Another Trainer   作:りんごうさぎ

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キョウさんが本気を出します
本気のジムリーダーの実力をとくとご覧あれ!


幻のポケモン編
1.裏をかくなら裏の裏 裏の裏ならそのまた裏を


 日を改め、準備万端でセキチクのジムにやってきた。そこにあったのは今まで見てきたジムとはかけ離れたお屋敷のような建物だった。

 

「忍者屋敷と言われている噂は聞いていたが、これじゃホントにカラクリ屋敷みたいに見える。本当にここであっているよな?」

「ちゃんと看板もあるし間違いなさそうよ」

 

 ジムリーダー キョウ どくの ことなら なんでも ござれ

 

 たしかにあるな。いつものやりとりをして、ここが間違いなくジムであることはわかった。屋敷が横長なのに扉がやけに建物の右側にあるのが気になったが、とりあえず中に入ってみることにした。内装も外見に見合った和風の部屋。入ってすぐ脇の壁にある掛け軸に和の心を感じる。味のある字だ。

 

『天を目指せ』

 

 だが、呑気にそれを楽しむ気分にはなれそうにない。そもそも玄関でなくいきなり小部屋のようになっていて住居っぽくない。小部屋だが妙に奥行きはあるし、室内にあるのは正面に見える奥の扉ぐらいで何もなく、しかも入る前からずっと人の気配は全くないのに、建物内では名状しがたい殺気のようなものを感じる。一応調べてみるか。……これは!

 

「なんか不気味なぐらい静かで怖いわね。でもなんか昔にタイムスリップしたみたいで楽しいかも。奥に行ったら誰かいるでしょうし、とりあえず人を探しがてら探検しましょうよ」

「バカッ! 迂闊に進むな! ここにはなんかあるぞ!」

「え? ジムなのになんかもなにもあるわけないでしょ?」

 

 カチッ

 

 ブルーの足元が沈んでスイッチが入ったような音がした。かなり耳につく音だ。ブルーは音に釣られてつい下を向いてしまったが、それは罠。上から仕掛けが出てきた。後ろにいた俺は迷わずブルーを引っ張って自分の後ろに隠した。

 

「ブルー! 下がれっ!」

「ひゃっ!」

「コン、パンッ!」

 

 上から“どくのこな”が降ってきた。天井にポケモンを配置してスイッチと共にこの技を使うようになっているのだろう。それにこの仕掛け……単なる脅しじゃない。本当に俺達に当てる気で作られている。罠の張り方に容赦がない。

 

「サンキューシショー。これはどういうことなの?」

「ここはカラクリ忍者屋敷。トラップありありの最初の試練ってところなんだろう。見ろ、この掛け軸。“天を目指せ”とある。つまり最上階まで自力で上がって来いってことだろう」

 

 最初はレジスチルの点字がそんな感じだったとか全く関係ないことを考えていたが、この言葉には意味があったようだ。この部屋の妙な奥行きも、あの奥の扉まで罠を躱して進んで来いってことか。

 

「なるほどそういうことだったのね。でもこんな罠をいきなり仕掛けるなんてアリなの?」

「ジムはたまに仕掛けがあるパターンが存在するし、ナシではないだろう」

 

 クチバとか内心少しは心配していた。さすがに現実でゴミ箱漁りはやりたくないし、そうでなくてもあの仕掛けはかなり面倒だからな。今となってはもう仕掛けはどこのジムにもないものと思い込んで決めつけていたので不意を突かれた。

 

「うそっ!? 聞いてないわよ! 先に言ってよね」

「俺も中に入ってから気づいた。ここからはかなり気を引き締めた方がいい。少しでも隙を見せたらタダではすまないだろうな」

「そ、そんな大げさな。いまさらわたし達がどうこうされるわけないでしょ?」

 

 ブルー、この罠の恐ろしさがまだわかっていないのか。シャレにならないレベルでヤバイぞこれは。見えない壁でキョウまで辿り着けなくて困ったーとかそんな温いレベルじゃない。

 

「上を見ろ。あれわかるか?」

「上? げっ、なにあれ! 怖い!」

 

 ブルーが見た後仕掛けは再び閉じてしまったが、天井裏の暗闇に潜む赤い光は見えただろう。天井裏は暗いが、かなり狭そうな感じだ。赤い瞳のポケモン……コンパンが通れる程度の隙間。……それ以上の大きさだと潜り込ませるのはキツイか。

 

