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抵抗、絶望…。普遍的に若い子がもってるもやもやを描いた
映画「チョコリエッタ」
風間志織監督インタビュー

思春期、誰もが覚えのあるちょっとしたもやもや。そんな普遍的な感情を描いた青春小説「チョコリエッタ」が映画化される。
主演を演じるのは、ファッション誌「Seventeen」の人気モデルであり、「劇場版零~ゼロ~」「ごめんね青春!」などで瑞々しい感性を発揮する森川葵。そして、「共喰い」「そこのみにて光輝く」など話題作に立て続けに出演、ネクストブレイクが期待される注目の若手・菅田将暉。
独特の存在感を放つ2人が旅する中で、少しだけ前へ進むさまがみられるロードムービー。作品内にはフェリーニの代表作「道」が、ところどころで鍵として登場するなど、不思議な手触りの映画だ。
監督は、「火星のカノン」「せかいのおわり」などで海外での評価も高い風間志織。10年ぶりの新作となった本作にかける思いを聞いた。

――今回、撮影を中部エリアでやられたとのことですが、こちらにした理由はあるんでしょうか?森川葵さんも愛知県出身ということですが。
「森川はそのときは決まってなかったんだけど、原作者の大島さんがこちらの出身で。『チョコリエッタ』を撮影するってなったときに、東京の感じがしなかったんですよね。どこか地方。でも田舎でもなく都市なんですよ。って思っていたから、私は原作をなんとなく名古屋として読んでいたので、名古屋でいこうかなと」
 
――実際にどこらへんで撮影されていたんですか?
「昭和高校でしょ。知世子の家は緑区の住宅街にある空き家を2ヵ月お借りして、いろいろ飾りました。あと庄内川とか…道端とか(笑)。昭和高校は制服もお借りして、生徒さんにエキストラで出てもらったりしましたね」
 
――そもそもこの原作を映画化したいと思った理由は何だったんでしょうか?
「高校生の男の子と女の子が…ひとりは高校じゃなくて浪人生だけど。そういう若い子が、自分たちで映画を撮るという話じゃないですか。だけど、撮ってる映画の内容はどうでもよくて、映画を撮っていくなかでちょっと変わっていくという話ですよね。そんなはっきり変わるわけじゃなくて、ほんのちょっとだけっていうね。自分も高校のときから映画を撮りだしたんですよ。世の中とかに対して、もやもやしたものをずっと抱えていて、映画を撮りだしたことで救われた部分がとてもあるんですね。これもそういう原作じゃないですか。それが映画化しようと思った1番の理由ですね。それと、そういう話にフェリーニの映画が絡んでくるっていうところも面白いなって思ったんです」
 
――当時の自分と重ねる部分も多かったんですね。
「『チョコリエッタ』を他の人が撮った映画として観るぐらいだったら、それより私に撮らせてよっていう意識ですね。他の人じゃくやしいと思うんじゃないかな」
 
――森川さんもブログで知世子への思いを語っていましたが、とてもマッチしていたと思います。キャスティングした理由を教えてください。
「森川さんの場合はオーディションです。今、若い子はみんなブログを書いているから、それ読めば考え方や感覚がだいたいわかるじゃないですか。森川さんのも読んで、あ、この子はかなりチョコリエッタ的にきてると。本人に会ったら、また面白いんですよね。そういうものを抱えてる感じがすごいして。あと髪の毛を切ってくれる人を探してたんですけど、オーディションで『髪の毛切るけどいいですか?』って聞くと、みんな『はい!頑張ります!』ってなるんですよ。この役のためだったら切ったっていいんです、主演だし、みたいな。だけど彼女の場合は、『髪の毛邪魔だと思ってたし、一度坊主にしてみたかったからちょうどいいです』とか言うの(笑)。役のためとかそういうことじゃないのよ。髪の毛に思い入れがすごいあると、悲惨になっちゃうじゃないですか?そういう知世子になっちゃう。それでもうこの子しかいないんじゃないかって思いましたね」
 
――実際、演じてもらっていかがでしたか?
「森川さんはブログと会った感じで決めたので、どんな演技するかはわからなかったんです。ちょうどその頃、『35歳の高校生』というテレビドラマに出てたんだけど、それを観てもよくわからなくて。森川の演技はまだブレがあったから、実際にやってみないとわかんないなって思ってたんです。でも、リハーサルに入って15分くらいで知世子を掴んじゃったんです。本当に知世子が入り込んだんじゃないかってくらい、急になっちゃって。この速さはすごいと。すごいびっくりした。何しても大丈夫、君は知世子だって。本当にすごい才能だと思う」
 
――菅田くんはどうやって決めたんですか?
「男の子は何人かオーディションしたんだけど、なかなかいい子がいなかったんですよね。どうしようてってなったときに、菅田くんの事務所が、この時期だったら空いてますけどどうですか?ってお話がまわってきたんです。私は子どもと一緒に『仮面ライダーW』を観てたの。その時に、いい役者がいるなって、この若さでなかなかいいじゃないって覚えてたんですよ。『仮面ライダーW』は15歳くらいだから、それから今は20歳だというし、5年たった菅田将暉は面白いんじゃないかと。いいじゃない、菅田くんでいきましょうって決めたんです。当時の演技は、これも『35歳の高校生』に出演してるものしか観てなかったんですけどね(笑)」
 
――他の作品のときに話題に出たんですけど、菅田くんは真面目だそうですね。
「本当に真面目です。すっごい真面目に考える。考えて役を作ろうとする部分もあるけど、『チョコリエッタ』ではそういうものを求めていなかったので、やめてもらったの。そうなったときに、彼は非常に考えるし、頭もいいし、真面目なんだけど、ものすごい感覚が鋭い子だってこともはっきりしましたね。彼もすごい才能だと思います」
 
