3日目、この日はシショーの初戦。どんなバトルをするのか楽しみ。わたしはあの2人も誘って観戦に来ている。というのも、以前シショーは対策もマネもできない戦法をすると言っていた。だからそれが気になったので2人にも聞いてみようと思ったからだ。観客席でレッドとグリーンを見つけて横に腰掛け、さっそくシショーの言っていたことについて聞いてみた。
「ねぇ、あんた達はわかる?」
「そんなの聞いたことねぇな。ハッタリじゃないのか?」
「ブルーにハッタリを言う意味がない。何かする気だろう。おれもわからないが」
この2人でもわからないか。そもそも、シショー自身、ポケモンに絶対はないって言ったことがある。それなのに今回はどういう意味なの? グリーンも同じ考えをしたようだ。
「そもそも、どんな強いポケモンにも弱点はある。マネはともかく、対策できないってことはありえねぇだろ。もちろん控えのポケモンで弱点を補うとかはできるが、そういう話じゃないだろうしな。ホントにわかんねぇなぁ。オレ達とは違う世界の奴の言うことだしなぁ」
「いずれにせよ、もうすぐ始まる。じっくり見せてもらえばいい。あの人は必ず勝ち上がって来る。おれ達の最大の壁になるはずだ。見て損はないだろう」
もうすぐ始まる。あと5分、3分、1分……まだなの? どこ?
なんと、シショーは試合開始の時間になっても現れなかった。確か遅刻は15分まで。周りもざわざわし始めた。
「はは、ひよっこルーキーめ! 俺に恐れをなして逃げたか。俺も有名になったもんだ。どうやら土壇場になって無様に負けるのが怖くなったと見える。たしかに、どうせ負けるならボロボロになるより不戦敗の方が見栄えはいい。頭のいい奴だ」
あのハゲ頭のおっさん、何言ってんのよ! シショーが敵前逃亡とかするわけないでしょ!! 本人がいないからって好き放題言って!! わたしが対戦したらボコボコにしてやる!!
ー普通ルーキーなら他の試合は見るはずだよな。今日の最後の試合に遅れるなんて、ホントに棄権なんじゃないか?ー
ーだよなぁ。噂じゃジム戦では強かったらしいが、今回も毎年恒例の過大評価だったみたいだな。ポジり過ぎなんだよいっつも。毎度毎度新人を持ち上げるのも飽きないよなぁー
何よ何よ、なんなのよこの空気は! 対戦相手だけじゃなく観客の人達も好き勝手言って! 何も知らないくせに! あーもう、さっさとシショー出て来なさいよ!
「もう! どいつもこいつもデタラメ言って! シショーの凄さも知らないクセに!」
「けどこのままじゃ本当にマズイぞ。オレ達で急いで探しに行くか? バトルできなきゃいくら強かろうが意味ねぇぞ」
「ムダだ。おれ達が見つけても間に合わない。あれだけ強いトレーナーがこんなところでつまらない負け方をするとは思えないし、心配しなくても直に来る」
「ほーう。レッド、やけに肩入れするな」
「お前はここで負けると思うのか?」
「まさか。お忘れかもしんねーが、オレだってあん時シルフにいたんだぜ? わかってるさ、あれに勝てるのはオレ達3人のうちの誰かしかいないってな。そう言いたいんだろ?」
レッドは黙って頷いた。そうよね、わかる人はちゃんとわかっているんだから、シショー、わたしをがっかりさせないでよ。本当に来るわよね?!
「そうよね。やっぱそう思うわよね。もう……シショーッッ!! いいからさっさと、焦らさないで早く来なさーーいっっ!」
来ると信じていても心配なものはやっぱり心配で、ヤキモキしながら待ち続た。
とうとうタイムリミットまで残り1分!
『あーー!! あれはもしやレイン選手か!?』
「えっ、どこどこどこ!?」
ようやく現れた! 観客がどっとどよめく。身を乗り出してフィールドを見るとたしかに本人がいた。おっそーい! でもナイス!!
