取材・文 / 山田邦子 撮影 / 荻原大志
撮影協力:ekao(ebisu)
ソロ30周年、おめでとうございます。
ありがとうございます。最近よく “あの曲にはどんな思い出が? ”とか “30年振り返っていかがですか?” とか聞かれるんですが、1曲ずつとか、1年ごとに刻んでいかないといっぺんには思い出せないんですよね(笑)。長いような、短いような30年だったなあって感じです。
ソロで30年ってことは、当たり前ですけどその前に”杉山清貴&オメガトライブ”としての活動があったわけですよね。
オメガとしては2年8ヶ月。その間にシングルが7枚、アルバム5枚出しました。オメガは作家さんチームとプロデューサーが、いわゆるプロジェクトとして作っていったものなので、俺らは一生懸命後をついていってた感じでしたね。
時代のスピード感もあったとは思いますが、日本の音楽シーンのど真ん中を駆け抜けた!って感じでしたよね。
どうなんでしょう?たしかにたくさん曲を出してテレビにもたくさん出ましたけど、みなさんの記憶にはあまり残ってない気がするんですよ。なぜかと言うと、紅白とか賞取り合戦には一切出てないから。それはプロデューサーだった社長のモットーで、オメガは”いい音楽を作るためのチーム”だったからなんです。賞としてもらったのは、ゴールドディスク大賞だけでしたね。
その頃、おいくつだったんですか?
24〜26歳くらい。年齢的に言うと “自分が、自分が” みたいな頃だったかもしれないけど、ザ・芸能界のど真ん中にいながらにして、ザ・芸能界な活動はしてないから、意外に垢はついてないんですよね(笑)。
オメガトライブ解散後は、ソロではなくバンドでやって行こうと思われてたそうですね。
はい。バンドが解散する時って、普通は事務所とかレコード会社に相談をしてからだと思うんですけど、僕らはそういうの全部すっ飛ばして、ツアー中の夜の飲みの席で “解散しようぜ!” って勝手に決めて、年内中に解散するって社長に報告したんですよ(笑)。決まってたスケジュールも全部白紙にした。
杉山さん自身もゼロに戻った、みたいな。
そうそう。年が明けたらいわゆるアマチュアに戻るわけだから、いつもリハーサルをしてた日吉のヤマハのスタジオに、メンバー募集の張り紙をしようと本気で思ってました。 “当方、ボーカル” って書いて(笑)。
ところが、思いがけない電話がかかってきて。
事務所とレコード会社の間に契約の問題があったようで、俺は人身御供のようにソロになったわけです(笑)。本人の意思とか関係なく、 “やるから” と(笑)。それで慌てて「さよならのオーシャン」を書き、ソロとしてのキャリアがスタートすることになったんですよね。
オメガトライブ時代もそうですが、ソロになっても、ほとんどがCMのタイアップやキャンペーンソングでしたよね。
そうです、そうです。オメガの頃は作家チームが作ってたので俺はアルバムの曲をいくつか作るくらいでしたけど、ソロになったら曲は自分で作れと。最初は “大変なことになったな” と思ってたけど、「さよならのオーシャン」がなんとか出来て、その後に出すアルバムの曲を作ってる時に、なんとなく曲作りが楽しくなってきてたんですよ。 “あ、こんな曲が書けちゃった!” みたいな(笑)。たぶん、オメガ時代に林(哲司)さんの楽曲を歌いながらいろんなノウハウを入れ込んでたからなんですよね。“次は、こういうタイアップの話があるから” “わかりました” って感じ。自分のシングルではあるんだけど、どこか作家みたいな感じで作ってましたね。
楽しみながら。
はい。ピアノなんて習ったこともなかったけど、自己流でやりながら「バラードはピアノで作る方がいいかも」とかね。そうやってこっちはソロになって曲を作る楽しさを知っちゃったんですけど、まわりはいろんな楽曲を持ってくるんです。いい曲を歌わせようと思って。でも俺は、「別に、今これを俺が歌わなくていいんじゃないの?」って思ってましたね。誰が歌ってもいいようなものじゃなく、今の俺じゃないと出来ないものを歌って出した方がいいんじゃないかなっていうことを、漠然と思ってました。
ソロになって、フットワークも軽くなりました?