「ポケモンだ。名前はコンパン。どくポケモン。今の技はどくのこな。この罠、一見大したことないように見えるが、実はかなりタチが悪い。まず、仕掛けそのものが俺達の死角を突いている」

「死角?」

「お前、スイッチの音で下を向いただろ。あれはわざと目立つ音を立てて下に注意を逸らすように仕向けている。それを利用して死角になる頭上から攻撃をした。攻撃に気づいて上を向いたタイミングでどくのこなを丁度吸い込むぐらいの完璧なタイミングだ。さらにそのスイッチ、今の時点でどこのものを踏んだかわかるか?」

「……わかんないわね。わかってても見分けがつかない。でも、だいたいの場所はわかるからもう同じ手には引っ掛からないわ」

 

 その考えが甘いんだよなぁ。ここの罠もこういう反応を見越しているのだろう。仕掛け人はこっちの心理をよく理解している。俺もサーチがなければ迂闊にこの地雷原に踏み込んでいたかもしれない。

 

「甘い。そこが次の罠。スイッチはこの部屋の中に無数にある。1つ躱すことで安心して油断すればすぐに別のスイッチを踏む」

「じゃあ3回目はもう油断しない! 踏んでもすぐ避けるわ!」

「……それも危なそうだな。スイッチの音を頼りに避けるってことだろ?」

「そうよ。これだけ音がするならそれを聞いてすぐ避けられるはずよ」

「たぶんそうやって避けることに慣れた辺りで音無しのスイッチが現れるな。もし俺が仕掛けるならそうする」

「えぇ……いじわる過ぎない? でも、それだって一度見ればもう引っかからないわ!」

「いや、そこまで何度も踏んでいると全て避けていたとしてもアウトだな。どくのこなが来るのがミソだ。粉は消えないから何度も押していると部屋中粉まみれ。そうなれば直接浴びなくてもこの部屋にいるだけで危険。加えて毒は放っておくと時間ごとにダメージが蓄積する。こんな序盤で毒を受けたら最上階へ行き着くのは絶望的だろう」

「そんな! なんでここまでヤバイ仕掛けがあるのよ!」

「ヤバイ仕掛けを置いているのは仕掛け人からのメッセージだろう。そもそも罠なんてあると思わないでここに来て、こんな周到な罠があれば99%引っかかる。その上どく状態になったら最後、即リタイヤを余儀なくされ出直しだ。単に警告するだけなら水でもかければ済むこと。あえてポケモンまで用意して罠を仕掛けたってことは俺達を試しているのさ。容赦はしないが、それでも進む勇気があるかってな。町で俺達がトレーナーと知った時の住人のあの反応、これを知ってたんだな。そりゃ笑うよな」

 

 サファリの情報集めが主な目的だったからその時は聞き流していたが、こんなに大事になるとは思ってもみなかった。こうなるとこのカラクリの事前調査もしておきたかったな。この町じゃボロボロになって出てくるトレーナーの姿が風物詩みたいなものなんだろう。見世物にされる側としてはたまったもんじゃない。

 

 もっとも、だからといって逃げ帰る気もサラサラない。どんなことであれ戦わずに負けを認めるなんてあり得ない。絶対に最上階まで行ってやる。

 

「とんでもないわね。でも、あの罠1つでそこまで色々わかるシショーはなんなの」

「バカ、頭使えば誰にでもわかる。順当な推理だ。ただ強いて言えば、俺はお前の後ろにいて余裕があったというだけ。とりあえずスイッチを押さないようにして奥の扉まで進もう」

「ちょっと待って。ここ突っ切って走っていったら余裕でどくのこなは躱しきれるんじゃない? 発動は遅いみたいだし。名案でしょ?」

「いや、たぶんそれは1番ヤバイ。罠っていうのは二重三重に張り巡らすもの。安易にぶら下げられた正解に飛びつくのは下の下。そもそもお前でもわかったことを仕掛け人が想定していないわけがない。そんなポカに期待するのは楽観的という言葉でも生温い。ここの罠はかなり周到に用意されている。最悪を想定して慎重過ぎるぐらいが丁度いい」

 

 バトルと同じ。読みは相手のレベルに合わせて臨機応変に。勝負は相手より1枚上手になった方が勝利する。裏をかくなら裏の裏、裏の裏ならそのまた裏を。問題は裏の裏が表ってことか。深読みして下手に警戒し過ぎると自滅してしまう。典型的な策士策に溺れるってやつだ。

 

 この屋敷に関しては裏の裏のさらに裏をかいてなお警戒するぐらいでいいだろう。三重の罠ぐらいは平気で仕込んでいそうだ。

 

