4月23日、菅首相は東京、大阪、京都、兵庫に3度目の緊急事態宣言を発出することを発表した(写真:つのだよしお/アフロ) © JBpress 提供 4月23日、菅首相は東京、大阪、京都、兵庫に3度目の緊急事態宣言を発出することを発表した(写真:つのだよしお/アフロ)

(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)

 もはや日本の政府の感覚がどうかしている。そうとしか思えない。なぜなら、国内の新型コロナウイルスの感染拡大――もっと言えば、感染対策の失敗を、いつの間にか“酒のせい”にしているからだ。

もはや何度目かも分からない菅首相の「お詫び」

 3度目の緊急事態宣言が発出された。対象は東京、大阪、京都、兵庫の4都府県。期間は4月25日から5月11日まで。しかも今回は、飲食店での酒類の提供停止や大型商業施設の休業が要請の対象になった。

 菅義偉首相は23日の記者会見で、再三の発出にこう述べている。

「私自身、これまで、再び宣言に至らないように全力を尽くすと申し上げてきましたが、今回の事態に至り、再び多くの皆様方に御迷惑をおかけすることになります。心からおわびを申し上げる次第でございます」

 もう毎回、この首相は国民に詫びている。そのことは以前にも書いた。

(参考記事)国民へのお詫びとお願い、それ以外に首相は何してる

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64367

 これで何度目の謝罪なのか、分け隔てもなくなったばかりでなく、もはや腹の内では本当に申し訳ないと思っているのか疑わしい。

「酒の提供やめよ」というなら都の「感染防止徹底宣言ステッカー」とは何だったのか

 その上で、今回の対策について、具体的にこう言及している。

「第1に、飲食店における酒類の提供を控えていただきます。お酒を伴う飲食の機会は、ともすれば、大声、長時間となり、感染リスクが高いことがこれまでも指摘されています。飲食店においては、20時までの時間短縮と併せ、終日、酒類提供の停止を要請いたします。また、路上などで、飲食店以外であってもお酒を飲むことが感染につながることのないよう、十分な注意をお願いいたします。さらに、カラオケの提供も停止を要請いたします」

 それだったら、いままでの対策はなんだったのか。東京都でも、安全対策ができている証として飲食店に配りまくっていた「感染防止徹底宣言ステッカー」の意味はどこへ行ってしまうのか。

 例えるのなら、交通事故が増えたから自動車の往来をすべて止めてしまうのと同じだ。本来なら、交通ルールを守らない輩を取り締まるべきなのに。行政側の怠慢とさえ言える。飲酒を伴う会食をした人たちがすべて感染したはずもないし、きちんと安全対策に従っている店舗や客のほうが圧倒的に多いはずだ。まして、首相が指摘するように、酒好きは路上でもどこでも呑んで大騒ぎする。

 そして、もうひとつの踏み込んだ対策。

「第2に、一段と感染レベルを下げるために、人流を抑え、人と人の接触機会を減らすための対策です。外出を通じた人の接触は感染のきっかけになり得るとの専門家の御指摘もあります。デパート、テーマパークに加え、一定の規模を上回る商業施設や遊興施設など多くの集客が見込まれる施設について休業を要請いたします。また、イベントやスポーツの原則無観客での開催を要請いたします」

 これまでにデパートやテーマパーク、それに映画館、スポーツ観戦などでクラスターが起きたことがあるのか。あったら、大騒ぎになっているはずだ。

宣言解除後はきっとまた「元の木阿弥」

 私は今年に入って、PCR検査を受けたことがある。その時に医療関係者から「3密の場所へ行ったことはあるか」と問われ、人とふれあうほど混雑する年末のデパート地下食品売場に行った、と答えると「マスクをしていれば、それは3密にならない」と言われた。

「それが3密で感染が起きているのなら、ラッシュ時の満員電車では毎日感染者が出ていることになる」と教えられた。因みに、今回の宣言下では、デパートでも食料品売場は休業要請の対象外だ。むしろ、大型連休中に客足が集中することだってあり得る。

 それでもこの時期に緊急事態宣言を発出することについて、菅首相はこう強調していた。

「再び緊急事態宣言を発出し、ゴールデンウィークという多くの人々が休みに入る機会を捉え、効果的な対策を短期間で集中して実施することにより、ウイルスの勢いを抑え込む必要がある。このように判断をいたしました」

 だが、どうせ連休が明け、緊急事態宣言を解除すれば、また元の木阿弥になることは目に見えている。

 いうなれば、感染拡大は国民が指示に従わないからであって、それは酒があるのが悪い、外出する先があるのが悪い、と責任を転嫁している。菅首相は、心底から詫びてはいない。

 以前にも書いたように、菅政権の打ち出す新型コロナ対策は、無理、無駄、ムラの「3M」が目立って仕方がない。そこに今回は「無茶」が加わる。

(参考記事)感染者増でも宣言解除、「3M」だらけのコロナ対策

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64580

 もっとも、ここまで踏み込んだ対策を必要とする理由に、これまでより感染力の強い変異株の拡がりを挙げる。だが、それも水際対策が徹底されていれば、国内に持ち込まれることもなかった。それでここへきての緊急事態宣言と「禁酒令」だ。

もはや五輪前に「コロナに打ち勝つ」なんて絶望的なのに

 それでも、3カ月後に迫った東京オリンピック、パラリンピックは開催する意向を示す。その事情を記者の質問にこう答えている。

「東京オリンピックですけれども、これの開催はIOC(国際オリンピック委員会)が権限を持っております。IOCが東京大会を開催することを、既に世界のそれぞれのIOCの中で決めています。そして、安全安心の大会にするために、東京都、組織委員会、そして政府の中で、感染拡大を防ぐ中でオリンピック開催という形の中で、今、様々な対応を採らせていただいています」

 今年1月の施政方針演説では、「夏の東京オリンピック・パラリンピックは、人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証」とぶち上げていた。それが1週間前の日米首脳会談では「世界の団結の象徴」とバイデン大統領に伝え、そしてここへきて「IOCが決めたこと」と言ってのける。いつの間にか、自身の責任をどこかに押しつけてみせる。

「安心安全の大会」のために対策が必要になるのも、決して安全安心ではない状況だからだ。もはや語るに落ちる。

 まるで、敗色濃厚でも戦争を持続させ、挙げ句には、竹槍で爆撃機を墜とす、と喧伝した、かつての日本の指導者のようなものだ。今回の禁酒要請も、彼の言葉を借りるなら「日本が新型コロナウイルスに打ち負けた証」だ。そのうち、竹槍でコロナを刺す、とでも言い出しかねない。そんな指導者の要請に黙って従う国民の感覚も、いま試されている。

この記事にあるおすすめのリンクから何かを購入すると、Microsoft およびパートナーに報酬が支払われる場合があります。

こちらもおすすめ

フィードバック