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この作品「ふたりぼっちの夜想曲」は「腐術廻戦」「五伏」のタグがつけられた作品です。
ふたりぼっちの夜想曲/雪華の小説

ふたりぼっちの夜想曲

6,155 文字(読了目安: 12分)

呪術云々の無くなった世界で自分の存在意義はあるのだろうか、と疑問に思った五条が身近な人の記憶から五条悟という存在を消してしまうのに恵だけは五条を覚えていた五伏。なんだかんだ夏油が生存していて、かつ恵が高専を卒業している世界の話です。長くなりそうなのでシリーズにしてます。次作からエロが入ります。

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本誌がしんどすぎてつい夏油が生きてる世界の話を描きました。本誌で最強だから「封印した」とか最強だから「助け出したい」とかそんな香りを感じて「五条悟の人間らしいところを見たい」という思いでこの話ををかきました。恵くんには五条の人間らしいところを見つけて欲しいな、という願望です。

五条悟という男は「最強」であっても「完璧」ではないと思ってます。
呪アカを作ったので仲良くしてくれる方はホームから飛んでくださると泣いて喜びます。

2021年4月14日 12:44
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本当に、全部終わった。
呪術師とか、呪いとか、争いとか。
多くの物や多くの人を犠牲にしたが、それでも全てが終わりを迎えた。
執行猶予とされていた虎杖の死刑は五条先生はじめ高専関係者や先輩達の協力のおかげで回避され、俺達は春に高専を卒業した。
呪術というものが無くなった世界で、俺達呪術師は必要と無くなり呪術高専は俺達の代で廃校が決まった。

卒業式の日の夜、始めて五条先生と体を重ねた。
きっかけは本当に些細なことで、俺と五条先生は何の因果か在学中に"恋人"という形に収まったが、『恵が卒業するまで手は出しませ〜ん』と変に頑固だったせいで、恋人ながらも身体を重ねたことがなかった。ちゃんとしてるんだかしてないんだか。

告白したのは、俺が19歳になった時だった。人生の半分以上を一緒に過ごした五条先生に対しての気持ちは、もう抱えきれないほど大きくなってしまっていた。告白したのも単に俺自身が早く楽になりたいという気持ちからぇもあった。この思いを閉じ込めておくことが苦しくなって、早く解放されたくて、そんな身勝手な理由でも あの人は俺の言葉に嬉しそうに破顔して喜んで手を取ってくれた。
ずっと欲しかったものをようやく手に入れた時の多幸感を今でも覚えている。こんにも幸せなんだと、らしくないことを考えていた。
昔から恋焦がれ続けた青が俺だけの物になったことが嬉しくて堪らなかった。

「めぐみ、好きだよ。」
「俺も、ずっとアンタが好きでした。」

しかし付き合ってからちょうど二年経った、俺の21歳の誕生日、五条悟は俺の前から姿を消した。いや、そうじゃない。俺の知っている世界から姿を消した。まるで、最初から"五条悟"という人間が存在していなかったかのように、なんの痕跡もなく消え去った。
そんなこと、出来るわけないと普通なら笑うだろう。昨日までそこにいた人間がまるで最初から存在していなかったようにすることなんて、不可能だと。だが、五条悟はかつて自他ともに認める最強で、普通の人には出来ないことをやってのける男なのだ。それを俺は痛い程によく知っている。それでも最初は、それを信じていなかった。
だけどある日、それを信じるしかない出来事が起こって以来、俺はどうしようもない喪失感と焦燥に襲われていた。

