バラードを熱唱したジャスティン・ビーバー

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報道したメディアに聞いてみると

 4月9日に放送されたテレビ朝日のミュージックステーションに、歌手のジャスティン・ビーバーが6年振りに出演した。その際に身につけていたジャケットの柄が旭日旗を連想させるとして、一部の韓国国民から批判の声が上がったのは既報の通りだ。日本でも韓国内の捉え方を報じるニュースが出たが、その中に日本政府が今回の一件に加担している旨のものもあった。これを報じたメディアに聞いてみると……。

【写真】日本政府に利用されたと報道があったジャスティンのジャケット柄

 この騒動を、韓国ニュースを配信するwowKoreaもインターネット上で紹介していたのだが、一部にこんなくだりがあった。

「韓国メディアは15日、日本政府とメディアがジャスティン・ビーバーを利用した旭日旗の広報をおこなったと報道した」

バラードを熱唱したジャスティン・ビーバー

 実際に、wowKoreaが引用した元ニュースと思われる、韓国のテレビ局“JTBC”のニュース番組と原文記事を確認してみると、関連する部分は以下の通りである。

〈旭日旗を描いたも同然の模様に、韓国のファン達から批判が殺到〉

〈ジャスティン・ビーバーは2014年にも特級戦犯(日本でいうA級戦犯)たちがまつられている靖国神社を参拝した写真を公開して問題になり、謝罪したことがある。韓国ファンの不信感は強まっている〉

〈東京オリンピック組織委員会は“旭日旗支持”を鮮明にしている。東京オリンピックを機に、旭日旗はさらに戦犯旗ではなく伝統文化として広がっていく恐れがある〉

 しかし、前述の「日本政府とメディアがジャスティン・ビーバーを利用した旭日旗の広報をおこなった」という内容はどこにも見当たらない。

早いうちに韓国内で広がった背景

 そもそも、日本政府が海外アーティストを起用し、日本国内向けに旭日旗を広報することに何のメリットがあるのだろうか。

 この点について、wowKoreaに聞いてみると、

「〈韓国メディアは15日、日本政府とメディアがジャスティン・ビーバーを利用した旭日旗の広報をおこなったと報道した〉というくだりに関して、情報ソースは韓国のテレビ局“JTBC”ではなくライター独自のものであり、その情報源を確認するため、現在ライターとコンタクトを取っているところです」

 という回答だった。

 もっとも、JTBCの報道も検証が必要だろう。

 特に、〈東京オリンピック組織委員会が“旭日旗支持”を鮮明にしている。東京オリンピックを機に、さらに旭日旗は戦犯旗ではなく伝統文化として広がっていく恐れがある〉のくだりに関して、外務省のホームページには「我が国の基本的立場」としてこうある。

「旭日旗のデザインは、大漁旗や出産、節句の祝い旗、あるいは海上自衛隊の艦船の旗、日本国内で広く使用されており、これが政治的主張だとか軍国主義の象徴だという指摘は全く当たらない」

 そもそも戦犯旗などではないし、伝統文化として広がっていくことにどうして恐れを抱く必要があるのだろうか。

 ところで、今回のジャスティン・ビーバーの一件が早いうちに韓国内で広がった背景には、韓国で日本のテレビ放送をリアルタイムで見ている人たちがかなりいるということにある。

 では、どうしてそれが可能なのかについて触れておこう。

 韓国では、日本のテレビ番組をリアルタイムで視聴できるチューナーをレンタル販売する業者が複数存在する。

 日本の民放テレビ番組をはじめケーブルテレビまで網羅しており、1ヶ月の費用は3,000円前後だ。

 あるいは、中国で同様のチューナーを購入して自宅のテレビに接続して視聴する方法もあり、こちらはチューナー代だけで済んでしまうわけだ。

隠れ日本ファンは意外と多い

 もちろん、ドラマに特化したアプリもある。アプリ提供企業は日本の放送局から番組を購入し、利用者は韓国スポンサーの広告を視聴することでそのコンテンツを無料視聴できる。

 例えば“日本TVライブ”というアプリだと、月3,000円程度で日本の番組が視聴できる。しかも録画機能付きだ。

 他方、NAVERという韓国のインターネット上で日本の番組名や映画名を検索すれば、人気番組は大抵視聴、ダウンロード可能だ。字幕付きのドラマや映画もよくアップロードされている。

 また、NAVERの検索欄に“일본방송(=日本放送)실시간(=リアルタイム)”と入力すれば、無料視聴できる個人ブログのリンクが沢山紹介されている。

 こちらは、完全なリアルタイム放送ではなく数分遅れて映像が入ってくるようだが、なにしろ無料なのだ。

 韓国人はみな“日本製品不買運動”で反日感情をむき出しにしているように映るかもしれないが、隠れ日本ファンは意外と多い。

 高校や大学の第二外国語で日本語を選択できる学校が多いことを考慮しても、日本に興味を持つ韓国人は少なくない。

 もちろん、そういった日本びいきを快く思わない人たちもたくさんいて、日本絡みのいわばヘイト・ニュースが絶えない理由はまさにそこにあるのだろう。

羽田真代(はだ・まよ)
同志社大学卒業後、日本企業にて4年間勤務。2014年に単身韓国・ソウルに渡り、日本と韓国の情勢について研究。韓国企業で勤務する傍ら、執筆活動を行っている。

デイリー新潮取材班編集

2021年4月22日 掲載