Another Trainer   作:りんごうさぎ

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13.みゅーちゃん 素敵な 隠し味

 シショーってば何考えてるの! せっかくみゅーちゃんと仲直りしたみたいなのに、またごはんはあげないつもり?! きのみを聞いたってことは絶対みゅーちゃんにはきのみしかあげない気だ。

 

「もぅーーっ、バッカシショー! あとで絶対とっちめてやるわ! どうかしてるわよ。なんできのみだけなの?」

「やっぱりみゅーのこと好きではないんだと思うの。キライじゃないってさっき言ってくれたけど、好きだとは言ってないし。たぶん仲間にする気はないっていう意思表示なのね。養う気はないから、みゅーはきのみだけで十分ってことだと思うの。そういう遠回しなメッセージとかしそうだし」

「そんな!……考え過ぎって言いたいけど、ないとは断言できないのがシショーよね。他人には相当ドライだし。もう、そんなとこまで拘らなくてもいいじゃない! 野生でもなんでも一緒にいるんだからごはんぐらい作ればいいのに。やっぱりケチンボ! バカ! とーへんぼく! 石頭! 人でなし!」

 

 とりあえず思いつくだけの悪口を並べてみたけどみゅーちゃんは苦笑い。けっこう深刻なことだと思うけど、もう苦しくなるほど辛くはないみたい。そこは一安心ね。

 

「ありがとうブルー。でもいいの。きのみはくれるみたいだし、追い出されるよりはマシだからそれで十分なの。みゅーはもう十分幸せだから。あのねブルー、さっきね、レインがみゅーのことぎゅーってしてくれて、とってもあったかくて、しあわせで、もうそれだけでこれから生きていけるの。みゅーはもう十分過ぎるぐらい幸せだと思う」

「そんな……! あなたなんて健気なの。そんな悲しいこと言わないでよ、なんかわたしまで涙出てくるじゃない。よし、今決めたわ。もしシショーに反対されても絶対わたしのごはん半分あげる。怒られても絶対曲げない。この前はつい怖くなって諦めちゃったけど、みゅーちゃんに食べさせるまでわたしも何にも食べないからね!」

 

 みゅーちゃんの悲壮過ぎる言葉にわたしはなんとしてもみゅーちゃんの応援をしようと強く決心した。こんな子を不幸にはできない。

 

「だ、ダメ! そんなことしたらブルーまで……みゅー」

「だ、だいじょーぶよー。なんだかんだシショーはわたしには甘いから、見逃してくれるわよ。……たぶんね」

 

 わかっていても怖いものは怖い。覚悟は決まったが声は震えてしまった。それは当然バレていて、しっかり指摘された。

 

「ブルー、ものすごくオーラ乱れてる。やっぱりブルーでも怒られるのは怖いんだ……」

「……わたしだって最初にシショーと会った時はみゅーちゃんと変わらないのよ。めっちゃ怖かったわ。今までで1番のトラウマよ、あれは! 丸焦げにされかけたもん!」

「そっか。ブルー、一緒に頑張ろう」

 

 がっしりと握手して、わたし達の間には深い絆ができた。共通の敵に立ち向かうために……! なぜかわたしの方が元気付けられてしまった。ごはんの時はこんなんじゃダメよ、しっかりしないと!

 

「おーい、できたぞー」

 

 と思ったらいきなり来た! 慌ててしまいシショーへの返事はかなりどもりどもりになってしまった。しかも自分でも苦しいと思う理由になってしまった。

 

「わ、わかったわ。やったー。あーあのね、わたしはあんまりおなか減ってないし、みゅーちゃんに半分あげようと思うんだけど、どうかなーって」

(ブルー、弱気過ぎだしウソがバレバレなの……)

「何言ってるんだ? お前さっき腹減ったって言ってなかったか? おかしな奴だな。何も食べてないんだから食欲なくてもちゃんと腹の中に入れとけよ。はい」

 

 その気遣いが心苦しい。諦めて正直にお願いしようと思ったが、料理を見ると3人分用意されていた。これ、もしかして……。

 

「うう……ってあれ、3つ?」

「え、これもしかしてみゅーのっ!」

 

 飛び上がってみゅーちゃんがはしゃぐと、ニコニコとシショーは笑った。

 

