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この作品「オマエのJe te veuxを聞かせてくれ」は「五伏」「腐術廻戦」のタグがつけられた作品です。
オマエのJe te veuxを聞かせてくれ/雪華の小説

オマエのJe te veuxを聞かせてくれ

7,122 文字(読了目安: 14分)

お久しぶりです、雪華です。
以前Twitterで呟いていた『プロ並みの技術を持つ癖に表現力が欠落してて、演奏が全部ロボットみたいに聞こえてしまうピアノ専攻3年の五条悟』と『とんでもない表現力があるのに、技術が追いついていないせいでまだ演奏が拙いバイオリン専攻1年の伏黒恵』がある事情からデュオを組むことになった音大パロのお話です。
こちらのお話、元ネタは昔別界隈で仲良くしていたフォロワー様が呟いていた素敵なネタのひとつで「わたしの呟きはフリー素材だから好きに使ってね」と言ってくれたありがたいネタです。書いたら報告してねって言ってたので、書きました。見てますか?五伏にハマってくれ。23話のじゅじゅさんぽ見て書くしかないと思いました。

呪い?呪術師?そんなのありません。少しだけ恵くんのストーカーっぽいモブ女が出てきますが無害です。続くかもしれないし、続かないかもしれない。
ピアノは幼い頃に齧ってましたがバイオリンの知識は全くないのでその辺は暖かい目で見てください。二次創作はファンタジーです。
補足設定しておくと、傑も五条と同じピアノ専攻で、虎杖は別大学ですが恵とは幼馴染という設定です。

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前作に100usersタグありがとうございます。ずっと憧れていたタグだったのでとても嬉しかったです。これからも自分のペースで描いていきたいと思います。

2021年4月11日 11:42
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茜色の空。
 
母親が昔していたから、というだけで通わされた手習いの帰り道。
 
駅前の信号が長い横断歩道で。
信号待ちのごく短い時間。、雑居ビルを背にして、いつもその音を聴いていた。
 
きっと、俺は幼いながらにもその音に恋をしていたのだと思う。
 
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まずは深く息を吐いて、軽く指を乗せる。
ペダルに脚をのせて、反対の足には力を入れる。指はあくまで乗せるだけだ。ここで余計な力を入れてしまうと指の動きが鈍くなる。それから、ペダルをゆっくりと踏み込む。こちらも妙な力を入れずにただ重力に任せて踏み込むと言うよりかは軽く押すということを意識する。
 
最後に、浅く息を吐いて身体の緊張を解いた。
 
___そして、鍵盤に指を滑らせる。
 
静まり返って糸が張り詰めている空間を俺が解すように、滑らかに曲に入り込む。
 
曲はフレデリック・ショパンの『幻想即興曲』。
 
重苦しい和音から入るが、ここでその余韻に浸っていると次からのパッセージに遅れをとる。ゆったりとしたリズムで入っていくが次第に駆け上がるような細かい音符が増えていく。
 
この曲で最も求められるのはテクニックだ。『幻想即興曲』は全体を通して、重音とパッセージ(急速な音)が多く、ポジションの移動も激しい。一流のピアニストですら難曲と指名するのも納得がいく。
___だが、俺も手先の器用さと指さばきはプロにも劣らない自信がある。ここに至るまでかなりの練習量が必要だったが、何とか今日までに形にすることができた。
 
順調にパッセージを抜ける。
 
よし。ここまでは、大きな失敗もない。
 
ちらりと、目の前の椅子に座る初老の講師を伺うと、出だしと変わらない姿で目を閉じて聞き入っている。それに思わず余裕の笑みが溢れた 
次のフレーズでは、先程のパッセージとは打って変わって流れるような旋律を持つトリオに差しかかる。複合三部形式のこの曲は前半のダイナミックな動きと中間部の繊細な音との使い分けでメリハリに気をつけて弾いていく。ただ弾くだけではなく、細かなフレーズや流れを意識して丁寧に弾くのだ。
それにしても、繰り返されるメロディにだんだんと腕が重たくなってきた。だが、この幻想即興曲は後半に行けばいくほど、技巧が必要になってくる。こんなところで、へばってはいられない。
 