「君! 大遅刻だ! もっと早く来るようにしなさい!!」
「すいません。ここなんか広くって道に迷ってたんですよ。なんせここに来るのも初めてですし、新人ということで大目に見て下さい。ホントにすみません」
「なっ!? てめぇ、ポケモンリーグなめてんのか!」
うわぁ、審判の人と対戦相手からめっちゃ怒られてる。シショーは発言内容とは裏腹にどこ吹く風だけどわたしの方がなんかハラハラするじゃない。
「まさか。本当に迷ったんですよ。会場が3つもあるなんて夢にも思っていない。それで間違えて隣に行ってたんですよ、冗談抜きで。ホントすいません。もう理解したので次からこんなに遅れたりしません」
「てめぇ……そりゃ、俺達リーグランカー全員に喧嘩売ってるってわかってるのか? ああ?」
「だから謝っているでしょう。さっきからしつこいなぁ。何? はっきり言えばいいの? あんたらじゃ相手になんないから試合なんて見るまでもなかったんだよ。一々相手の対策しなきゃ勝てないような連中じゃ、絶対俺には勝てないから」
「てんめぇ……! タダで済むとは思うなよ?」
えっ、何々、これどういう流れ!? なんでこんな険悪な空気になってるの!?
「ねぇグリーン、これどういうことなの?」
「お前わかんねーのかよ。まさかお前まで試合見に行ってないんじゃねーよな?」
「シショーのしか見に行かないけど」
「なんの話なんだ?」
「レッド、お前もかよ!? はぁーっ、やっぱ常識人はマサラじゃオレだけかよ。仕方ねぇな。常識知らずなお前らに教えといてやる。いいか、普通オレらみたいな新人はリーグのトレーナーのこともこの大会のことも何も知らねーからとにかく最初は慣れるために試合を多く見に行っとくもんだ。そのためにこうして席が用意されてるんだよ」
「あ、だから簡単に取れたんだ」
「……」
「あ、じゃねぇだろ。だからな、自分の試合の直前ならともかく、それ以外は普通は全部見に行く。なのに道に迷ったって発言は一度も見てないと自白するようなもんだ。これは舐めてると思われても仕方ないし、実際舐めてるとしか言えねぇな。……お前らも含めて!」
「ふーん。だってそんなこと初めて聞いたんだもん。ねー?」
「……」
レッドも黙ったままコクコクと頷いた。やっぱそうよね。
「その発想がおかしいんだが、言ってもムダだな。とにかくあれはやべぇな。一瞬で選手全部敵に回しただろ。新人相手だと出し惜しみして手加減する奴も中にはいるらしいが、あれは容赦なく攻められるな」
そう言われたら心配になるかも。大丈夫かしら。
『おおーっと、早くもヒートアップ! ルーキーながら遅れて登場し、いきなり相手を挑発した! なんてふてぶてしいルーキーだ! 怖いもの知らずはルーキーの特権だがこれは度が過ぎているぅー!』
「2人とも、それ以上は侮辱とみなしますよ」
なんか審判に注意されているわね。もう、悪目立ちし過ぎ! 目立ってやるとか言ってたけどこれ狙ってたんじゃないわよね!?
「へいへい、わかったよ。それならさっさと始めようか」
「俺がリーグの洗礼をくれてやろう」
「洗礼を受けるのはどっちかな」
きたきたきた! とうとう始まる始まる! やっぱりシショーはちょっとやり過ぎぐらいでもいっか。自分の勝ちを疑っていなくて、有言実行で、ぶっとんでるところが見たかったの!
