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小林哲夫著『平成・令和 学生たちの社会運動』読書感想文

はじめに

 

林哲夫による『平成・令和 学生たちの社会運動 SEALDs、民青、過激派、独自グループ』という本が刊行された。

 

 

「本書が次の世代が社会と向き合うときの資料として、のちに学者が社会学政治学の観点から参考にできる記録集として、活用していただければ嬉しい。」(p.11) とある通り、2000年代後半の社会における学生の様々な運動を網羅的に記述した本である。

面白そうだったので読んでみたところ、ちょっとこれはどうなのかと疑問に思うところがあった。なので、二、三指摘したいと思う。

 

 

お前は誰だ&注意事項

私は、副題では「独自グループ」にジャンル分けされるところの当事者である(後述するが、著者から取材を受けたこともある)。この本の中に記されている運動を直接経験(あるいは主導)したこともある。だが、伝聞で追体験したものもある。なので、(特に追体験に関しては)間違いや事実誤認もあるであろうことはお断りしたい。ここが違う、等あればいつでも連絡してほしい。

また、この文章はこのブログにアップすると同時に、筆者である小林哲夫にも送っている。だが、本書にも随所で見られるように、仮名で取材協力している人がいる。また、文章の特性上、運動をしている中で知り得た他人に対する個人情報が多分に含まれる。なので、このブログではそれらの情報を、出して良いものと出してはまずいものに振り分けることにした。主な基準としては、本書で隠されている情報は隠し、現時点で、各個人が主体的な意思で公開している、TwitterFacebookなどの各種SNSの投稿などの情報は公開情報として扱った。隠した情報は本文で黒塗りした箇所である(著者送付分とブログアップ分で書き直すのは普通に面倒なので)。本の感想として成り立つことと、個人情報との兼ね合いを配慮して記述した。だが、不備や不満があると思われる。なので、本文中でここの情報は隠して欲しい、等があったら随時連絡してほしい。

本文中では敬称略とした。心苦しかったがそうした。ただ後述の杜夫ちゃんは杜夫ちゃんとしか言いようがなかったので杜夫ちゃんとした。

事実誤認、端的に誤り、不足が認められる箇所

 

「要請するなら補償しろ!デモ」について

 

「要請するなら補償しろ!デモ」とは2020年のコロナ情勢・緊急事態宣言情勢下において行われた全五回のデモシリーズである。

私は、第一回から参加し、第二回からは実行委員としてこの一連のデモシリーズに参加した。

デモ・集会の様子はデモや集会を中心に目にも止まらぬスピードで手早く撮影をするカメラマン秋山理央が豊富な写真とともにまとめている。

全五回のデモは毎回名前と実行場所が若干異なる。

第一回 2020年4月12日「要請するなら補償しろ!デモ」渋谷

第二回 2020年4月26日 「要請するなら”もっと”補償しろ!デモ」 渋谷

第三回 2020年5月5日 「延長するなら補償しろ!デモ」高円寺

第四回 2020年5月24日 「要請したなら補償しろ!デモ」秋葉原

第五回 2020年5月31日 「解除しようが補償しろ!デモ」渋谷

 

本来ならばオフィシャルな告知方法であったTwitterアカウントとそのツイートを紹介するところである。しかし、アカウントは現在凍結されている。

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さて、本書では「要請するなら補償しろ!デモ」シリーズはどのように記述されているだろうか。

まず第1章の「2010年代から2020年代へ 学生が訴える」の初っ端から紹介されている。

 

2020年5月24日、東京秋葉原で「要請するなら補償しろ」を訴えるデモ、集会が行われ、こんなコールが響きわたった p.14

 

「要請したなら補償しろ」集会、デモは4月22日、26日、5月5日にも行われている。場所は渋谷、高円寺だ、さすがにこのころ、「不要不急の外出自粛」が徹底されつつあるなか、街には人が少なかった。p.16

 

14ページの記述の「」の中は、「訴える」という動詞の具体的な内容(目的語)と解釈することもできるため、まあ明確に間違いというわけではない(前述のとおり、5月24日の秋葉原でのデモ名は「要請したなら補償しろ!デモ」である)。

