さぁ、今日は4日目。もうこっちでの毎日には慣れてきた。今日も慎重にジャングルを探索し、昼を挟んで2回目の探索。体調は万全。ポケモンの処理も慣れてきて、一度見たポケモンは確実に1匹ずつ攻略法を確立している。レベル上げも軌道に乗ってきて、今までの苦労がウソのようだった。
「やっと少し楽になったわね。今までが大変過ぎたとも言えるけど」
(はい。やはりゆっくりとでも慎重に進んで、ここまで辛抱強く頑張ってきたおかげだと思います。ブルーはよく頑張りました)
「えへへ。そうよね、ホント。頑張った甲斐があったわ。……あっ、あれ! あの木、なんかついてない?」
(あれはきのみですね。いいにおいがここまでします。今日実がなったのかもしれませんね。このにおいだと、おそらく食べられるでしょう。食料もたくさんあるわけではないですし、調達しておきましょう)
たくさんきのみがなっている木を見つけて、夢中で駆けよった。どれもおいしそうでよく熟している。久しぶりに新鮮な果物が食べられる! 買いだめしていた保存食やインスタントは飽きてきた頃なのでありがたい。
まずひとつ取って食べてみようと手を伸ばした瞬間、いきなり四方から大量にポケモンが現れて囲まれてしまった。あのヤバイ花飾りや、ようりょくそ持ちの鹿や母親ポケモン、素早い最初の虫ポケモンもいる。あ、赤い顔のドラゴンも。見たことない白いポケモンと仮面ヒーローみたいなのと両手が槍みたいな、ランス持ちの虫ポケモンっぽいのもいる。白いのはソーちゃんが倒した奴かもしれない。
「ウソ、何よこの数!」
(うかつでした。私でもにおいを嗅ぎつけたのですから、森のポケモンが気づかぬわけがない。おそらく皆このにおいに誘われてきたのでしょう。ただ、それにしてはタイミングが……今は考える暇はないですね。囲まれてしまいましたし、なんとか総力戦で倒すしかありません。最初から5匹出し切った方がいい)
「腹を括るしかないわね。ソーちゃん以外出てきて!」
まさかここにきてこんな試練が待っているなんてね。やっと慣れてきたと思ったらこれだもの。このジャングルは本当にわたし達を休ませず、飽きさせないわね。……面白いじゃない。
(ブルー、いけますか?)
「任せて。こんなヤバイ状況だっていうのに、わたしね、不思議と怖くなくて、むしろちょっと高揚してるみたいで、今は全然負ける気がしないの。たぶんラーちゃんがいるからだと思う」
(実は私もです。私達にかかれば越えられない壁はない。ブルー、派手に暴れますよっ!)
先手必勝! こっちからいくわよ! あの花飾りは特殊能力を上げまくるから、速くて物理アタッカーのピーちゃんに急いで倒してもらうしかない。
「ピーちゃんは花飾りを優先的に狙ってつばめがえし! フーちゃんは鹿にヘドロばくだん。レーちゃんとリューちゃんは耐性を生かして攻撃を耐えつつ、足の速い虫と母親ポケモンにでんじはをまいて! ラーちゃんは無理に動かず、残りの手薄なところにできるだけあやしいひかりをまいて足止め、ドラゴンは冷凍ビームで倒して」
全員が弾け飛ぶように動いた。ピーちゃんは踊りを始めた花飾りをそれが終わる前に倒し、フーちゃんは弱点をついて今までの鬱憤を晴らすように敵をなぎ倒し、ラーちゃんも獅子奮迅の大活躍。麻痺と混乱もうまく広がって相手の足が止まり、同士討ちも始まっていた。これならなんとかなりそう。しかし、そんな空気も未知のポケモンによってガラリと変わってしまった。
「チラーッ!」
すさまじい速さで高速のビンタを繰り出した。“おうふくビンタ”? 不運にも5回当たってリューちゃんが大ダメージ。さらに仮面ヒーローのような奴が恐るべき速度でリューちゃんに対し続け様に襲い掛かり、リューちゃんはたまらず気絶してしまった。技の反動なのか、体力満タンのはずの相手も倒れたが、とうとう最初の1体がやられた。もともと数は相手が圧倒的に多く、こちらが1つ欠けただけで一気に不利になった。
「バナー!」
「カン、コーン!」
「うそっ!? あのポケモンヘドロばくだんをモロに受けて全く効いてない! 鋼タイプなの?! フーちゃん逃げて! あの白いのにギガドレイン!」
どくタイプが無効だったのはランス持ちのポケモン。幸いにも動きは遅く、なんなく距離を取ってから白い奴へ“ギガドレイン”を放ち、上手に回復しつつ倒すことができた。でも遅いとはいえど、フーちゃんが躱した相手の攻撃は後ろの木に当たりばっさりとへし折っていた。もしあの攻撃が当たればひとたまりもないだろう。
「ディアー!」
「ジリリ!」
さすがにピーちゃんでも全ては倒せず、残った花飾りが大暴れしている。こうかはいまひとつで技を受けられるレーちゃんでも耐えきれない。花飾りはあと2体。1体は弱っているけど、元気な方は脅威ね。くっ、レーちゃんが倒れた。こうなったら、控えがいなくなるけどソーちゃんで元気な方は“みちづれ”よ!