「でも絶対大丈夫よっ。すぐ走って抜けて次の部屋に行ってドア閉めたらどくは回ってこないし」

「扉がすぐに開く保証があるのか?」

「え? まさか鍵がいるってこと? たしかにそうだとしたら大変なことになるけど、それは考え過ぎよ」

「実際どうなっているかはわからない。何もなければそれはそれでけっこうなことだしな。だが、ここは考え過ぎるぐらいでいいんだよ。俺の勘だ」

「勘ねぇ。まぁそこまで言うならシショーの言葉に従うけど、そもそもの話、わかっていても見分けがつかないのにどうやってスイッチを避けるの?」

「発想を変えろ。スイッチを避けるんじゃダメだ。ならポケモンの気配を利用してその下を避ければいい。天井裏には無数のコンパンがいる。俺があのスイッチ以外にも同様の仕掛けがあると判断した理由、それがコンパンの気配だ。スイッチはコンパンの下にしかないはずだ。お前は俺の後ろから来い。絶対に道を外すなよ」

 

 俺が先に進むが後ろからブルーがついてこない。振り返ればうんうん唸って立ち止まっていた。何しているんだ?

 

「天井裏のポケモンの気配? んんーーっ!! んんんーーーっ!!!……わからないわね」

「……いいから早くついてこい。俺の後ろ辿れって言っただろ。置いていくぞ」

「あっ! 置いてくなんてひどいわよ!」

 

 予想通りコンパンの下しか罠はなかったようだ。もし別の罠も混在していたら避けようがなかったがさすがにそこまではなかったな。あったらお手上げと割り切っていたがなくて良かった。距離はすぐそこなので扉にはあっさり辿り着いた。

 

「げっ! この扉偽物じゃないっ! ただの壁だわ! それじゃダッシュしていたら本当に“どくのこな”の充満した部屋で立ち往生じゃない!」

「しかも時間制限付きで本物の扉探しが始まる。当然焦って碌な考えは浮かばない。でも冷静ならほら、あれが本物だ」

 

 思えばこの奥行きこそ最初の罠だったのか。この扉をゴールだと思わせるための心理的な罠。なら正解はこの壁の向こうにはない。そうなれば必然的に方向は限られてくる。

 

「え、どこよ?」

「この偽扉を背にして右の壁。下の床を見ると一部床の色が違うところがあるだろ、扇状に」

「あっ、あれはドアがあるから色が違うのか。よく気づいたわね」

「最初に目星がついていた。ジムの入り口は建物の右側に不自然なぐらい寄っていた。奥へ行けないならあっちにしか進むスペースがない」

「なるほど! そんなこと気にもしてなかったわ」

 

 壁に近づいてよく見れば開けるための取っ手があった。忍者屋敷にはスライド式の方が似合う気がしたが、この床はわかりやすくわざと印があったのかもな。最初のサービスってところかねぇ。ここからはさらに難易度が上がるってわけか。 

 

 やっと次の部屋に入った。まさか部屋1つ進むだけでこんなに大変だとは思わなかった。ちょっと仕掛けに力入れ過ぎじゃない?

 

 次の部屋はこれまた何もない殺風景な部屋。あるのはまたしても正面の出口だけ。今度は奥に階段も見えており間違いなく本物だろう。

 

 だが部屋の広さは段違い。相当な広さだ。罠満載の屋敷でありながら広い空間でこうも何もないよと言わんばかりだと逆に警戒度は高くなってしまう。とりあえずまたサーチでポケモンを探してみるが……これまたよくもまぁこんなに隠したもんだ。あちこちにいるわいるわ。動けば碌なことにはなるまい。

 

「……さすがにこの部屋、何もないわけないわよね?」

「当たり前だ。それどころか、さっきとは比較にならない程わんさかポケモンが潜んでいる。1歩前に足を出すだけで何が起きるかわからない」

「うそ?!」

「ちょっと考えるからじっとしていろ」

「シショー、早くしてね。怖くてこんなところにずっといるなんてイヤよわたし!」

 

 さて、ホントに数が多い。どこから手をつけるべきか。サーチを発動して意識を前にグッと集中した。範囲を広げていくとポケモンが見えてくる。

 

 最初に気を引いたのは下だ。地下にポケモンがいる。しかもメンツがベトベター系統だけ。これが罠に使われるとは考えにくい。間違いなく落とし穴だな。はまったら最後、ベトベターさんとこんにちは、というわけだ。冷静にバトルすれば倒すのは難しくないが、いきなり鉢合わせて冷静な人間がどれだけいるのか。……いい性格している。

