うららかな日差しのもと、ポケモンの鳴き声を聞いたり虫取り少年とバトルしたりしながら地下通路を目指して歩いていた。
「ピーちゃん、つばさでうつ!」
「ああ、バタフリーッ! くっ、俺の負けだ」
「やりー!」
バトルは基本ブルーのレベル上げと実践経験のために譲り、俺は1戦ごとにブルーを指導するようにした。
「状態異常をかぜおこしで避けたのはいい判断だ。相性の良さもしっかり活かせている。よくできたな」
「でしょ? シショーに状態異常は注意しろって散々言われたからねー」
「だが、攻撃の避け方があまり良くない。あいまいに避けろというのではポケモンがどっちに避けるか考える分動きが少し遅くなる。どっちに避けるべきか、ブルーが判断して伝えればすぐに回避に移れる。次からはこれも意識した方がいい。そうすればムダなダメージは減らせる」
「なるほど、わかった。あー、でもちょっとお手本を見せてほしいかなぁ」
「仕方ないな」
次のバトルで俺が戦い、わざとわかるように動いた。
「なるほど。右とか短くすぐに伝えるから1歩目が早いのね。だからあんまり攻撃を受けないんだ。息が合ってないと難しそうだけど、できたらカッコいいかも」
「ブルーはポケモンと息は合ってるから練習すればできるはずだ」
「そう? えへへ。あ、ねぇ、さっき急にボールに戻っていった技があったわよね。あれってなんなの?」
作戦は上手くいったな。褒められると素直になるから、先に褒めてから直す部分を言うと話を聞いてくれる。それに見るべきところを教えれば手本を見て自分で理解できる。何となくブルーの扱いがわかってきた。
「あれは“とんぼがえり”という技だ。俺が好きな技の1つ。威力はきりさくと同じぐらい。効果は使うと強制的に手持ちに戻り、好きなポケモンと交換できる」
「へぇー、面白い技ね。でも使いにくそうかな。勝手に戻るんじゃあねー」
「この技のメリットは攻撃しながら戻れることだ。相性の悪い相手が出てきたらとりあえず隙を見てこれを使えば有利な控えと交換できる。相手が交換した後すぐにこれを使えば有利な対面を維持できるし、交換合戦のときは重宝する。みがわり……は使う奴がいないか。あ、あとはこんなふうに連携させることもできる」
いくつか使い方を見せるとブルーもわかってきたようだ、この技の素晴らしさが。本当は交換読みとかで使うんだが、交代際に攻撃とかしないから仕方ない。
「意外といいわね。つまり、不利な時はこれ使って交代して、有利なときは他の技使えばいいってことね」
「まぁ、とりあえずはそんな感じだな」
「これわたしも使ってみたい!」
「じゃあ今から覚えるか? この前ピジョンにとんぼがえりとか教えるって約束していたしな」
「ホントに! やった、シショー太っ腹!」
技を覚えて、ブルーは上機嫌。並行してフシギソウにも“ギガドレイン”などを覚えさせた。着々とブルーも強くなっている。この分なら近いうちに1人でも……。
しばらく歩き続けて、正午を回った。意外と地下通路は遠い。ゲームみたいに近いわけはないと頭ではわかっているのだが、どうしても体感はすごく遠く感じる。ブルーも疲れているはずだし、そろそろ休憩にしようか。振り返って少し後ろをついてきているブルーに呼びかけた。
「ブルー、ずっと歩いてるけど疲れてない?」
「んー、大丈夫よ。あー、おなかはへったかなぁ」
「じゃあ、そろそろ休もう。無理することないし。すぐ昼食にするから、これ飲んで待ってて。ホイ」
おいしいみずを投げ渡して準備に取り掛かった。ブルーも始めの頃は手伝おうとしてくれたが、致命的に家事全般は能力が低いので俺が全てやっている。面倒事はキライな俺は普通なら雑用すらできない無能を罵倒するところだが、ものすごくおいしそうに食べるし、お礼は必ず言うので、結局進んで自分からするようになっていた。こっちに来てから育てたり弟子の面倒見たりそんなことばっかりしている気がする。
