Another Trainer   作:りんごうさぎ

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キクコ戦2


15.そっとひとまき世界が変わる

「ダァァース!」

「ムゥーマァー」

『両者共にポケモンを繰り出しての仕切り直し、出てきたのはムウマとサンダースだ!』

 

 ムウマ Lv65 ずぶとい 210-82-157-123-134-130 @しんかのきせき

 

 また“しんかのきせき”か。四天王はいい道具持ってやがる。

 

「イナズマ、シャドーボール!」

「大した威力じゃない。気にせず“ふういん”!」

 

 なるほど、“シャドーボール”を封じにきたか。面白い戦い方だな。けど“シャドーボール”は攻撃が目的じゃないんだよな。イナズマは前方にダッシュしながら“シャドーボール”を地面に向かって放った。

 

『シャドーボールは狙いがそれて地面に当たったようだ! 辺りが砂塵に包まれてしまった!』

 

「もうちょい左!」

「チッ……ムウマ! 一旦上昇して砂煙から出ておきな」

「上に出るなら好都合。8!」

「スキルスワップ!」

 

 “スキルスワップ”!? 初めて使われた。地中に潜らなかったのはこれを使うためか。“ちくでん”を取られて“チャージビーム”は無効化された。

 

 このムウマ、まさかブイズメタじゃないだろうな? “シャドーボール”とメイン技が封殺されるからほぼ有効打がなくなる。こんなピンポイントの対策まであるのか。しかもイナズマから出すことも読まれていたことになる。俺ってそんなに読みやすいか?

 

「それでも勝つけど」

「ムゥー……zzz」

「ねむり状態!?」

 

 クイズおやじ、あんたの戦術使わせてもらったぜ。

 

『サンダース、砂塵に紛れてすでに仕掛けていたか!? 砂塵は晴れましたがムウマは眠って動けません! その間にレイン選手はハッサムを繰り出した!』

「ッサム!」

 

 ムウマが“ふういん”を使った直後すぐに接近して“あくび”を仕掛けていた。俺には煙幕なんて関係ないからこそできる力技。これで無理やり眠らせて、動けないターンで倒してしまうのが狙いだ。

 

 要は相手に行動させれば確実に“みちづれ”をされる。なら眠らせればいい。最初はイナズマの能力を上げて“みがわり”を絡めながら倒すつもりだったがさすがに有効打なしでは交代一択だ。

 

「つるぎのまい」

「さっさと起きな!」

「そう焦んなよ。はたきおとす」

 

 眠って無抵抗なので今は敢えて番号は伏せておいた。アカサビには当然キクコ戦を見越してゴーストタイプへの打点を用意してある。ついでにムウマは道具さえはたけば簡単に倒せるから一石二鳥ってやつだ。

 

「はたきおとす……」

「対策してるのはお互い様ってこと。しんかのきせきを使われるとは思ってなかったけどな。これでそいつの耐久は一気に落ちる」

「そこまでわかってたのかい……気に食わないねぇ」

 

 こっちの技を見て鋭く目を細めるキクコ。天敵のあくタイプの技だしよく知っているのだろう。

 

 “はたきおとす”の威力はあまり覚えてなかったが実験した感じだと60ぐらいだった。ただみゅーと比較した時“テクニシャン”が発動していないようだったので威力は65なんじゃないかと思っている。今は抜群だから130になるか。

 

 ダメージは203……!? 計算より1.5倍ぐらいダメージが多い気がするが……これならもう1回“つるぎのまい”をしておきたかった。肝心なところで計算ミスったか。済んだことは仕方ない。切り替えだ。

 

「ムゥゥーー!!」

「衝撃で起きたか。4ターン目だしなぁ。“はたきおとす”はだいぶ効いたな。HPは残り僅か、“しんかのきせき”も落ちた。9」

「シャドーボール!」

 

 “ちょうはつ”には当然“シャドーボール”を合わされたか。安い誘導には乗ってこないな。だがこいつも“みちづれ”を使えるから仕方ない。1ターンはくれてやる。

 

 今の攻撃、意外とダメージが入ったが、それでも“みちづれ”を封じてムウマは先制技で縛っているからこっちが有利。

 

「潜りな」

「だよね。7」

「……! すり抜け勝負にはあくまで自信があるってわけかい」

 

