赤い恋人

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僕は今日、携帯を忘れた。


そんな"事件"から始まる1日は、昨今想像もつかないことに値するものかも知れない。

データが蠢く情報化社会において、こと携帯というものは最も市民権を得た重要な神器であり、

且つ車社会の片田舎で生きてきた彼にとっては、

電車の乗り換えひとつとっても、崖と崖とを繋ぐ心許ない桟橋を歩くかのような、

東京で生きていく上で、重要な命綱を孕んだ"なくてはならない大切な代物"である。


「テーブルの下だ…」

忘れ物癖のある兄弟に比べて、1年に1度、多くて2度くらいしか忘れ物をしない彼にとって、"忘れ物"というものは極めて大きな精神的混乱を巻き起こす大事件であり、

そして、基本的にいつもあらゆるものを定められた場所に置く人間にとって、そのイレギュラーの原因と、また、リードを離れて散歩をしているその"野良犬"の居場所は、だいたい直ぐに分かるものである。


幸い、今日は現場の入り時間よりも30分ほど早く現場に到着し、近くのカフェで間も無く読み終わる小説を読了して…と時間を設けて早めに家を出ていたために、

取りに帰る時間は十分にあった。


前述した通り、携帯はやはり必須アイテムだ。電車の乗り換えには言うまでもなく、だ。

取りに帰るのが迷うことなき焦眉の急だと思った、

がしかし、

思い止まった。

いや、正確には思いとどませさせませささせせせませせさられた、

だ。


何故なら彼の右腕には、

携帯とも代わるまさにこれこそ神器と言うべきものを備えていたからである。

そう。


アップルウォッチだ。

彼が中国公演を終えたご褒美にと、購入したものである。

あくまでザックリと、

少しだけ補足すると、アップルウォッチにはGPSとセルラーという2つのモデルが存在する。

GPSと言うのは簡単に言うとiPhoneが行っている通信を介して自らも通信が出来るもので、

対するセルラーは、iPhoneが近くにいなくても、まさに文字通り、自分自身単体で通信が出来るものだ。

例えばジムでトレーニングやランニングをする人間にとって、iPhoneを持たずに腕時計のみで運動が出来るという側面も持つものなのである。

(あくまでこの説明はザックリとです!)

それらを踏まえて熟考し、携帯に何かあった時や緊急時にはこれで連絡が取れるというのが決め手となりセルラーを購入したのだ。

その用心深さというか、

思慮深さ(自分でいう言葉ではない)

が功を奏し、

ついに購入して間も無く効力を存分に発揮する機会を得たのであった。


狼狽する僕に「大丈夫だよ」と、いつも以上に力強く腕を包み込むその彼に、

出逢ったばかりであるのだが、

僕の心が惹かれていくのは自然の摂理ともいうべきものだった…。


現場までの一分一秒、

彼は片時も離れることなく、悲観的にならざるを得ないはずだったその時間を、熟れたリンゴのように甘い時間を刻むものへと変えてくれた。

アップルウォッチなだけにね。

は?








現場へと近づく道すがら、

車窓からは、富士山が見えた気がした、

雨であるのにも関わらず。

(※この物語はフィクションを含みます)

しかしそれは、僕の心が晴れていたからかも知れない。

は?

つまり、目の前で起こる出来事は、必ずしもそのままが全てではないってことだ。

自分の物差し(=これまでの人生)を用いて、この世界をどう測りどう切り取るかは自分次第。

物差しは価値観だ。君だけの、世界にたったひとつの物差しが沢山あっていいんだ。それは他人との距離や形の違いを測るためのものではない。

占いだって自分にとって良いことだけを聞いておく。…そんな希望的観測と常に同居したマインドを何事にも持ち合わせて生きていてもいいはずだ。

大切なものは、いつも目に見えなかったりもする。

つまるところここでは僕は見えなかったけど見えた富士山を落ち着いた心持ちで眺めたのだ。

富士山、、富士、、ふじ、、

そうか。

ふじりんご🍎

は?

(ちょっともうこの辺は自分で書いていてよく分からないのである。笑)

もはやふじりんごが言いたかっただけなのである。




さて話を戻そう。

電車を降り、歩いて現場へ行く途中、

軽い足取りの彼には、

「Jonathan's」と書かれたファミレスでさえも金色に光って見えた。

(※この物語はフィクションを含みます)

もう迷いがなく明るい未来しか見えなかったからかも知れない。

Jonathan'sが金色。ジョナサン、ゴールド。。

そうか。

ジョナゴールド🍎

そう。

りんごなだけにね!

(※もう少しだけ悪ふざけにお付き合い下さい)


よ、要は冗談が言えるほどまでに立ち直ったのであーる…!

現場には早めに着いた。

終わって本も読み終え新しい本もまた買えた。


大事件から始まった僕の1日は、

日常の中にも余裕を持って行動しておくと、ふとした時に助けられるものだと教えてくれた。


チャンスは準備された心に降り立つ

そんな、僕の1日〜小説ver.〜





















解説

今回の「赤い恋人」は、1月9日に更新された「物語」というタイトルから約20日ぶりの北村健人の新作である。

今回何故またこうして筆を取ることになったのか、それは単純に皆様からのコメントが嬉しかったからだろう。笑

きっと普通に書けば1年後や5年後とかに振り返って読んだ時に穴があったら入りたくなるほど恥ずかしいことをしていると思うけれど、

物語ちっくにしたら少しは普段書けないことも書ける気がして、

お酒は飲まないけどシラフと酔っぱらった時みたいな、

そんな感覚で書かせて頂いているのだけど、

多分もっと恥ずかしくなるようなことをしている気がします。笑

…まぁでも、皆様が一瞬でもほっとひと息笑ってくれたら嬉しいなーと思います。














あ、現場は何度も行ったことある場所だったからはじめから大丈夫だった上でのお話だからね!

























p.s

そんなこんなで、


ほんとにほんとにほんとにほんとにスーパー面白かったです!

「面白い 小説」とかで検索すると必ずと言っていいほど出てくるので前から知っていたのですが、

この機会に読ませて頂いて、

久しぶりにこんなにハマったー!

と言うほど暇さえあればページを進めていました。

また、巻末ページを読んで、「ジェノサイド」の作者さんだ!と、今も部屋の本棚にあるそれを思い出しました。


思えばその「ジェノサイド」も、

高校の頃、「このシーンのカクテルは黄色」という友達に対し、「絶対青だよ」と意見が一致した親友から教わった1冊で、

そんな、文字から世界を想像して青だ黄色だって言い合ってたあの頃から小説にハマったんだよなぁと、そのルーツを思い出したりするほどに、

面白かったです。

皆様も、是非。






それでは。

いつもブログ読んでくれてありがとう!


北村健人



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