気合いを入れ直して、前半部分の再演に入る。中間部からは一転して先程と同じ細かいパッセージが連続する。これがなかなか難しい。繰り返される緩やかな部分とパッセージの差をつけること、そしてそのパッセージが崩れないことを意識しながら弾いていく。
 
あともう少しで曲が終わる、というところ。
その時、不意に乾いた音が鳴った。
 
俺のピアノ以外のその音にハッと我に返って、目の前を見ればいつの間にか渋い顔の講師が俺を見つめていた。
「全然ダメだな。五条。この曲はまだお前には難しかったみたいだ」
「あ"?……全然弾けてんだろ、先生!」
 
プライドを傷つけられて、思わず声を荒立たせてしまう。確かにまだ粗さは残る。それは自覚しているし、他にも改善の余地があるがそこまで酷く言われる謂れは無いはずだ。
 
「あぁ。ちゃんとお前は弾けている。」
「はぁ!?じゃあ、なんでだよ……!」
 
間髪入れずにジジイに噛みつけば落ち着きなさい、と諭される。苛立ちながらも教室の隅から、椅子を引っ張ってきて、講師と向き合って腰掛けた。
「それで先生!!」
「だから、落ち着きなさいと」
「は?これが落ち着いてられるかよ!ちゃんと弾けてんだろ?!俺には早いってどういう意味だよ。俺以上に技術のあるやつ、この学年には居ねぇだろ。」
 
意味が分からなかった。弾けているのに、評価は「全然ダメ」。そんなの納得いくワケがねぇ。
それなのに、そんなこちらの苛立ちなんてどこ吹く風の講師は口元の白い髭をさすっている。その些細な仕草でさえ癪に触って、自然と右足が揺れた。
 
「だってねえ、五条。お前、この一年半なぁんにも成長してないじゃないか」
そんなことはない。この音大に入るまでの俺だったら、この曲は弾けなかっただろう。俺の技術は練習量と比例してちゃんと成長している。
それが顔に出ていたのか、講師は困ったように笑った。

「僕が言ってるのは技術じゃないよ。テクニックだけなら、五条が自分で思う通りプロにも通じるものがある。……でもねえ、お前の音楽はまるでロボットのようだ」
ロボット。思いつくのは絵本やアニメに出てくる四角いブリキの顔。だが、それが音楽になんの関係があるというのだ。ピンとこない比喩に無意識に眉間に皺が寄る。そんな俺を手のかかる子どもを見るような目で講師は見つめた。
 
「感情が感じられないんだよ、お前の音には。どれだけ完璧に弾き熟そうが、心に響かない。教本をそのままコピーしたのと同じことだ。」
 
それの何が悪いのか。
俺はこの曲を作ったショパンじゃねぇっつーの。だから、特に思い入れも無いこの曲に感情なんか持ちようがない。それに誰が弾こうが所詮、鳴らすのは同じ音だ。上手い下手の差以外に違いがあるワケがない。
 
「この『幻想即興曲』という曲はどんな曲だ?」
「……もとは、」
「ショパンの4曲の即興曲うち最初に作曲され、ショパンの死後1855年、友人のユリアン・フォンタナによって幻想即興曲として出版された曲」
「そう、一般的はそう言われているね。……それで?」
 
促す言葉の返答に詰まった。はぁ?それ以上の解答がどこにある。満点回答だろこれ。そんなのその時代を生きた人間しか分からないだろ。黙り込んでしまった俺に講師は一つの楽譜を差し出した。
 