「おいしー! やっぱりシショーのご飯が1番ね。焼肉もいいけど、これが1番なんか安心する」
「どういたしまして。……デザートもあるから」
「さっすが! シショーは料理も読みが一味違うわ!」
「別に上手くないからな」
乗せられているのはわかっているが嬉しい自分がいる。自分のチョロさ加減にびっくりだ。そして休憩もそこそこに、また歩き始めた。
「さ、どんどん進みましょう」
「……ブルー、左から来てる。食後の運動だ、軽くやっつけてこい」
「あいあいさー」
さっそくポケモンが出てきた。あれは……
「ニャーゴー」
ニャースか。特性“ものひろい”のくせになんにも持ってないのかよ。使えない猫だな。そういえば“ものひろい”ってどうなるんだろ。さすがにボールに入れたままなんか急に持ってたらホラーだよな。
「フーちゃん、ギガドレインで体力もらっときなさい!」
そんなことを考えていると倒してしまったな。特に言うことはないか。
「新技の方も絶好調だな。申し分なし。この調子でいこう」
「やった! フーちゃん、褒められちゃったわよ」
「フッシッシ!」
お前の鳴き声はナチュラルに笑い声に聞こえるな、フシギソウよ。
「あー、早く来ないかなー」
ブルーはずっと戦闘を待ち望んでスキップまでしている。早く褒められたいのが見え見えだが、微笑ましいので指摘することもなかった。
「ブルー、疲れてない? 水飲む?」
「わたしはめっちゃ元気よ! お水は貰うわっ」
“おいしいみず”ばかりなのはこれが1番コスパがいいからだ。ブルーはサイコソーダがいいらしいが。
気分が乗っている時のブルーは本当にスタミナがすごい。腕力もかなりあったし、身体能力はけっこう高い。……まさか俺が低過ぎるという可能性もあるのか。と、トレーニングとかした方がいいのか? でもそんな時間ないしなぁ。サーチやらの研究に明け暮れているからな、今は。あ、そう思ってサーチしてみればさっそくポケモンか?
「右から2体。多分同時だな。丁度いい。1対1はもう十分形になっている。試しに次はお前も2体出して同時に相手してみろ。こういうのも慣れておいて損はない」
「わかったわ。今なら相手がどれだけいても負ける気しないもん。見ててよ、華麗に勝っちゃうから!」
思えば俺の最初のトレーナー戦は3体同時だったし、ここじゃ何があるかわからない。ブルーも万が一のために慣れさせておくべきだ。ブルーは何も考えず意気揚々とバトルをしかけるが、意外にも結果は惨憺たるものだった。
「え、あ、避けて! ああ、避けるのはピーちゃんの方よ! あ、“エナジーボール”! そっちじゃない! ああ、次はどうしよう……」
頭がこんがらがってどうしようもないな。この有り様ではこれ以上やってもムダだろう。ひんしになる前にアカサビを出して相手を片付けて戦闘を終わらせた。
「……」
「ブルー、元気出せ。最初は誰でもこんなもんだ。でも最初の1回を超えないことには次はない。これを活かして次頑張ろう。ほら、さっきまでの元気はどうした?」
「でも、あんなに下手な指示しか出せないなんて……わたし、才能ないわ。シショーは1体で簡単に倒したし。こんなんじゃ……ダメ、なのに……」
ボロボロ泣いて下を向いたまま動かない。野生のポケモンに負けたのはショックかもしれないが、どうしてここまで深刻になるんだ?……もしかして俺が見ているからなのか。期待をかけるようなことを何度も言った。本人も褒められたくて小躍りしていたし。……あ、ありえる。俺のせいなのか。
「……ブルーさん、今回は重症だな。どうやったら上向いてくれるんだ?」
「……」
「これで元気出る?」
