Another Trainer   作:りんごうさぎ

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7.無慈悲な宣告 最悪の罰

 やっと見つけた! 一口にギアナと言っても広過ぎる。よくこんなアバウトな指示で呼び付けようと思ったな。だいぶ余計に時間を取られた。ここまで何体シンボラーを倒したかわかりゃしない。

 

 ミュウに対してまず入りは上々。予定通りの先制攻撃。そしてこれが1番大事だったが近場にいたブルーを上手く逃がせた。また人質になるようなことがあれば絶対に勝てない。

 

 ミュウは油断しているのか余裕のつもりなのかは知らないが無関心だ。あっさり最も懸念していた不安要素がなくなったのは助かる。これさえクリアできればもうほぼ負け筋はない。

 

 ここまで空中にいたシンボラーの群れは“チャージビーム”の追加効果とスペシャルアップを組み合わせて特攻を上げまくったイナズマさんが“ほうでん”で倒した。プテラが“ほうでん”で感電しないのは鞍のようなものを用意してそこに絶縁体の足場をつけたから。プテラとの接触箇所が絶縁体なら電撃は伝わらない。研究所の人にうまく用立ててもらった。これのおかげで飛行ポケモンはまとめて倒すことができた。プテラ自体も岩タイプ持ちで相性がいいのでイナズマのカバーもこなせ、順調に進めた。

 

「みゅぅぅー。いきなりやってくれるの。やっと本気でみゅーと勝負する気になった? さぁ遊んで。ハウスならみゅーは前よりもさらに強くなる。みゅーの本当のすごさ、見せてあげるの」

 

 技を受けて吹っ飛んでいたミュウがこっちに来た。飛び方は派手だったが見た目ほど効いてはいない。しゃべり方にもずいぶん余裕を感じる。一応目的地であるこの木が見えた時点でプラスパワーも使っていたが、やはり素のステータスに差があり過ぎるか。しかも今現在も猛烈に回復している。やはり“じこさいせい”ぐらいは当然使えるようだ。だがここまでは想定内。この攻撃はダメージ目的ではない。ブルーを逃がすための時間稼ぎ。

 

 問題があるとすれば、あれが近づいてきてまた眩暈がしたことか。まるで体が近づくことを拒絶しているかのよう。ともすれば自分の心臓を直接掴んで掻き毟りたくなる。今まで似たことが何度もあって慣れていなければどうにかなっていたかもしれない。こんな感覚どう考えても普通ではない。あれは……あれだけは絶対近づけてはダメだ! 即刻排除すべき!

 

「悪いけどまともに戦ってやる気は毛頭ないし、もう毛ほども容赦しない。どれだけ泣こうが喚こうが慈悲はないと思え。死ぬより……いや、地獄よりも恐ろしい罰を与えてやる」

「脅しのつもり? そんなの全然怖くないの。できるもんならやってみてよ? そうやってみゅーの動揺を誘う作戦なんでしょ。レインの考えそうなことなの。みゅーはレインのことはよくわかってるからムダなだけ」

「ふっ……くははっ、脅しだって? ハハハハハッ!!」

「……何がおかしいの?」

 

 頭は痛いのに思わず笑ってしまった。脅しかぁ。それならどれほどミュウにとって良かっただろうか。だが俺は本気。今、こいつは自ら命綱を切ってしまった。もう後悔しても遅い。

 

「今の自分の言葉、よーく覚えておけ。後悔するなよ?」

「みゅっ!?」

 

 素早く最初の一手、ハイパーボールを使った。対人じゃこんなことできないが、こと野生のポケモンに限ればこれに抗う術はない。もっとも、捕まえられるとはハナから思っていない。狙いは奴の拘束。一瞬でも時間が稼げれば十分。

 

 コロ……

 

 この僅かな拘束時間で勝負は決まるっ! 手早く打ち合わせ通り手持ちを全て出し、迅速にミュウをとり囲んだ。これで最低限はできた。ここからどこまで持つか。

 

 コロ……

 

 まだでない。続いて俺はピッピ人にんぎょうを両手に抱えた。グレン達はしっかり技を出す準備をして構えに入った。ここまでやればもう完璧。最高の結果だ。体力はあるわけだしもっとすぐに出てくると思ったがやはりハイパーボールは拘束力が大きいのか?