 

 上には今度はドガースがいる。こいつはおそらく罠に使うのだろうが、2通りありえるのが怖い。“どくガス”も厄介だが、“じばく”してくるのが特に怖い。どく状態は“モモンのみ”で治るっていう気楽さは今までもあったからだ。

 

 天井で特に気になるのはバリヤードもチラホラいること。なぜどくタイプのジムにいるのか。ゲームでも関係ないスリーパーがいることはあった。だがこのチョイスには何かしらの意味がある気がしてならない。バリヤードといえばパントマイム、壁を作るとかだろうか? 罠メインのここでエスパーを前面には出さないだろうし。とすると考えられる役割は……!!

 

 恐ろしい考えが浮かんできた。これが当たっていたら最悪の状況だ。

 

「おい、この部屋シャレにならんかもしれん。ブルー、ちょっと周囲を警戒してろ。出ろ、ユーレイ! 周囲に10まんボルトを散らしてくれ」

「ガッガ!」

 

 “10まんボルト”は方向ごとに不規則な軌道になった。その全てが何かに遮られたかのように反射あるいは遮断。このことが意味するのは1つだけ。

 

「セキチクジム名物、見えない壁! ここで来るか……!」

「見えない壁ですって! じゃあ、この部屋全体が見えない壁に仕切られた迷路ってこと?! そんなのどうやって向こうに渡るのよ! 迷ったら戻ることもできないわ!」

「そういうことだ。見えない壁の迷路、しかもそこら中に罠がある。俺の見立てでは、さっきの部屋のようにスイッチがいくつも下に埋まっている。今度は2パターン。1つは落とし穴。下にはベトベターつきだ。もう1つは上からドガース。落とし穴はいわずもがなだが、上からくる方もこの迷路は壁が見えないからとっさに逃げる場合に壁で身動きとれなくなる。そこをドガースが“じばく”なんてしようものならどうなるか」

「落ちたらベトベターって、絶対触っちゃうじゃない! じばくも至近距離で受けたらヤバイわよ!?」

「しかも上にはバリヤードもいる。たぶんうっかりそいつを下に落としたら道が閉じるっていう罠だ。これが1番ヤバイ」

 

 壁が増える迷路とか冗談抜きに迷宮と化す。最悪なのは閉じ込められてからの“だいばくはつ”。ドガースなら転がってきたりとかもありそうだし、ここにポケモン以外の罠がない保証も当然ない。相当タチが悪い。

 

「ひかりのかべとか? でも一定時間経てば消えるでしょ?」

「バリヤードはおそらくその場に残るタイプだな。ずっととおせんぼされるだろう」

「エグ過ぎ! 下手したら閉じ込められて詰みまであるじゃない! どうすんのよ!」

「仕掛けを避けるのは別に難しくない。さっきと同じ手が使える」

「あ、そっか。じゃあシショーなら、案外楽ショー?」

 

 いきなり韻を踏みだしたがラッパーかお前は。罠がきつ過ぎて頭おかしくなったのかな、というのはブルー相手でも失礼過ぎるか。

 

 罠に関してはわざと同じ方法が使えると思わせて油断させる気だろうな。あの部屋で三重に罠を張っていた人間が初歩的なミスをするとは思えない。走り抜けれる程度に調整して部屋中どくのこなにするような奴の発想なら、こっちがラッキーと思って気を緩めたところに罠を張ってくるだろう。

 

「俺は楽に同じ手でいけると油断させることこそが相手の策略だと思える。さっきの部屋をクリアするにはポケモンの場所を察知するしかない。ならここに来た人間はそれを攻略した人間しか来ないから同じ罠が通用しないことはわかりきっている。そこをあえて同じ罠で来た。となればこれはもう必ず他にも罠を用意している。さっきなかったことを踏まえるとなおさら怪しい。全く別パターンの罠を似た形で紛れ込ませるとかして、安心した俺達を狙い撃つ罠がもう1枚眠っているはず。驚くような仕掛けがあるだろうぜ。絶対の安全なんてこの屋敷にはない」

「そんな悪魔染みたことしてきたら人間疑うわよ?」

「さっきの部屋でもう悪魔染みているのはわかっていること。絶対にある。最悪見えない壁と合わせて罠を踏まなくてはいけない状況に追い込まれるかも。そもそも、正解の経路の中に罠がないと決まったわけでもない。ポケモンを避ける道にポケモンを使わない罠を忍ばせるぐらいはしてきそうだ。とにかく確実に罠は踏まされると思った方がいい」