「もちろん。俺の特製ハンバーグ、よーく味わえよ。気合い入れたからいつもとは一味違う。ミュウにはきのみのオマケも付けておいたから」

 

 たしかにオレンをカットしたものがキレイに添えてある皿がある。飾り付けも上手ですごくおいしそうに見える。

 

「最初からみゅーちゃんの分もあったの!? じゃ、さっきのはなんだったのよもうっ!」

 

 取り越し苦労に怒っているとシショーはあっけらかんと答えた。

 

「見たらわかるだろ? それはこのオマケと……後は食べればわかる。まさか、きのみだけだとでも思って落ちこんでたのか? たしかに急いでたからちゃんと言わなかったけれど、いまさらそんなことするわけないだろ。ミュウは手持ちになったわけじゃないけど、ついてくる間は面倒見てあげるよ」

「レイン……ホントにいいの?」

「……もちろんミュウのやったことには納得いかない部分はある。けど、やっぱり辛く当たり過ぎたとは思うし、少しお詫びの気持ちもある」

「いいの、全部みゅーが悪かったから。こんなふうにしてくれて……すごく嬉しい。あ、ありがと……」

 

 みゅーちゃんは感極まって目は潤んでいる。わたしもちょっと視界がぼやけてきた。へんね、今日はにわか雨かしら。

 

「いいからいいから。さ、早く食べよう。ハンバーグ冷めるだろ。あ、でも勝手に触るなよ、食べるのは皆でいただきますしてからね」

 

 4人テーブルでみゅーちゃんとわたしが隣同士で座っていたのでシショーはみゅーちゃんの向かい側の席に着いた。お礼を言われて照れくさそうに早く食べるように促すシショー。わたし達のおなかが空いているのも事実だし、早く食べましょうか。

 

「みゅ……いただきます?」

「よしよし。いい子だな」

 

 しつけの基本、いいことをしたら褒める、わるいことをしたら叱る。なんだかんだしっかり面倒見る気あるのね。

 

「みゅふー! 褒められちゃった! じゃ、食べてもいい?」

「どうぞ召し上がれ」

 

 どれどれ。わたしもいただきますしてまずは自信ありげだったハンバーグを食べると、驚くべきことにオレンの味がした。よく注意すればほんのりとオレンのいい香りが漂っている。意外とこの組み合わせ、おいしい。

 

「んー! うんうん、わたしこれ好みかも~っ!」

「ホント? 良かった。やっぱりおいしいでしょ?」

 

 どうやって味付けしたんだろ。普通に混ぜてもダメよね。お味に関してはみゅーちゃんも同じ感想らしくおいしそうに食べてる。ただ、その食べ方はかなり独創的と言わざるを得ないけど。

 

「みゅー! これオレンなの! しゅごいおいしー! ねぇレイン、しゅごいおいしーのっ!」

「あー……」

 

 手で食べながらはしゃいでいて行儀悪いし、ケチャップとかも好き勝手に飛び散って宙を舞っている。さらに食べながらしゃべったことで口の中のものが飛び散ってる。それらは当然正面に座っている人、つまりシショーの方に飛んでいくわけで……わたしはみゅーちゃんの横から静かに見守っていた。

 

「ミュウ、何やってんだお前! 今すぐはしゃぐのをやめろっ。いきなり手で掴んで丸かじりしたかと思えば食べながらしゃべり出す! まさかテーブルマナーとか全くわからないのか?」

「らってぇ、これ使ったことないもん。わかんない。んみゅんみゅ。この方が簡単なの。んっ。そのまま掴んだらダメなの? けぷっ」

「だから食べながらしゃべるなよ。全く……世話が焼けるな」

「みゅー?」

 

 怒るんじゃないかと思ってちょっと戦々恐々と見守っていたけど、意外にもそんなことはなく、口調こそ昨日までと変わらないが怒鳴ったりはしなかった。それどころか少し微笑ましそうに笑っているし、みゅーちゃんに驚くべきことを言った。

 

「仕方ない。一緒にいる間は人間の習慣にも慣れさせないといけないし……今日は俺が食べさせてあげるよ。俺の横空いてるからこっちに皿ごと持ってきて座って」

「え、食べさせてくれるの? 手で?」

「手ぇ違う! 手で掴むわけないだろ! こうやって、フォークとか使って食べるの。そしたら手が汚れないし食べやすいだろ? だからこれを使うの。今日はどうやってこれを使うか横から見てるだけでいいから、早くこっちに来て」

