Another Trainer   作:りんごうさぎ

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9.伝播する声 信頼の証

 ブルーの言葉通りサファリに行くと従業員は俺らを見て涙目になった。まさかブルーの言うことが当たるとは。さすがにむしり過ぎた?

 

「まだなんかする気なんですかっ?!」

 

 しかもブルーと同じ反応だな。こいつら気が合うんじゃないか。

 

「大丈夫、ラッキーは約束通り捕まえないし、それ以外ならそんなに珍しいのはいないでしょ、少なくとも経営が傾くようなのはさぁ? もしかしてまだいるの?」

「そ、それは、まあ……そこまでのはいませんが……では、持っていくポケモンは」

 

 ふふっ……。思わず笑ってしまいそうになった。危ない危ない。もちろんまだ目玉が残っているのはわかっているし、この反応からしてこの人もわかっているのだろう。だがわかっていても、こうやって面と向かって聞かれたら「はい居ます」とは言えない。言えばまた乱獲される恐れがあるのだから。

 

「サンダースと……こいつはラプラス」

「!!」

 

 この反応……やはりいる、ドラゴンポケモンが。これだけでも俺にとっては有益な情報。ラプラスを連れて行く価値があったな。何時間も出なかったりしたらいないのか出にくいのかの判断がしにくいからな。分布が自分の知っているものと全く同じという保証はないわけだから。けど、ハッキリ居るとわかってさえいれば何日でも勇気を持って粘り続けられる。

 

「ねぇ、さっき反応が変だったけど何かあったの?」

「気づいていたか。次の狙いはドラゴンポケモン。今回は仲間にするために捕まえる。さっきの反応からして、ここに居るのは間違いないだろう」

「え、そんなのまでここにいるの! サファリってかなりすごいわね。でもどこにいるの? マップ作った時から1回も見てないじゃない。もう調べ尽くしているはずよね?」

「まだ見てないところがあるだろ」

「そんなのあるわけ……うーん。…………あっ、水中ね。ラーちゃんを連れて行こうって言ってたのはそういうことなんだ。でもどうやって探すの?」

 

 ブルーはしばらくうんうん唸った後見事に正解を引き当てた。勘のいい奴だ。洞察力とか目に見えにくい部分でも成長を感じる。

 

「もちろん抜かりはない。そのために用意したのがこれ、すごいつりざお。これがないと出てこないからな」

「まさかそこで釣りが出てくるとは。サファリのために用意していたのね。ただ、いっつも釣りをすると碌な目に合ってない気がするんだけど、大丈夫なの?」

「安心しろ。サファリ内部の環境は外とは隔離されている。だからあれは入って来れないし、いざとなればこのだっしゅつボタンがあるから問題ない」

「ホントォ? そんなこと言ったらなんか余計に出て来そうじゃない?」

「……論理的に考えてあり得ないのだから心配する必要はない」

 

 さすがにフリで言ったわけじゃないからな。ブルーはまだ疑い半分って目をしているが。

 

 中に入った後、俺は1番近くの水辺で釣りを始めた。ラプラスは保険みたいなもので、“なみのり”をするつもりはない。どこでも確率は同じだからな。ストラクチャーには獲物がいやすいとか釣りの常識はここでは存在しない。

 

「あれ、ここでするの? 最初のエリアじゃない。奥行かないの?」

「これはどこでも一緒。奥に行っても移動時間をロスするだけ」

「……ねぇ、シショーってここに来たのほんとに初めてだったの? ちょっとおかしいぐらい詳しくない? 全部根拠があって行動しているみたいだし」

「……気にするな。俺のことなんかどうでもいいだろ。それよりいつ出て来てもおかしくないから、気を引き締めていろよ」

 

 ……コーダッ(コダック)

 ……ピーポー(トサキント)

 ……ゴッゴッ(コイキング)

 

 気を引き締めようにも弱いポケモンばかり出て来るので完全に集中力が切れていた。……ブルーは。

 