 

 コロコロ……

 

 まだ出ないのか? やけに遅い。まさかこのまま捕まるわけはないだろうが……エスパーだけに何かこっちの狙いに勘づいてタイミングを窺っているのかもな。だとしても別に構わない。わかっていようがいまいがどのみち抗うことは不可能。1発で蹴りをつける!

 

 ……ボン!

 

 出てきた!

 

「レイン、どういうつも…」

 

 ミュウが何か言う前に全員が手筈通り最初のアクションを起こした。ミュウには息つく暇も与えない。ボールが開いた直後、俺がミュウの頭上辺りを狙ってピッピにんぎょうを投げた。計算通りにミュウが上を向いて気が逸れた瞬間、周りを囲んだグレン達が一斉攻撃した。

 

 グレンが“かみつく”

 アカサビが“ちょうはつ”

 イナズマが“でんじは”

 ゲンガーが“くろいまなざし”

 

 全員の攻撃が無防備なミュウに直撃。これでミュウは手足をもがれたも同然。補助技と“にげる”はさせない。攻撃も速度が1/4では大したことはできない。まずは行動を制限して自由を完全に奪う。料理はその後じっくりとしてやろう。

 

「みゅー!!」

 

 ミュウはひるんでしまって動けない。二分一のアタリをいきなり引いたか。いい感じ……。

 

 ここから先はひたすらミュウをひるませ続ける作業だ。何もできないままなぶり殺しにしてやる。

 

 グレン“かみつく”

 アカサビ“アイアンヘッド”

 イナズマ“ずつき”

 

 これで毎ターンほぼ行動できない。確率的には4回に1回動けるかというところ。さらにユーレイは“あやしいひかり”、技を撃ってきたら“かなしばり”で1つずつ使えなくする。

 

 “かなしばり”はゲームと違いボールに戻すか相当時間が経たないと解けない。まあすぐ解けるようじゃさける、よけるがあるこっちじゃ使いもんにならないからな。これで面倒な攻撃も全て封殺できる。

 

「あぐ、あぐぅ、動けな…」

「ユーレイ、次はこごえるかぜも使って完全に身動き取れなくしろ」

「さぶぶ、みゅ~?」

 

 混乱してわけもわからず自分を攻撃したか。もうほとんど体が動かない上にひるみの連続、さらに体力も減って来た。だけど、本番はむしろここから……。

 

「これで勝負あったな。俺の勝ちだな、ミュウ」

「みゅみゅー!」

 

 混乱も治り、正気には戻ったがまだ体は動かない。今ミュウは“こごえるかぜ”を何回も受けて素早さが普段の1/16になっている。それはもう体がほとんど動かないといっても過言じゃない。攻撃は中断し、ユーレイに両手を押さえさせ、グレンには両足をまとめて噛ませ、ミュウを完全に動けなくした。イナズマはボールに戻しバッグにしまった。イナズマの仕事はもう終わっている。

 

「何するのっ。ねぇ、これやめてっ! もう負けなの。みゅーの負け、降参するの。だからはなして」

「離してやってもいいが、その前に俺の質問にいくつか答えてもらおうか」

「みゅー! はなして! はなしてー!」

 

 どうやらおとなしくしゃべる気はないらしい。だったら力ずくでも吐かせてやる。

 

「アカサビ、態度が悪いからちょっとこらしめてやって」

 

 ドスッ!

 

 攻撃がクリーンヒットして鈍い音がした。

 

「ふぎゅっ!?」

「どう? これでしゃべる気になった?」

「みゅっ、やめて、これ以上攻撃しないで!」

 

 埒が明かないので無視して尋問を始めた。

 

「じゃあ聞くけど、お前は俺がタマムシにいた頃からずっと、ハウスにこいハウスにこいと呼び続けてたよな?」

「う、うん。でも全然来てくれなかったの。なんで来てくれなかったの! ずっと待っていたのに……」

「なんでこの俺がお前なんぞの言うことに従う必要がある? それと、今まで襲って来ていたのは、お前の仕業だよな?」

 

 こいつ頭おかしいんじゃないか? 誰から言われているか、そこがどこなのか、何もわからないのに行きようがないし、行きたいと思うわけもない。

 

「それは……遊んでほしくて」

「ハッ! こいつは驚いた。遊んでほしいだと? 命がけのお遊戯か? さぞ楽しかったろうねぇ、お前の方は。だったらこれから楽しいお遊戯の続きといこうか? 1回俺と同じようにお前も半殺しにしてやるよ」