 

 シショーはおいでおいでと手招きするがみゅーちゃんはすぐには行かず、さらに要求を追加した。

 

「ふーん。レインの横に座れるんだったらいいけど、いい子にして言う通りにしたらぎゅーってしてくれる?」

「……俺相手に交渉なんてミュウには100年早い。なんでわざわざ食べさせてあげた俺がミュウの言うことまで……いや、わかったわかった! ちゃんと約束するから!」

 

 言葉の先を読み取り涙目になるみゅーちゃんにシショーも形無し。一も二もなく了承してしまった。みゅーちゃんがテレポートで席を移すと、シショーがハンバーグを丁寧に切り分けて食べやすくし、みゅーちゃんにゆっくり食べさせた。そう、その瞬間、それは驚くべき光景だったわ。

 

「はい、口開けて。あーん」

「ん、あーん。んみゅんみゅ。んふーっ! うんまーーいのっ!」

「あーん!?」

 

 ガタン!!

 

 思わずその場で立ち上がって大声を上げてしまった。なんなの今の!? お話の中の行為だと思ってたのに、今目の前で現実になったとでも言うの?!

 

「ほら、またしゃべった。ミュウ、食べてる時はしゃべらない。ん? いきなり立ち上がってブルーどうした。中のものが飛んできた? なんかあったのか?」

「え、いや、ううん、なんでもないわ」

「……みゅ? なんでもないのに立ち上がったの?」

 

 ぐ、痛いところをつくわね。というか目を合わせたりしないとウソだとはわからないのね。

 

「ミュウ、あれはいつもあんな感じだしほっといてやれ。ほら、次はこっちのミズナも食べてね」

「はーい。みゅー、シャキシャキ」

 

 めっちゃバカにされてるけど今は反論しにくい。まぁいいわ。それにしてもこの2人、昨日までと打って変わってものすごく仲良さそう。それにおいしそうに食べるわね。たしかに今日は一段とおいしいけど、あんなにおいしそうに食べる人初めて見たわ。シショーもそれを見てまんざらでもないって顔をしている。なにより、あの「あーん」……しかもシショーから……羨ましい! そこ代わって!

 

「あー、もう食べちゃった。みゅー、もっとほしい。レイン、みゅーもっとほしい!」

「え、まだ入るのか。見かけによらずくいしんぼうだな。女の子はみんなそんなもんなのかねぇ」

「ちょっと、なんでわたしの方を見ながら言うのよ! こっちみんな!」

 

 しっつれいね! わたしまでくいしんぼうキャラにしないでよ! わたしはね、節度はわきまえているの。遠慮はしないけど。

 

「別に? じゃ、ミュウにはこれもあげる。食べかけで半分ぐらいしか残ってないけど、これで我慢してくれ」

「え、それレインの分……いいの?」

「いいよ。今日はミュウの分はどれぐらい食べるかわからないからちょっと小さめにしたし、次からは大きめにするから。ミュウはハンバーグ気に入ってくれたみたいだし、サービスしてあげよう。そうだ! オレン味は好きみたいだしこれにはケチャップの代わりにオレンソースをかけようか。ハンバーグに混ぜた残りが余ってるから。よし、じゃあ口開けて。あーん」

「あーーん。んんーーっっ! オレンの味もしゅるけど、なんかレインの味もしゅるの! こっちの方がおいしいかも」

「そう。ミュウはホントにおいしそうに食べるから、こっちも嬉しいな。作り甲斐がある」

 

 かかかかかか! 間接キス!? 今、はっきりシショーの味って言った!! 絶対そうよね!! そういうことでしょ?! シショーは自分のハンバーグはめんどくさがって切り分けてなかったの見てたからね! シショーは今の言葉聞いてなんにも思わないの?! なんでそんな平常心を保てるの?! ありえないんだけど!?