 そういうこと。そもそも“ちょうはつ”を時間稼ぎでやりすごせるのはあくまでこっちから仕掛ける手がないときのみ。アカサビには通じない。この間に“はねやすめ”を使った。残り34だから反動3回で死ぬし、ヤミカラスはA+2フィールドテクニバレパンで縛れているから火力は足りている。今回復して114/159だ。

 

 奇襲は通じないし、アカサビに上手く当てたとしても急所じゃなきゃ50弱のダメージ。“ちょうはつ”が切れるまでずるずる待っていればその間にさらに能力を上げるなり回復するなりしてこっちが有利になるから相手は引くしかない。

 

「ムウマ!」

「8!」

『キクコ選手ムウマを地中から呼び戻してポケモンを引っ込める……あーっと失敗した!? ボールに戻す前にハッサムが追撃! こうかはばつぐんだ! たまらずムウマダウン!』

「おいうち……! 目障りだねぇ」

「言ったろ、対策は万全なんだよ。ハッサムって器用だからこういう小技は得意なんだよな」

 

 “テクニシャン”の補正が乗って威力240、余裕で倒せる。これで3vs3のイーブンに戻した。

 

「確か残りのポケモンの数が大切なんだろ? 同数になったら形勢は五分ってことでいいのか?」

「フンッ! 確実な負けがなくなったってだけの話さ。あたしの優位は変わらないよ。ヤミカラス!」

「ちょっと舐めてない? 1!」

「くろいきり!」

 

 “バレパン”確1なのにどうするのかと思えば、なるほどそう来るか。いい技持ってやがる。攻撃力が戻って“バレットパンチ”の威力半減。で、次こそ倒せると思って突っ込むと“フェザーダンス”に切り替えてくるわけね。1度目はどちらを使っても同じ結果になるが敢えて“フェザーダンス”を伏せているように思えてならない。絶対持ってそうだ。

 

「2!」

「フェザーダンス」

 

 そうだよね。こっちは“とんぼがえり”でイナズマとチェンジ。ヤミカラスは残り1/4ってところか。

 

「ダダァーッス!」

「7」

「はねやすめ」

 

 先に“はねやすめ”でひこうタイプが消える都合上イナズマの攻撃では完全に受け切られる。だが“でんじは”で麻痺さえ入れればダメージの期待値が回復を上回る。

 

「1」

「こっちの戦い方をよくわかってるじゃないか。おいかぜ!」

 

 ダメージは抜群だと180ぐらいだから耐えるにはここで“はねやすめ”を使うしかないが、それを連打しても結局1ターン猶予を作ることは不可能(“10まんボルト”の1.5耐えが不可)なので潔く切ってきたな。

 

「ヤミカラス戦闘不能!」

「……ゲンガー、シャドーボール!」

『キクコ選手、おいかぜを活かして速攻を仕掛ける! レイン選手これを凌げるか?』

「5」

 

 一旦は“まもる”で凌げるが次は無理だ。“でんじは”を当てたいが相手がやや遠い。自分にかける技なら間に合うか?……あれを使うか。

 

「イナズマ、急いで“ねがいごと”!」

「ゲンガー、させるんじゃないよ!」

 

 間に合え……!

 

「ダァァ……」

「サンダース戦闘不能!」

『サンダース倒れた! しかし倒れ際のねがいごとはギリギリ間に合ったァ!!』

「よっし! でかした! 後は頼んだぞアカサビ! 5」

「シャドーボール!」

 

 最初の攻撃は“まもる”でやりすごす。相手はわかっていても他にやることがない。アカサビのHPは攻撃3回で消耗していたがイナズマのHPの半分に相当する分回復して140になった。

 

「8」

「シャドーボール」

「アカサビ、しっかり耐えてくれ」

 

 また100ぐらいダメージを受けた。ダメージが重い! “みちづれ”の税金が重過ぎる! でも“ちょうはつ”しないわけにはいかないからな。

 

「次は厳しい……が、お前は確実に倒す! アカサビ!」

「ッサム!!」

 

 “バレットパンチ”で3体目、2番目に出てきたゲンガーを倒した。これで2vs1、キクコの残るポケモンはまだ見せてない切り札であろうポケモン。間違いなくゲンガーだろうが、問題はレベルだ。いったいいくつだ?

