弟子たちへの暴力や暴言によって、日本相撲協会から懲戒処分を下された中川親方(元幕内・旭里 54)が、障がい者を見下す差別発言を繰り返していたことが、「週刊文春」の取材で分かった。
日本相撲協会は7月13日、臨時理事会を開き、弟子に対する暴力や暴言があったとして、中川部屋を閉鎖し、中川親方を懲戒処分、所属力士らを他の部屋に転籍させると発表した。
事実関係を調査した協会のコンプライアンス委員会は、中川親方が弟子3人に対して、顔を殴打するなど計4回の暴力を認定したほか、さらに同親方が「殺すぞ」「首にするぞ」などの暴言を日常的に繰り返していたことも明らかにした。同委員会は、「師匠の暴力は責任重大」と指摘したが、弟子に怪我がないことや、親方が深く反省しているなどとして、「懲戒解雇」や「退職勧告」は重すぎると判断。その答申を受けた協会は、中川親方を委員から平年寄へ2階級の降格処分に留めている。
ただ、この処分を巡っては「軽すぎる」と批判の声があがっていた。
「協会は横綱・日馬富士の暴行事件などを受けて、2018年10月、暴力決別宣言をし、暴力禁止規定を策定しています。そこでは『いかなる暴力も許さない』『暴力と決別する意識改革は、師匠・年寄が率先して行い、暴力を根絶する』と宣言。指導する立場の親方が暴力をふるった場合、力士よりも重い処分にすると説明していたため、内部でも今回の処分は甘いのではないかという意見がありました」(相撲担当記者)
今回、「週刊文春」は、中川親方が弟子に暴言を浴びせる証拠音声データを入手。そこには、協会が発表していない次のような差別発言が含まれていた。
「ホントうざいんだよホントに! ここ養護学校じゃないから!」
「もう障がい者まる出しなんだよ!」
「養護学校で教わったろう! このくらい! おい、コルア!」
「おまえ、なめてるからな。普通おまえなんかすぐクビ!」
弟子たちの中に養護学校の出身者はおらず、誰も障がいは持っていない。ただ問題は障がいの有無ではなく、障がい者を見下すような言い方で弟子たちを罵倒する中川親方の人権感覚、人間性には大きな問題があるだろう。
重度障がいの弟をもつ佐藤倫子弁護士はこう指摘する。
「直接のお弟子さんだけでなく、多くの人の尊厳を蔑ろにする言葉で、到底許されない。たとえマニュアルを作ったとしても、指導者が人権や個人の尊厳を尊重すること自体を理解しなければ、弟子に対する、あるいは弟子同士のパワハラやこれと地続きにある身体的暴力もなくならないと思う」
こうした発言を把握した上での処分だったのか、相撲協会に中川親方の「差別発言」も処分に反映されているかを問うと、「弁護士を含む外部有識者を中心としたコンプライアンス委員会で綿密な調査と審議を行い、その結果をもとに、理事会にて最終決定しました」と回答した。
暴力行為やパワハラ発言に加えて、障がい者や養護学校を差別するような暴言が明るみに出たことで、中川親方が公益財団法人である「日本相撲協会」の105人しかいない親方の資格はあるのか、また、相撲協会の処分が適切だったのか、今後論議を呼びそうだ。
「週刊文春」7月22日発売号では、中川親方の経歴や、恐怖に支配されていた中川部屋の内情、中川親方のコロナ禍における大阪場所中の行動、相撲協会が甘い処分を下した背景などについて詳報する。
- この記事をより詳しく読みたい方は「週刊文春 電子版」で購読できます。
を見てみる
文藝春秋が提供する有料記事は「Yahoo!ニュース」「週刊文春デジタル」「LINE NEWS」でお読みいただけます。
※アカウントの登録や購入についてのご質問は、各サイトのお問い合わせ窓口にご連絡ください。