また顔を寄せて抱き留めると、真っ赤な顔でこっちを見てくれた。「元気になった?」と問うとコクコクと首を縦に振って頷いた。今はしびれるからあんまりしないが、イナズマがイーブイだった頃はほんとに抱っこが好きだった。なんか落ち着くみたいだ。ブルーの反応もその頃のイナズマと似ている。案の定泣き止んだ。
「じゃあ悪かったところを反省しよう。まず、指示は誰が誰に何をするか、明確に言うこと。じゃないとポケモンも混乱して動きがまとまらない。次に、互いに動きが邪魔にならないようにして、できれば互いに隙をカバーし合うようにすること。どうすればより隙をなくせるか、どうしたら効率的に動けるか自分で考えれば、おのずと見えてくるはずだ。例えば、対角線同士で技を出したらぶつかる。相手は選べるから、両方が相性のいい方と戦うべき、などだな。あとはトレーナーは大局を見て素早く指示を出すこと。目の前だけでなく、一手二手先まで考えられればスムーズに指示が出せる。ちょっと俺と練習しよう。一緒に頑張ろうな?」
「うん」
動きは見違える程良くなり、ブルーも自信を取り戻したのか少し元気になった。歩く足取りはまだ軽くはないが、思い詰めるほど深刻ではない。とはいえまだスキップしていた時に比べると下を向いて暗い表情だが。
「ブルー、下ばっか向いて、何考えてるんだ?」
「えっ。いや、別に」
たまに後ろを振り返って様子を見るが、ずっと下を向いたままだ。ちょっと気分を上げさせようと話しかけてみた。
「ずっと下向いてると俺とぶつかるぞ。あ、そういえばぶつかるといえば面白い話があるんだ。ブルーは“フラッシュ”っていう技知ってるか?」
「明かりで命中率を下げる技?」
「そうそう。それって洞窟とかを明るくする効果もあって、暗い洞窟では普通それを使うんだけどな、俺ぐらい上級者になると洞窟のルートを完全に暗記してあえてフラッシュは使わずに目隠しプレイをしたりするんだ」
「えっ、ウソでしょ! 真っ暗なのに迷ったらどうすんのよ! そもそもそんなことできるの?!」
「もちろん下見は何度もする。そんで少しずつ覚えるんだ。でも迷ったらほんとになんにもわからなくて、何度閉じ込められたか。脱出するのは大変だが、正解はあるから戻る可能性はあると信じて壁にぶつかり続けながら戻るわけだ。こころのめのない奴は洞窟の闇に飲まれるのさ。迷うのはだいたい覚え違いだが、たまにあるのは人間にぶつかるパターンだ。予想外の計算違いだから対処が難しくてな。今のお前みたいにな」
「え、じゃあそのぶつかった相手の人もまっくら上級者なの?」
「えっ! あー、まぁそうなるな。それで……」
ゲームの話で盛り上げて、気分転換させようとあれこれ言っているうちにブルーもだいぶんマシになった。そんなときまたポケモンが出てきた。
「これは……また複数、今度は3体。ブルー、汚名返上のチャンスだぜ?」
「ッッ! わ、わたしがやるの?」
「自信がないのか? 戦う勇気もない? だったら俺がやろうか?」
「……ううん、わたしがやる。見てて」
ブルーは健闘した。しかしあと1歩というところで勝てなかった。またひんしになる前に俺に助けられる形となった。今度はもうこの世の終わりという顔をしている。真っ青で涙も逆に出ない程らしい。
「シショーごめんなさ」
「ブルー、よくやったな。さすがだ」
「……い、ええっ? なんで褒めるのよっ」
「ちゃんとさっき俺に言われたことは全部できていたし、2回目でここまで形にできるなんてそうはいないよ。戦闘で難しくなるのは相手が複数になった時。これが1番キツい。当然最初から勝てる程甘くはない。だけどブルーはもう少しで勝てるところまで来た。俺はブルーを弟子にして本当に良かったと思ったよ。よく頑張ったな」
「シショー、わたし……ものすごく嬉しい。わたしのこと失望とかしてないのね?」
今のブルーにとっては俺からの評価が全てなんだろうな。いいとこ見せたいと気負い過ぎるところが今までもあった。
