Another Trainer   作:りんごうさぎ

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2.緊急Sランクは事件の香り

 とりあえず一難去ったし、まずはポケセンでポケモンを預けてから買い物ね。お金稼いどいてよかった。色々買っちゃおうっと。ジムが開くまでは依頼でもこなして買い物してようかなー。

 

 ルンルン気分でデパートへ向かうと、遠くからでも見える程おっきな建物だった。これが今まで目に入らなかったのが不思議なくらいね。ついさっきまでホントに大変だったからなぁ。

 

 さてさて、どんなものが売ってあるのかしら。インフォメーションを見ると……色々あるわね。ふむふむ。あっ、ドーピングもあるじゃない! これならもし新しいポケモンを捕まえても大丈夫ね。とりあえず、やっぱり最初は2階のトレーナーズコーナーからね。キズぐすりも少ないし。

 

「ぷはー。いっぱい買っちゃった。それに久々のサイコソーダ、おいしいわね」

 

 満足いくまで買い物を楽しみ、屋上のベンチに座ってサイコソーダを飲んでいた。シショーといる時はおいしいみずばっかりだったもんね。コスパがいいとかよくわからないことを言っていたけど絶対こっちの方がいいじゃない。

 

「相変わらず炭酸ばっかり飲んでるんだな」

 

 いきなり懐かしい響きの声がして反射的に振り返ると、これまた懐かしい顔、幼馴染のレッドがいた。……え、レッド!? なんでこんなとこに!

 

「うそっ、れ……レッドッ! 久しぶりじゃない! 元気してた?」

 

 コクリ、と首だけ動かして答えた。この感じ、なんかものすごく懐かしく感じるわね。

 

「あいっかわらず無口ね。そんなあんたが話しかけてくるなんて珍しいじゃない。ずっと会ってなくて寂しかったとか?」

「そんなんじゃない。ブルーが追いついてくると思ってなかったからびっくりして、話を聞いてみたくなった」

 

 こいつ、茶化してやっても乗ってこないし真顔でこんなこと言ってくるなんて、こんなとこまで変わらないわね。

 

「はっきり言ってくれちゃうわね。まぁたしかに、最初はちょっと後れをとったけどもう油断しないわよ。あんた達なんか軽く追い抜いてやるわ! そういえば、バッジは何個集めたの?」

「4つ。ニビ、ハナダ、クチバ、でここ」

「くうう! わたしもここのバッジさえあれば4つなのに! あんた運がいいわね。ジムさえ開いてればなぁ。今来たところだし仕方ないけど」

 

 惜しい! もうちょっとで追いつけていたのに! なまじ追いつけそうだっただけに悔しさもひとしおね。

 

「やっぱりそうか。やるな。じゃ、あいさつ代わりにバトルでもするか?」

「あんた今日はやけに積極的ね。望むところよ! ……と言いたいところだけど、今はポケセンに預けてるの。場所を移してそこでやりましょうよ」

 

 ここでバトルに勝ってわたしも追いついてるってとこを見せてやる! バッジの数なんて実力と何の関係もないもの。今なら勝てるわ。

 

「そうか。悪いが時間が来たらこの後はグリーンと依頼をするから、今から場所を変える時間はない。また今度にしよう」

「じゃあ仕方ない、また今度ね……って、ちょっと待てぃ! グリーンの奴までここに来てるの!?」

「ああ。お前も来るか?」

 

 勝負できないがっかりより、グリーンのことで頭がいっぱいになった。あいつはわたしが挫けるきっかけになった言葉を言った。今でもちょっと、いや結構、ううん、大分根に持っている。

 

「誰がっ! あのウニ頭、ニビでわたしをバカにしたこと忘れてないんだから! 次会ったら泣かす! 絶対! それ終わったら絶対にポケセンまで2人で来なさいよ! まぁ積もる話もあるしね。あんたもそれで声かけてきたんでしょ? 3人そろうのなんて久しぶりだし」

「絶対に行く」

 

 短くそれだけ言うとレッドは先に行ってしまった。はぁ、まさかレッドにここで会うとはなぁ。あいつ見ていると、こんなことしている場合じゃないって思っちゃうわ。もう時間も潰せたし、さっそく戻って特訓開始ね。新しい技でも覚えようかしら。

 