「あーあ、釣れないなぁー」

「ゆっくり待て。まだ5時間ぐらいしか経ってない」

「それ……本気で言ってるの?」

「当たり前だろ」

「……というか、今回ってわたしが一緒にいる意味あるの?」

 

 こいつ、待ちきれなくて帰りたくなったのか? いや、でも考えてみればブルーは必要なかったな。なんとなくずっと一緒だったから連れて来てしまったが。

 

「ごめん、よく考えなくてもお前のいる意味全くないな」

「もう、シショー頼むわよ。勘弁してよ」

「次は1人で来るから今回だけ我慢してくれ」

「仕方ないわねー」

 

 ブルーには悪いが俺はあと半日でもまだまだいける。とはいえ、なんとか今日中に姿の片鱗だけでも見ておきたい。もしかしたら出現しない可能性も考えられるから場所を移すことなども考えないといけなくなる。

 

 ピーリュー

 

「なにっ、今の鳴き声っ!」

「っしゃきたぁ!」

 

 ミニリューだっ!! フィッシュすれば後はこっちの土俵だ。速攻で麻痺させて“いしころ”を使いボールを投じた。

 

 カチッ!

 

 よし! ここでミスを犯すわけないよな。こちとらずっとラッキー捕まえまくっていたんだ、格下のミニリュウなら余裕だぜ。片鱗だけでも、とは言ったが、実際は見つけた時点でこっちの勝ち確定だ。

 

「もう捕獲は楽勝ね。何事もなく終わって良かった。で、今のは何? カイリューではなさそうだけど」

「ミニリュウだ。それより、それは言っちゃだめだろ」

 

 何事もなく、なんてフラグにしか聞こえないんだが。イヤな予感がひしひしとする。頼むから今だけなんも起こるな。もう水辺から離れてキノコ狩りに行くからっ。

 

「え? なんでよ? 何もなくて良かったじゃ…」

 

 バッシャァァアアアンン!

 

「げっ、やっぱりそうなるのかよ! なんか起こりそうだからイヤだったんだよ、その発言は!」

 

 やはりというべきか、また水柱が上がって見事にフラグを回収した。もう意識はバトルに切り替わっている。すぐにサーチしてポケモンを探った。

 

「ウソ!? またなの! 勘弁してよぉ……別にこうなるとは思ってなかったのよ!」

 

 勘弁して欲しいのは俺の方だ。けど今回はポケモンが見える。探知に引っかかった。こうもあっさりということはまさか……。

 

「いや、違う! 今までの奴とは別だ! これはハクリュー!!」

「ヒーリュー!」

 

 ハクリュー♀ Lv35 98-81-55-51-61-62 だっぴ

 

「別? じゃあ関係ないの? でもこのポケモンなんかめちゃくちゃ怒ってない?」

「らしいな。イナズマ」

 

 すぐに“でんじは”をかけるが、構わずこっちに突っ込んできた。……俺を直接狙っている! 幸い相手のスピードは1/4で大したことはない。余裕を持って躱した。今のは“たたきつける”攻撃か。……問題は攻撃技よりも特性がきついな。攻撃後にもうしびれが取れている。カイリューと言えば“マルチスケイル”だが、ハクリューも特性は“だっぴ”で悪くない。

 

「シショー!」

「大丈夫だ。だが厄介なことにまひが治っている。特性“だっぴ”の効果だ」

「何それ、状態異常技が効かないの? じゃあどうするの?! 攻撃もダメだし何もできないじゃない!!」

「落ち着け、まだ手は残っている」

 

 今度は“まきつく”攻撃を躱しながらブルーに言った。恐ろしい技使ってくるな。あれに捕まったら至近距離からもろに攻撃されるんじゃないか? それにこいつ……攻撃するときは執拗に俺を狙ってくる。ポケモンを無視して、となるとさすがにきつい。

 

「これはどうだっ」

「リューッッ!!」

 

 苦し紛れにボールを投げても“でんじは”でうまく弾かれた。むしろ怒りを買って火に油を注ぐ結果となった。このポケモン知能もズバ抜けて高そうだ。これを攻撃なしで捕まえるのは無理か。潔く諦めて逃げるしかない。引き際は弁えないとな。

