厚木市内の住宅で昨年2月、当時7歳の長女と5歳の次男を殺害、11歳だった長男を殺害しようとしたとして殺人と殺人未遂の罪に問われた母親の被告(40)=同市=の裁判員裁判の論告求刑公判が13日、横浜地裁小田原支部(安藤祥一郎裁判長)で開かれた。検察側は懲役10年を求刑、弁護側は懲役3年執行猶予5年の判決を求めて結審した。判決は15日。
検察・弁護側ともに被告は当時、心神耗弱状態だったとし、量刑が争点との見方を示している。
検察側は論告で「被害結果が深刻で重大。(子どもの)将来のすべてを奪った」と指摘。被告が心神耗弱状態だった点について「(犯行動機に)強く影響した」としながらも、凶器のベルトなどを準備したことなどに触れ「完全に支配されていたわけではない」とした。
弁護側は「合理的な考えをできないのがうつ病で、著しく影響を受けた。視野狭窄(きょうさく)から、子どもたちを守るため殺さないといけないと思い込んだ」と主張。被告が自らの意思で長男の殺害を中止し、自首した点などを踏まえ、情状酌量を求めた。
起訴状などによると、被告は昨年2月13日、厚木市の自宅で寝ていた長女と次男の首をベルトで絞め付けるなどして殺害。長男の首も絞めたが、「やめて。死にたくない」と言われ殺害しなかった、とされる。
「子ども守るため」心中決意
「一人一人の個性を尊重し、良いところを伸ばそうと心掛けてきた」。育児のほとんどを担っていた被告は夫婦関係がこじれたのをきっかけに「心中」という考えに取りつかれ、ついには「かけがえのない宝物」のわが子に手をかけた。
2002年に結婚し、3人の子宝に恵まれた。「興味あることは極めるくらい熱中した」「いろいろ心配りができた」「ひょうきんで、上2人が大好きだった」。法廷で3人との思い出を語る被告は多弁だった。
15年9月ごろ、不貞が疑われる言葉を夫の携帯電話に見つけ、生活が一転。家事がままならなくなり、寝込むことも増える中、離婚を切り出された。ハローワークに足を運んだが、3人の子どもを抱えた専業主婦に正社員の壁は厚い。次第に同居する義理の両親ともうまくいかなくなった。実の両親が住む団地への転居も考えたが、これから大きくなる3人を考えると手狭となるなど断念した。
死のうと考えた時、ソーシャルワーカーとして働いていた被告の脳裏に浮かんだのは、親に虐待され一時保護所に避難した子どもの姿だった。「嫌なことをされても『母親に会いたい』と泣いていた。いたたまれなかった」。3人だけ残しては死ねない。一緒に生きる道ではなく、心中を選んだ。「子どもを守るため」だった。
事件当日、3人に睡眠薬を飲ませ、長女、次男の首をベルトで絞め、水を含ませたハンカチを口にあてた。「ママ、やめて。僕は死にたくない」。目覚めた長男からの「予想外」の言葉に「頭が真っ白になった」。長男を諦め、自身の首にロープを掛けたが、「ママ、死なないで」と何度も叫ぶ長男を前に死ねなかった。
「(きょうだい)2人がいなくなり、悲しすぎて涙が出ない」「優しいママが好きだった。なぜこんなことをやったのか」。検察側が朗読した長男の悲痛な思いを聞き、手で顔を覆ってむせび泣いた被告。最終意見陳述では「母親としてあってはならない罪で、責任を取りたい」と償いの意思を示した。