 ◆

 

 ポケモンセンターに戻って預けたポケモンを受け取った。頭の中はもうどうやってあいつらに追いつくかしか考えていない。強くなるにはやっぱり依頼とかこなしていくしかないのかな。特訓も1人じゃ効果あるかわからないし。

 

「お預かりしたポケモンはみんな元気になりましたよ」

「どうもありがとう。よし、じゃあ……そうね、どうせなら今依頼も見とこ。ここに来ている依頼でランク4以下のやつ見せてもらえますか?」

「わかりました。といっても、今はこの町はちょっと大変なことになっていて、依頼は全部似たようなものしかないの」

「どういうこと?」

「実は最近この町の近くに変な工場があちこち増えて、そこの廃液からものすごい数のベトベターが出てきているのよ。定期的に大量発生して、今週なんかもう3回も! それが町に襲いに来るのよ。またいつ出てくるかわからないし、今日もさっきあなたぐらいの子供が増え過ぎたベトベターを討伐に向かったわ。だからできたら次の討伐依頼が来るまで手を空けておいて欲しいの」

 

 うえーっ。ベトベターってあれよね、べたべたの、触りたくない奴。ポケモン同士でも戦わすのはかわいそうだなぁ。でも困っているみたいだし、どうしよっか。それにさり気に今話に出た子供ってレッドとグリーンよね。あいつらの方も気になるし……。

 

「大変です、ジョーイさん!」

「どうしたんですか? 落ち着いて話してください」

 

 どうするか悩んでいると慌てた様子の大人が駆け込んできた。ただごとじゃない空気ね。ヤバイ事件でも起きたのかしら。ボスゴドラ事件の時と同じにおいがする。

 

「それが、とうとう町の中でも出たんですよ! 20はいます! もう周りの民家などを攻撃し始めていて……」

「そんな! 町の中まで危険だとなれば住民にパニックが起きるわ! なんとかすぐに討伐しないと。エリカさんは動けないの?」

「もちろん先に当たりましたがダメみたいで。例のやつですよ。今はお弟子さん達が応戦していますが、いかんせんくさタイプは相性が悪いのでいつまで持ちこたえられるか……」

 

 ほんとにヤバそうね。ジムリーダーが動けない上、依頼で有力なトレーナーは出払っているはず。この町が手薄になるのをまるで狙い澄ましたかのようね。間の悪さにイヤな感じがするけど、危ない事件でもわたしがやるしかなさそうね。

 

「決めた! わたしが何とかするわ。あなた、すぐに現場に案内して!」

「おお! トレーナーか! まだいたとは、これは助かった!」

「ちょっと待って! あなたランク4でしょう? ベトベターは全員レベルは30以上。しかも20匹も相手することになれば、難易度はSランクにもなり得るわ。さすがにあなたには荷が重過ぎる」

 

 Sランクか。ちょっと怖いけど、でも今はやるしかない。できるできないは関係ない。できなければこの町が滅ぶ。考える時間はない。とっさに思いついた言葉をそのまま言った。

 

「安心して。わたし、一応緊急でSランクの依頼をこなしたこともあるから。ニビのボスゴドラ事件って知ってる? あれにわたしも一枚噛んでるの」

「本当なの!? それなら大丈夫なのかしら? いえ、もう考えてる時間はないし、ここはお願いします」

「すぐ案内して」

「わかりました」

 

 ◆

 

 久々の依頼、またいきなり大変なのに関わることになったわね。現場は大混乱だった。住民の避難はできているようだけど、トレーナーはもう2人しか残っていなかった。近くで何人か倒れている人もいる。きっとポケモンの攻撃にやられたのね。本当に人間にも襲い掛かるって事実を改めてまざまざと突き付けられた。でもビビッてる場合じゃない。

 

「アヤメ、ごめん私もやられた!」

 

 訂正、トレーナーは残り1人ね。まだ相手は10以上残っている。これはしんどいわね。でも、ボスゴドラに囲まれたあの時に比べれば、絶望的というには温過ぎる。たったのレベル30、大したことない。

 

「助太刀するわ。後はわたしに任せて!」

「増援?! ありがとう、もう限界だったの!」

「いいから下がって。やどりぎのタネ、つばめがえし」

 

 こいつら動きは遅いみたいだから“やどりぎのタネ”で回復できるわね。暴走族とやっているときこの技の有用性はよくわかった。これを使わない手はない。

 

「待って! あいつらの中にはヘドロえきっていう回復技を使うとダメージになる特性を持っている奴がいるみたいだから気をつけて」

「ウソでしょ!? フーちゃん大丈夫?」

「フシッ」

 

 なんとか当たりを引いたみたいね。回復がダメなら仕方ない。できるだけダメージは抑えるしかない!