 

「ブルー、しろいきりだ!」

「わかった」

 

 ラプラスを出してもらい、霧に紛れてだっしゅつボタンを使いその場を脱した。だっしゅつボタンを使うと強制終了なので今日はもうサファリは終わりだ。緊急事態だったから仕方ない。

 

「かなり危なかったわね。結局ボタンを使っちゃったし。そういえば別だって言ってたけど、ほんとにあれが犯人じゃないの? 空から入ったかもしれないじゃない? わたしは犯人は水タイプじゃない気がしてたし。あれが犯人ってこともありえると思うけど」

「いや、現れ方や攻撃のやり口が明らかに違う。それに、あれが犯人なら5時間も出てこなかったのはおかしい」

「あ、それもそうね。やっぱり手掛かりはなしか。じゃあさ、気を取り直してさっそく捕まえたミニリュウを見ましょうよ」

 

 考えても仕方ないし、俺も早く見たいと思っていたところだ。場所を移してボールから出してみた。

 

「そうだな、顔合わせをしとくか。出てこいミニリュウ! お前らも!」

「うわぁ、すっごいかわいい! いいなー、シショーにはこんなかわいいポケモンは似合わないんじゃない?」

「シャァァ!」

 

 そういうと黙ってないのがイナズマだ。もうすっかり俺のパーティーのマスコット的な存在になっているからな。

 

「あっ、ごめんごめん。イナズマちゃんはかわいくて強くてカッコイイけど、シショーが似合っているわよ」

「ダース」

 

 イナズマは機嫌を良くして俺の頭に乗っかったが、ミニリュウは様子がヘンだった。

 

「リュ…………」

「どうした? 大丈夫、ちゃんと優しく育ててあげるからね。おいで」

 

 いつものようにあやして警戒を解こうとしたが、俺が触ろうとすると威嚇するように攻撃してきた。

 

「リューー!」

「ぐわぁっ!?」

「げ、今のは“でんじは”ね。モロに当たったけど大丈夫?」

「ああ、大丈夫。イナズマで慣れてる。乗っかっているイナズマの“ちくでん”で若干緩和されたみたいだし、驚いただけだ。しっかし、なんでこんなに嫌われてるんだ? お前のラプラスといい、珍しい系にはとことん嫌われているような」

 

 大丈夫かと聞いておきながらブルーはあまり心配してない。俺ならもうこの程度は数に入らないと思っていそうだ。微妙な気分だな。

 

「リューリュー」

「とうとう泣き始めたわね。もしかしてシショーが怖いんじゃないの? ポケモンもいっぱい出しているじゃない? この子まだ子供みたいだし、シショーを見たら……まぁ無理ないわね」

「どういう意味だ。怖がってるみたいなのは認めるがその言い草はひっかかるなぁ」

「別に他意はないわよ」

「ホントかぁ?」

 

 一旦イナズマ達を戻し、もう一度話しかけてみるが全く効果はなかった。弱ったなぁ。何をしても泣いたままだ。きのみをあげても見向きもしないし、攻撃して来るので触ることもできない。

 

「ガウガ!」

「グレン! どうした?」

 

 困った俺を見かねてかボールから出てきたグレンが言うには、この子は寂しくて元の場所に帰りたがっているらしい。そういえばあのハクリューは俺ばかり狙っていたな。とすると……まさか。

 

「ねぇ、もしかしてあのハクリューが親だったんじゃ?」

「ありえるな。そりゃ泣くわけだ。けど、サファリなのにこんなのアリか?」

 

 サファリで毎回ポケモンがこんな感じだったらちょっと捕まえにくくなるよな。

 

「仕方ないじゃない。サファリは自然のままだって言ってたし。そもそもこの子からしたらいきなり無理やりわたし達につれてかれたのよ。親と離れ離れにされたことに変わりはないわ。このミニリュウに罪はないのに、これじゃかわいそうよ」

 

 ブルーのいうことはもっともだ。ポケモンの事真剣に考えるようになったみたいだし、本当に最近子供っぽさがなくなってきたな。

 

「だよなぁ。それに、嫌がるポケモンを無理やり仲間にするのは俺のモットーじゃない。人間もポケモンも皆それぞれいるべき場所がある。このミニリュウにとっては、その場所が俺じゃなかったと思うしかない」

「じゃ、返してあげるの?」

「あぁ、そうだな。これもトレーナーの責任だ。最後まで面倒見てやらないとな」

 

 すると急にブルーは笑い出した。なんで今笑うんだ?

