カタカタ……
カタカタ……
なんの音? なにかを叩いてる音? なんか明るい……うーん……zzz……
……
ペチッ!
「痛っ、うーーん……」
何かが顔に当たって目が覚めた。眠気眼をこすってよく見ると、自分の上で誰かが寝転んでいた。びっくりして顔を確かめるとミュウだった。おだやかな寝息をたてながらスヤスヤ眠っている。寝顔だけ見れば癒されなくもないが、残念ながらうつ伏せになっていたせいで下にいた俺はよだれでベトベトになっていた。よだれ多過ぎ。
「なんでミュウがこんなところに……」
昨日ミュウはずっと1人でゴロゴロしていた。俺は最近疲れていたせいかすぐに眠くなってしまい作業をすぐ終えたのでミュウを放っておいたまま先に寝てしまった。
昨日はブルーがいるからいいやと思っていたが、まさかミュウがこんなことをするなんて予想だにしていなかった。いや、そもそも人間1人乗っかっていてなんで顔を叩かれるまで気づかなかったんだろうか。
脇に寝かせようと思ってミュウを持ち上げた時ようやくわかった。ミュウがびっくりするほど軽いのだ。どう考えても見た目と釣り合いが取れていない。これだけ軽ければそこまで寝苦しくなることもないだろう。軽過ぎて片手だけでなんなく持ててしまった。
“へんしん”の仕様で、きっと質量は変わらないんだろう。ミュウは羽毛みたいに軽い。すごい力を持っているのにこんなにちっさくて軽いなんて不思議だなぁ。ミュウって重さいくらだったっけな……。
「うみゅぅ、いや、いかないで、おいてかないで……」
寝言だろうか。突然しくしくと眠ったまま泣き始めた。俺から離したせいか? もう一度自分の体に乗せると安心したように泣き止んだ。もしかして眠っていても肌を通してオーラを感じ取っているのか。離れると悪い夢でも見るのかも。少し離れただけでこんなに不安そうになるなんて……やっぱりミュウはずっと面倒見てあげた方がいいのかもしれない。
しんみりしたが、ちょっと今日は早く目が覚めたし、このまま昨日の続きをするか。あとはファイルの並び替えをして番号振って目録をつければひと段落……。
「ん? このパソコン……位置が動いてる?」
いつもどこに置くと決まっているわけではないが、妙に手前にあるのが気になった。さすがにこれでは目と近い。こんな距離じゃ作業しにくい。……ミュウが動かしたのか。
「おい、ミュウ起きろ!」
「みゅわぁ~あ。……え、レイン!? なんでっ!」
話を聞くために起こすと、飛ぶようにして離れてしまった。
「なんでって……お前が勝手に俺の上で寝てたんだろ?」
「あ、あのまま寝ちゃったんだ。……だって、ひとりじゃ寂しいもん」
「前はブルーと一緒に寝てたじゃないか。それにこんなことして恥ずかしくないの? よだれでベトベトだし、髪もボサボサだし、だらしない寝顔も見られていいの?」
「えええ!? ウソ言わな……うみゅうぅ。みゅー、だって、ブルーはいつの間にか寝てたし、レインは後でぎゅーってするって言ったのに忘れてるし。約束忘れちゃダメなのに……みゅぐっ。またひとりだと思ったらさみしくて……みゅぅぅ」
自分の口元を触ってべちゃーとした感触を確かめて顔をしかめた。そして昨日の寂しさを思い出したのか、今度は涙交じりの表情になった。そういえばこの子供は見かけ通りの子供なんだった。ブルーぐらいなら恥ずかしがるだろうが、ミュウぐらいならまだ一緒にいたいと思うのかも。
「悪かった悪かった。約束忘れたまま1人にさせてごめんね。ほら、おいで。顔ふいてあげるから」
「うん」
素直にうなずいて目をつぶった。わがままなのかと思えばこういう素直なところもあって、意外に単純な性格ってだけなのかもしれない。キレイにしてあげると目を開けて嬉しそうに笑った。
「よし、キレイになったな。ところで聞きたいことがあるんだけど、お前、このパソコンに触った?」
「これのこと? さぁ、みゅーはここに来てすぐに寝ちゃったみたいだから知らないの。ねぇ、それよりぎゅーってして。約束したんだからいいでしょ? 昨日の分なの。ねぇはやく!」
ミュウは知らないのか。ニコニコして甘えるのでミュウが満足するまで抱きしめてあげた後、真犯人の元に向かった。当然、ここには3人しかいないのだから誰の仕業かは言うまでもない。