 

 そこからはもうみゅーちゃんの食べるところを見てばかりでドキドキしっぱなしだった。シショーはホントに何考えているのか全くわからない。

 

「けぷ……ふー、おなかいっぱい……」

「さすがに食べ過ぎみたいだな。こんなにお腹おっきくして、今度からはそんなになるまで食べるなよ?」

「だって、こんなにおいしいの初めてなんだもん。仕方ないの」

「調子いいこといって。まぁ、それなら……仕方ないか。また作ってあげるからな」

 

 え、仕方ないの!? だだ甘!? シショーってここまでチョロくはなかったと思うけど……どうしたのよ。また作ってあげるって言って約束までしちゃって。もしかして、今ならこのままわたしでも……。

 

「ねぇシショー、今度わたしにも今みたいに食べさせ…」

「いい年して何言ってんだブルー? 恥ずかしくないのか」

 

 言い終わる前に即答!? なんでなの!?

 

 ◆

 

 夕食も食べ終わり、みゅーちゃんは幸せそうな顔でぐてーっと仰向けで横になってお腹をさすり、シショーはひとり食器とかの片づけ。わたしはやることもないのでみゅーちゃんに話しかけた。

 

 さっきの「あーん」について事細かに聞こうとしたけど、みゅーちゃんは特になんとも思っていないらしく期待通りの反応とはいかなかった。「みゅーのためにしてくれたことが何より嬉しい」という至極真っ当な答えを聞いた時、わたしだけが邪なことを考えている気になってしまった。きっとシショーも同じような感じなんでしょうね。

 

「おい、なんで1人でorz状態になってるんだ。めんどくさいオーラが出てるぞ」

「おる……? シショー、エスパーに目覚めたからってオーラとか言わないの。ねぇ、この後はシショーは何するの? 用とかある?」

「言葉の綾だって。この後は実はやっておきたいことがあるから、ちょっと1人でその作業をするつもり。なんかしてほしいことがあるなら明日にしてくれ」

 

 断られたけど妙に察しがいい。心なしかエスパーが発覚してからさらに感覚が鋭くなったみたいに思えるわね。

 

「あー、そうなんだ。ちょっとわたしも星座を見ながらおしゃべりとかいいなーって思ったんだけど……」

「それなら明日とかいつでもできる。あ、そうそう。明日はミュウに場所を聞いて洞窟に行こうと思うから楽しみにしてろよ。こんなミステリーな場所じゃ、どんなおっかないのが出てくるかわからないからな」

「もう! またそうやってわたしを怖がらせてからかってるんでしょ! いじわるなんだから! そんなこと言うなら、わたしシショーの作業の邪魔してやるんだから!」

「ちょ、それはやめろ。パソコンにデータの打ち込みをするから、邪魔されてデータ飛んだりしたら洒落にならん。おとなしくミュウとでも遊んでろ」

「え、パソコン? データってまさかポケモンの?」

「まぁな。せっかくここでカントーにいないポケモンも色々見れたし、早いうちに整理しとこうと思って」

 

 ポケモンのデータか。そういえば弟子入りして最初に特殊技とか教えてもらった時もそういうのがあるってほのめかしていたわね。シショーの秘蔵データか。きっとすんごいのがあるに違いない。でも今まで見せてくれなかったし、まともに頼んでもダメでしょうね。ならみゅーちゃんと協力すれば……。

 

「んみゅ~。おなかいっぱいなのー。あったかくってー、おいしくってー、しあわせ~」

 

 

 目線を移せば幸せそうに転がっているみゅーちゃんが映った。あれに協力を頼むのは愚かね。じゃどうすれば……あ、寝ている間に見てしまえば問題なかろうね! なら早起きのためには今のうちにさっさと寝ておいた方がいい。わたしはいつでもすぐ眠れるのよ。

 

「……あ、わたしもやることを思い出したわ。じゃ、シショー、作業頑張ってね!」

「あ、おい!」

 

 わたしはそそくさと眠りについた。

 




このハンバーグお砂糖効きすぎ……
読者の皆さんはどんなお味だったでしょうか

食べさせてあげるのは仕方ないです
毎回超能力で食べるのも変な気がしますし
逆にめんどくさそう
みゅーちゃんのことは別に甘やかしているわけでは……
客観的に見れば完全に甘やかしている判定ですね

シショーはいうほどエスパーには目覚めていません
自覚が出来ただけで意図的に操ったりとかは全くできない状態です

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