「答えが出せないようなら、これ以上この曲をやる意味は無い。このくらいメリハリのある曲なら分かりやすいと思ったんだが、もっとお前にはダイレクトに伝わる曲が良いかもしれないな。」
受け取ってページを捲って見れば、幻想即興曲とは違って格段に難易度の低い曲。やろうと思えば高校生でも弾けそうで、こんなの音大三年の男が弾いたら赤っ恥だ。というか、そもそもタイトルからして俺の柄じゃ無さすぎる。
「こんな曲で、デュオ試験に出ろだと!?」
デュオ試験。それはここ、聖青音楽大学で行われる学内コンサートだ。ここでの演奏で進級が決まると言って過言ではない重要な試験。つまり、この試験で結果が出せなければ留年ということで。このコンサートが切っ掛けでOBの楽団から声をかけられる事もあるという。

それなのに、こんな曲だ。巫山戯るのも大概にしろ、クソジジイ
 
「うん?それはもちろん。出す気はないよ?」
 
俺の慌てように講師は可笑しそうに笑う。それにほっと胸をなでおろした。だよな。流石にそんなワケはなかったか。
だが、続いた言葉にビシリと固まる
 
「五条、お前を、だけどな。この曲で僕から合格を今月中に貰えなかったら、お前をデュオ試験そのものに出さないよ」
「は……はあああああああ??!!」
 
講師は愉快そうに笑っているが、冗談じゃない。三回生で留年なんてしてられるか!しかも、その理由が「デュオ試験の出場許可が降りなくて」だなんて、とんだお笑い種だ。傑あたりに絶対爆笑されるに決まってる。いや、彼奴の笑う顔が脳裏に浮かんできた。巫山戯んな。
 
「良いじゃないか!この際、もう一年使って表現力を鍛えたらどうだ?」
「はぁ!?良かねえよ、先生!ぜってー、俺は留年しねぇからな!!」
「その意気だ、五条。僕はお前がどんな答えを出すのか楽しみに待っているよ」
 
梟のように目を細め、手喰えない笑みを浮かべる初老の講師に俺も不敵な笑みを返す。思わず手に力が篭って、持っていた楽譜に跡がついた。
ぜってー、腰抜かすぐらいのヤツを一発聴かせてやる。だから、その首洗って待ってろよジジイ。
 
 
丁度、鳴った講義の終わりを告げるチャイムに俺は講師への挨拶もそこそこに、飛び出した。
 

▪️▪️


"この曲で『愛』というものを学ぶんだな。五条"
 
そう言って差し出された曲は、リスト『愛の夢』第三番。
 
息巻いて飛び出したは良いが、今まで通りに練習すれば、また同じダメ出しを喰らうに違いない。そう、思い立って個室の練習室に行きかけていた歩みを止めた。
曲自体は簡単だから即興でもそれなりに弾けるから、今から練習する必要はない。それよりもまず、この曲を完璧に理解してやるのが先だ。
くるりと進行方向を変えて、俺はキャンパス内のカフェへと向かった。
カフェに着くなり、アイスコーヒーを一杯注文して、大量のガムシロップと共にトレーに乗せて壁際の隅の席を陣取るとワイヤレスのヘッドフォンを鞄から取り出して装着する。ついでに、手帳も取り出して巻末のメモ欄を開いて置く。それから、リストの愛の曲をアプリで購入して流した。
 
一回目の聞いた感想「弾けるな」
二回目の感想「音のバランスと強弱、テンポがコツか」
三回目の感想「……眠くなるな」
 
一応、開いた手帳に感想を書き留めたが、流石に俺でも講師が求めているのはコレではない事だけは分かる。思わずため息をついて、最初からぶち当たる壁の高さに辟易した。だが、これくらいで挫けてられるか。今の俺には進級がかかっているのだ。頭を抱えて唸りながら、ネットを漁って情報をひたすらメモっていく。
 
リストの『愛の夢』とは、
曰く、恋愛ではなく人間愛を歌ったものである。
曰く、甘いメロディーでロマンティックな曲らしい。
曰く、大人の恋愛を匂わせた愛を訴えかける曲だとか。
……正直、全部理解しがたい。なんだ?世の人間はこのたった四分の曲で、そんなことが分かるのか?俺だけなのか、理解できないのは。意味が分からねぇ。っていうか、「愛の夢」ってなんだよ。リストはどんな夢みてんだよ。人間愛だぁ?なんだよそれ。
 