「みゅぅぅぅ」

「おいおい、そんな怯えた顔するなよ。冗談なのに本当にやってみたくなるだろ?……まぁ今は先にやることがあるからな。お楽しみは後に回そうね。で、これが1番聞きたいんだけど……お前、どうやって俺をこっちの世界に呼んだ? 毎度お馴染みエスパーの力ってやつか?」

 

 明確な殺意を込めていうと、ようやく自分が置かれている状況がわかったらしい。じたばたもがくのをピタリとやめた。

 

「そんなこと言わないでよ……怖いの。オーラも冷たい。寒いよ……。それに何を言っているか全然わからないの」

「とぼけるなっ! お前が呼んだんだろっ。その面には見覚えがあるんだよ。何もしてない訳がないんだよ。……別に責めているわけじゃない。俺は戻る方法を知りたいだけ。だからここで今すぐ言え。どうやってここに呼んだんだ? どうやったら戻れる? いいから答えろ!」

「ここにはブルーちゃんを取り戻しに自分で来たんでしょ?」

「違う! ここじゃない。この場所じゃなく、この世界、次元、言い方は何でもいいが、俺をこっち側に引っ張りこんだのはお前だろ?」

「何言ってるかわからないの。レインはどこか違うところから来たの?」

 

 何言っているんだこいつは。ずっと頭に呼びかけられて、ずっと付きまとってきて、それなのにミュウがやったわけじゃなかったって言いたいのか? でもこっちに来た時はっきり夢で見たのはこの姿。青い髪に、ピンクのワンピース。やっぱり間違いない! 間違いないんだ! やっぱり白を切ってはぐらかそうとしているんだな。往生際が悪い!

 

「どうやら躾が足りなかったらしい。もっと痛めつけて、自分から白状するまでおしおきだな。アカサビ、存分に痛めつけてやって」

「え、待って! なんでなの!? ウソじゃないの!! レイン、わかるでしょ!? ほら、みゅーのオーラ見て!! みゅーはほんとに何もしらな、ぐみゅっ、みゅぶっ!!」

 

 何回も何回も攻撃して、もう体力は「1」しか残っていない。……いや違う。「1」だけ残させられている。それが「0」になること永遠にない。あり得ない状況の中で、延々と気絶することもできずミュウは攻撃を受け続ける。もう息をするのがやっとの状態で、口元からはだらだらと唾液がこぼれている。涙と唾液で顔はもうべちゃべちゃだ。そんなことを気にする余裕は全くないだろうが。

 

「ひゅー。ひゅー」

 

 肺の辺りも何度もどつかれて、息が詰まりそうになり、必死に呼吸しているせいでひゅーひゅーと音がしている。今まで散々負け続け、殺されかけて、苦汁をなめさせられた怨敵をようやく追いつめた。そのことがさらに理性を狂わせ、ネズミをいたぶる猫のような嗜虐心がムクムクと膨れ上がる。

 

「どう? おもしろいだろ? これだけ攻撃されても全然体力がなくならない。気絶することもできずにずっと攻撃を受け続けるなんて初めてだろ?」

「はーっ。はーっ。や……めて。だす……げて」

「じゃあ答えろ。どうやって俺をこっちに呼んだ? 俺は元々あんなところにいたわけじゃない。誰かに呼ばれたに違いないんだ。その時見たのはお前の姿だった。はっきりと思い出した」

「じら、ない。わがんない、もん。みゅーは、レインを、見づけて、ここに、来てほし、くて、呼んでた、だけ。突然の、こと、だったから、不思議だったけど、それがなんでかはしらないし、みゅーがしたわけじゃないの」

 

 ホントなのか? それともウソなのか? ここまでされてウソを言うとは思えないが……なら先に別のことを聞いて様子を見るか。

 

「じゃ、なんで俺に拘る? 何回も殺されかけたし、大事な弟子のブルーに至ってはこんな地球の裏側まで拉致して、俺に何か恨みでもあるの? 恨みがあるなら最後に聞いてやるけど?」

 

「そんな! 違うの! 殺そうとなんかしてない! なんでそんなこと言うのっ! みゅーはレインに遊んでほしくて……信じてよ」

 