なりましたね。物事を考えるにしても実行するにしても、いろんな意味で。でもソロになってすぐの頃、80年代はまだオメガの亡霊からなんとか抜け出したいって、そればっかりでした。もう、常に付き纏ってたんでね(笑)。
じゃあ自分のやり方みたいなのが見えてきたのは…。
最近ですよね。最初の頃って、時代的にも音楽に伸びしろがあったというか、面白い音楽がいろいろ出始めた頃なんですね。だから俺も、歌というより「こういうサウンドが作りたい」というのがあって、自分の家に機材を入れて、完全なるデモテープを自分で作ったりしてたんです。だけどそれもある程度出尽くして、目標とするものが世の中からなくなった時に、はたと気がついたんです。俺は何がやりたかったのかな?って。その時に、歌しかないじゃんって思ったんです。サウンド云々じゃなく、歌を聴いてもらうっていうところに意識が行き始めた。それが、ここ10年ぐらいなんです。いや、50歳になってからだから10年もないですね。
歌しかないと思ったのは、何かきっかけがあったんですか?
弾き語りツアーで感触を得始めたことですね。2001年ぐらいからだったと思うけど、最初は必死だったんです。どの曲をやればいいんだろうとか。でもなんとなくペースがつかめてきて、ギターも楽しめて、歌も楽しめるようになった時に、「あぁ、歌を聴かせるんじゃん。俺」って。ボーカリストって意識はありながらも、歌を聴かせようっていう意気込みはなかったんですよね。それまでは。サウンドの方にばっかり気が行ってたから。
それは大きな変化でしたね。
人が求めてる俺の歌って何なんだろう?と。それはやっぱりオメガの世界なのかなあとか。ソロになってからの自分も否定はしないけど、なんかある時期からちょっと進む道がズレてる気がするなって思い始めたというか、気付いたのがその弾き語りの頃だったんですよね。だからギターもすごい変わったんですよ。ギター1本でいかにオリジナルに近いアレンジが出来るかってやってたけど、今は歌を聴いてもらいたいんだから、ある程度の伴奏でいいんだと思うようになった。ガッツリしたものは、バンドでやる時に聴いてもらえばいいわけだからね。
そういう変化の中で作ってくる”作品”にも変化はありました?
今回のアルバムで、いきなり変化を見つけたかなって気がしています。2013年に『I AM ME』ってアルバムを出しましたが、あれはすごい考えて作ってるんですよ。こういうの受けるかなあ、ちょっとオメガっぽいメロディーもあった方がいいのかなあとか。でも今回は全然そうじゃない。深く考えずに曲を作って並べてみたら「俺はずっと、こういうアルバムが作りたかったんだ!」っていうのが出来てたんです。作ろう作ろうと思えば思うほど、違う方に行ってたわけですよね(笑)。今回は本当に、作れたなぁって思う。
それが、ニューアルバム『OCEAN』。大海へと流れゆく「River」で幕を開け、今年2月に亡くなられた村田和人さんへのオマージュ、懐かしく愛おしい時間やハワイの夕暮れなどを切り取った全8曲が収録されていますが、菊池桃子さんとのデュエット「風の記憶」は大きな話題となりましたね。
もともと同じ事務所で、レコード会社も同じだったんです。制作チームも一緒だったから、当時の桃子のアルバムとか聴くと、完全に女性版オメガトライブなんですよね。その後も桃子の楽曲にギターを弾きに行ったり、俺のデビュー30周年の野音に花束持って来てくれたりして交流はあったんだけど、今回、思い切って一緒に歌うのはどうだろうと。自分で言うのもなんですけど、本当にいい曲(笑)。なんで書けたんだろ!?って言うくらい、いい曲なんですよ(笑)。
間違いないです!歌詞は、秋元康さんですね。
いただいた歌詞を最初に見た時、秋元さんに頼んで良かったなと思いました。オメガも桃子も最初の頃から詞を書いてもらってたし、秋元さんの作詞家としてのキャリアもたぶんその辺りからのスタートだと思うんですよ。だから詞の中に、みんなのいろんな思いが含まれてる気がして。歌詞に「いろいろあってここに立ってる」ってあるんだけど、聴いてる人にとっては「いろいろあって!?」って思うじゃないですか(笑)。でも歌ってる俺らはもちろん、あの頃オメガとか桃子の歌が好きだった人たちには何かこう、グッとくるものがある気がする。この曲はいつかライブでもね、一緒に歌えたらと思ってるところです。