「ソーちゃん出てきて、あのこをみちづれにして!」
「ディーァー」
上手くいった! 弱っている方は隙を突いてラーちゃんが“れいとうビーム”でさばいてくれた。これであれが手がつけられないほど強くなって全滅、というのは免れた。あとは虫系とランス、白い奴の残り、鹿ね。
「ピーちゃんは母親ポケモンを。フーちゃんは白いのにギガドレイン。ラーちゃんはあやしいひかり!」
ラーちゃんがうまく相手だけに“あやしいひかり”を当てているおかげでなんとかだましだましで持ちこたえているけど、状況はかなりきつい。フーちゃんが“ギガドレイン”を打ちやすい相手が少なくなっているのが特に厳しい。
「チラー!」
げ、また5回!? あのポケモンさっきから最大ばっかりじゃない! 訓練されたトレーナーのポケモンでも難しいはずなのにどういうことなの?! フーちゃんがだいぶ体力を持っていかれた。回復しても厳しい。
「ラー?!」
白いのに気を取られているとラーちゃんがランス持ちから強烈なずつきのような攻撃をくらっていた。はやく回復させないと! ラーちゃんは私を守るように近くにいるから直接わたしが回復させられる。
「あのランスいつの間にそんなところに! ラーちゃん、オボンの実よ、食べて!」
ランスに痛恨の一撃をくらい、体力が一気に半分以上持っていかれた。残りわずか。きのみを食べさせるためラプラスに駆け寄って直接わたしの手から食べさせた。
(ブルー、こんなところまで来ないで! 危険です!)
「どうせ負けたら同じこと、危険は一緒よ! わたしだけ安全なところで見てるだけなんてできない! ラーちゃん、相手は鈍足の鋼タイプよ。ハイドロポンプなら良く効くはずだわ! 距離をとってハイドロポンプで攻め続ければ倒せる」
(なるほど、その手がありました)
「ラー!」
よし、いいダメージね。倒す程じゃないけど、これなら勝負にはなる。こっちは遠距離攻撃できているのが大きい。
「バナー!?」
「しまった! くっ、戻って!」
今度はラーちゃんにかかりきりになって向こうが手薄になっちゃった。もう、あっちもこっちも全部対応しきれない! 相手はあとまひ状態の速い虫2体、ランス1体、白いの1体、鹿1体。最初何十といたことを考えるとこれでもだいぶ減らしたわね。それに虫が麻痺していて脅威じゃないのが大きい。今なら逃げることもできるかも。ただあの白いのが虫並みかそれ以上に速いので逃げ切れなければ追い打ちをくらう危険はある。どうする? どうすべき?
「ジョット!」
指示を催促される。迷う暇はない。とりあえず白いのを攻撃して上手く倒せたら逃げよう。
「白いのに攻撃して!」
“つばめがえし”を当てるも耐えられた。連戦で疲れが出たのか、キレがない。相手がお返しとばかりに反撃して……あれは、“ロックブラスト”!? ウソでしょ!? ノーマルタイプ目に見ていたのに、なんで岩技なんか使えるの?!
少なくともいわタイプは“ギガドレイン”の効きかたからして持っていないはずなのに! ああ、しかもまた連続攻撃が5回ヒット! 当然ピーちゃんは耐え切れずダウン。くぅ、ホントにもう後がない! 正真正銘残りの手持ちはあと1体になってしまった。
「わたしのバカ! ピーちゃんなら鹿や虫を倒せたのに、逃げること考えて無理させちゃった。なんでこんなことしちゃったんだろ……」
最後の最後で指示を誤った。焦っていたと言い訳はできる。でも倒れたピーちゃんはもう立てはしない。相手の強さに気圧されて、気づいたら弱気になっていた。最初はそんなことなかったのに……。攻撃の要を失い、敗北の二文字が脳裏をよぎった。
(仕方ありません。苦戦しながらむしろよく戦ったぐらいです。ブルー、あなたはここから逃げなさい。私がこのポケモン達を命に代えても足止めしてみせます。さぁ早く)
いきなりそんなことを言われて、“かみなり”に打たれたかのような物凄いショックを受けた。なによりもそんなことをラーちゃんに言われたこと、いや、言わせてしまったことが情けなく、そして別れることを考えただけで胸が張り裂けそうなほど辛くなった。
「何言ってるのっ!! イヤよっ、ラーちゃんだけ置いていくなんてできない!!」
(甘ったれないでブルー!! 私の言うことを聞きなさい!!)