「ブルーの才能がすごいってことは誰よりもわかってるつもりだ。何があっても失望したりしないから。あんまり落ち込んだりしないで、負けたら全部俺の教え方が下手なせいだと思って割り切るぐらいじゃないと、一々気にしてたら身が持たないぞ」
「そんなっ! シショーは教えるの上手いわ! わたし、人の話聞くのは苦手だけどシショーは聞きやすいし、歩いている時もいつもわたしのこと気にかけて、落ち込んでも励ましてくれて嬉しかったし、なのにシショーのせいだなんて冗談でも思ったりしないわよ!」
「ありがと、その気持ちだけで報われる。でも本当に一々負けを引きずったらダメだ。勝敗は兵家の常。勝負事なら負けることは誰にでもある。勝ち負けよりもまず強い心を持つことがトレーナーには必要だ。今は泣いてもいいけど、下は向くな。胸を張って前を見ろ。自信を持っていればポケモン達も安心する。逆にトレーナーが不安を抱くと、ポケモンにもそれは伝わる。ブルーの才能は俺が保証してあげるから、苦しい時こそ笑っていられるような、そんなトレーナーを目指せ。いいな?」
「うん。わかった。もう下は向かない。ポケモン達にも情けないところ見せたくない」
「よし、そうでないとな。じゃあ、さっきの反省をして、また次頑張ろうな」
「うん。次は勝ってシショーを驚かせてやるわ。もう目が覚めた。弟子入りするときのことを思えば、こんなの大した障害じゃないもの」
その考え方はどうなんだ。引き合いに出されても反応に困る。
だがこの次、今度は4体相手のバトルでブルーは圧勝して本当に俺を驚かせてくれた。元気も戻り、いつものブルーになった。本当に見ていて楽しみなトレーナーだな。
「こいつ、散々心配させといて、結局簡単に勝ちやがったな。これはお仕置きだな」
「わたしだってびっくりなのよっ! でも……心配、はやっぱりしてたんだ。あ、ちょっとほっぺぐにぐにひないへよ、なんで勝ったのにおしおきなの、ううー!」
「それはブルーのほっぺがぷにぷになのが悪い。しばらくこうさせてもらおうかなぁ」
「ふぁなしへよー!」
と、言いつつそんなにイヤそうじゃないので割と本気で遊んでしまった。さすがに最後にはジト目で見られたが適当に頭をぽんぽんしているとなんとかなった。これからなんかあったらバツでほっぺぐにぐに、続けようかな。笑いながら俺はそんなくだらないことを考えていた。
◆
目的の場所が見えてきた。地下通路だ。これでヤマブキを越えてハナダへ直行だ。
「ねえ、ここちょっとまずくない? もしかして暴走族が出るっていう地下通路じゃないの? なんか危険って張り紙とかあるしやめた方が……」
「心配するな。ちゃんと考えてある。それに今はここからしかハナダへ行く手段がないからな。とにかくついてこい。中は広いからグレンに乗っていく。あ、乗せてやってもいいが首を絞めたら振り落とすから」
「あっ、置いてかないでよ。首絞めたりするわけないでしょ。もう、シショーの言葉、信じるからね、信じていいのよね!?」
やたら不安がるブルーを無理やり引っ張って中へ入った。さすがに3度目はなかったな、首絞め。
この通路ものすごく長い。町2つ分の移動だから当たり前だが、これだけ広いと暴走族が入り浸るのも当然だな。
道半ば、半分ほど来た時、妙な揺れを感じた。それはだんだん大きくなり、ブルーも感じたようだ。
「これ……ウソッ! やっぱり出たのよ! なんてツいてないの! シショー、今すぐ引き返しましょう! まだギリギリ逃げ切れるかも……ってシショー!? その目は……」
「あぁ、俺はやっぱりツいてるらしい。カモがネギしょって箸まで持ってきたぜ。お前は下がってな。余計なことは絶対するな」
自分でも思わずニヤリとしてしまったのがわかる。ブルーはものすごく引きつった顔をしてるがそんなに暴走族が怖いのか?