 

「フフ、やっぱりシショーってポケモンには優しいわよね。人を見るにはポケモンを見よ、って言うけど、シショーほど似合わない人はいないわね。ねー、グレンちゃん?」

「ガウ!」

「なんだその言葉、聞いたことないぞ。それに言ってることがめちゃくちゃ過ぎないか?」

 

 人を見ようとしているのに人から目を逸らしてるじゃん、と言いたいが、逆説的な感じからしても、こっちの世界のことわざみたいなもんなんだろうな。文化の違いというか、世界の違いを感じる言葉だな。

 

「え、知らないの? ぷぷ、しかもアホグリーンと同じこと言ってる。じゃあ絶対教えてあげなーい!」

「嬉しそうに言うなぁ、ブルーさん。無知で悪かったな。そんなこと言って、ホントは俺がミニリュウ返したら自分が捕まえようとか思ってないだろうな」

 

 俺としては知らないのはどうしようもないので諦めて話を戻した。

 

「思ってないわよ! もう、早く行きましょう。この子も早く戻りたがってるわよ」

「リュー」

「ん? わっ! このミニリュウ自分からボールに戻った。急に暴れなくなったし、まさか今の会話全部理解していたのか。やっぱり賢いな」

「急ぎましょう、わたしも見送るわ」

 

 持っていくポケモンをミニリュウとラプラスにして再びあの池の前に来た。

 

「リュー」

 

 ミニリュウは目的地に着いたらすぐに元気よく飛び出した。

 

「元気でな。俺が言うのも変だが、もう簡単に釣り上げられないように気をつけろよ」

「バイバイミニリュウちゃん、元気でねー」

 

 別れを告げて帰ろうと背を向けた時、またハクリューが池の中から襲い掛かってきた。

 

「この空気はヤバくないか?」

「まだ怒っているみたいだけどなんか勘違いされてない?」

「ヒーリュー!!」

 

 “りゅうのいかり”が飛んで来た! 文字通りやっぱり怒っているな。

 

「しまった! 俺は今手持ちがいない! だっしゅつボタンで逃げるぞ!」

「リュ!」

「しまった! こいつこれのこと理解しているのか」

 

 取り出したボタンを“でんじは”で弾かれ、絶体絶命の危機に陥ってしまった。相手は容赦なく続けて“たつまき”を繰り出した。俺は身を固くして攻撃に備えた。

 

「ヒーリュー!!」

「これまでか……!」

「ラァァ!!」

 

 この危機になんとブルーのラプラスが俺の前に現れ盾になり、見事に助けてくれた。

 

「ナイスラーちゃん!」

「ラプラス?! なんで俺を……」

「リュリュ!」

 

 驚く間もなく、また攻撃がきた。“まもる”を挟んで耐えているが、連続では使えない。

 

「待ってくれ、俺達はミニリュウをここへ返しに来ただけなんだ。すぐにここから立ち去る! だから攻撃しないでくれ。本当なんだ、信じてくれ!」

「そうなの! いきなりミニリュウを捕まえて逃げたのは悪かったと思っているわ! ごめんなさい!」

 

 それでも聞く耳を持たれず、またもやハクリューの怒りを体現したかのような“りゅうのいかり”が放たれた。運悪くそれはラプラスの守りを抜けて俺自身に直撃した。なかなかのスピードで、かつ、ラプラスを挟んで俺の死角を利用することで出所を上手く隠された。遠距離攻撃だったこともあり反応しきれない。ハクリューの思いがこもったような一撃で、40固定とは思えない衝撃が走った。