「あら、こんな朝早くにどうしたのシショー?」
「それは俺のセリフだ。お前、今日俺のとこに来ただろ? なんか用があったんじゃないか?」
「え……、あっ、それは……」
この反応。やっぱりブルーの仕業か。何か隠してるのは間違いない。それにあやしいところはあった。ミュウの話じゃかなり早く寝たらしいし、データの話に食いついてたのもつい昨日。間違いない。そう確信したタイミングで、なんとブルーの方から自発的に白状した。
「……ごめんなさい。実は勝手に忍び込んでパソコンのデータを見てたの」
「これまたえらくあっさりと白状したな」
「……ごめんなさい」
どうしたんだ? ブルーは基本的にすぐごまかそうとする。だけど、たまーに今日のようにしおらしい対応をするので戸惑うことがある。もしかするとこっちが怒っているのを察知しているとか? さすがにそこまでは考え過ぎか。
でもなんとなくブルーの視線が気になる。いつになく俺の顔を良く見ているから、一見顔色をうかがっているようにも思える。けど怒りを表情に出しているつもりはないし、ブルーの目線はもう少し上の方を見ている気もする。頭を見てるのか? わかんないなぁ。
「最初に言ったように俺は人に詮索されるのは特にイヤだ。約束したことは覚えているよな? 勝手にこんなことするのは俺の信用を裏切ることになるってわかるよな? 実際あそこには見られたくないものもあるし。そういうのはロックしているから見れなかっただろうけど」
「ごめんなさい。別に詮索しようとかそんなつもりは全くなかったの。……シショーが知られたくなかったのって、エスパーってことと、タマムシのことだけじゃないの?」
ごめんなさいばかりだな。表情からしてもかなり反省はしているようだ。きつくとっちめようかと思っていたが、あんまり言い過ぎるのはやめてあげるか。なんか釈然としないけど。
隠してたのは自分の記憶関連。将来ここで何が起きるか忘れないうちに書き留めておいた。ここで何年も経過したらきっとその記憶は薄れる。だからこの世界で重要になりそうな事柄に関しては形にして残しておく必要があった。要所要所イニシャルで略したり言葉を言い換えたりするなどしてわかりにくくはしてあるし、パスワードは前世関連だから絶対に開けられないけど、万一見られて内容を理解されるとマズイ。
「エスパーは別に自分でもびっくりだったし隠すとかいう以前の問題だな。タマムシは思い出すと腹が立つがそれだけ。だからそれ以外のことだ。お前、見たのは種族値のデータだけ?」
「種族値……ああ、あの数字はそう呼んでたわね。そうね」
「勝手に編集とかしてないよな?」
「も、もちろん、見ただけよ。編集したらバレちゃうし」
「それもそうか。……ならいい。実害はなさそうだし。ったく、人騒がせな奴だ。お前はいつもほしいものがあると後先考えずに行動する。一生懸命なのはいいが行動が極端なんだよな」
「……だって、どうせ頼んだって見せてくれないでしょ」
「……まぁそう思うのも無理ないが……。実際今お前が理解できるとも思えないし、今はまだ早いだろう」
「!!……わたしだってわかるわよ! あれの素晴らしさがわからないほどバカじゃない! ホントに感動したわ! あのデータすごいわよ。あれさえあればどんなポケモンにも絶対に勝てるはずよ! そうでしょ? お願い! 押しかけの弟子だし、いっつもずうずうしいのはわかってる。でも、教えてほしいの! あれ、もう1回見せて! 忘れるなんてできっこない!」
「あのなぁ……そんなに素晴らしさがわかっているなら遠慮しようとは思わないのか?」
「だってあれすごいんだもん! イワークは防御、ラッキーは特防が高いだっけ? そういうのって普通なら絶対わかんないもん。ましてや数値化までするなんて時代を一足飛びで先取りしているわよ!! どうやって調べたのかはわかんないけど、シショーはいつも正しかったし、わたしもシショーと同じ景色を見てみたいの! お願いします! わたしなんでもするから教えて!」
俺の言うこと全く聞いてない。しかもとうとう土下座までして頼んできた。ブルーはホントにためらいなくそれをやるな。特技なの?