 

「ほっほう、たいしたもんだよ。あたしが2vs1にされるなんていつ以来だろうねぇ。レベルの低い弱いポケモンだけでよくここまでやれたもんだ」

「レベルは低かろうが俺のポケモンは弱くない」

「なんだい気に障ったかい? 意外とすぐ熱くなるらしいね」

「……」

「あたしは褒めてるつもりさ、大したトレーナーだってね。ただ、それでもレベルの差ってのは簡単には覆らないのさ。こればっかりはいかに腕のあるトレーナーだろうとどうしようもない。結局バトルは力がものを言うのさ」

「今のマスターズリーグを象徴するような言葉だな」

「レイン……あんたにほんとの戦いってものを見せてやる。出てきな、ゲンガー!」

「ガァァ……」

 

 ゲンガー Lv70 ひかえめ @きあいのタスキ

 184-99-107-277-130-224

 

「2V……他もほぼV……サカキ以来のレベル70でここまでの能力か……」

「あんたのやわなポケモンじゃ一撃も耐えられないよ。始末しな、ゲンガー」

「……バレットパンチ」

 

 指数的に等倍なら耐えるのは絶望的。速さも全員負けている。たしかに恐ろしいところだよ、マスターズリーグは。

 

「ハッサム戦闘不能!」

「最後はウインディだろう? 勝負あったね」

『ゲンガー僅かに余裕を持ってハッサムの攻撃を受け切った! 反撃のシャドーボールでハッサムついに戦闘不能! レイン選手もあと1体を残すのみとなりました』

 

 ゲンガーはHPが残り20弱か。襷なしでも耐えられたのはやはりレベル差を感じてしまうな。

 

 相手の攻撃は確定1発。Sも負けている。先制技の“しんそく”は運悪くゴーストには無効。たしかに勝てない。勝てないはずだ。けどポケモンにはそれぞれ無限の可能性がある。その組み合わせを模索するのがトレーナーの役割。ただ強いポケモンを並べるだけなら誰でもできる。

 

「たしかほんとの戦いってもんを教えてくれるって言ったよな?」

「ん?」

「逆に俺が教えてやるよ。能力や相性の有利不利ってのは簡単にひっくり返せる。それがポケモン、本当のバトルだってな……グレン! 1!」

「ヴォウ!!」

「ゲンガー、シャドーボールで終わらせな」

 

 ボールから飛び出したグレンは素早く攻撃に移る。互いの攻撃が交差してすれ違い、“かえんほうしゃ”がゲンガーに、“シャドーボール”がグレンに命中する。……グレンも技を受けた!?

 

 ドサ、ドサッ……

 

 共に致命傷となる一撃。違いはどちらが先に倒れるか、それだけだった。ゆっくりと2体は倒れ、なんと勝負は判定に委ねられた。

 

『ダブルノックアウトです!! マスターズリーグに引き分けは存在しません! 同時ノックアウトであろうと自爆技であろうと全て倒れるタイミングを比べての判定勝負となります。さぁ判定はっ!?』

 

 判定勝負……!? どうなるんだ!? 頼む、わかるよな? 審判さん、わかるよな? イメージで判断したらダメだぞ? ちゃんと結果を見て……わかるよな、なっ?

 

「……ゲンガーが先に倒れたものとみなし、勝者レイン選手」

「っぶねー!? シャオラーッ!! 審判よく見たっ!! えらいっ! ほんっとにえらい!!」

 

 精神がギリギリ過ぎてなぜかグレンでなく審判を褒めていた。

 

 ラスのゲンガーを見た時点で内心勝利を確信していたのに判定までの間心臓が潰れそうな程緊張した。完全に終わったと思ったわ!

 

「あたしの負けだって!? あたしのゲンガーがレベル50そこそこのポケモンに遅れをとったってのかい!?」

「よーく見てみなよ。グレンがつけているものをさ」

「なんだって? それは……こだわりスカーフ!?」

 

 内心の動揺は押し隠し、キクコにタネ明かしをした。ポケモンってのはスカーフ巻くだけで世界が変わるんだよ。グレンを出してから技が交差するまで一瞬だったから“こだわりスカーフ”に気づく時間は全くなかっただろう。道具ってのは使い方1つなんだよな。

 

「そのポケモン……わざと最後まで残してたってわけかい。なるほど、たしかにそれじゃ勝てないねぇ……あたしも焼きが回ったか。年はとりたくないもんだよ」

 

 スカーフ奇襲に年は関係ないだろう。俺でもやられたら引っかかる自信があるし。

 