 ミュウはしゃべりながら俺に手を伸ばした。攻撃が激しくてユーレイが手を離してしまっている。ミュウにとっては藁にも縋るような気持ちで伸ばした小さな手。それがゆっくりと俺の体に触れた。

 

 その瞬間感じたのはすさまじい吐き気。思わずうずくまる程苦しくなり気分が悪くなる。今まで抑え込んでいた苦しさまでも一緒に膨れ上がってきたようだ。

 

 何もかもがかき乱されるような感覚。その不快感が憎しみを焚き付ける。やはりミュウが全ての元凶! 倒すべき敵! 俺は触れた手を払いのけて、ありったけの怒りをこめて言った。

 

「嘘!! 噓噓噓噓! 嘘ばっかり! あれのどこが殺す気はなかったっていうんだ? 現に俺はブルーに介抱されなきゃお陀仏だったかもしれないんだ! やっぱりお前は諸悪の根源、憎むべき敵!! もうはっきりわかった。十分だ。くく、くははっ、もうどっちでもいっかぁ。帰る方法を教える気がないのか、最初から知らないのか……俺にはわからない。だがいずれにせよ、もうお前は不要であることに変わりはないわけだ。むしろ存在しても害にしかならない。それだけは間違いない事実。それが俺にとっての真実……そうだ、本気であれがお遊びだっていうなら面白いことをしてやるよ」

「ええっ、なに? なにをするのっ? やめてぇ」

「そんなに怯えなくてもいいだろ。ちょーっとしたお遊びだから。アカサビ」

「……サム」

 

 ドスッドスッ!!

 

「みゅがっ!?」

 

 アカサビの攻撃が痛烈に突き刺さり、胃が押し潰されてその内容物が全てまき散らされた。見たところ相当な苦痛であることは間違いないが、こいつはタフだし、さっきから自然回復もかなりしているようだからまだ余裕はありそうだ。ここからは痛みの質が変わる。聞き出すことよりも復讐のための容赦のない攻め。いつしか苦しませることが目的となっていた。

 

「どう? 先に教えといてやるよ。この技はみねうち、どんなにダメージを与えても、必ず相手の体力を1残す。だからこの技を使い続けると気絶しないまま延々と苦しみ続けることになるんだ。まさに地獄の苦痛。俺が今まで受けた分お前にもきっちりお返ししないとなぁ。存分に味わってくれよ」

「えぇっ、うそっ、そんな技みゅー知らない! なんで、そんなのおかしいの。攻撃されたらこんなに痛いのに気絶はしないなんておかしいの!」

「そうだな。おかしいねぇ。なんでこんな技あるんだろうなぁ。「1」だけ残しても何の意味も無いのに。でも、実はこの痛みと同時にダメージはちゃんと蓄積しているんだ。ホントに消えてしまうわけじゃない。じゃあどこへいったと思う? それはな、みねうち以外の技で体力がなくなったときに効果が現れるんだ」

「どういうことなの」

「消えたダメージの反映は体力がゼロになった時って言ってんだよ。1回で理解しろこのバカ!」

「ひうっ。バカなんてひどいの……」

「事実を言って何が酷いの? ところでさ、お前、今ずいぶん自然回復しているよな?」

「みゅ!?」

 

 ミュウはバレていないと思っていたのだろう。これまでで1番驚いた顔を見せた。抜け目ない奴。隙を見て逃げる気だったのだろう。“くろいまなざし”でそんなことはできないのに、ムダなあがきだ。

 

「フン、気づいてないとでも思っていたのか? 息をするのも苦しそうな奴が流暢にしゃべりだしたらお前みたいなバカでも気づく。だが、ダメージが溜まり続ければその回復も鈍ってくるんじゃないか? せっかくだからちょっと試してみようぜ、お遊びでな。お前も俺と遊んでみたかったんだろ? なら構わないよな? みねうちはサンドバッグになる実験体が必要だからなかなか試す機会がなくて困っていたんだよなぁ。お前ならいくら傷つけても構わないから丁度いい」

「……そんな、イヤ。イヤイヤイヤッ! こんなのお遊びじゃないの! 全然面白くもない! やめて、痛いの! これホントに痛いから!」

「ダメダメダメ! 自分も痛みを伴わないと、人の痛みは理解できないだろ。人を殺しかけてお遊びでしたなんて言い訳人間には通用しないんだよ。悪い子にはちゃんとわかるようにお仕置きしないとな。アカサビ、つるぎのまい」