……なんの説明もしていないのにあの数字の羅列だけ見てかなり理解できているみたいだし、これなら教えること自体はできそうだ。けど、このデータは俺にとっては唯一の前世(?)の遺産みたいなもんだからなぁ。そう簡単には……。
「ブルー。あれは全てのトレーナーにとって万金を積んでもほしい情報なんだ。いくら弟子とはいえ簡単にはなぁ……」
「……お願いっ」
「かわいくお願いされてもなー。んー、ブルーがもうちょっと大人だったら考えたかもなー」
「ううー! お願い、なんでもするから!」
「じゃ、1体につき100万、出世払いでどう?」
冗談のつもりで言うと、ブルーは顔を赤くしたり青くしたりしながら震え声で承諾してしまった。
「わ、わかったわ。ひゃ、100万円で済むなら安いものよ! シショーはわたしにはひどいことはしないし吹っ掛けてるとは思わないわ。シショーがそういうなら言い値で構わない」
「……ホントにこれはまいったな。ブルー、冗談だよ、冗談。弟子からお金なんか取らないに決まってるだろ。対価なんかいらない。いつでも好きに見せてあげるから安心しろ」
「え、えーーっ! ほんと?!」
「ほんとほんと」
「ほんとのほんとに?」
「ほんとのほんとだって。そもそも昨日作業してたのは早くお前に見せられるように編集を済まそうと思ってたからだし。先に種族値の説明やらを詳しくして、様子を見て内容がわかってくれば少しづつ見せていこうかと考えてたが、思いのほか理解が早いみたいだからな、予定よりも早く見せてあげよう」
「さすが! 太っ腹ね! やっぱり勝手に見て良かった!」
「良くないっ! あれは本当に大事な約束なんだ。次やったらさすがに許せないからな?」
許
「わ、わかりました。ねぇ、できれば今から見せてくれない? わたし早く色々知りたくって! 今日はずっと見ていたい!」
「ダメ! 探索が優先だ! ここにいる間は我慢しろ。その後いつでも見せてやるから。もしパソコンがあればデータを送って本当に自由にいつでも見れるようにできるが、パソコンは高いし、まぁ仕方ない」
「え、データくれるの?! わたしパソコンあるわ! 送って送って!」
「えっ。ブルーパソコン持ってたのか。いつ買ったんだ」
「別行動の時よ。でないと買いだめできないからこんなところで何日もサバイバルできないわよ」
なるほど、納得した。以前別行動して1人でいた際、ブルーは料理ができないからインスタント系とかを買い込んでいたに違いない。ギアナではその時の残りでなんとかしていたのか。
話が進み、結局データをあげることにした。もちろん誰にも口外しないという約束はさせたが。それからはずっと上機嫌で、1日中怖いぐらいニコニコして俺の言うこともなんでも聞くようになった。一言頼めば料理洗濯なんでもござれという状態だ。もちろん何の役にも立たなかったが。空回りして酷過ぎたので二度と頼まない。
事件は解決したので探索へ向かう準備を始めた。
「ねぇ、ブルーはどうしたの? ずっと嬉しそうだけど」
「いいことがあった日はあんなもんだ。昨日のミュウもあんな感じだったぞ」
「え、ホントなの?!」
ミュウと談笑しているとようやくブルーが来た。いつも準備はブルーが遅くて俺が待たされている。
「シショー、準備できたわ。さっそく探索に向かいましょう!」
「あ、みゅーも行きたい!」
「わかった。ミュウもおいで」
「みゅー! やった!」
朝から色々あったがようやく探索に出発した。移動中ブルーに気になったことを聞いてみた。
「そういえば、ブルーは今朝俺んとこに来てたならミュウも見ただろ。なんで連れて帰ってやらなかったんだ」
「え、あれってシショーが一緒に寝てあげたんじゃないの?」
「いや、俺が寝た後勝手に来たんだ。寂しかったみたいで」
「あー、わたし早起きするために先に寝ちゃったもんね。みゅーちゃんのこと忘れてた。ごめんね。今日は一緒に寝てあげるから」
「みゅー。ブルーも好きだけど、今日からはレインと一緒がいい」
即座につっぱねようとしたが、よりかかって服を強く握りながら言われ、断ろうと思った言葉を飲み込んでしまった。
「いや、でも……仮にも女の子だし、ポケセンとかで泊まるときのことも考えるとちょっとな……どうしても一緒がいいのか?」
