麻原彰晃が生まれ育った土地を歩く 右目は視力があったのに盲学校に通った"事情"|八木澤高明
TABLO / 2018年7月19日 15時33分
2018年7月6日麻原彰晃をはじめ、オウム真理教に関連する7人の死刑囚の刑が執行され、世の中は騒然となった。筆者はかつて麻原彰晃の生まれ故郷を訪ねたことがあった。
JR八代駅の小さな改札口を出ると、がらんとした駅前は人通りもまばらだった。近くに化学工場があるのか、薬品の匂いが鼻につく。
1955年3月2日、麻原彰晃こと松本智津夫は、八代市金剛村で生まれた。市の中心部から車で20分ほど走った場所である。八代市は干拓の町として有名で、金剛村も干拓によってできた村だ。
球磨川河口に広がる干潟に目をつけ、干拓事業をはじめたのは、寛永九年(1623年)に肥後に入国した細川忠利である。細川氏の入国から明治の廃藩置県までの240年の間に、153カ所の干拓地ができた。八代市に広がる八代平野の三分の二が江戸時代以来の干拓地である。
干拓地というのは、地縁も血縁もない入植者たちによって、形成される村である。九州だけでなく、遠く長野県から入植する人々もいた。故郷を捨てた人々が、新たな夢や望みを託す場所である。のっぺりとした平たい干拓地には、人々の夢や欲望がぎっしりと詰まっている。麻原の父親も夢や希望を干拓地に追い求めた一人だった。
八代市内からレンタカーで、麻原の生家のあった場所を訪ねてみることにした。市内から球磨川を渡ると、見通しの良い平野が広がる。
生家あとを訪ねると、6才で盲学校に通うまで暮らしていた家は既になく、空き地となっていた。麻原は1961年に生家のすぐそばにある金剛小学校に入学するのだが、その半年後に熊本市内にある盲学校に転校する。
麻原は、左目がほとんど見えなかったが、右目の視力は1.0近くあったという。盲学校に通う必要はなかったのだが、全盲の兄が将来、麻原が全盲になった時に備え、鍼灸の技術だけでも身につけさせておきたいと考え、盲学校に入れたのだという。それと、家庭の経済的な理由もあった。盲学校に通えば、経済的に困窮していた麻原の一家は、国からの補助金により、寄宿舎の食費が免除される。9人兄弟の麻原の一家にとって、寄宿舎に麻原を送ることは経済的な負担がかなり軽減するのであった。
麻原の父親は、干拓地で豊富に採れる韋草を利用して畳屋をやっていた。麻原の一家だけでなく、この土地での生活は厳しかった。生家近くに暮らす男性は言う。
「昔はムギが主食で、米はあんまり食えなかった。イモを植えても親指ぐらいにしかならない、痩せた土地だから、生活は大変だったよ」
麻原の記憶を求めて、私はさらに集落の中を歩いてみた。麻原と同年代と思しき人たちに話かけてみても、幼少時代にこの土地を去ってしまった麻原のことを覚えている人には、出会うことができなかった。
やっとのことで麻原一家のことを覚えている老婆に出会うことができた。
「お父さんは悪か人ではなかったよ。腕のいい職人さんだったよ。事件のだいぶ前には、仕事をやめていたけどね」
老婆にとって、オウム真理教の麻原彰晃は、金剛村の松本智津夫として記憶が残っていた。
「麻原彰晃じゃなかばってん、松本智津夫は、何度か青山弁護士とここに来ていたよ、小屋みたいだった家も大きくしてね」
老婆の記憶では、麻原の一家は大陸からの引揚者だった。
「父親が満州から引き揚げてきて、炭坑夫をしていたおじさんのところで、世話になってね。ここに来る前はお父さんも炭坑夫をしていたみたいだよ。それからここで畳屋をはじめたんだ」
話を聞き終えて、挨拶をして立ち去ろうとすると、老婆はぽつりともらした。
「智津夫はかわいそうな子だった」
老婆は何を思いその言葉をもらしたのか、世間からは稀代の悪人でしかない麻原彰晃、彼が生まれ育った土地では、世間とは違った眼差しで麻原を見つめる人の姿があった。
麻原彰晃こと松本智津夫は二度と故郷の土を踏むことはない。(取材・文◎八木澤高明)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
線状降水帯発生を発表へ=6月にも、災害警戒促す―気象庁
時事通信 / 2021年4月19日 16時44分
-
公安調査庁の検査を妨害 容疑のアレフ出家信者を逮捕 警視庁公安部
産経ニュース / 2021年4月17日 19時5分
-
熊本地震5年 コロナ禍であり方問われる災害ボランティア
産経ニュース / 2021年4月15日 18時15分
-
浸水の千寿園が仮設で再開、熊本 球磨村に隣接する人吉市に移転
共同通信 / 2021年4月7日 17時48分
-
「福岡5歳餓死事件」に見るカルト的手口の異様 オウム真理教の内側と重なって見える
東洋経済オンライン / 2021年3月27日 12時0分
トピックスRSS
ランキング
-
1「安いから軽自動車」は遠い昔の話?! “軽”を選ぶことが圧倒的に“合理的”であるワケ
文春オンライン / 2021年4月25日 6時0分
-
2コロナ慣れした・いい加減にして…「駆け込み客」でにぎわう梅田繁華街
読売新聞 / 2021年4月25日 9時23分
-
3遊園地に「無観客開催を」? ナゾ過ぎる「都の要請」に施設困惑
毎日新聞 / 2021年4月24日 21時9分
-
4「小室さん、法律にこだわりすぎ」弁護士たちからのアドバイス「答案を書いても解決しないよ」
弁護士ドットコムニュース / 2021年4月24日 9時36分
-
5告発第2弾! “45股男”を追い詰めた被害女性たちの執念と結束力
日刊ゲンダイDIGITAL / 2021年4月25日 9時26分