――石破さんならどうする?
「この1年間で何が起こったのか、事実を直視する必要があると思います。
例えば、日本の少子高齢化はこの1年で10年進んだと言われています。2020年の死者数は、前年より約1万人減った。近年の傾向から約2万人増の見通しだったので、差し引き3万人少ない計算です。これに対し出生数はというと、妊娠を控える傾向が強まって今年は80万人を切ると言われる状況です。
平均寿命が伸びたとして、健康寿命はどうか――おそらくは短くなったのではないかというのが私の感触です。長いステイホーム生活で出歩けず、認知症、糖尿病、アルコール依存症の方々が増えるのではないかと言われ、自殺者は11年ぶりに増加し、鬱病の患者さんも今後まだ増えるかもしれません。
受診控えの影響で、がん検診を受けた人は前年比で3割も減っており、足元ではその影響が見えませんが、がんによる死亡者が増える可能性もあります。
俯瞰してみれば、日本がもとから抱えていたあらゆる課題を、より顕在化・可視化させたのが、コロナ禍ではないだろうか。
Go Toキャンペーンについて制度の利用と感染状況との関係、移動制限や時短による感染防止効果と経済的損失など、1年経ってそれなりに信頼に足るデータは出せるはずです。今後、国家として取るべき方向性は、データの裏付けのある検証に基づくべきです。
また、医療提供体制の弾力性のなさ、顕著な偏在は、わが国の医療システム自体の問題であり、要請に基づく以上の病床確保や機動的な医療従事者の確保のためには、医療法の見直しにも取り組む必要があります。
しかし、残念ながらこうした冷静な問題提起はあまり聞かれません。政権周辺のみならず、言論空間もいびつになっているのではないでしょうか。
目の前の危機を煽ったほうが人気が取れる。そうであれば、この1年で失われた価値を考え直し、感染者数自体に左右されない政策目標を考えるなんていう選択肢は、政権担当者にとっては、現実的ではないと思われるのかもしれません。しかし何が本当に国民のためなのか、メディアにも考えていただきたい」