「アカサビ、後ろで“準備”してくれ」
アカサビセット完了。あとは奴らを待つだけだ。グレンから降りて待っているとすぐに奴らが姿を見せた。
「おーおー、こりゃずいぶんとちっさいお子様が来たもんだ。もしかして俺らのこと知らなかったのかぁ?」
こいつがリーダーか。戦闘になれば真っ先に潰そうと思いながら、話に応じた。
「お前ら暴走族か。ここに居着いてるみたいだな。悪いが俺達は急いでるんでな。道を空けてくれ」
「ぎゃははは! 道を空けてくれ、だと? 笑わせんなよ、俺達が何のためにこうしてるのかわかんねえみたいだな。ここじゃ、俺達のルールがあってな。バトルで勝たなきゃここは通せねぇ。そして必ず持ち金全てを賭けてもらう」
「ほう、賞金か。なるほど、俺達はお前ら全員を相手にする必要があるから、どこかで負けたら結局全て持っていかれるって寸法か。お前ら、ここで随分稼いでそうだな。一本道のこの通路なら取り逃がしも少ないだろうし」
「おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ。逆に言えば俺達全員を倒してがっぽり儲けられる……かもしれないぜ? ぎゃははは!! ぎゃあっ!?」
「なっ、てめえ、何しやが、がはっ!?」
馬鹿みたいに笑うリーダーに“しんそく”、そのまま横にいた奴に“かえんほうしゃ”を食らわせた。こいつらが非合法に金を巻き上げていることはもうわかった。こいつらは法の縛りの外にいる。なら、俺が搾取することに何の妨げもない。アウトローには容赦しないって決めているんでね。搾れるだけ搾る。
そして当然正々堂々戦う気もない。不意打ちで動揺した隙にこっちの手持ち全員でトレーナーに攻撃した。慌ててポケモンを出す奴もいたが全てアカサビの攻撃の前に撃沈した。ほどなくあっさりと、拍子抜けするほど簡単に制圧できてしまった。全員を“あなぬけのヒモ”で縛りあげて、ボールを触れられないようにした。
「てめぇー、きたねぇぞっ! オラッ、縄解けガキッ!」
「黙れ。自分の立場をわきまえろ」
バシッ!
顔を地面に押しつけて黙らせた後、思いっきり横っ面を蹴飛ばした。気絶しないように軽めに蹴ったのでまだ意識はあるな。
「がはっ、ぺっ、おまえぇ」
「お前、こんなことして、タダで済むと思うなよ。自分がどこに喧嘩売ってるかわかってるのか、ああ? 俺達はな、カントー連合の一員だ。お前、顔は覚えたからな、ゴウゾウさんにチクって絶対報復してやるからなぁ! 首洗っとけよ!」
「二度も言わせるなよ。黙れ」
今度は容赦なく顎を蹴り上げて意識を刈り取った。おそらく、勝負に負ければ地べたに這いつくばっていたのは俺の方だったはず。その上途轍もない大金を失う。それを思えばこの程度の仕打ちは当然、正当防衛だ。尤も、わざわざここに好き好んで入ったのは俺の意思だから、セルフ正当防衛とでも言うべきなのかもな。自作自演とも言う。
「次しゃべった奴は殺す。見せしめにな。状況がわかってないのはお前らだ。報復? させるわけないだろ。死人がどうやってしゃべるんだ?」
「なっ!? こいつ……キれてやがる。頭おかしいんじゃねえか?」
「じゃ、お前はその狂人に殺される、それだけのことだ」
いまさら俺の殺気に気づいたのか、そこからは手のひらを返すように全員が命乞いを始めた。こうなればもう後は簡単。皆喜んで有り金を全て渡してくれたので、それを仕方なく受け取ってやった。
「ん? お前、まだなんか持ってるな? もしかして死にたいのか?」
「ひぃいいい!」
さらにギフトが増えた。
「こんなもんか。稼いでるだろうとは思ったが、ここまであるとは。ボロい商売だなぁ、お前ら。……なぁ、ここで稼いでいること……」
小声でこっそりとあることを囁くと、リーダー格の男は驚いて後ずさりした。
「なんでそんなことまでわかる!」