ーおいルーキー、バッジの数ちゃんと数えてるかー。ここはポケモンジムじゃねーぞ!ー
ー明日から試合見やへんのやったらずっと暇やろ、どっか飯食いに連れていったろか!ー
ー二度と来なくていいからもう迷う心配はないぞっ!ー
うわぁヤジがすごい。普通ルーキーには優し目でしょうに……自業自得ではあるけど。これじゃわたし達まで火の粉が飛んできそう。
「おいおい、一瞬で観客まで周り全部敵だらけだな」
「おれらまで巻き添えなんてことは勘弁してほしいな」
「さあ、両者最初の1体を出してください」
しゃべっていると審判の掛け声でお互いの先鋒が出てきた。相手はプテラ。これは岩のフィールドだし妥当ね。プテラって珍しいはずなのにさすがにリーグランカーだけあるわね。シショーは何かしら。
「ふあぁ~んみゅんみゅ。んっ、モンモンー!」
あれは……メタモン?! いきなり!! というか今なんか寝ぼけてなかった? 気のせい? ずっと特訓していたのは知っていたけど、最初からいきなり出すつもりだったのね。それなら急いでいたのもわかるけど、なんでわざわざ最初に……。
『さぁ両者のポケモンが出てきます。まずは岩のフィールドに相応しい化石ポケモンのプテラ。そして……あーっと! あれはメタモンかぁ!? これは面白いポケモンが出てきたぞ!?』
「もしかして、シショーがやろうとしていることって……」
「へぇー、“へんしん”か。だが相手はリーグに出る程の実力者。副業トレーナーならともかく、リーグランカー相手にただの劣化にしかならないへんしんではかなり分が悪いな。何か考えはあるんだろうが……」
対策もマネもできないっていうのはやっぱり“へんしん”するからなのかな。たしかに一見すればそう見えるけど、その実あの技には弱点がものすごく多い。事実今までみゅーちゃんが負けるところは何度も見ている。そんなに安直なことだったの?
でも、シショーがわたしでもわかることをわかっていないはずはない。対策できないって言っていたわけだし、自信満々で最初に出したってことはもう完成させたのでしょうね。今までとは同じようにはいかないか。
「ブルー、お前はどう見る?」
「シショーのへんしんはそこらのやつとは全然違う。公式戦では一度だけ見たことあるけど、簡単にその時は1体倒していたし、今は当時よりも格段に上手くなっているはず。多分すごいバトルが見られるわ。よく見ておいた方がいい」
フィールドのシショーは笑っている。プテラをじっと見ながら。もう相手のポケモンのことわかったのかしら。なんか不気味ね。全部見透かされてそうなイヤな感じ。
「メタモンだと? たいそうなことをほざいてたが、とんだ期待外れだ。おおかた育てが足りないのをへんしんで補うつもりだろうが、そんなぬるい考えはここでは通用しねぇんだよ」
「まさか。勝手な事言うなよ。これはハンデだよ。普通にやったら簡単に勝ててしまうから、せめてこれぐらいはしないと勝負にならない。わざわざそっちの土俵で戦ってやるっていう意思表示だよ。優しいでしょ?」
「なんにもわかってないようだな。一度叩き潰していかに甘い考えかわからせてやる!」
「両者位置について。では、試合……開始!」
始まった! 相手は即座に飛ぶように指示を出す。シショーはまだ動かない。最初が肝心なのに、ボーっとしていて大丈夫なの!?
「プテラ、ドラゴンクロー!」
「直接攻撃からか……。下をくぐって躱しながらへんしん! 最初の相手がプテラとは、肩慣らしには丁度いい」
まずは“へんしん”成功。相変わらず素早い。滑空して突っ込んできたプテラの攻撃を体を引き延ばして地面に張り付くようにして躱し、そのまま流れるようにへんしんした。
何気ないけど見事な動きね。動きが滑らかだし、避けるのも下以外に動けば躱しきれなかったでしょうね。でも滑空しているから地面には追撃できない。一瞬でここまで……。
“へんしん”使いにとって最大の難関をあっさり突破したわね。なのに全くその大変さを感じさせない。次はどう来る?