 

「すなかけで撹乱、右の奴らはしびれごな」

 

 動きはかなり制限したけど、まだこっちから反撃はキツい。スキを作る行動は自滅を招く。しかも相手からは連続で技が来るから避けきれない!

 

「上昇して当て逃げよ! できるだけ注意を引いて。 フーちゃんはさっきやどりぎのタネ入れた奴にギガドレイン」

 

 最初が1番きつかったけど、とにかく堅実に辛抱強く立ち回った。回復しながら少しずつ数を減らし、気づけば残り4、5体という状況。あとはしびれて鈍い敵に攻撃を叩き込みまくるだけ。最後はあっという間に数を減らし、いよいよラスト1体になった。

 

「よし! トドメよ! つばめがえし!」

「ジョッ!」

「ベタァ……」

 

 全部倒した! やった、何とか勝てたわ!

 

「やったやった! ……ふふん、ざっとこんなもんね」

「「おおおおお!!!!」」

「すごーい。あの数のベトベターをほぼたったの1人で」

「2匹同時に的確な指示。カッコイイーッ!!」

 

 バトルに夢中で気づかなかったけど、いつの間にか周りに人が集まっているわね。避難したのじゃなかったの?

 

「なんでこんなにギャラリーがいるのよ?」

「それはあなたのことを聞きつけて集まったに決まっているでしょ? すごかったわ。私じゃ全然歯が立たなかったのに」

「あ。あなたは最後まで戦っていた、たしかアヤメさん?」

「ええ。とりあえず、先にジョーイさんのところに報告に行きましょう。みんなを安心させて、それから小さなヒーローの紹介もしないとね」

「ヤダ、わたしそんなガラじゃないのに」

 

 とは言いつつも、内心はものすごく嬉しかった。自分もシショーみたいにヒーローになれて、少しその背中が見えた気がしたから。

 

 ◆

 

 ポケセンに戻ったらたくさんお礼を言われて、依頼としての達成ということにもしてもらえて、しっかりわたしの実績になった。その時、もちろんボスゴドラ事件の解決の功がないのはバレて、正直に本当のことを言ったがむしろ感心された。よく生き残ったな、みたいな感じで。

 

 そして今回のことでなぜ突然町の中にポケモンが現れたのか調査することになった。わたしも協力して捜査に加わったが、なかなか発生源がつかめなかった。日をまたいで次の日も行うけど成果は芳しくない。目撃情報などからある程度絞れているものの、どうもその足跡が不透明で、ほんとに湧いて出たとしか思えない状況だった。

 

「困ったわねぇ」

「あの、思うんですけど、あの子達も一応ポケモンだし、何か上手く誘導したりして野生に返したりはできないんですか?」

「それがダメなのよ。ここに出るベトベターは狂暴で人間を襲う習性があるから」

 

 やっぱりダメかぁ。でもなんでなのかな。ここだけベトベターが狂暴なんて。何か裏がありそうな気がする。これは……事件の予感! わたしが謎を解いてやりたいけど、でもなんの手がかりもなしじゃなぁ。憂鬱としていると、そこに更なる凶報が舞い込んできた。

 

「一大事だ! 昨日工場に向かった討伐隊が壊滅して戻ってきた! トレーナーもすっかりボロボロだ。かなり深刻な状態だぞ」

 

 う、うそっ! そんなのウソでしょっ!? その討伐隊ってレッド達が一緒のやつよね。まさかあいつらっ……! お願い、なんとか無事に帰ってきて! まだ言いたいことなんにも言えてない!

 

「レッド! グリーン!」

「待ってブルーさん! あなたがいってもどうにもならないわっ」

 

 居ても立ってもいられなくなり、ポケセンを飛び出して西にあるという工場の方へ向かった。誰かに呼び止められた気がしたが振り向いている余裕はない。無事でいなさいよ、2人とも! 