若干、理不尽なことを考えながら、[愛の夢 解釈]で検索したサイトを次々と覗いていく。途中で、腹が減って朝行きがけに買ったチョコレートを齧りつつもその手は休めない。
 
あらかたサイトを見終わると次は動画を検索して聴き比べる。意外なことに楽譜だけ見れば簡単なこの曲は割と有名な奏者にも弾かれているらしい。とりあえず、上から順に再生していってそれぞれ若干違う弾き方をメモしていく。コレが表現の違いってやつなのか。
 
疑問を抱きながらも黙々と筆を進めていると、耳障りな音がヘッドフォン越しに耳を打った。
 
「あ〜ん!伏黒くん、ねぇ、今日は空いてないの?」
「……空いてないです。っていうか、付き纏うのやめてくださいって言いましたよね。」
 
横目で隣をチラリと伺えば一組の男女。周囲の目も気にせず、女の方は甲高い声で男に絡んでいる。うげえ、と内心舌を出した俺は誤魔化すように甘いアイスコーヒーを啜った。
 
「え〜?じゃあ明日は一日オフなんでしょ?一緒にカフェにでも」
「行かないって言ってますよね。予定あるんですけど。」
よくよく聞くと、男の方は女の恋人という訳では無さそうだ。一方的な好意をぶつけられるその行為に黒髪の男は鬱陶しそうにしている。可哀想に。
 
先ほどまで全く気にならなかったのに、もう視界の隅に入るだけで、なんだかイラついてくる。あー、集中できねえ。
 
少し早いが、出よう。こんなヤツらの隣でやってられるか。俺は荷物をまとめて立ち上がった。
 
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昼休みの後すぐの講義中もずっと、リストの『愛の夢』を考えていた俺は遂に一つの考えに行きついた。
やっぱり、俺は自分で身体を動かして弾いてみなきゃ分からねえ。
他人の演奏を聴こうが、感想を知ろうがやっぱり他人だ。俺が体験してるワケじゃない。弾いてみなきゃ分からねえ事の方が多いはずだ。
その考えに従ってやってきた個室の練習室。運良くグランドピアノが設置されている広い部屋が空いていた。椅子に座って、高さを調整しつつ早速弾いてみる。
 
リストの『愛の夢』第3番。
 
この曲は出だしから、いきなりメロディーが始まる。このメロディーが中心に構成されている曲で、故にテンポや音のバランスに注意しなければならない。だが、幸いテンポも早い曲ではないので、普通に気を付けて弾いていけば、そう大きなミスをすることはないだろう。
頭の中で繰り返し聞いた『愛の夢』を唄いながら弾いていけば、約4分の曲はあっという間に終わってしまった。……弾いて何か分かったかとは聞かないで欲しい。頭が痛くて思わずため息が出そうになる。

が、それより先に小さな声が聞こえた。
 
ここは防音の練習室である。隣の声が聞こえるワケがない。そうなれば、理由は一つだ。
眉間に皺を寄せながらグランドピアノの後ろへと回れば、ピアノの影にしゃがみこんでいる男がいた。今の今まで、俺はピアノの影に隠れたコイツに気が付かなかったらしい。
 
俺の演奏に聞き耳立てられた事が妙に悔しくて思わず握りしめた拳が震える。落ち着け、俺。ここでコイツを殴ったら留年どころじゃねえぞ。良くて停学。最悪の場合退学だ。
「……今の、リストの愛の夢ですよね。何度か聞いた事あるんですけど、その、なんて言うか……薄っぺらいですね。」
はぁ?お前今なんつった?バカにしたよな、俺の演奏を。
チッと舌打ちしてを指の関節を鳴らせば、男は俺の顔を見て少しだけ身を引いた。
 
「あっ……すいません、えっと……ストップ!すいません。その、悪かったです。……反省してます。お願いなんで、その顔と関節鳴らすのやめてくれませんか……?」
「うるせえ。黙って舌噛まねえように口閉じてろ」
「ちょっ……殴らないでください……」
 