「さぁ、レイン選手はまさかのメタモンです。このポケモンは非常に扱いが難しくリーグでの使用者は現在他におりません。最初の関門、ひとまず“へんしん”には成功しましたが、能力は劣る上、試合中の技の確認は当然できません。いったいどんなバトルを繰り広げるんでしょうか?」
「ドラゴンクローだ! 打ち合いに持ち込め!」
「わざわざ正面から向かってくるとはたまげたなぁ。げんしのちから」
あっさりと見ていない技を使って返り討ちにした。“げんしのちから”は遠距離技だから当然先にヒット。しかも効果は抜群! フィールドの補正も乗る。まさかまさかの正面からの奇襲を受ける形になり相手の人はわずかに動揺した。その隙にシショーは“はがねのつばさ”を使って近距離に来ていたプテラに追撃、見事に決まった。
ここまでムダが全くない。それに技の指示に淀みがない。たまげたなんてうそぶいているけど、相手の動きもおそらく予測している。わたしは練習で散々戦ったからよくわかる。“へんしん”使い相手には余り技を見せたくないから同じ技を続けやすい。その心理を見切っている。
「なんと! いきなり見ていない技を使ったぞ! 手の内は把握済みか?! ドラゴンクローは完全に読まれていたのか!? さらに連続でこれも未使用の“はがねのつばさ”が炸裂! たまらずプテラは地面に激突した!」
「げんしのちから連打!」
あくまで近づかず遠距離から攻撃か。油断もないわね。それともあのプテラの近距離技に何かあってそれを警戒しているのかしら。どこまで読み切っているの?
「プテラ戦闘不能!」
「くそっ!」
「これはすごい! 圧倒的な素早さを誇り、今までの大会で数々のポケモンを何もさせずに葬ってきたプテラが逆に自らの速さで何もできずに倒れてしまった! これは大番狂わせだ!」
まさに自分の強さが跳ね返ってきて負けたって感じね。強いから負けるってホントにもどかしいわよねぇ。これで強力なプテラをコピーできたし、シショーの勝ちは堅いでしょうね。すごいなぁ。“へんしん”は最初の対峙で勝つのが難しいけど、一度勝ってそこをクリアすれば倒した相手のポケモンを自分の手駒にできるのが強いってことなのね。あの言葉はそういうことだったのかな?
「メタモン、元の姿に戻れ」
「な! てめっ、何のマネだ!」
『あーーっっとぉ!? これはダメだっ! へんしんを解いてしまった! へんしんは残さないといけないっ! どうしたんだレイン! 何のためのへんしんだ! これはいけませーん!! せっかくノーダメージでへんしんできたのに、これではまた最初からやり直しだぞ!?』
ええぇー!? ホントにそうよ! まさに実況の人の言う通りじゃない! シショー何考えてんのよっ! バカバカアンポンタン!