「お願いなの……」
口調は控えめだが、握る手は堅く意志の堅さがそのまま現れているようだ。結局問答の後俺の方が折れて、一緒に寝ることにした。
「みゅみゅみゅ♪」
「えへへ♪」
女性陣はすこぶる機嫌がいい。なんか俺だけがテンション低いみたいだ。2人は機嫌よく俺より先に進んで行くが、ブルーはともかくミュウは道をわかっているからいいか。鼻歌交じりで進む2人。その後ろをついていき、しばらくすると洞窟が見えてきた。中は思ったより明るい。天井の裂け目から光が漏れているようだ。
中はけっこう広く、ポケモンも洞窟らしい面子がそろっている。ギガイアスやココロモリ、ドリュウズといったポケモンが中心で、またまたデータも埋まりそうだ。図鑑完成も目指そうかな。
「ねぇ、あそこ見て! 砂塵が舞ってるわ!」
「あれはっ! 急いで行くぞ! ミュウ、先行して調べてきてくれ」
「みゅ!……あ、何かある。キラキラしてる」
「それすぐ取って! よし、ありがとう。これはやっぱりジュエルだな。……エスパージュエル! よっしゃ! まさかこんなにはやくお目にかかれれるとは。ここに来たのも悪くなかったな」
ミュウからジュエルを受け取ってガッツポーズ! ここは文字通り宝の山かもしれない。
「なにそれ。宝石? とっても嬉しそうだけど、もしかして高価なものだったりする?」
「そうだなぁ……物は試しだし、一度見せてやる。丁度あそこに大岩が2つあるな。ミュウ、片方に思いっきりサイコキネシス」
「みゅ。任せて」
ドゴッ!
たいした威力だ。大きく穴が開いてえぐれたな。努力値を振る前でこれか。
「次はこれを持って同じようにもうひとつに攻撃してみろ」
「わかった。んみゅ?!」
ゴッゴッ!
光り輝いてジュエルの効果が発動した。
ドゴゴゴッ!
「わわっ、すごーい! 岩が弾けたわね。その道具、技の威力を倍増させる効果があるのね」
「正確には1.5倍ってところだ。但し、1回こっきりの使い切り。そして1つのタイプ限定。だから使いどころは難しいが、リターンは大きい。ここで全種類複数個集めたいな。今日はここでジュエル集めだ。集めるにはとにかく素早く動くのが大事だ。あの砂塵はすぐ消える。あと、ドリュウズとかポケモンが出ることもあるから作戦を立てないとな。2人とも協力してくれる?」
「もっちろん! シショーのためならなんでも協力するわ」
「みゅーも、役に立ちたい!」
「よし、サンキュー2人とも」
◆
ジュエル探しは順調に進み、十分過ぎる量を確保できた。区切りをつけて俺達はツリーに戻り、一息ついてこれからのことを話しあっていた。
「やったわね。わたしもいっぱいゲットしたし、大収穫ね」
「ホントにな。明日からはハネも集めて、もう少しこの辺を探索したらそろそろ帰ろうか。帰るにはブルーの飛行訓練もしないといけないし、そろそろ帰ることも考えないとな」
「え……もう帰るの? そんな……」
「あ……みゅーちゃん」
「あー、実はそのことで話がある。今はミュウとは成り行きで一緒にいる感じだけど、これからは正式に仲間にならない?」
「えっ! もしかしてみゅーを手持ちに入れてくれるの!?」
「今日の戦いぶりを見て改めて思ったが、ミュウはホントにすごい。もし最初から普通に会ってたら、間違いなくこっちから仲間になってくれと願い出ていただろう。個体……素質は世界中のポケモンの中でも文句なしで1番だから」
「えっ! すっごーい。やったじゃない。ポケモンの良し悪しにはうるさいシショーにそこまで言われるなんてなかなかないことよ」
「うみゅうぅぅ! こんなこと、思ってなくて……みゅー、ずっと待ってて良かった。嬉しいぃ……嬉しいの……みゅぅぅ!!」
泣きながら飛び込んできたミュウの頭を撫でてやりながら、話を続けた。
「それじゃ、一緒に来てくれる?」
「うん! 一緒にいる! ずっと一緒!!」
「よし、決まりだな。ずっと大事にしてあげるからな」
「みゅっ……みゅーー!! みゅーー!!」
「ミュウ……?」
「みゅうっ。よ、よろしくなの」
ミュウはブンブンと大げさに手を振って、さっそく技を教えたりいつもの特訓をしてくれと言ってきた。照れ隠しかな?
