答を分析して、いくつかの傾向を明らかにした。
その中の1つは、個人の受け取り方の問題や気のせいではなく、明らかに誰がされても不快な発言や行為ばかりであったこと。2つめには、授業の延長、生活指導の延長などが多いこと。3つめは、大勢の生徒がいる授業中でも被害が起こっていること。たとえば、授業中に性的な画像を見せられる、教員の私的な性的体験を聞かせられるなどがあった。ほかにも教員だけではなく、学校医や学校を出入りする人間からの被害もあったことがわかった。
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教員の意識の希薄と事なかれ主義
ではなぜこうした教員による性被害が発覚しない、または発覚が遅れるのか。アンケートから分かったのは、複数の生徒が同じ教員から被害にあっていても、子どもから声をあげられず、保護者から校長にいっても隠蔽されたケースがいくつか見られたことだった。
また複数の教員が他の教員による加害に気づいていても、通報していないケースもあることがわかった。
調査結果の分析を通じて、石田さんは「犯罪が起こっている、生徒の安全を守るという意識が教師に希薄なのではないか」と感じたという。
「お互いを先生と呼び合う職場環境で、問題が起こった時に指摘し、相談する体制がなく、事なかれ主義が広がっているのではないでしょうか。性暴力は密室で行われるイメージが強いのですが、実は授業中などで大勢の生徒が同時に被害に遭うことも多いです。1つのクラスを複数の教師や補助員で見るような体制も必要ではないかと思います」
「性暴力を起こした教員の免許更新停止を」
「自分の責任で、できるだけ速やかに法案を提出することを念頭に進めていきたい」
減ることのない教員による生徒への性暴力を受け、萩生田文部科学大臣は7月22日国会で、教員免許法を改正する方針を示した。
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教員免許法では教員が懲戒免職になっても、処分から3年経過すれば再び教員免許を取得することが可能だ。
文科省の担当者によると、現在の教員免許法では「懲戒免職だけなら確かに3年あれば免許を再取得できます」としたうえで、「刑罰がかかってくる重いものであれば、その間は再取得できません」という。
なぜ再取得が可能かという問いには、「職業選択の自由もあると思います」との答えが返ってきた。
また、たとえある教員が性暴力で処分を受けても、他の学校がその情報を共有することは、「各自治体で個人情報保護条例があるので、自治体それぞれの判断になる」(文科省)のだ。つまり個人情報保護が壁となり、教員が過去に起こした性暴力は子どもや親に知らされることはほとんど無いのだ。
こうしたありかたについて、石田さんはこう訴える。
「性暴力は常習性や再犯率が高いので、免許は再申請できないようにしてもらいたいです。これは性暴力だけではなく、暴力なども含めて良いと思います。イギリスでは、子どもにわいせつ行為をした人は教師になれない仕組みがあります。日本もそのような制度が必要ではないでしょうか」
また石田さんは文科省に対しても、「各自治体の教育委員会に委ねるのではなく、懲戒処分の調査方法や処分の基準・内容を全国で統一してほしい」と強調する。
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メディアは「スクールセクハラ」を使うべきでない
石田さんは、「メディアの報道姿勢にも問題がある」と語る。その1つが、メディアに度々登場する「スクールセクハラ」という言葉だ。
石田さんが実施したアンケートでは、「教師による生徒への性暴力を表す言葉として適切だと思いますか?」という設問に、3人のうち2人が「適切ではないと思う」と答えた。その理由は、「性犯罪/性暴力/性虐待という事が伝わらない」が30.6%、「セクハラという言葉では軽い」が25.9%だった。
「セクハラという言葉は軽いとまでいわれている時代に、わざわざ『スクールセクハラ』を普及させることはむしろ弊害だと思っています。当事者が苦痛を感じ、アンケートでも不適切と感じる回答が多い中、この言葉を使う必要性はないと思います」(石田さん)
メディアに対して石田さんは、「当事者任せにならないような報道を望んでいます」という。
「当事者の声は実体験からくるものなので、尊重してもらいたいです。しかし、あまりに誰もやらないから当事者が動くのであって、当事者が声を上げて解決すると周りが当たり前のように期待するのはおかしな話です」
子どもの未来を守るために動かなければならないのは、政治や教育行政、教育現場であり、そしてメディアであるはずだ。
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】