「だからさっき言ったでしょ。これはハンデなんだから、プテラのままじゃ意味ないだろ。能力を一緒にしなきゃわからないだろ、実力が違うってことがさぁ。次を出しなよ?」
「なんだとっ!? 1体倒しただけだってのにえらく余裕だな。いいぜ、今のうちにほざいておけ。必ず後悔させてやる! いけ、ウツボット!」
「へんしん!」
今度はウツボットね。岩のフィールドだからそれに相性がいいポケモンは選んでいるわね。さすがに誰でも考えるわよね。“へんしん”する時シショーはイヤそうな顔だったけど、見た目以上に厄介なポケモンなのかしら。もう、プテラ残してたら相性良かったのに! 本当にバカね。何考えてるのやら。
まずは相手が“へんしん”中に無償で出られた隙をついて先制の“はっぱカッター”。でもこれはそのまま受けて、シショーはその場で“ヘドロばくだん”を使った。ダメージが段違いね。相手はやむを得ず“ヘドロばくだん”に切り替えて来た。“はっぱカッター”はわざとダメージが低い技を選んでいたようね。完全に裏目だけど。
「かげぶんしん、ヘドロばくだん」
「なぜそれを! くっ!」
相手の高火力技は躱しに来たわね。一瞬で相手の攻撃を避けながら背後に回った。やっぱり受けるか避けるかはしっかり見極めてるなぁ。後ろを取ったら素早く攻撃に切り替えて“ヘドロばくだん”を使った。一連の動作全てにおいて練度がすごく高い。普通のメタモンならあのレベルの動きは絶対無理でしょうね。ウツボットは大技を受け過ぎてさすがに倒れた。
「ウツボット戦闘不能!」
「ウソだろ!? メタモン、ごときに……俺のウツボットまで……!」
「メタモンいいぞ、よくやった。また戻っておけ。さ、3匹目をどうぞ。それともこれ以上恥をさらす前に降参?」
「バカ言え! 俺のエースでサンタテしてやる! いけ!」
「へんしん」
出て来たポケモンはサイドン。地面が弱点だから自分で自分に弱点をつける。しかも鈍足だから技の撃ち合いは必至か……。これは面白いわね。どうするのかしら。
「じしん!」
「じしん!」
ほぼ同時。全く同じタイミングで、同じ威力。そりゃ“じしん”しか使う技ないもんね。シショーに出し惜しみ戦法が通用しないのはもうわかっているし。これじゃ決着がつかないんじゃないかしら? 膠着したらどうなるんだろ。
威力は当然全く同じ。互いに相殺し合っている。このまま均衡すると思われた2つの衝撃は、しかしゆっくりとシショーの優位に傾いた。なんで、どういうこと?……あっ、ちょっとみゅーちゃんの方が技の出が早い! だからだんだんぶつかる場所がズレているんだ! これすごいことよね!?
そもそもメタモンが弱いのは能力も技の練度も相手を超えられないから。なのにみゅーちゃんは元々の能力が高い上、おそらく千年単位で培った洗練された技もある。これじゃ劣化どころか完全に上位互換。相手を超えてしまっている……!
だから対策できないんだ。どうやっても必ず自分を上回る敵と対峙することになる。最善の行動をとり続けられたら理論上絶対に勝てない! みゅーちゃんとシショーの特別な能力が合わさった奇跡の戦術ね。これじゃ対策もマネもできっこない!
「どうしてコピーのサイドンに負けているんだっ?! 冗談だろっ!? しっかりしろ!!」
「やってることはまぁ悪くないんだけどね。ただ、元々きまぐれな奴だからな。残念ながら案外物理技もいけるんだよね、この子」
「チッ! 訳の分からないことを……サイドン、負けるな! 気合を入れろ!」
「なるほど、気合いときたか。それで何とかなるなら苦労しないけどねぇ。これじゃ勝負は見えたな。このままいけば楽に勝てそうだ。せいぜいムダなこと言ってろ」
「……サイドン、ロックブラスト!」
「ラッキー」
苦し紛れで別の技を使うが効果はいまひとつ。最後のあれだけは本心からの言葉ね。“じしん”の撃ち合いが面倒になって意図的に別の技を使うように誘導したのね。そんなことしようと思うのがもう……たしかに同じ技しか使わないからトレーナーは暇だったでしょうけど……。
結局シショーがサンタテしちゃった。ほとんどダメージも受けていない。完勝といってもいい。でも本当にシショーに隙はなかったのかしら。