「っ!」
凄まじい迫力に、思わず言葉を飲み込んでしまった。ラーちゃんは“あやしいひかり”で敵と距離を取りながら器用にテレパシーを送った。
(最初から私は覚悟の上です! 誰かが犠牲になるしかないことなんて、生きていればこれからいくらでもあります。別れなんていつも唐突に来る。それを越えて行かないと前には進めない。ブルー、あなたは進みなさい。今あなたは逃げるんじゃない。前に進むんです! 私もそう長くは持たない! もう猶予もない! だから早く行きなさい! 迷わず、振り返らないでっ! さぁ、早く!!)
初めて強い口調で叱咤され、思わず頷いてしまいそうになる。たしかに以前、洞窟の基地ではラーちゃんの言うことは素直に聞くと言った。その気持ちは変わらない。だけどわたしにも譲れないものはある! だから、どんな言い方をされようと大事な親友を見捨てることはできない。ラーちゃんを見捨てるなんて選択肢、わたしには絶対に選べない!
「イヤよ。絶対にイヤッ!! あなたが動かないならわたしも戦う! 最後まで一緒に戦い続ける! 誰かを犠牲にして生き延びるなんて絶対に間違ってる! そんな簡単に諦めないでよ! 完全に勝ち目がなくなったわけじゃない。諦めなければまだ勝つ方法はあるはずよ!」
(ブルー……!! この大バカッ……なんでそんなことを……! 現実はいつも残酷で、否が応にも別れないといけない時もある。私だって悲しいのに……どうしてわかってくれないの! 大人になりなさい!)
「ばかでいいもん……! わたしは、皆一緒に帰りたいの! わたしが歩む道はラーちゃんと一緒でないと進めない。誰が欠けてもダメなの! もちろん、ラーちゃんの言いたいことはわかっているわ。でも、誰かを犠牲にするぐらいなら、わたしはここで死んでもいい。どうしても何かを犠牲にしないといけないなら、わたしはわたしの命をかける! 一緒に戦って死ぬなら本望よ! これ使って!」
スペシャルアップで特攻を上げ、その間ピッピにんぎょうで注意を逸らした。複数相手じゃ逃げ出すのは難しいけど気を反らすことはできる。ラーちゃんの言葉で逆にわたしの覚悟は決まった。もう焦りもない。怖くもない。勝つことだけに集中できる。
「わたしだって戦える。絶対にひとりぼっちになんかさせない。さっさとこんなのやっつけて、皆できのみパーティーするわよ。ラーちゃんには1番たくさん食べさせるから覚悟してね」
(……ブルー、後でお説教ですよ)
……ラーちゃんが認めてくれた! ここに残って一緒に戦ってもいいみたいね。
「ラーちゃんに怒られるのは……ちょっと本気で怖いわね。きのみと一緒にミックスオレもあげるから許して?」
感情が表に出て自然と笑みがこぼれた。こんな死地に残ろうとしているのに嬉しいなんて、我ながらわたしって変ね。
「飲みながら叱ってあげます。いきますよ!」
ピッピにんぎょうで気を逸らしている間にさらに回復させ、これで体力は半分以上ある。わたしが能力もさらに上げて防御と特攻をもう1段階強化しておいた。もう手元のピッピにんぎょうはなくなった。逃げる選択肢は完全に消えて、これで本当に崖っぷちに追い込まれた。
まずは挨拶代わりの“れいとうビーム”。一撃で鹿を倒した。さっきまでとは火力が違う。今度はこっちに注意が戻ってむしポケモンが向かってきたが動きは遅い。ここに辿り着く前に“れいとうビーム”で2匹とも倒した。残りは初めて見る白いのとランス持ち。
「チラー!」
「避けるのは無理よ、頑張って耐えて!!」
連続ビンタの猛攻。1回、2回……早く終われと念じるが、またしても5回ヒット。でも、ラーちゃんは耐えきった。
「いっけぇぇー!! ラーちゃん!!」
「ラァァァァッッ!!」
至近距離からの“れいとうビーム”で勝負あり。これも倒した。防御も上げたのが生きたわね。
「カン、コーン!」
「まもるよ!」
またいつのまにか近づいて攻撃してきた。ラーちゃんはわたしを信用して攻撃を確認せずに技を使った。おかげでギリギリ間に合った。
「すぐに左へ! まずは距離を取りましょう! そこからハイドロポンプ攻めよ!」
ところが、近距離物理タイプと思ってたこのポケモンが遠距離攻撃を仕掛けてきた。なんかすごいさざめいてる!