「え、何してるの……? やめて、なんで攻撃力上げてるのっ! ねぇ、やめてよ、やめさせて! ねぇ、聞いてるのっ! なんで攻撃力上げてるの、ねぇ!!」

「うるせぇなぁ……もっと痛くするために決まってるだろ。黙って攻撃されるまでおとなしくしてろ! 今まで自分がしてきたことがどういうことか、その身で教えてあげるから」

「やぁぁぁああああ! 離してぇぇぇぇ! 離して離してぇぇぇぇ!!」

 

 とうとう半狂乱で暴れだした。だが体がしびれているのであまり動けていないし、動けば動くほど手足の拘束がきつくなるのでかえって自由は奪われる。その分ミュウは大声で泣き叫ぶが……。

 

「本当にうるさいなぁ。もしブルーにまで聞こえたらどうしてくれる? まだ2倍だけどすぐにみねうちで黙らせて」

「がふっ!? あぐ、あぁ……ハーッ、ハーッ…………」

 

 その後散々“みねうち”を受け続け、ボタボタと胃液まじりの唾液が垂れ流しの状態になった。目はうつろになり、とうとうグッタリとして動かなくなった。胸が上下しているので息はあるから生きてはいる。気絶すらさせない「優しい」攻撃だから当たり前ではあるが。

 

「なるほど……これだけ痛めつけてもほとんど同じように回復はするのか。よほどここがミュウにとって良い環境なのか回復量が他の伝説と比べても段違いだな。これは面白い。こうなると、もしかしたら過剰分のダメージの蓄積はほぼ丸々残っているのかもなぁ。回復システムが同じだけあってふしぎなアメもたくさん出てきたし、実験も上々。ホントにラッキー。しかもお前はなかなか勤勉だったらしい。よく戦闘をこなしていたんだろう? ふしぎなアメがサンダーやフリーザーなんかとは比べ物にならない量だ。しかも期せずして“みねうち”でもこれが出て来ることがわかったのはありがたい。逐一体力が「1」回復するのを待たなくていいわけだ。さぁ、アカサビ、これが出なくなるまでどんどんやって。やり過ぎてもみねうちなら死にはしないから」

「……」

 

 しかしアカサビは突然攻撃をやめてしまった。いきなりどういうつもりだ? まさか同情でもしたのか?

 

「何してる? 速くやれ!」

「……」

「チッ、だんまりかよ。お前見てたよな? こいつの攻撃で俺が何回死にかけた? なぁアカサビ? 俺とこいつ、どっちが大事なんだ? ホントに情けでもかけるつもりなのか? 全く、お前ともあろうものがどうしたんだ?…………まぁいい。おい、ミュウ聞こえるか! チッ、グレン、こっち向かせて」

 

 当然気絶はできないので意識はある。足は離して無理やりグレンにミュウの顔をつかんでこちらを向けさせた。ミュウは涙交じりに許しを乞う。

 

「もう許してよ、痛いの……苦しい。息もできない。体がバラバラになりそうなの」

「痛いうちはまだましさ。この技の本当の怖さはここから。今、お前は限界を超えて致死量に近い攻撃を受けてしまっているとする。そこに別の攻撃をして、体力がゼロになったらどうなると思う? あるいはうっかり致死量を越えてしまっている状態で気絶したら?」

 

 ぼんやりした頭でも俺の言っていることは理解できたらしい。すぐに真っ青になって首を振り始めた。

 

「……やめて。やめてやめてやめてっ! イヤなの! みゅー死にたくない!」

 

 さすがに他人はどうでもよくても自分が死ぬのはイヤか。そりゃそうだよな。

 

 今ミュウを殺すのに大した力はいらない。デコピン1発で簡単にあの世行きだ。

 

「ハハハッ、物分かりがいいなぁ、ミュウちゃん? そう……死ぬ! 死んじまうんだよ、一切抗えず。でも、もしかしたら死んだ方が楽かもな。延々と苦しみ続けるよりは辛い思いをせずに済む。さぁ、どうする? 死にたい? 痛いのを我慢する? それとも本当のことを話す?」

 

 こうして選択肢を並べられては、もう白状するしかないだろう。

 