「そういえばミュウは俺達の様子をずっと見ていたのか。じゃあすでに俺の戦い方とかは十分理解できているな?」
「みゅ。バッチリ」
「よし、じゃあちょっと能力を見せてくれよ?」
「え、ああっ、見られてるー! やっぱり恥ずかしいからあんまり見ないでー! 大事なところレインに覗かれてるのーっ!」
「なんか毎度字面だけ聞くとちょっとアウトな気が……」
「うわ、予想してたが覚えてる技めっちゃ多いな。これだと番号でやるのは無理だな」
「わたしは無視なのね。ねぇ、前から気になってたんだけど、数字で伝えてるのはわかるけど、それって全部覚えてるの?」
「ああ。ポケモンも賢くないとこんなことできないし、何よりトレーナーがポケモン全ての技の番号を完璧に覚える必要があるからな。普通ならこんなことできないだろうし、俺ならではだ。そんな俺でも、この数はさすがに面倒だな。いい技が多いし、絞るって言うのも勿体ない。数字は諦めよう。で、先に技を新しく覚えて……といってもまもるみがわりぐらいだな」
「じゃあ、連携とかの練習したい! しんそくとかでみゅみゅってしてるやつ!」
しんそくで素早く移動するのを表現したいのだろう。仕草がかわいい。
「その前にミュウ、お前洞窟にずっといてだいぶ汚れたろう? せっかくだからきれいにしてあげよう」
「みゅみゅみゅっ!? けづくろい!? してして!! してほしーっ!!」
「ええーーっ?! それじゃあわたしにもしてよ! みゅーちゃんは人間姿じゃない!……わたしもけづくろいしてくれたらシショーに懐いちゃうわよ?」
「ブルーはこれ以上ストーカー度合いが深くなったら困るし、初めてなんだからミュウに譲ってあげたらどうだ?」
「……明日はわたしにしてね」
「考えるとだけ言っとく」
「それしない時のやつじゃない! ケチ!!」
お前今朝太っ腹とか言ってなかった? 掌返し早くないか。心外なんだけど。
「ねえねえねえねえ、はやくぅ~!」
「わかったから! まずはそのボサボサ頭をきれいにしないとな。ミュウって最初は髪とか含め全部びっくりするほどきれいだったのに、顔を見る度に荒れ果てていってるよな。これまで人間姿じゃなかったからたいして手入れしてないんだろ? せっかく素材はきれいなのに勿体ない。ゆっくり手入れしてあげような」
「はいはいはーい!」
けづくろい開始!