 グレンのスカーフ、本当は“ステロ”とセットで使って“フレアドライブ”で全抜きするのが狙いだった。けど布石で失敗した上に襷持ち“みちづれ”軍団だったから2タテ以上は諦めて、作戦変更でラス1タイマン用に残したんだよな。上手く決まって良かった。

 

 ただ反省点も多い。アカサビへの“シャドーボール”は要検討だし、“いのちのたま”はダメージ管理が必要で難しい。自分には“こだわりスカーフ”みたいなアイテムの方が性に合ってる気がする。

 

「坊や」

「ん? 俺か? なんだ、言いたいことでも? もしかして激励とかくれたり?」

 

 反省する俺にキクコの方から話しかけてきた。戦い終わった後は「さっさと次へ進みな!」とか言いそうなイメージなのに。

 

「そんなんじゃないよ。ただ悔しいがあんたの腕は本物だ。認めてやるよ、たいした坊やだってね」

「どうも。でもいきなりストレートに褒められると照れるな」

「何言ってんだい。気持ち悪いこと言うんじゃないよ」

 

 えぇ……傷つくなぁ。ってのは冗談だけどさ……。

 

「……あんた本当はどくタイプ使いじゃないの? 毒舌だし」

「うるさいよ。あたしゃもういくよ」

 

 背を向けるキクコを見て俺も少し思うことがあったので呼び止めた。

 

「あ、待ってくれ! 俺も聞きたいことがある」

「聞きたいことの多い坊やだね。杖の次はなんだい?」

「あんたも強かったよ、驚くほどにな。だからこそ疑問が残る。あんた、なんでチャンピオンじゃないんだ?」

「……」

「あの戦術はかなり厄介だ。あんたの読みの深さも相まって簡単には崩せない。俺以外にあれを破れるとは思えないし、俺だってもう一度戦って絶対に勝つ自信はない。なのになんでチャンピオンになってないんだ?」

 

 今ならわかる。ナツメじゃゲンガーで簡単に1:2交換されるから絶対に勝てない。ヤミカラスは“サイコキネシス”無効だし。他のトレーナーに関してもキクコを突破するビジョンは想像できない。

 

「なるほどねぇ。顔に似合わずかわいいこと言うねぇ。理由としちゃそうだねぇ、あたしがチャンピオンになるにはあのドラゴン坊やを倒す必要があるからね」

「ワタルはあんたに勝てるのか?」

「……坊や、判定勝負になったのは初めてかい?」

「え? まぁそうだけど」

 

 いきなり全然関係ない話に飛んだな。ナツメみたいな電波じゃないだろうし何か関係があるのだろう。

 

「教えといてやるよ。判定にも色々基準があってね。今回のように単純な素早さ比べなら何もないけどね、“じばく”のような相打ち前提の技には明確な取り決めがある。当然“みちづれ”にも決まりがあるのさ」

「……まさか!」

 

 俺が言わんとすることを悟るとキクコは薄く笑みを浮かべた。

 

「みちづれってのはね、使った方が負けなのさ。自分が倒れてから効果が発動するからね」

 

 なんてこったい……。

 

「それじゃ、ワタルは途中全て1:1で手持ちを減らしていって最後の1体勝負に持ち込んだ上で毎回勝ったってことか」

「恐ろしい男さ。あいつのカイリューは別格。あんたでも勝てるかどうかは五分五分だろうさ。まっ、せいぜい頑張ることだね」

「いや……わからないぜ」

「ん? 坊やが勝つってかい? たいそうな自信だね」

「違う。ワタルはここまでかもしれないぜ? なんせ相手はレッドだからな」

「おもしろいこと言うねぇ。なら結果を見に行こうかね。そろそろあっちも終わる頃だ」

 

 レッドの試合を見た後も笑っていられるのか、キクコ? 別格って言うならそれこそレッドは異次元だ。いったいどうなることか……。

 

 さすがに俺も限界かな。レッド、グリーン、ブルー……マサラ組が四天王を倒して勝ち上がってくるようなことになればいよいよだな。

 

 奥の手を使うことも考えるべきか……。

 




レインの変な思考は無知の弊害です
今回は乱数とかもかなりきわどい……

本編関係ないですが相棒ピカチュウの火力を計算したら強過ぎてビビりました
先制技で指数15000はおかしいよね……(H振りレヒレ一撃でお亡くなり)
そしたらやっぱり本当におかしくてピカブイは道具なしでしたね
あっ……

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