■■

「おい、伏黒。どうしたんだよ。考え事か?」
そんなことをぐるぐると考えていると、隣から虎杖が声をかけてきた。
「ん?……まぁな。」
高専を卒業してからもずっと俺にとって虎杖は良い友人で、何度か飲みに行ったことがあった。俺と五条先生が付き合いだした時にも飲みに行ってその報告をしたら、花が咲いたような笑顔で"やっと付き合ったのか?おめでとう、伏黒"なんて言ってくれたことを覚えている。
「なぁ、虎杖」
「ん?」
ビールジョッキを机に置いて、真っ直ぐと虎杖を見つめる。な、なに!?急にそんなに見つめないでよ。と慌てる虎杖を他所に、俺はずっと気になっていたことを口にした。
「……五条先生って、覚えてるか?」
自分の声は酷く震えていた。頼む、どうか頷いてくれ。変な冗談だねと、笑ってくれ。
「五条先生?……うーん、知らない。高専の先生だっけ?」
「…………っ!」
息を飲んだ。知らない?だってそんな、そんなはずがない。五条先生はお前の死刑を免除してくれて、俺にとってもお前にとっても、大事な人だったはずだ。それなのに、知らないって。
「本当に、知らないか?」
「どんな人だったの?」
「……最強で、人を振り回す言動をするくせに、イザという時は頼りになって、俺たちの一年の頃の担任……」
「一年の頃の担任?そんな人いたっけ。伏黒大丈夫か?酔ってる?」
「……酔ってない」
素面なのだ。全くもって素面。むしろ、お前の方が酔ってるんじゃね?という言葉を飲み込んだ。
「じゃあ聞くけど、オマエの死刑を回避してくれたのって誰なんだよ」
「え?伏黒覚えてないの?一個上の先輩方だったり、あとは夏油先生とかかな。」
「…………そうだった」
いや、違う。俺の知ってる記憶と、虎杖の記憶が異なっている。虎杖悠仁の記憶の中に、五条悟という男は存在していないのだ。
「……悪い虎杖、帰るわ」
「え?おう、分かった。また今度な!伏黒」

その晩、どうやって家までたどり着いたのかは覚えていない。

翌朝、カーテンから射し込む光で目を覚ました。
もしかしたら昨夜のそれはただの夢で、起きたら世界は元通りになっていると僅かに希望を抱いていた。それでも、その希望は簡単に打ち砕かれた。
俺のスマホにあるはずの五条先生の連絡先は相変わらず無くて、代わりに虎杖の言っていた夏油先生の電話番号が登録されていた。
だけど、そこに電話する勇気が今の俺には無かった。というか、電話して五条悟が存在していないのだと突きつけられる事がとてつもなく怖かったのだ。

「……そうだ、乙骨先輩」

五条先生とは遠縁の親戚にあたるこの人なら、きっと何か知ってるに違いない、そう思ってスマホに指を滑らせた。
『もしもし、乙骨です。』
「あ、先輩お久しぶりです。伏黒です。」
『恵くん?どうしたの。僕に電話なんて珍しいね』
「乙骨先輩、いまどちらにいらっしゃいますか?」
『明日までは日本に居るよ。どうしたの?』
「少し話があって……」
『恵くんが?珍しいね。僕で力になれるなら相談に乗るよ。明日の10時に高専近くの喫茶店で会おうか』
「……すいません。ありがとうございます」

電話越しに聞こえるその声が酷く優しかったことを覚えている。

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「久しぶり、恵くん。」
翌日。約束の時間に俺は乙骨先輩と喫茶店に居た。在学中に俺が唯一手放しで尊敬出来る先輩として名前を上げていたが呪いとか呪術師とかそういうのが無くなった今でもそれは変わっていない。
「忙しいのにすいません。」
「ううん、大丈夫だよ。それで話って……」
ブラックコーヒーを一口啜ってから乙骨先輩を見る。ここで聞かなきゃ、俺は多分この先後悔する。それがどんな答えでも。
「……五条悟さんって、……ご存じですか。」
平穏を装うように、ただ一言そう吐き出した。帰ってくる答えは恐らくノーだ。分かっている。それでも、聞かずには居られなかった。
「……知ってるよ。」
「え…………」
だけど、乙骨先輩が寄越した答えは俺が覚悟していたものとは違っていた。今なんて。
「僕を救ってくれた人で、同じ血が流れてる人でしょ。」
「……どうして。」
まるで全部見透かしているかのような視線が俺を捕える。少し、五条先生に似ていると思ってしまう。
「それは、どうして僕が五条先生を知ってるかって話?それともどうして皆が知らないのかって話?」
「両方です。」
「う〜ん……」
困ったように笑った乙骨先輩は一度視線を下げたがすぐに俺を見つめた。
「前者はさっきも言ったけど僕には五条先生と同じ血が流れてるからね。それに僕だって特級呪術師だったんだ。五条先生の使った呪術が僕にはあまり効かなかったのかもしれない。」
「……どういうことですか」
「それが後者にも繋がるんだけど……呪いとか呪術とかそういうのが無くなった世界で、果たして自分は必要とされるのか……五条先生は怖くなったんじゃ無いかな。」
「必要?」
だって、そんなの今更すぎる。
俺はいつだって五条先生を必要としていたし、高専のみんなだって五条先生に憧れてた。
「恵くんの今考えていたことはさ昔の話でしょ?さっきも言ったけど、この世界にはもう呪術師なんて必要ないんだ。御三家で生まれ育った五条先生にとって、いままでその力を必要とされてきたあの人にとって、この世界は果たして本当に幸せだと思う?」
「……考えたこともなかったです。」