「ラァッ!」
「大丈夫?!」
(問題ありません、ほとんど効いていませんから。特殊耐久はお師匠様のお墨付き。半端な攻撃は効きません)
「さすがね。よし、決めちゃって!!」
「ラーッ!」
渾身の“ハイドロポンプ”で見事に最後の1体も倒すことができた。わたし達勝っちゃった。あんなに絶望的な状況から、なんとかなっちゃった……。やった……! やったんだ!
「ラーちゃん、やったよ、わたし達勝った勝った! 勝っちゃった! 時間稼ぎしたとはいえ5体相手に勝つなんてラーちゃんホントにすごいわ! 最初なんてもう何十匹いたかわかんないのに」
(ブルー、やりましたね。最後まで一緒にいてくれてありがとう。結局あなたの言う通りでした。こうして勝てたのはあなたのおかげです。私ですら諦めてしまったのに、あなたは最後まで命を張って諦めなかった。それが勝利を引き込んだ。やっぱりブルーは私なんかとは違う。あなたはトレーナーとして最も大切な資質を持っている。絶体絶命の土壇場でも決して曲がらない不屈の闘志、諦めない心。私がでしゃばるのもおこがましいことだったのかもしれませんね)
「いーのいーの、もういいっこなし。これからも一緒にいれるんだから、これ以上のことはないわ。早くきのみを摘んで拠点に戻りましょう。いや、その前にラーちゃんとピーちゃんを回復させるわ。さすがにこのままじゃ帰れないし、もうこの辺りで増援に来るポケモンもいないだろうから回復する時間はあるでしょうし」
(そうですね。早く戻りましょう)
手当を開始してまずはラーちゃんを回復させ、次はピーちゃんを手当てしようとした時、辺りの雰囲気が一変した。さっきまでとは明らかに違う。木々がざわめいている。肌が粟立ちそうな感覚。これは……何か来る!
突風が吹き荒れ、ジャングルの奥から何かがこちらにやって来る。宙を浮いたままゆっくりとこっちに移動しているのが見える。あれは……わたし達をここに連れて来た全ての元凶。幻のポケモン、ミュウ! 少女姿で妖艶な笑みを浮かべてわたし達を見澄ましていた。絶望的な状況。最悪の敵。わたしは脱力してぺたりと膝をついてしまった。
「ブルー……見ぃつけた」
ミュウの言葉にゾクリと背筋が凍りついた。わたしはもうダメかもしれない。
だ~れだ?
これがラスト!
今回の新登場ポケモンはペアで登場、仮面ヒーローとランス持ち
ペアっていうのが最大のヒントです
ランス持ちは呼び方他に思いつかなかったので仕方なくこう呼んでいます
名前を知らないポケモンの呼び方は難しいですね
他は全部どこかしらで一度は出ましたね
ラーちゃんがブルーを諭すときのセリフは自分の過去を思い出してのものです
ロケット団に捕まった時も今回同様仲間を逃がして群れから引き離された苦い思い出があります
ラーちゃんとは異なる「最後まで一緒に戦う」という選択をして窮地を乗り越えたブルーの行動は、ラーちゃんの過去の残酷な結末を払拭することにもなり、自分にはないブルーの可能性を感じてラーちゃんに大きな希望を見せることになりました
しかし、孤立無援のギアナでやっと見つけたラーちゃんの小さな希望はたやすくかき消されます
現実はラーちゃんの想像以上に残酷な結末を用意していました
ラスボスミュウ降臨!!
手持ちで戦えるのはラーちゃん1体のみ
果たしてミュウに勝てるのか?
ブルーはここで終わってしまうのか?
4日目なのでシショーの助けは間に合わない……
どうなるブルー?
次回「けっせん! ミュウ!」
みんなでポケモン、ゲットだぜ!
※本当の予告です
今回は前回アレやったので真面目にしてみました
ラプラスの心中を本編で書くタイミングもないのでここで補足の意味も
予告はもうしません