「ごめんなさい。みゅーが悪い子だったの。みゅーは悪い子、みゅーは悪い子。レインに攻撃して痛かったなら謝るから。みゅーは痛いのがこんなに辛いってわからなかったの。本当に知らなかったの。今までのことも全部謝るの。許してください。みゅーは悪い子でした。本当に悪い子だったの。もうしません。これからはもう悪いことしません、絶対しません。いい子になります。みゅーはちゃんと言われた通りいい子になるの。だから許してください。本当にレインのことはなんにも知らないの。わからないから答えられないだけなの。信じて! もうなんでもするから許して! なんでもするから殺さないで! 痛いことはしないで!」

 

 こいつは驚いた。まさか本当に知らない? あるいはわからないのか。なんでもすると言いつつしゃべる気はないと。知らないとしか考えられないか。この状況で命より大事なものもないだろうし。まぁ、結局役に立たないならどちらでも同じことなんだけど。

 

「そう。なら本当に知らないのか。信じがたいことだが、ここでダンマリする余裕はないよな」

「そうなの、ホントに知らないの。みゅー、みゅー。みゅーみゅー」

 

 なんだこれは。鳴き声……? 鳴き声のつもり? これで同情を誘っているのか? 媚びるような声を出して、人間の恰好をしながら、都合のいい時だけポケモンに戻るのか? 癪に障る。浅ましく醜い行為。不愉快でしかない。だがそれだけ追いつめられている、ともとれるか。

 

「今すぐ黙らないとすぐに殺す」

「!」

 

 よく言うことを聞く。すぐに黙った。肝心の聞きたいこと以外は素直に応じるな。

 

「じゃあもうひとつ聞かせろ。結局、お前は何が目的でこんなことしたんだ? 最後に教えてくれよ?」

 

 興味本位でなんと言うか聞いてみると、下を向いてか細い声で答えた。

 

「……みゅーは、レインの仲間になりたくて。それでバトルして勝って認めてほしかったの」

 

 はあ? 何を言ってるんだ? 仲間ァ? バトルゥ? 今までのことは全てバトルしているつもりだったと? 何度もブルーを盾に取るようなことをしたのに? いまさらになって仲間にしてほしいだなんて、さすがにこれは酷過ぎる。脈絡がないにも程がある。せめてもう少し上手く取り繕えよ。呆れたわ。

 

 こんなこと言い出すのは、十中八九死にたくないが故の嘘。媚びた鳴き声と同じ。最悪懐に入ってしまえばこれ以上酷い目には合わないだろうという打算だろう。もう助かること以外に頭を回す余裕はないのだろう。言っていることがめちゃくちゃだ。俺を欺いて庇護を得ようとするその精神が気に食わない。虫が良過ぎる。

 

 だけど残念、この場合ミュウは最悪の選択をしたことになる。このまま一思いに殺してやってもいいが、それじゃ俺の気が済まない。これを利用してもっと面白いことができる。怒りも湧いたが、それ以上にこれからすることを思えば笑みを浮かべることも難しくはない。

 

「そうか。そうだったのか。ホントは仲間になりたかったのか。それじゃあ悪いことをしたな。ごめんねミュウ」

 

 ニコニコと笑って見せてあげた。俺の言葉に驚いてミュウは顔を上げ、一瞬虚を突かれて身を固くするが、俺の態度が一変したとわかると目を爛々と輝かせてすぐに嬉しそうに笑い返した。

 

 ……バカめ。俺がお前のやっすい三文芝居に騙されるわけないだろう? これだけ恐ろしい目に合ってまだバカな夢見てるなんて、単純な奴。

 

「え! あ、ありがとう……!! そんなのいいの、気にしないで。悪いのは全部みゅーだから。初めて笑ってくれた! 嬉しい、嬉しいの……。こんなに幸せなんて……やっぱりみゅーと同じなんだ。レインは同じ……!」

「そう。良かったね。じゃ、これに入ってくれる? 入ったら仲間になれるからね。知ってるだろ、モンスターボール」

 

 ボールを差し出し、自分から入るように促した。ユーレイが拘束を解き、ミュウがボールに入ろうと震える手を伸ばす。その時ふとミュウと目が合った。すると見る間にミュウの表情が幸福感に満ちた笑顔から絶望のどん底のような真っ青な顔にかわり、怯えながらモンスターボールから離れた!