 

「ぐっ!!」

「大丈夫!?」

「リュー!!」

 

 また来る! これ以上受け続けたら動くことすらできなくなる。一か八か背を向けて全力で逃げるしかないか? 後ろから攻撃されて戦闘不能になる気しかしないが、賭けるしかない。

 

 前回の戦いを踏まえて接近戦ならこっちが躱しにくることまで想定しているような立ち回りだし、並の相手ではない。受け身になり続けているとジリ貧。ボタンをそう易々と拾わせてくれそうにもない。ブルーはいつでも1人で脱出できる。俺さえ逃げ切れば……!

 

「リュー!!」

 

 しまった! 背を向けようとしたのを見越したかのように回り込まれた! 正面にはハクリュー、背後には池。まさに背水の陣。焦り過ぎたか。こっちは攻撃もできない……万事休す!

 

(おやめなさい。そのトレーナー達の言うことは本当です。あなた方に危害を加えることはありません)

「リュ?」

「なっ、誰だっ?!」

「げっ!? なにしてるの!!」

 

 いきなり知らない声が響いて来てハクリューの動きも止まった。襲撃者の時とは明らかに口調が違うがこれもテレパシーか? 何者だ? ハクリューの攻撃も止んだのでいったんはおとなしく様子を見ることにした。

 

(本当です。このトレーナー達が信用に値することを私が保証しましょう。あなたなら、私のこの行為がこの者達への信頼の証であることがわかりますね?)

「リュリュ?」

(根拠ですか。それはあなたのよく知るその方に聞いてみてはどうですか)

「……どういうことだ?」

 

 俺1人が混乱しているのをよそに話は進んで、ハクリューはミニリュウと何か話した後、何とか怒りを鎮めてくれたようだ。

 

「あー、もうどうする気なのよ!」

(お師匠様、申し訳ありません。わけあって今までこのテレパシーの力を隠していました。これは私、ラプラスの声です)

 

 ラプラス? 視線を向けるとラプラスは黙って頭を下げた。これはやっぱりラプラスがすごいポケモンだったってことなんだろうな。やはりテレパシーはできたのか。意図的に隠していたということは、何か事情があったのかもしれない。ブルーは知っていたようだしな。

 

「そうか。ということは、どうやらラプラスに助けられたらしいな。やっぱりテレパシーとかそういうことができる奴もいるのか……。とにかく今回は助かった。感謝するよ」

(いえ。私も、誤解をうけて争うようなことになるのは見ていられなかったので。ハクリューは誤解だとわかってくれたようですね。ミニリュウをここまでつれて来たことに大層感謝しています)

 

 テレパシーもだが、1番意外だったのはやっぱり嫌われていると思っていたラプラスの態度の変わりようだ。俺に対してめっちゃ丁寧な話し方だし。

 

「リュ!」

 

 ハクリューはもう怒っていない。むしろどこか嬉しそうにしている。本当になんとかなったらしい。やれやれだな。

 

「今回はさすがに冷や汗が出た。バトルすらできない状態だからな。ポケモン持たずに草むらはやっぱりダメだと改めて思った。……無茶してたんだなぁ」

「もうっ。本当に心配したわよ! というか、シショーは1回攻撃受けたけど大丈夫なの? 怒りの籠った強烈な一撃だったけど」

「あれはりゅうのいかりといって、相手に一律の固定ダメージを与える技だからそんなに大したことはない。倒せるのはレベル15ぐらいまでだから」

「15までは倒せるんだ……シショーってけっこうレベル高いのね。あ、ラーちゃん。おかげで助かったけど、良かったの?」

 

 それについては何も言わないでくれ。今改めて自分で戦ってポケモン捕まえようとしたことは黒歴史だと判明したところだから。幸いにも上手いことラプラスがこっちに来たからブルーの気は逸れたみたいだ。

 

(もちろんです。ん? これは……)

「どうしたんだ?」

(ハクリューがお礼をしたいと言ってます。良ければ自分をつれていってくれと)

「なにっ!? 本当か! よっしゃ…いや、ちょっと待て、そもそもお前ら親子じゃないのか?」

 

 思わずフライングでガッツポが出てしまったが、このままつれてくのはさすがにマズいんじゃないか?