あっ! よく考えたら毎回“へんしん”を解いたのってもしかして好判断だったんじゃないかしら。さっきはバカって思ったけど、サイドンはプテラには圧倒的に有利。“へんしん”を解かなかったら2体目に出て来たはず。そうなればサンタテは厳しい。
そもそも自分のポケモンの弱点はトレーナー自身が1番良く分かっている。だから後から出すポケモンで対策することは難しくない。それこそが“へんしん”の真の弱点。それをわかっていたからこそ、あえて一見奇行とも思えた毎回のへんしん解除を続けたのね。
プテラ、サイドン、ウツボット。どこで止めても後続に弱点を突かれる。こうして並べて見ると、そもそも相手の方もメンバー選出はかなり練られていると感じる。
いわタイプに弱点がつけるポケモンが2匹いて、プテラも弱点を突く“はがねのつばさ”を持っている。いわタイプに弱点を突く「みず」「くさ」「じめん」「はがね」「かくとう」へ有利なポケモンも全て揃えつつ、自分もいわタイプはしっかり2匹も組み込んでいる。これ凄いわね。そりゃわたしみたいに手持ち6匹で行き当たりばったりなんてそういないわよね……。
『なんとなんとおおぉぉ! なんということでしょうか!! おそらく、いや、間違いなく、セキエイリーグ史上初! メタモンによる鮮烈なサンタテショーでレイン選手が華々しい初勝利を飾った! まさにポケモンの可能性を感じさせる洗練されたバトル! ルーキーながら今大会のダークホースとなるのか?!』
固唾を飲んで黙って見ていたわたし達の口から思わず感嘆の言葉が漏れる。手品でも見せられていたような気分で、心の中で盛大な拍手を送っていた。
「くぅーー! よくやったわ! さっすがわたしのシショー!」
「これはやべぇ。十分納得したぜ。たしかにこれは絶対対策できないし、マネもできねぇ。毎回へんしんをかけ直すなんて思いついても普通やんねーよ。そもそもどうやってあんなに的確な指示を出してるんだ? 技は確認できないだろ? まさか参加者全員の手持ちを調べたのか?」
「まさか。それどころか1つも見てないと思うわ。見るだけムダって言ってたし。そもそも試合も見てないような人よ?」
「そうだったな。とすると、一目見て持ち主より数段上手くポケモンを操ったことになるな。対戦相手にとってはトレーナーとしての格の違いを残酷なまでに見せつけられる勝ち方だぜ、これは」
「そうね。シショーはメタモン6匹集めればいつでもチャンピオンだって倒せると思うわ。昔からポケモンを見る目は抜群だし、見たことのないような戦術を当たり前のように次々仕掛けてくるし」
「マジかよ……こりゃ、オレらもウカウカしてらんねーな。不戦敗どころか、大本命だぜ。それにブーイングしてた観客もみんなレインコールだ。大した連中だな」
――レインッッ、レインッッ!――
シショーが手を挙げると歓声が大きくなった。まるでもうリーグのスターね。ここに来るトレーナーは皆多かれ少なかれ憧れの的になるけど、ルーキーで初戦からここまで沸くなんてすごい。
客席を降りて会場のエントランスに向かう途中シショーとばったり出くわした。フィールドからここまで来るには早過ぎるから、きっとみゅーちゃんのテレポートね。
「あれ、なんであんたこんなところにいるんだ? さっき終わったばかりなのにいくらなんでも速過ぎるだろ」
「そんなことより、お前ら一緒に見ていたんだろ、3人仲良く。楽しめたか?」
案の定グリーンはそれを指摘するけど、シショーはやんわり話を逸らした。いっつも話を変えるの上手よね。有無を言わせないっていうか……すぐ話を変えるってわたしのことばっか言えないじゃない。
「相手の技……初めから知っていたのか?」
「そんなわけないだろ。対戦相手すら確認しなかったぐらいだ。顔見ても知らない奴しかいないからどうせ何もわからないし、メタモンなら誰が相手でもやることは同じだから必要ないんでな」
「おいおい、だからって確認もしないってマジかよ。とんでもねー自信だな。じゃあどうやってわかったんだよ?」
「ポケモンが覚えられる技は基本的に全て把握している。よく使われる技も予想はつく。ちょっとしゃべれば相手の性格もわかるし、状況や手持ちの構成、もろもろ込みで予測自体は難しくはないだろ」
そばにいるみゅーちゃんは反応なし。ウソは言ってないのかな。本当に予想なんて簡単にできるものなの?
