元従軍慰安婦らが日本政府に賠償を求めた訴えを、韓国のソウル中央地裁が却下した。
国家は他国の裁判権に服さないとする「主権免除」を認め、裁判を行えば「外交的衝突は不可避」と理由を述べた。
同地裁は、1月の元慰安婦訴訟の判決では「反人道的犯罪行為に主権免除は適用できない」とし、日本政府に賠償を命じた。
判決は正反対でも、被害を受けた女性たちの尊厳回復に向け、両国が外交努力を尽くさなくてはならない現状は変わらない。
主権免除には「慣習国際法上の原則」との枕ことばが付く。絶対的な規則ではない。欧州を中心にした各国の司法判断により、適用除外の事例は広がってきた。
近年は、深刻な人権侵害に遭った人々の救済策としての裁判を受ける権利が、主権免除に優越するとの判断も出ている。1月の賠償命令に日本政府は猛反発したけれど、「あり得ない」と言うほど的外れな判決ではない。
国際法に基づく司法判断は、外交が絡むだけに政府の影響を受けやすい。賠償命令後、文在寅大統領が「少し困惑している」と述べたことも、今回の中央地裁の判決に響いたのだろう。
訴え却下を受け、加藤勝信官房長官は「適切と考える」と述べた上で、両国の関係修復へ「引き続き韓国側に適切な対応を強く求める」と続けた。不遜にも映る態度は相変わらずだ。
安倍晋三政権以降、日本は、元慰安婦や元徴用工の補償問題は1965年の請求権協定で解決済みだと繰り返し、国際法を盾に韓国に責任を押し付けてきた。通商分野で報復し、韓国も対抗して関係を悪化させている。
65年の韓国は軍事政権下で、国民は反対できなかったという。元慰安婦を巡る2015年の合意も「被害者が排除された」との不満を残した。この時、安倍首相は元慰安婦が求めた手紙での謝罪を拒み、大統領に電話で「おわびと反省」を伝えただけだった。
北朝鮮の核開発、中国の海洋進出、米中ロの軍拡を抑え、東アジアの秩序を維持するのに、日韓は互いの協力を必要とする。
15年の合意には「日韓両政府が協力し、元慰安婦の名誉と尊厳の回復、心の傷を癒やすための事業を行う」と明記された。
文氏が言う「原告が同意できる方法」を、韓国側は具体的に詰めなくてはならない。積極的に協議に応じ、真の解決に向け取り組む責務を、日本は負っている。
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