「そんなぁ……上のフロアへの階段は目の届くところにあるのに」

「……」

 

 階段か……。そういえば妙だな。なぜ今回はハッキリ正解の扉の位置を教えた? もちろん同じことをしても芸はないが、さっきブルーがいったように扉にカギを用意して、さらにそれを迷路に隠すようなことをすれば難易度は跳ね上がる。俺ならそうするな。だが仕掛け人はそれをしなかった。何が狙いだ? きっと何か意味はあるはず。

 

 もしかしてわざと見せたのか、答えを。意識を前に向けた。ブルーも見えるのに進めないのがもどかしいと思っての発言。見えてなければそうは思わない。つまりこの迷路の中へ誘い込む罠。

 

 いや、それはおかしい。そもそも迷路はどのみち入るしかないから誘う必要はないんだ。それにカギをつけるなり何か扉に仕掛けをいれない理由も結局ない。やはり何かズレている。思考の根本から間違っている気がする。足元を揺さぶられる感覚。

 

 ……まさか、この迷路自体がフェイク? 迷路に入らずにここを超える方法があるのか? だからこの中に誘導するために出口を見せた。階段が見えれば逸る気持ちもなおさら増す。ならあの出口は餌か、間違いない。獲物を地獄へおびき寄せる罠。

 

 そこまで考えるとこの迷宮、袋小路という線も出て来たな。出口を作る意味がない。

 

 もしもこの屋敷、罠は全て回避できるようにできているとすれば、可能性としては何か裏技みたいな方法で抜けれる可能性がある。迷宮内は罠を避け切るのは無理だろうし、ますます別の方法がある気がしてきた。見えない壁の盲点をついた抜け道のような何か……!!

 

「わかった! 端だ! この部屋、おそらく端は完全に壁がなくて反対側の出口まで回っていけるぞ」

「ホントッ!? でもなんでそんなこと言えるのよっ」

「お前の言葉で気づいた。あの出口はわざと見せているんだ。俺達をまっすぐ前に進ませるために。そしてその先はおそらく出口のない迷宮。まっすぐ行けば正解はないんだろう」

「はぁ?! そんなのサギじゃない!? だいたいなんで出口がないって言いきれるの?!」

「正解をおそらく別に用意している。なら、ハズレに出口は不要だ」

「えぇ……でも中に入っても出口がなかったら戻るから大丈夫か」

「いや、それはない。階段を見て一度中に入ってしまえば必ず罠を踏む。そうすればますます迷宮を超えようとする。罠があるならそれが進むべき道だと考えるから。罠がある方が正解という心理を逆手にとった、いわば心理的死角をついたトリック。おそらくこの部屋のトリックに気づけるのは今俺達がいるこの場所だけ。中に入ったら二度と気づけない」

「たしかにそうね。夢にも思わないでしょうね、別にルートがあるなんて」

「つまり俺達は最善の選択をしたことになるな、結果的に」

「それじゃ、なんで端を伝うってわかったの?」

「正解はまっすぐと別方向、つまり横に進めばいい。あの階段が見えているのに最初から横に進もうとする奴はいない。それを見越してあれを見せていると読めば正解はその先にこそある。とにかく裏をかくには相手の狙いを考え、どう誘導しようとしているか考えればいい。そうすればその思考の逆を行けば必ず正しい道筋は浮かんでくる」

 

 実際にはゲームの攻略法から考えたのが8割ぐらい占めているけど、言ったもん勝ちだからな。ゲームの見えない壁は壁沿いに進むとほぼ一周グルッと回れた。それと同じわけだ。

 

「ほぇー。べ、勉強になるわね。難しくてあんまりどういうことかわかんないけど」

「そのうちブルーもわかるようになる。行くぞ」

 

 端を伝っていくと予想通り簡単に反対側に辿り着いた。ブルーはまだ夢でも見ているかのようなポカンとした表情。確かにこの答えはちょっと拍子抜けするのはわかるが、ショートカットできたのだから楽できてもうけもんぐらいに思わないと。まだまだ先は長いのだから。

 




本気出す(バトルするとは言ってない)

みんな大好きカラクリ屋敷の時間!
楽しくて仕掛けがどんどん増えて1階で収まらず2階へ

思考が長いので際限なく話が伸びて何話使うかわからないですね
バトルもこれぐらいやれって感じですね

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