 

(いえ、このハクリューは群れのリーダーで、親子ではないようです。その子の親は別にいるそうですよ。ここに長くいるので、信頼できる者になら是非ついていって外の世界を見て回りたいと言っています)

「そ、そうなのか。いやー、災い転じて福となす、情けは人の為ならずか。これはツいてるなーいやーそうかそうか」

「シショー嬉しいのが丸わかりね。なんか急にことわざばっかり言うけど、意外とさっきの故事成語を知らなかったこと気にしてるの?」

 

 ブルーめ、意外と鋭い……いや、さすがに今の反応は自分でもわかりやすいとは思う。あと、あれは地味に故事成語だったのか。なんか面白い逸話とかあるのだろうか。

 

(あの、言いにくいのですが、このハクリューはブルーについていきたいと言っています。なんでも私が従っているトレーナーなら必ず信用できるとか。あなたは、今までずっと私が黙っていたことも含めて、完全には信用できないそうです。すみません、私がつまらない意地を張ったばっかりに)

「え、わたしなの!? やったー、ラーちゃんナイスッ!」

「禍福は糾える縄の如しかっ! くっそー! いや、もちろんラプラスを責めてはいない。俺が悪いんだよな。あぁ、でもこれで俺は4で、ブルーは6か。やっと並んだと思ったのにな」

 

 ここまで態度を軟化させてくれたのにラプラスを責める気なんてないし、ただただ運のなさにため息をつくことしきりだった。

 

「あ、手持ちの数気にしてたんだ。やっぱシショーでも気になるもんなのね。わたしも気持ちはわかるし、心中察するわ。じゃ、ハクリューだからリューちゃんね。これからよろしく!」

 

 そんなこと言いながらブルーはめっちゃ笑顔だけどな。もしかして意図的に煽ってんのか? 自分もお助け袋を預けた時に煽るようなことを書いたりしたけどさぁ。逃した魚は大きい。けっこう落ち込んでしまった。

 

「リュー」

(皆さんよろしくとのことです。リューちゃん、私もよろしくお願いします)

「リュリュー」

 

 挨拶した後ハクリューは水中に戻ってから何かを持って上がってきた。

 

(これは……。ブルー、リューちゃんが渡したいものがあるようです。これは何かのウロコのようですね)

「これは珍しい。名前はりゅうのウロコ。ポケモンに持たせるとドラゴンタイプの技の威力を高める。そういえばハクリューは稀に持っていたな」

「マジッ!? すっごくいいアイテムね! リューちゃん、これをわたしにくれるのよね? めっちゃ嬉しい! サンキューリューちゃん。ホントいい子ね」

「……」

 

 俺にはないのかよ?! あれだけ攻撃されたのにひどくない? 人徳の差なのか……。

 

(お師匠様、今のはブルーを気に入っただけで他意はないと思いますよ。気にすることありません。もう用もありませんしそろそろここを出ませんか?)

「そうだな。ひとまずここから出ようか。気を遣ってくれてありがとう。ラプラス優しいな」

「ラー」

 

 まさかポケモンに直接慰められる日が来るなんてなぁ。もうここでポケモンを捕まえたりする気分でもないし、帰りは寄り道はなしでサファリを出た。

 

 ◆

 

 その後、ハクリューの努力値振りも完了しサファリも終了。いよいよジム戦をして次の町へ、といきたいところだが、その前に避けて通れないことがある。

 

(わかっています。聞かれることは覚悟してました)

「あの、ごめんねシショー。悪気があったわけじゃないんだけど、どうしても……」

「事情はわかっている。もともと密漁されたって話だし、お前が見つけた時も碌な扱いじゃなかったんだろう。人間がキライでもおかしくない。それにこういうことができると知れたらどんな奴から狙われるかわかったもんじゃない。それを理解していたからラプラスは黙っていたんだろうし、ブルーも口止めされてたんだろ」