「だけど絶対じゃないはずだろ。なんであんな自信満々なんだよ?」
「緑の方はよく質問するな。自信のないトレーナーの言うことをポケモンが聞くわけない。いちいちビビってたら、メタモンのパートナーは務まらない。つまり、確かな知識と、自分を信じる心がトレーナーには必要なんだよ。メタモンだけに限ったことでもないけど」
「ホントかよ? じゃあオレのカメックスの技を全部当ててみろよ?」
「ふふ、全く信じてないってツラだな。ま、それは戦うことになればな。それまでに覚えさせる技はよく考えておくことだ。自分の技で己の身を滅ぼすことになるかもしれないからな」
そう言い残してヒラヒラと手を振って去っていった。シショーカッコいい! わたしも活躍して、絶対シショーにも勝って期待に応えて褒めてもらうわ! そしてわたしも大歓声の中であんな感じで……。
期待に夢が膨らむ!
連チャン更新はないよと言いつつすぐに連チャンする奴
りんごうさぎの言うことを信じてはいけない(戒め)
いや、ホントに書き直したりして時間はかかりますよ
辻褄は気づいたら後から合わせればいいやっていう開き直りとペース配分考えるのを放棄して書けたら間を置かず投げるようにしただけです
完璧主義はホントにダメ
遅いならともかく早くなる分はセーフ
今回は敢えてブルー視点で観客席から見ましたがレイン視点だと全然違う印象になったでしょうね
同じ話の繰り返しになるのでレインサイドを改めて書くことはしないつもりですがなんでこんなことになったのかはどっかで触れると思います
ポケモンに限らず試合風景ってまぁこんな感じですよね(偏見)
ヤジがあったり実況がいたり
対戦相手を確認してないとレインは言いましたが、対戦相手が発表されたときブルーが後ろ姿を見かけたのは試合がいつあるか確認するためですね
一見矛盾してるように思えるので一応の補足です
対戦相手はサンタテされましたがトレーナーレベルとしては強いですよね
構築も悪くないし、いきなり出たメタモンへの対応も定石みたいな攻め方でポケモンわかってるな、という感じなんですが定石通り過ぎて読まれたわけですね
持ち物はプテラとサイドンが岩フィールド補正を活かす「かたいいし」
ウツボットは「きせきのタネ」です
もちろんみゅーちゃんは「しあわせタマゴ」です
最初から少し振り返るとまずなんでドラゴンクロ―なんやということですが……。
技は自由になんでも覚えさせれるわけでもなく、そもそも覚えられることを知らなければ三色キバやアイヘ、アクテも覚えようがないわけです。
その点ドラクロはわざマシンなのがデカい。あとドラゴンは通りがいいので技スぺ無限なら使うかなと思いました。
レートでは抜群取れないと指数足んないので使う場面はないです
「直接攻撃からか……」というのは先の展開が楽になったな……みたいな意味合いの発言です
同じ技を連打しやすいので次の攻防で遠距離技で楽に反撃できるなというのを見越していたわけですね
遠距離技から入られたら撃ち合いの展開になるのでいかに相手の上や背後を取るかという壮絶な陣取り合戦が始まって大変になります
相手のウツボットの草技の意図は同じ技の撃ち合いになれば道具の補正で優位になるという計算です
道具による差別化はメタモン攻略の王道手ですので逆にレインはこの行動は可能性として頭にありました
へんしん解除の真の理由は不利対面を確実に回避して完全な体力勝負に持ち込むためです
解除しないと対策が簡単にできてしまいますから
最後にレインが質問攻めされる際にみゅーは無言ですが、本当にウソは言ってません
予想は難しくないと言っただけで予想して技の指示を出したとは言ってませんからね
レインはギリギリウソじゃないラインをすり抜けるのが上手