「知らないのか? 最近ゴウゾウのところで何があったのか。それとも鈍いのか」
「そういえば、あれはウインディ。まさかあんたが!」
「なんだちゃんと知ってるじゃないか。そういうこと。くく、これからは、カツアゲはなぁ、やめろとは言わねぇが、相手は選んですることだ。安心しろ。ここでやってることは言わないでおいてやる。この金はその勉強料だ。いいな?」
「は、はいぃ」
やっぱりな。さて、臨時収入で気分もいいし、さっさとこんなところ抜けてやるか。
「おい、ブルー、行くぞ」
「うん……でもこの人達このままでいいの?」
「おっと、それもそうか。じゃ、お前、これで他の奴の縄も切るんだな」
そういって懐からナイフを出して男の縄を切って足元に捨てた。男はそれを使いすぐに仲間の縄を解いた。
「え、シショーこれは……でも」
「早く乗れ」
先にブルーをグレンに乗せてからその後ろに自分も乗った。後ろを気にする素振りもなく、な。
やろうと思えば後ろから俺に報復に来ることもできたはずだが、結局最後まで来ることはなかった。根性なしめ。今この瞬間向かってくる勇気もないなら、これじゃ俺に報復に来ることは以後ないだろう。ここで襲ってくればこの場で再起不能にするつもりだったんだが、手間が省けるならそれに越したことはない。そして去り際に声に出すか出さないか程度に、口だけ動かして暴走族に言った。
い の ち び ろ い し た な
真っ青になった顔が印象的だった。
「ねぇ、さっきシショーなんて言ったの、なんか言ってたでしょ?」
「ああ、別に。追ってくるなよって言っただけだ」
「ふ、ふーん」
信じてないって顔だな。でも本当のことを言う必要はないだろう。
「なぁ、さっきからずっと気になってたんだが、なんでイナズマはずっとブルーの腕の中で丸まってるんだ?」
「え、何言ってるの、シショーが怖いからに決まってるでしょ! 本当に何言ってんのよっ!?」
「あ、そういやそうか。アカサビはこういうの慣れてそうだからいいが、イナズマにはキツかったか」
「わたしだって怖かったわよ! 最近けっこう優しいことが多かったから忘れてたけど、最初はフーちゃんもひどい目にあったし、シショーって初対面にはきっつい性格よね。むしろ暴走族より怖かったぐらいだし。……シショーの鬼、悪魔、外道!」
「わ、悪かったな、鬼で。だが、俺は元々ああいう手合いには容赦しないし、昔はこうしないと生きていけなかったからな。だから別に悪いことだとも思ってないし、改める気はないから諦めろ。……しょーがないだろ、ここ通らないとハナダに行けないし、あれは正当防衛だ」
「クウウゥゥン」
「ああ、かわいそうに。優しいトレーナーさんだと思ったら、ほんとは暴走族も裸足で逃げ出すようなおっかない悪魔だったなんて。笑顔の裏側に悪魔を隠しているのよ! イナズマちゃん絶対怖いわよ、こんなの見たら。トラウマレベルね。バトル中とかいきなり豹変するんじゃないかって思っちゃうわよ」
「あのな、俺も好きであんな怖そうにしているわけじゃなくて、舐められないように、雰囲気を出してるだけだから。分かる? 脅しはしてもあの程度で本当に人殺しとかしないし、したこともない。こういうのはな、相手に本気で殺されそうだと思わせるのが大事なんだ。頭のネジが吹っ飛んでると思われるぐらいが丁度いいんだよ。だから演技なんだ」
「グウウゥゥ」
「イナズマちゃんはそうは思わないみたいね。人間はみんな狼だって言ってる」
これはもうダメだな。完全に人間不信がぶり返している。こんなことならあの連中は軽くあしらって無視しとけばよかった。
「イナズマ、本当に俺が怖いのか? よく思い出せ、今まで一緒に頑張って来ただろ? あの時間にウソなんてないだろ?」
「グウウ、シャアア!」
ものすごい毛が逆立っている。めっちゃ警戒されているじゃねえか!