男は俺の前にたったかと思えば深々と頭を下げてきた。謝るくらいなら最初から言うなよ。
「その、……すいませんでした」
「……はあ。もういい、顔上げろ」
 
その様子に怒りよりも呆れと面倒くささが勝ってきて、男に顔を上げさせる。何処かで見たことのある顔だと思えば、昼間居たカフェで女に絡まれていた男だった。名前も知らないが、選りに選ってお前かよと思ってしまうのは仕方ないだろ。
「……とりあえず、お前。出ていけよ」
「あ、……あの、俺の方が先客なんですけど」
 
何も考えてないのか。無謀なのか。それとも、馬鹿なのか。恐らく全部だろうが、この状況でよく言えたなコイツ。……感心したくはないが。
 
「テメエ、なんか隠れてただけだろ」
「それは……あの、クソ迷惑な女から逃げてただけで。これから練習するつもりでした」
「へえ……オマエ、それ」

 男のの傍に置いてあったのは小さなカバン。恐らく楽器が入っているのだろう。ピアノ専攻の俺は普段手ぶらで行動するがこの音大には楽器を持ち歩いてるやつも少なくはない。

「……俺、バイオリン専攻なんです。」
 「だろうとは思った。……ちょっと弾いてみろよ。オマエも俺の演奏聞いただろ?難癖つけたならオマエだって弾くべきじゃねぇのか?」
 
 気まぐれを装って言う。これでコイツがめちゃくちゃ下手くそだったら追い出してやる。最初は嫌そうな顔をしていたそいつは少し考えれば、あーだとか、うーだとか唸りながらも木製のボディを左肩に軽く乗せた。
 
その瞬間、俺は音に色を見て思わず息を飲んだ。
 
勿論本当に音符に色が見えるワケではない。
が、その音色を聴いた瞬間から目に映る世界が鮮やかに変わったのだ。
 
曲はサラサーテの『カルメン幻想曲』
大学内で練習しているのを何度か聞いたことがある。だが、かつて聞いた音のどれよりも、上手かった。男の奏でる音にざわざわと鳥肌が立つ。まるで、歌劇を目の前で見ているみたいだ。気を抜けば引き込まれてしまう。

 颯爽としたフレーズから始まり、徐々に低音からじんわりとメロディを歌い上げる。聴いているうちに満たされ、仄かな暖かさを感じさせる流れるようなテンポも心地よい。

今までどんな曲をいくら聴いてもそんなモノ一欠片も感じられなかったのに。
この曲が、どこか懐かしかった。この弾き方を俺は昔、どこかで聴いたことがあるはずだ。
 

ふと、頭を過ぎったのは、夕暮れ時の駅前の信号待ち。ガキの俺は、確かこの音を背で聴いていた。
 
「……どう、ですか?まだ1年なんでこんなものしか弾けませんけど……」
 
気がつけば、曲はとっくに終わっていて。男が俺を見上げていた。
 
そんな男の肩を俺は両手でしっかりと掴んだ。……コイツは絶対ェ逃がさねえ。
「……えっ……?ちょ、」
「ピアノ専攻三年の五条悟。オマエ、名前は?」
男は少し戸惑った顔で俺を見ているが、構わない。早く名乗れ、と目で訴える。
「……恵、です。バイオリン専攻、一年の伏黒恵、です。」

へぇ、年下か。一年生の時点でデュオ試験のコンビを組んでるやつはまだ少ないし、フリーの可能性は十分ある。
 
困惑したままの男___伏黒恵に俺は悪い笑みを浮かべた。
 
「……なあ、お前。俺とデュオ組めよ」
「えっ、デュオって試験の……?いや、でも……」
「あ?お前に拒否権はねぇから。……明日の十一時に第二練習室な。」
「え、あ、……ハイ……」
 
そして俺と伏黒恵とのデュオ試験への道は始まった。
 

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コメント

  • アリが豆腐

    イイッ!!とても良い!!続き本当に待ってます!

    4月11日
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