「最初はブラッシングね。これだけでもけっこう汚れとか落ちるから。ミュウはじっとしててね。痛くない? かゆくない?」
「んー、気持ちイイ、あったかい。あ、レイン好き」
それは全部聞いてないんだけど。いや、ものすごく嬉しいけど。
「次はお水も使うからここに体寝かせて。シャンプーしとこうか。その後トリートメントも色々しとこうね。サラサラにして、いい匂いにして、きれいにしないとなー。ミュウは素材がいいから磨けばきっと素敵になるよ。これでモテモテだな」
「みゅー! じゃあきれいになったらレインに見せてあげる。触ったりにおい嗅いだりもさせてあげるからね」
なぜ手入れした俺に対して見せようと思ったのか。
「ハイ、きれいになった。ほら、サラサラでしょ? これでミュウもすっごくかわいくなって見違えた。うん、バッチリ。満足できた?」
「ねぇ、髪だけじゃなくてもっとみゅーに触ってよ。もっとナデナデされたりしたい」
……触られ願望かな? これだけだとただのへ……
「じゃあマッサージしよう。凝ってるところある?」
「全部!」
聞いた意味……。
「じゃ、うつ伏せで横になってねー。どう、これ痛くない? 気持ちいい?」
「レイン好き、ずっとして」
また関係ない話になってるよ。
「肩も凝ってるな。ミュウでも意外と疲れてたりするのか?」
「今日は初めて役に立てた。頑張った。……できたら褒めてほしい」
頑張ったから疲れたって意味かな。なら褒めるぐらいはしてあげようか。
「ミュウはすごいからな。ホントに助かった。これからも力を貸してくれたら嬉しい。お礼に今日は満足するまでマッサージでも何でもしてあげるから」
「これからもずっと一緒にいて。みゅーはいっぱい活躍してレインに喜んでもらう。みゅー頑張るの。あ、そこいい。みゅー、もっと強く……ああ、すごくいい。今までで1番幸せなの。レイン好き」
この子どさくさに紛れてさっきからスキスキ挟んでくるな。いや、全然いいけど。
「マッサージは終わりだな。体の調子はどう?」
「レインの手があったかくって、嬉しくって、幸せだった」
……調子は良し、と。
「……満足?」
「んー、最後にキスして」
……満足、と。
「もういいんだな。じゃ、おわりね」
「んー! んー!」
スルーしようとしても目をギュッと閉じて唇を突き出してせがんでくる。目を閉じて信じて待つところを見ると無視するのはかわいそうだが、人間の女の子姿とはいえポケモンにはちょっと……。
「……ほっぺに1回だけね」
「いいの!? うんうんっ! 今はそれで十分だから、はやくー!」
片膝をついてしゃがみ、同じ高さに目線を合わせてあげた。右手は軽く背中に添え、左手でミュウの顔を包み込むようにして引き寄せ、ミュウの左のほっぺに少し触れる程度の控えなキスをしてあげた。
「ん……これでいい?」
「クスクス、遠慮しなくていいのに。レインは優しいキスなのね。でも気持ちは伝わったから満足してあげるの。ありがと……みゅみゅ」
どんな喜び方をするかちょっと楽しみにしていたが、けっこう余裕の表情だ。感情が表に出やすいミュウなら顔が真っ赤になるかと思ったのに。ミュウは前を向いたまま流し目でこっちを見て微笑した。
口元に手を当て控え目に微笑む姿にはミステリアスな雰囲気があり、幻のポケモン独特の魅力を感じる。でも最後にお礼を言いながら見せた笑みは子供らしい花が咲くような笑顔だった。とんでもないやつに魅入られたと思っていたが、魅入っていたのは自分の方かもしれない……。
「どういたしまして。お嬢さん」
そう言うといつぞやのようにクルッと1回転してからワンピースの裾を上げて優雅にお辞儀した。ものすごくノリがいい。星座のときもそうだったがミュウとは案外気が合うかも。息ぴったり。
「ねぇ、これからはみゅーのことはみゅーって呼んで。みゅーはね、ミュウって言う名前だけどホントの名前はみゅーなの」
みゅーと鳴くからミュウじゃなく、みゅーだからみゅーと鳴くってことか? 自分で言っててよくわからないからもう考えるのやめよ。でも本人が言うなら名前が先なのかも。
あと何気にニックネームの希望なんて言われたのは始めてだな。そもそもポケモンがしゃべることはないから、みゅーがしゃべれるからこそではある。
「じゃ、ニックネームはみゅーにするか。本人の希望だし」
「みゅ。じゃ、ボール出して。それに入んないとダメなんでしょ?」
「そういやボールには入れてなかったな。よろしくな」
コロコロ……カチッ!
ボン!
「ぶはっ! やっぱり中はイヤなの。何か怖いし。これからはこの姿でずっと一緒にいることにするの。傍にいてもいいよね?」
何気にトラウマは残っているな。むしろよく自分からボールに入ってくれたな。オーラが読めるから怖くはなかったんだろうけど、ボールの中はキライになってしまったようだ。
「まぁそうだな。みゅーがそうしたいなら別に……ってどうした?!」
みゅーはちょっと涙目になりながら嬉しさを堪えているような、でも押し隠せないようなそんな表情を浮かべている。何かあった?