――知世子の子どもの頃が2010年となっています。知世子たちが高校生ということは、2015年の現在よりも未来の話になってますよね。
「原作通りだと、多分90年代の話なんですよね。これを映画化しようと思ったのが、だいたい2007、8年くらいなんです。で、せっかくだから今の話にしようと思って、2007、8年に合わせたの。何を合わせたかっていうと、撮ってるビデオカメラの種類が違ったりとか、モノですよね。でも8mmフィルムは使いたかったので、8mmはそのまま残してあります。お母さんたちの世代が撮ったものとしてね。それで、実際に撮ろうってなったときに、2011年の3.11があったんですよ。それで1回ストップして、次撮ろうってなったときに、今度いつに設定しようってなって。2011年の話にしようかとも考えたけど、そうじゃないなと。知世子は、2010年に5歳なんだけど、その10年後くらいの話にしたいなって思ったんです」
 
――それはなぜですか?
「『チョコリエッタ』というのには、普遍的なものがあると思ってるんです。それは何かっていうと、若い男の子と女の子が持っているもやもやしたもの、おそらくそれは抵抗もあるし、何かにちょっと絶望しているのでもあると思うんです。そういうもやもやしたものをいっぱい持ってる。それはきっと2000年だろうが、1990年代だろうが、たぶん70年代だろうが、いつでもあると思うんです。そこにもっと古くから柱として立ってるのが『道』なんですよ。この話の構成としてはね。『道』っていう60年前の映画があって、それが繋がっていく。だから少し未来になっても、未来の子たちのもやもやにも簡単になっちゃうと思ったんですよ。それからきっと今から10年後くらいの子どもたちは、もっと大変な時代になるだろうと思いまして。そういうのがあって、『チョコリエッタ』を近未来の話として再構築してみようかなってなったんです」
 
――それで原発を匂わせてるんですね。
「子どもの未来は大変だな。でも、それでも生きていかなきゃいけないだろうと。こんな風にならないでねって思いもあったんですけど、もうなってる感じがしますよね。早いですよね」
 
――教室のシーンで、背景に遺影が並んでたり、携帯のマップでの表記だったり、微妙に何だろうこれ?と思うぐらいの出し方で、その部分は前面には出してないですよね。あくまで舞台としての設定だったんですね。
「そういうことです。気がついている人もいれば、気がついていないような人もいる。実際でも、そういう世界でしばらくはみんなニコニコしながら暮らすと思うんですよ。この国の人たちはね。だから気がついても気がつかなくても、それはどちらでもいいんです。そういう世の中に生きている人だってことだけで、それをそういう風に観る人が受け取るかはみんな自由ですよね」
 
――エンディングは、森川さんが歌う忌野清志郎さんの「JUMP」ですよね。曲としても、森川さんの歌声も、この作品にとても合ってました。この曲を、森川さんのカバーという形でエンディングにしたのはなぜですか?
「この曲を使えるとは思ってもみなかったんです。でもこの曲が心の中のテーマソングではあったの。撮影の最中や、本を書くにあたっての。エンディングをどうしようってなったときに、森川さんが現場でいつも歌を歌ってたことを思い出して。森川さんの面白いところであり、チョコリエッタたる所以は、いつも歌を歌ってるくせに『私、音楽大嫌いです』って言うの(笑)」
 
――確かにそれはチョコリエッタですね(笑)。
「でも本当にいつも歌を歌っていて、すごい綺麗な声だなって思って聴いてたんですよ。待ち時間にいっつも歌ってたら、だんだん菅田くんも混ざってきて、2人でいつも歌ってたの。それを思い出して、ふと森川が『JUMP』を歌えばいいんだ!って思ったんです。それで森川に『歌歌わない?』って言ったら『それだけは親に止められてます』って(笑)」
 
――本当にですか?(笑)
「昔なにかのテレビ番組で歌わされたとき、すごい下手だったらしく、親に『歌だけは歌わないほうがいいわよ』って言われたんだって(笑)。『そうなんだ、止められてるのね。じゃあ事務所に確認するね』って確認したら、OKが出たんです(笑)。彼女自身は清志郎は全然知らなくて、この曲ですって渡して歌ってもらったの」
 
――全然下手じゃないですよ。すごい雰囲気に合ってましたし、作品の余韻を感じられるいいエンディングでした。最後にひとことお願いします。
「今って映画館に足を運ばなくてもいい風潮があるじゃないですか。DVDもあるし、ちょっと待ってればテレビで観られるし。そういう世の中だけど、『チョコリエッタ』を観るために足を運んできてくれたなら、それだけで本当にもうすごいと思うんです。そして『チョコリエッタ』を選んでくれる子たちは、ちょこっとヘンテコな人かもしれない。ちょこっとヘンテコな人には『チョコリエッタ』は、ひょっとすると面白いかもしれないですよ」



(3月21日更新)


(C)寿々福堂/アン・エンタテインメント

Movie data

映画「チョコリエッタ」

3月21日(土)公開
名古屋シネマテークにて

【オフィシャルサイト】
http://www.suzufukudo.com/chokolietta/

[2014年/日本/太秦]
監督・脚本:風間志織
原作:大島真寿美
出演:森川葵/菅田将暉/市川実和子/村上淳/須藤温子/宮川一郎太/中村敦夫

Story

5歳で母を亡くし愛犬ジュリエッタと育った知世子は、ジュリエッタの死から生きる理由を見失ってしまう。ある日、母が好きだったフェリーニの『道』のビデオテープを持っている正宗先輩と再会。知世子に興味を示した正宗は知世子を被写体に映画を撮り始める。