「うん。よくそんなにわかったわね。でも理解が早くて助かるわ」

「予想はしていたからな。実際にテレパシーが来たときの衝撃はヤバかったが」

「でしょ! わたしもポケモンと話せて感動したもん! ラーちゃんの話って面白いしさ!」

 

 俺の驚きはあの襲撃者以外にもテレパシー使いがいるのかって意味合いだったんだけどな。ラプラスとわかってからはお前が助けてくれるのかって驚きだったし。

 

「今までラプラスとブルーはけっこうしゃべっていたのか」

(お師匠様のポケモン達と話した内容などをブルーに話していました)

「そうか。やっぱり俺のこと警戒してたんだな」

「ギク!」

(……)

「ああ、別に責めているわけじゃない。むしろ俺にテレパシーを使ったことは不用心だったんじゃないか? あの時はもちろん助かったが、こんなこと本来言うべきじゃなかっただろう。当然聞いてしまった以上俺は絶対に秘密は守るし、できる限りそのための協力もするが、やろうと思えばロケット団にこの情報を売りつけることもできるぞ? そうなるとは思わなかったのか?」

 

 これは率直な意見。また嫌われるかもしれないがあえて言わせてもらった。こういう秘密は無暗に明かすべきではない。自分に心当たりがあるからなおさら強くそう思う。

 

「シショー、サラッとそういうこと言うのホント怖い。そういう悪いことばっかり言うせいでラーちゃんは信用できなかったんだから反省して!」

(いえ、もっともなお言葉です。ですが、私は信じていました。人を見るにはポケモンを見よとはよく言ったものです。人間の為人というものは、育てるポケモンへの態度に如実に現れます。良い心を持てば慈愛に満ち、悪しき心を持てばその命は軽んじられ、残酷なものになる。だからその者がポケモンからどう思われているかを見れば、人間の本性というものは自ずと知れるというわけです。……あなたは全てのポケモンから愛されていました。それだけでもあなたの人柄は伺えます。それに、一度私にけづくろいをして下さった時……あなたの気持ちは直接ハッキリと伝わりました。とても良い心をお持ちです。あの時はテレパシーを使うわけにもいかず、礼の一言もなく申し訳ありませんでした。我が主ブルーをあの橋で助けて頂いたことと合わせて改めて感謝の言葉を。ありがとうございます、お師匠様。そして先程の件。迷わずミニリュウを返した時点で、私の心はすでに決まっていました。ただ、機会を得る前にあのような形で唐突に打ち明けることになってしまい、本当に申し訳ありません。お詫び致します)

 

 ものすごい丁寧だな。ポケモンなのに理知的だし、やはり知能は人間以上のものがある。……あとついでにいいことも聞けた。

 

「そこまで考えていたならもう何も言うまい。それに信用してもらえたことは素直に嬉しい。こっちこそありがとう。ところで、その言葉はそういう意味だったのか。ブルーの言いたかったことがやっとわかった。ポケモンには好かれるのに性格が悪いって言いたいんだな?」

「えへへ。実際そうじゃない?」

(ブルー、ちょっとからかい過ぎですよ)

「え、元はと言えばシショーのことはラーちゃんが最初に言い出したんじゃない。ずっと警戒してさぁ。何言ってるの?」

(あ、余計なことを! いや、これは違うんです!)

「もうその話はやめよう。ラプラスの話が面白いって言ってたのはそういうことなんだな。これ以上は俺の精神的なダメージが大き過ぎる。ポケモンに悪く思われていた話とか聞きたくないし。とにかく、これでお互いわだかまりもなくなったし、改めてよろしくな」

 

 強引に話をまとめた。ブルーは隠そうともしないで爆笑し、ラプラスは苦笑いしながら答えた。

 

(はい、お師匠様)

「ずっと俺の事はお師匠様って呼んでいるが、なんでそんな呼び方なんだ?」

(ブルーのお師匠様だからです。あなたはサイレンスブリッジで自らおとりになってブルーを助けました。悪党には決して真似できないことです。あの時からあなたは本当に良い師匠だと感服しましたのでこう呼ばせて頂きます)