ライブといえば、先日30周年記念のバンドツアーが終わり、現在はアコースティック・ツアー真っ最中。休んでる暇もないですね。
まぁ休んでもやることないし、波があれば海行ってるし(笑)。海はいいですよ。俺なんて今もそうだけど、ハワイだとか沖縄とか常に海のあるところにいるくせに、「海はいいなあ」って毎日思いますから(笑)。
だからアルバムのタイトルも「OCEAN」に(笑)。
そう(笑)。あれだけいろいろ出してきたけど、ここまでストレートなのは意外となかったんですよね。「さよならのオーシャン」から始まったソロ30周年のアルバムなので、スパッとシンプルに決めました。
気の早い話ですが次は40周年、そして50周年もやってきますね。
その時その時で、やりたいことが見つかればやっていくって感じです。俺、あまり早いうちから「よし、こうしよう!」なんて決めても、結局気が変わっちゃうんで(笑)。きっとこれからも、このまんまの感じでやっていくんだと思いますよ(笑)。
リリース情報
【初回限定盤】
【通常盤】
『OCEAN』
発売中
【初回限定盤(2CD+DVD)】
KICS-93387〜8 ¥3,333+税
【通常盤(2CD)】
KICS-3387〜8 ¥2,778+税
【収録曲】
Disc-1
01.River
02.HEAVEN
03.Good Day, Sunny Guy ~村田和人に捧ぐ~
04.Umi-dori upon a sky
05.風の記憶 [杉山清貴with菊地桃子]
06.あの夏の君と
07.Sunset Lanai Bar –Tina Time –
08.好きなことを!(Album Remix Version)
Disc-2
01.さよならのオーシャン
02.さよならのオーシャン<オーシャン’95>
03.さよならのオーシャン(Hula moon sessions Version)
04.さよならのオーシャン(Rearranged Version)
05.最後のHoly Night
06.最後のHoly Night (from “Listen to my heart”)
07.最後のHoly Night~version’96~
08.最後のHoly Night (Rearranged Version)
DVD※初回限定盤のみの特典
・「風の記憶」(ミュージック・ビデオ)
・ライヴ映像(”The open air live “High & High 2016”より)
・メイキング(ミュージック・ビデオ、ライヴのオフショット他)
ライブ情報
アコースティックソロツアー2016
08月11日(木・祝) 京都府立府民ホール・アルティ
08月13日(土) 大阪能楽会館
08月20日(土) ハーモニーホール座間
09月03日(土) 京葉銀行文化プラザ
09月04日(日) 沼津市民文化センター
09月24日(土) 茅ヶ崎市民文化会館
09月25日(日) サンシティホール(越谷)
10月29日(土) 北野文芸座
10月30日(日) よみうり大手町ホール
杉山清貴
1983年4月、杉山清貴&オメガトライブとして「SUMMER SUSPICION」でデビュー。1986年5月、「さよならのオーシャン」で、ソロ・デビュー。
80年代のミュージックシーンを疾風のごとく駆け抜けたJ-POP/J-AORのカリスマ的存在。独自の世界を確立し、ソロ・アーティストとして一時代を築いた杉山清貴。ソロでの活動のひとつとして全国ファンへ向けた、ギターでの弾き語りの「アコースティックLIVE」から大規模ホールでのコンサートツアー(フルバンド)、そしてライブハウスへの出演など幅広い演奏活動を年間通じて展開している。2013年デビュー30周年を迎え、記念シングル&アルバムのリリース、日比谷野音2DAYS等を行った。恒例の野音ライブは1996年から始まり、今年で21回目を迎える。現在までにアルバム49枚、シングル30枚をリリース。そして、2016年ソロ・デビュー30周年を迎え、周年記念となるアルバム『OCEAN』をリリースしたばかり。
オフィシャルサイト http://www.sugiyamakiyotaka.com/