そうだった。
五条悟という男は"現代最強の呪術師"とまで呼ばれていて、俺の知るあの人もやっぱり最強で。だからこそ、考えたことがなかった。全てが終わった世界で、あの人がどうなるのか。

「求められていたのはあの力なんじゃないかって、頭のいい五条先生ならどこかで気付いていたんじゃないかな。それは今に始まった話じゃないっていうか、きっとずっと疑問に思ってたんじゃない?」
「……」
「あの五条家に生まれた五条悟だから、全てを持っているからって。今のこの世界じゃあ、僕らは力を持たない一般人と同じだからね。」
「あの、五条先生が今どこに居るのか……」
「知ってたとしても、それは僕の口から聞くべきじゃないんじゃないかな。」
「そうですよね。じゃあ最後に、もう一つだけいいですか?」
「うん?」
「どうして、俺だけは五条先生を覚えているんでしょうか。あの人の力を使えばきっと俺の記憶だって……」
「心が揺らいだんじゃない?最強でも完璧ではないし、それに、恵くんと五条先生はそういう仲だったんでしょ?じゃあ尚更。」
「……」
「誰かに忘れられることって、思った以上に怖いんだよ」

忘れる訳ないのに。でときっと、ずっと五条先生は孤独だったんだろう。
「……そうですか。ありがとうございます。」
「力になれたのならよかった」

来た時よりも軽い足取りで喫茶店を後にしようとした時、不意に後ろから声をかけられた。

「僕は先生に救ってもらった。だから、次は僕が救いたいんだ。」
「……同じですよ、俺も。」

だから先生、そこで待っててください。




「……これで良かったんですよね。五条先生。あとはあなたと恵くんの問題なので。」
不意に、乙骨先輩が何かを言ったようにも聞こえたが、俺にはその言葉が拾えなかった。



■■
ああ言ったものの、手がかりが無さすぎる。俺と乙骨先輩以外の記憶から五条悟という男の記憶が抜けてる以上、虎杖達に頼ったところできっと何ともならない。つまり、俺の手で何とかする必要がある。
まずは五条悟が存在していたというその証をほんの少しでもいい、集めなければ。

部屋にあったものは全て無くなっている。揃いで買った物だったり、あの人が持ち込んだものだったり。そういうものは全部初めから存在すら無かったかのように忽然と。

「……これって、確か」

何の変哲もない、小さな貝殻が視界に写った。
そうだ、思い出した。二人で海に行った時に俺が拾ったものだった。
『何の変哲もない貝殻じゃん。それのどこがいいの?』
『これがいいんじゃなくて、これを見る度にアンタを思い出すんで』
『……え、どういうこと?』
『綺麗な海だったじゃないですか。アンタの瞳みたいで……』
『……ぶっは!なにそれ。口説いてる?』
『口説いてません。』
『恵ってば大胆〜』
『人の話聞いてました?』