 

「イヤァッ! なんで、どうしてなの!? 嘘! 嘘ついてる! オーラがぐにゃぐにゃで、ずっと冷たいままなの! まるで氷みたい……。寒い……寒いよ……。こんなの酷い。酷過ぎる。みゅーは、みゅーは……。今本当に……本当に嬉しかったのにっ! 今のが嘘だったなんて……あんまりなの。こんな嘘イヤァ。なんで人間は嘘ばっかり……レインは違うって信じてたのに……。辛い……心が辛い。悲しいの。耐えられない。それで何する気なの? みゅーを仲間にしてくれないの? それに触ったら、酷いことになる気がする!」

 

 いきなり態度が豹変した。なぜ? ボロボロ泣き出して、少し声も裏返っていた。勝手に人の言葉を本気にして勝手に落ち込んでいるのはどうでもいいけど、問題は態度を一変させたこと。なぜこっちの演技を見破ったのかが重要だ。

 

 今こいつと目が合ったが、まさかこれが原因? いつもエスパーの目を見ると全て見透かされるような錯覚を覚えたが、それが錯覚でないとしたら? 有り得ない話ではないな。カマかけしてみるか?

 

「あーあ、もうちょっとだったのに。わざわざ演技までしたのにバレたか。お前もバカだなぁ。もう少しで勘違いしたままこの中で幸せな一生を送れたかもしれないのに。せっかくのチャンスを棒に振って。このままだとお前は地獄を見るかもね……。にしても、さすがはエスパーと言うべきか。やっぱり侮れないな。オーラでウソがわかるのはお前もなんだな。でも俺も最近読めてきたんだよな。今、俺の目を見たろ? お前らは目を合わせるとそのオーラとやらが見えるみたいだな。それってコツとかあるの?」

「エスパーならだいたい誰でもできるの。みゅーは最初からできたからコツなんてわかんない」

 

 あっさりしゃべったな。これなら聞きたい内容は全て誘導尋問にすればよかった。ウソはすぐにわかると判明した以上ますます生かしておけない。そもそもこいつは子供みたいな奴だが、持っている力はとてつもない。赤ん坊が見境なく包丁を振り回しているようなもの。その上こいつは意思を持って人に襲い掛かる上、自分の力に自覚がない。最も危険な人類の敵だ。確実に“封印”しておかないと。

 

「そう。参考にならないな」

「ねぇ、それなんなのっ。ただのモンスターボールじゃないの?!」

「そんなにこれが気になる? これ自体はただのモンスターボール。ただ、俺はちょっと普通とは違う使い方をするだけ。悪いこと言わないから、おとなしくこれに入っておけ。でないと気絶させてから捕まえることになる。その場合、さっきも説明した通り命の保証はできかねる。死にたくはないんだろう?」

「ぐぅぅ、みゅぅぅー!」

「おっと! 反抗的な行動をとればしんそくとバレットパンチで先制して倒すぞ。そうなると確実に気絶するが、自分の寿命が縮んでもいいのか?」

「みゅーっ、みゅーっ、いやいやいやっ!」

 

 構わずにモンスターボールを投げた。抗えずミュウは中に入る。コロコロとボールが動く。1回……2回……。ようやく観念したかと思ったが、最後の最後、すんでのところで中から出てきてしまった。

 

「お前……あくまで抵抗するつもりか。アカサビ、つるぎのまい」

「……」

 

 黙々と攻撃力を上げ始めた。これがどういうことかわかったのだろう。出て来たミュウは俺にすがりついて命乞いをした。まだ少し気分が悪くなる。俺の神経を逆撫でして、自分で自分の首を絞めているのがわからないのか?

 

 今のミュウの様子からはポケモン屋敷で俺達を圧倒し、クスクス笑っていた姿は想像できない。もう見る影もない。

 

「もうやめて! ごめんなざい、たずけて!」

「最初に言っただろ。まともに戦ってやる気は毛頭ないし、もう毛ほども容赦しない。どれだけ泣こうが喚こうが慈悲はないと思え。死ぬより……いや、地獄よりも恐ろしい罰を与えてやる、と。その恐ろしい罰がこれだ。ここで死よりも過酷な罰を受けさせる。お前は脅しだと言って取り合わなかった、それがお前の落ち度だ。後悔するなと念押しまでした」

「そんな……!」

 