「グレン、お前からもなんとか言ってやってくれ!」
「ガーウ」
「わたしには知ーらないって聞こえたけど」
「くうう! おいグレン! お前面白がってるだろ、わかるぞ! 他人事だと思って!」
「……グレンちゃんはいつも通りね。やっぱり仲いいから?」
「いや、こいつとは昔からの付き合いだから、俺の昔のこともよく知っているからな。ああいうゴロツキを一緒に何人もコテンパンにしてやってきたから今さらだ」
「シショーって昔どんな人だったのよ。めっちゃ気になる」
「グウウ、シャアアッッ!!」
うわ! 電気弾けた。そういえば戦闘中も途中から電撃は止んでいたな。あの辺りからずっとブルーの腕の中で丸まっていたのか。
「仕方ない。イナズマ、ごめん」
「ダアア!?」
「わひゃ!」
ブルーからイナズマを奪い取り、思いっきり抱き締めてやった。こいつはもう進化してからは俺が電気でしびれるから遠慮してあんまり抱き着いてこなくなったが、イーブイの時はいつもこうしてぎゅーっとしてやると嬉しそうにしていたんだ。ものすごくなつき度合が上がっているのが感じられるぐらい効果的だったから、この方法ならいけるかもしれない。これでダメならもう手がない。全身しびれるのも構わず自分の感情を全て込めるつもりで思いっきり抱きしめた。
「ダアァ、シャアァ、クウウン」
だんだん落ち着きを取り戻して逆立った毛も元に戻り、嬉しそうにしっぽを振りながら抱き返してきた。上手くいったみたい。
「あ……すごーい、いぃなぁ」
きっと今、イナズマはすごく幸せそうな顔をしているんだろう。ぺたりと垂れた耳だけでも想像がつく。思わずブルーが羨む程だ。地下通路を抜ける頃にはいつも通り俺にじゃれつくイナズマに戻っていた。
「やっぱりシショーってポケモンのことよくわかってるんだなぁ。あっさりおとしちゃって。このポケモンたらし」
「なんか人聞きの悪い言い方だな。好かれやすさでいえばお前も大概だろ?」
「え? わたしは別にそんなことないでしょ?」
「……無自覚たらし」
「なっ、違うわよ! シショーに言われたくないし!」
なんとなく照れ隠しで言い返してしまったが、第三者から見ればどっちもどっちなんだろうな。だが、俺の場合は好かれたら情が移りやすくて、ブルーはほんとに惹かれやすいって感じで微妙に違う気がするんだよな。何が原因でこうなっているのかはわからないが、まぁありがたいだけだからあんまり考える必要もないか。
「そうだ。イナズマ、ハナダに行ったらマサキのとこに寄っていこうな。お前ものすごく逞しくなったからめっちゃ驚くぞ、絶対」
「ダーッス!」
こんなに早く戻ることになるとは思なかったが、顔なじみに会うと思えば悪くないか。
「あ、見えたわ。あれが次の町ね。わたしが1番乗りぃっ!」
「あっ、バカ!」
また飛び出して行きやがった。変わらんなぁ。イナズマよりもはしゃいでいるんじゃないか? どうせポケセンで待っていればいいかと思い、勝手にさせることにした。
前半は移動中の日常風景を盛り込んでみました
今回以外は基本合間合間を全てカットしていますが、実際にはいつもこんな感じで歩いて移動していると思ってください
教えられたことは今後ブルーが活かして活躍してくれると思います
真っ暗プレイはTAで思いつきました
当然フラッシュはとる時間が無駄なので真っ暗必須です
一番の難所……と思いきやムロのいしのどうくつ同様基本一本道で簡単です
サイユウのチャンピオンロードはほんまに難しい
本編の内容は完全に脚色で、実際には攻略本片手に見ながらプレイするので手探りとかはないです
人は固定なのでぶつかって迷うとかもないです
そういや当たり前のようにナイフを取り出したりしてますが、いつもすぐ出せるようにしているわけではありません
暴走族が来るのがわかっていたから用意していただけです