「そう思われるのはもちろん嬉しいが、そこまで畏まらなくても。ブルー、ラプラスはいつもこんな感じなのか?」

「それがラーちゃんだから。シルフで助けてからわたしのナイトみたいになっちゃってずっとこうなの。しゃべり方は直せないってその時から言ってたわ。でも、おしゃべりしている時はけっこうおちゃめなのよ? 最初はシショーのことも“油断ならない悪の手先”って言ってたし」

 

 ええ……最初はそんな感じだったのか。ポケモンに言われると堪えるな。

 

(ブルー! それを言うなら、あなたも“あの人はわからずやのけちんぼだからそこには気を付けてね”って言ってたじゃないですか!)

「げっ! いや、それは冗談のうちじゃないの」

「お前ら、そんなこと言って楽しんでたのか」

 

 ブルーはもういい。いまとなっては師匠に対する敬意もへったくれもあったもんじゃないからな。全く誰に似て……お、俺か。

 

「ご、誤解よ! でも、ラーちゃん面白いでしょ?」

「お前が話に付き合わせているだけだろ。そんなことしゃべる前に、もっとその能力を有効活用しようとか思わないのか? まぁ悪用したりするよりマシだが」

(純粋なところがブルーのいいところなんです)

「まぁそうだな。で、ラプラスに1つ聞きたいことがあるんだが、あの襲撃者のこと、本当に何もわからないのか?」

 

 ラプラスと話ができるならもう一度これは聞いておきたい。案の定俺の望んでいた答えが返ってきた。

 

(実は、私に考えがあって、あれは絶対にみずタイプポケモンの仕業ではないと思うのです)

「それはお前の考えだったのか。それでブルーが隠そうとして変な感じのリアクションだったわけね。ちなみにその考えの根拠は?」

(あんなことはただのみずタイプポケモンには不可能です。おそらく伝説級のポケモンの仕業でしょう。それに何度も襲われているとなると、また来る可能性が高いのではないでしょうか)

 

 その仮説が正しいとなればだいぶ限定されるな。まず水の中に潜んでいて、かつ遠距離からあのレベルの攻撃ができて、それでいて水タイプでないとなれば……限定どころかそんなポケモンいなくないか? 他の地方の奴も考えた方がいいのかもしれない。ポケモンって種類だけは無駄に多いからな。

 

「なるほど。ラプラスから見てもヤバイってことは相当だな」

(心当たりのポケモンは?)

「まだなんとも……。でも教えてくれてありがとう。参考になった」

(いえ。これからも困ったことがあればお呼びください)

 

 お礼に頭を撫でてあげると、ヒンヤリとしていていい心地だった。こおりタイプならではの感触だ。今は夏場だし、暑ければ重宝しそう。水も出してくれるし、背中に乗れるし、ラプラスって思ったよりも万能だな。

 

「ああ、頼りにさせてもらうよ。ブルー、お前いい仲間に恵まれたな」

「でしょ? ラーちゃんってホントにいい子なのよね。そうだ! シショーにもラーちゃんと最初に会った時の話をじっくりしてあげる! 聞くも涙語るも涙なんだから!」

 

 ラプラスのなつき具合だけでもただならぬ出会いだったことは想像できる。ちょっと気になるし、せっかくだから聞かせてもらおうかな。

 

 ブルーは身振り手振りを交えて詳しく語ってくれた。ブルーに聞かされた話もたしかに興味深い。でも、それ以上にその隣で微笑ましそうにブルーを見つめるラプラスの表情が印象的だった。

 




良い話な感じのところにどうでもいい話をしますが、カイリュー系統は表記ややこし過ぎです

ミニリュウ
ハクリュー
カイリュー

なんか仲間外れいませんか?
どうでもいい威力変更するぐらいなら命中率改善とか表記統一とかやることあるでしょう
表記の違いに気づくまで検索でひっかからなくてわけわかりませんでしたよ

……もしどっかで間違えてたらこっそり教えてください

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