 

 ずっと走ると町の端で、帰還している途中の討伐隊を見つけた。その中に赤と緑の姿を見つけた。

 

「いた! レッド、グリーン!」

「あれは……ブルー!」

「ホントにいたのか。けっ、いきなりこんなとこを見られるとはな。ツいてねーぜ」

 

 近づけば近づく程、全員がボロボロになって逃げ帰ったということがはっきりとわかった。意識のない人もいる。きっとポケモンに攻撃されたのだろう。ほんと、人間にも容赦なく襲い掛かるわね。

 

「はぁ……はぁ……あんた達、ホントにっ……」

「おいおい。なんだよ、息せき切って。まさか、オレらがしっぽ巻いて逃げ帰ったのを聞いて大急ぎで笑いに来たのか? いいさ、笑えよ。どうせオレ達は……」

 

 自嘲気味に笑うグリーンを見て、わたしの中の感情のタガが外れた。こんなこと言う奴には、はっきり言ってやらないと! この大バカは、なんにもわかってないわ!

 

「バカッ! バカグリーン! わたしがあんたのことどんだけ心配したと思ってんのっ! いっつも偉そうなことばっか言ってすぐ慢心して、肝心なとこで大ポカかますんだから! 死んだかもしれないのよ! 死んだらもう会えないのよ! それなのに何悪びれてんのよ! たしかにあんたのことはすっごい腹が立ったし、今も許してないけど、それでも大事な幼馴染なんだから、死にそうになってるのを見て笑ったりするわけないじゃない!」

「ったく、お前はいっつもビビり過ぎなんだよ。ちょっとポケモンバトルで負けただけだってのに、大げさな奴だぜ」

 

 ほんとに、こんなときでも見栄張って! バカなんだから! 生きていることより大事なことなんかないでしょっ!

 

「ウソ言わないでよっ。こんなボロボロで、ほんとにヤバかったんでしょ! それに……ベトベターは、あなた達が行った後に町に現れたの。だからあいつらのことはわたしも知っている。実際に目の当たりにしたわ。あれはほっておけば大変なことになる」

 

 さすがにこの発言には周りのトレーナーにも動揺が走った。すぐに町のことを聞かれたがわたしはさっきまでとは違い冷静に答えた。さっきは感情的になったけど、今の状況を思い出してもう落ち着いた。

 

「そんな、町は大丈夫なのか?」

「ええ。わたしが倒しましたから」

「おまっ、あいつらとやりあってたのか。しかも勝っただと? そんなこと信じられるわけ…」

「グリーン」

 

 まだ減らず口を叩こうとするグリーンを、ずっと沈黙を貫いていたレッドが諫めた。

 

「なっ、なんだよ」

「ブルーの気持ちも考えろ」

「……あーもう、わかったよ! オレが悪かった。あれだけバカにしたのに、お前がそんなんだと調子狂うんだよ! くっ、ホント悪かった。謝っとくよ、一応な」

 

 レッドって言葉数は少ないけど、一言で核心を突いちゃうから重いのよね。グリーンのことは今まで怒りでおかしくなりそうなぐらいだったのに、一言謝られただけでもう許してもいいやって気になっちゃった。なんでなんだろう。でも、悪い気はしない。

 

「それでいいわ。グリーンはツンデレさんだしね。さぁ、町の話もするから、みんな早くポケセンに急ぎましょう」

「おま、どさくさに紛れて何言ってんだ! そんなんじゃねーよ!」

 

 2人とも軽口が言えるぐらい元気みたいだし、グリーンのかわいいところも見られたから、まんざら悪いことばっかりじゃないわね。一安心したのと、グリーンの心変わりに、わたしは気づいたら笑みまで零れていた。

 

 




コスパはおいしい水とシルバースプレーが最強

肝心なところで大ポカな性格の由来はあれです
この俺様が! 世界で一番! 強いってことなんだよ! からの三日天下のくだり

ベトベターの発生源はゲームコーナー横のあれです
ゲームコーナーがロケット団の施設なことを踏まえればどう考えても意図的なものを感じます

ブルーがグリーンに言われたことに関してはだいぶ先でその話が出てきます
トレーナーなんかやめちまえ、みたいな感じの発言です


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