「みゅー。名前で初めて呼ばれた。みゅうーぅ、嬉しい……レイン好き!!」
名前か。ブルーもそうだったし、大事なものなんだな。よく考えれば今まで誰とも接してこなかったならちゃんと呼ばれる機会はほとんどなかったことになる。ちゃんと呼んでたのはブルーぐらいか。一緒に寝てあげたり、名前を呼んだあげたり、当たり前に愛情を注がれることがずっとなかったからここまで感情的になるんだろうな。……みゅーは厳しく育てるよりも、もっと甘えさせてあげよう。今までの分もうんと甘えさそう。
「何回も好きって言ってくれてありがとうね。ものすごく嬉しい。俺もみゅーのこと好きだよ。これから色々あるだろうけど、一緒に頑張ろうな」
「はぅぅぅ!! みゅううんん!!……ねぇ、もうみゅーのことキライになったり捨てたりとかしないでね?」
喜びで心臓が爆発しそうなぐらい脈打ってるのがこっちにまで伝わってくる。みゅーは言葉とかで言われた方が喜ぶタイプなのかも。でもすぐに暗い表情で不安げにいらぬ心配をされた。嬉しいからこそ失いたくないってことかな。表情豊かだな。ミュウの頭を長い髪ごとわしゃわしゃとなでながら答えた。
「そんな顔するなよ。絶対しないから大丈夫。そんなこと言う奴には、こうしてオーラでわからせないとな」
「みゅー! あったかーいっ! あふっ、頭、ちょっとグリグリし過ぎ。みゅみゅ、わかった、もう十分だからいいの。あ……やっぱりもうちょっとしてほしい。今度はこのまま抱っこして?」
言われてやめると、すぐに寂しげに手を伸ばして甘えてきた。こっちを向いたみゅーは必然的に上目遣い。このせつなそうな表情にうるうるした瞳……狙ってやっているならブルーよりあざとい! 今度は乱暴にせず優しく包み込んであげるつもりで抱き留めた。
「みゅーはほんとに甘えん坊だよな」
「甘えられたら迷惑? 嫌われるならやめるの……」
「あー違う! だから、そんな悲しそうな顔をしないで。イヤなこと想像するとすぐ元気なくなるな。俺はみゅーのトレーナーだけど、みゅーにとってはお父さん……程の年ではないから……お兄さんみたいに思ってくれていいよ。みゅーは今まで1人だったから、その分までいっぱい甘えていい。してほしいことがあったら何でも言って。できる限りは叶えてあげる。みゅーのわからないこともなんでも教えてあげる。悪いことをしたら叱って直してあげる。そしてずっと大事にしてあげる。約束ね。大事な約束。もう絶対に忘れないから」
「みゅうううう! みゅーー!! みゅーー!!」
涙がもう止まらない。みゅーの涙はとめどなく溢れてとどまることがなかった。言葉はなくても気持ちは感じる。しばらく落ち着くまで甘えさせてあげた。
ミュウは体重4㎏らしいです
人間だと赤ちゃんぐらい
ホント、羽毛みたいな軽さ
なのにジュニアのミュウツーは122㎏
人間よりも重いですね
当然赤ちゃんも人間より重いでしょう
ということは生まれた時点で絶対親(ミュウ)よりも重いことに
フジ博士、ダウト!
あとジュエルについて
今は種類はノーマルのみ
倍率1.3に変更のようです
あの、しょーもない変更をするのはホントにやめて……
まあこの話の中では変更に関してはスルー安定ですね
ミュウのニックネームについて
どっかで二字熟語縛りにすると言ってましたが今回は例外ですね
あくまでレインが名づける場合に限ります
ブルーが怒られてる際に見ていたものについて
見ていたのはシショーの頭のレーダーです(アホ毛)
あとから変更して書き足しましたが、最初から怒ってる時はわかりやすい目印があるつもりで書いていました
何回かすぐ謝っていたのはこれを見て判断してました
序盤は全然ノータイム謝罪がないですが後半になってレーダーに気づいたということです