青い瞳。まるで深い海のような、透き通ったその青。
普段は覆い隠されていて、ごく一部の人しか知らないその色が俺は好きだった。

初めて出会った時。俺はまだ小学生で五条先生の事をガラの悪い人だと思っていた。信用があったかと言われたら微妙ではあったが、サングラスから覗く硝子玉のような瞳に小さいながらも魅入られた記憶があった。
キラキラと煌めくその碧に、心を奪われていた。

「だから言ったじゃないですか。これを見る度にアンタを思い出すって。」

俺の掌に収まるサイズの小さな貝殻。
ひとつ。手がかりを掴んだ気がした。


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不意に自分のスマートフォンが鳴り響く。
このスマホの番号を知ってる人間はほとんど居ない。五条家の人間か、ごく一部の限られた人間のみ。信用を置いてる人にしか教えていない番号だから怪しい電話って事は無いんだと思うけど。
液晶ディスプレイに表示されていた文字は嘗ての僕の教え子で、僕と同じ特級の名を持っていた男 乙骨憂太だった。

「……もしもし」
『あ、五条先生。僕です。乙骨です。』
「僕はもうオマエの先生じゃないんだけどなぁ〜」
『そう呼ぶのに慣れちゃったんで許してください。』
「まぁいいけど、それでなんの用?」
『昨日、恵くんが僕のとこに来ましたよ。』
「…………それで?」
『それだけ、です。』
「……は?」
『五条先生って覚えてますか、って僕のとこに来ましたよ』
「……」

恵は昔から、人の気持ちに気がつくのに上手い。
他人を思いやる心があるのか、そこはあの男に似なくて本当に良かった。むしろ反面教師にしたのかもしれないけど。

『僕も一応、腐っても特級だったので五条先生の使った力が効かなかった理由も分かります。でもどうして恵くんも貴方を覚えていたのか。……五条先生なら気付いているんじゃないですか?』
「……そうだね。」

呪術が無くなった世界で、僕が必要とされなくなるのが怖かった。それならいっそ、僕は最初から居ないことにしておけば良いんだと、そう思っていた。
それでも、僕はそこで心が揺らいだ。
伏黒恵の中に刻まれた僕が、いなくなってしまうことの方が怖いんだと。

『会いに行かなくて、良いんですか。』
「……良いよ。別に」
『嘘つくの下手すぎませんか?』
「うるさいな。」
『僕が出来るのはここまでです。あとはお二人の問題なので。』
「……分かってるよ」

電話の向こうで憂太が笑った気がした。


思えば昔から、友達という友達というがいた記憶があまりない。五条家の嫡男として育てられて、御前は将来この呪術界を背負う男になるんだと、そう言われ続けてきた。大事なのは僕じゃない。僕の持つ力なんだと、幼いながらにも気付いていた。
それでも良かった。それでも、必要とされていたから。僕にしか出来ないことなんだからとそう思っていた。
そんな中で、高専で傑と硝子に出会った。
僕が五条悟だからとか、僕の術式とかそういうのを全部抜きにして僕の友達で居てくれた二人。
それが堪らなく嬉しかった。
でも、果たして本当にそうなのかと怖くなった。

『直接聞いたらどうです?僕のことどう思ってるの〜って』
「それでもし、僕の望む答えじゃなかったら?」
『それは無いです。僕が保証しますから。』
「え〜……憂太の保証とかアテにならなくない?」
『ひどくないですか?教え子のこと信頼してください。』
「あはは!冗談だよ。ありがとうね 、憂太」
『お礼とかいいんで、まぁ幸せになってください。先生は僕の恩人なので』
「良い教え子を持って僕は嬉しいよ。」
『はいはい。とりあえず 、事が済んだら僕に美味しいご飯でも奢ってくださいね。それで貸しはなしにします。』
「借りを作ったつもりないけど!?」
『これは貸しです、五条先生』
「憂太も大概だよね。」

電話の向こうの明るい声に、少しだけ気持ちが晴れた気がした。憂太も昔に比べて随分と明るくなった。

『じゃあ、また。報告お待ちしてます。』

結局の所、憂太は全部分かってたって所かな。
本当に凄い子だな、君は。


「……ごめんね、恵。まだオマエに会うつもりは無いんだ。」

今はまだ、僕を追いかけていてよ。

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