 がっくりと膝をついてまたボロボロと泣き始めた。ただし、表情は全く変わらず、声も上げず、ぐったりしたまま涙だけが流れた。これで完全に心が折れたな。もう抵抗する気も失せただろう。今なら簡単に捕まえられる。ボールを投げようとゆっくりと振りかぶった。

 

「シショー!! 待って! みゅーちゃんに攻撃しないで!」

 

 ブルーの声!? 上から!? あいつプテラの制止を振り切って勝手に木を降りてきたのか! 上の方まで連れて行かせたのに! それにブルーは何を言ってるんだ? 攻撃するな? どういうつもりだ? アカサビに何かあれば攻撃して逃がさないように言い聞かせ、降りてきたブルーに問い詰めた。

 

「どういうことだ。なんで攻撃したらダメなんだ?」

「これは誤解なの! この子はね、悪意があったわけじゃないの。ちょっと加減がわかってないけど、シショーの気を引こうとしたっていうか、構ってほしかっただけみたいで」

「なっ!? まさかお前はそう言われて、はいそうですかと真に受けたのか? この大バカ! 後でどうなっても知らないぞ?!」

「わたしだって簡単に信じたりしないわよ! みゅーちゃんはわたし達のことジャングルで助けてくれたの。とにかくお願い、一度話し合いをしましょう。それに、やっとシショーと会えたのに、もうこんなところ見たくないわ。みゅーちゃんに何したの? げ、何これ……むごい、むご過ぎる。気絶こそしてないけどひっどい状態じゃないの……とにかく、これ以上みゅーちゃんをいじめないで! シショーは普通と違って強過ぎるのに野生のポケモン相手に本気出し過ぎよ! これじゃ虐待実験と変わらないわ!」

 

 その言葉でハッとした。たしかに、俺はいつのまにか怒りに任せて痛ぶることを楽しんでいた。最初こそ尋問のためという名分はあったが、今はもはやそれも飾り。やり過ぎなのは否めない。触られて気分が悪くなった辺りから自分でも歯止めがかからなくなっていた。

 

「みゅーっ、ブルー! 助けて! 痛いの! みゅー死んじゃう! 死にたくない、お願い助けて! みゅー、みゅーっ」

「よしよし、今までよく耐えたわね。もう大丈夫、あとはわたしに任せて。ちゃんとシショーは説得してあげるから、もう怖くない」

 

 ミュウはブルーに気づいたようで、その姿を見ると迷いなくブルーにしがみついて、ブルーもそれを当然のようにうけいれている。元々仲が良かったように見えた。これだと攻撃しづらいし、モンスターボールを投げるタイミングを失った。マズイと思ったがもう遅い。

 

「……本当にそいつと和解したのか?」

「うん。だからもう許してあげて。こんなにパニックになって死んじゃうと思うほど怖がらせるなんてどう見てもやり過ぎよ? もう弱りきっているし、十分反省したと思うわ」

「……仕方ない。いったんは様子見にしよう。ただ、ミュウが非友好的な行動をとれば次は容赦しない。俺だって死ぬのはごめんだからな。これでいいか」

「それで十分よ。あ、それともうひとつ。シショー、助けに来てくれてありがとう。わたしもうここから帰れないかと思ってたの。さすがにシショーでもこんな遠くまで来れないと思ってたし。だから……」

 

 その言葉でそれまでの殺伐とした気持ちが全て消え去り、自然と笑みがこぼれた

 

「ブルー、地球の裏側にいこうが、宇宙の果てまでいこうが、どんなに遠くに離れていても“必ず見つけてやる”って言っただろ。 俺はお前のシショーなんだから」

「えっ!? それ、覚えてたの!? いきなり不意打ちなんてずるいわよ……ううぅ、シショーッッ!!」

 

 感極まって嬉し泣きするブルー。きっとこれまで大変だったに違いない。ずっと心細かっただろう。それでも俺を信じて待っていてくれた。これだけでもうここまでの苦労も全部吹き飛んでしまった。大切な約束を守ることができ、ブルーのシショーとして誇らしい気持ちになった。

 




途中切りにくくてなんか長くなってしまいました
最後ちょっとだけハッピーエンド感出しましたが途中までレイン怖すぎ!

ブルーいなかったらみゅーちゃんはどうなっていたのか
モンスターボールは結局なんだったのか
その辺りは次ぐらいで説明します

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