しかし、16ページの「「要請したなら補償しろ」集会、デモは」から始まる文章はやや正確性を欠いている。

まず、当事者として私は「要請したなら補償しろ!デモ」のシリーズはトータルとして「要請するなら補償しろ!デモ」だと認識していることがある。また、『情況』2020年夏号に載ったインタビューも「インタビュー 要請するなら補償しろ!デモ」(p.134)とある。█████████████████████
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なので、共通認識として「要請するなら補償しろ!デモ」が(第一回の渋谷デモの名前であり)一連のデモシリーズ総体としての名称と認識されていたといって間違いない。「要請したなら補償しろ!デモ」はあくまで5月24日秋葉原で行われたデモの名義である。

また、先述のとおり「要請するなら補償しろ!デモ」シリーズは計五回行われた。このページの時勢は5月24日の話をしていることは文脈で読み取れるが、5月31日にもデモを行なっている。締め切り等の関係で書ききれなかったのか、とも思ったが、248ページに、2020年12月に京大であった「京大学生処分撤回・阻止 12月緊急集会」の紹介をしているので、明らかに書く余裕はあったはずである。不十分の感が否めない。

 

また、第5章の各大学の特色を挙げる章と第6章の外山恒一に影響を与えられた人々の章で、それぞれ田中駿介と紅川ヒミコの名前が挙げられ紹介されている。

 

もっとも、慶應義塾大の大多数の学生の政治意識は、他大学とそれほど変わらないだろう。おそらく東京大生の自民党支持率(中略)とそう大差はないはずだ。それについては、20年5月、東京で「要請したなら補償しろ」を掲げて安倍政権打倒を訴えていた慶應義塾大の田中駿介さん(中略)も指摘している。(p.234)

外山合宿出身のデモ参加者は多い。20年5月の「要請したなら補償しろ」デモに参加した紅川ヒミコさん(北海道大中退)もその1人だ。(p.301)

 

田中がどう指摘しようと構わない*1 。田中に関しての記述は14ページの時と同じく「」の中が「掲げて」の目的語となっていると読めるので、文意的に間違いではないが、もやもやとしたものが残る。

紅川に関しては16ページの時の問題と同じである。5月は「延長するなら」(5日・高円寺)「要請したなら」(24日・秋葉原)「解除しようが」(31日・渋谷)の三回デモが行われたので、その中の「要請したなら」だけを狙って記述したのは全くもって謎である。総体としてのデモシリーズの話をしたいのなら、やはり「要請するなら」を使うべきであろう。

また、「デモに参加した紅川ヒミコ」とあるが、そもそも彼女はデモの主催者、というか、そもそもの発端となった人物である(『情況』2020夏号p.135)。田中の紹介が「「要請したなら補償しろ」を掲げて安倍政権打倒を訴えていた」となる一方、紅川の紹介が「「要請したなら補償しろ」デモに参加した」なのは、紹介として不十分と言わざるを得ない(もちろん田中はデモにおいて先頭でシュプレヒコールを扇動するなど積極的な役割をしていたことは否定しない)。

この文には私の主観も含まれる。なので、実行委の中にはそうではない、という人もいよう。だが、もし、著者が総体としての名称を記したいならやはりそのように書くべきであろう。 

 

アナキズム研究会」について

第6章の5節「外山恒一氏に魅了された学生たち」で、外山の影響力を示すエピソードが紹介されている。それが「アナキズム研究会」である。

 

外山氏はSNSで「大学にアナキズム研究会創設を」と訴えたことがある。これに反応した外山合宿参加学生が、北海道教育大学アナキズム研究会、中央大学アナキズム研究会、早稲田アナキズム研究会、筑波大アナーキズム研究会、立命館大学アナキズム研究会を作っている。とはいっても、街頭でデモを行う、というわけではない。読書会、勉強会が中心だ。國學院大學穴開きズム研究会というグループもある。p.301-302

この文章は3つ(4つ)の要素に分けられる。

①外山氏がSNSで「大学にアナキズム研究会創設を」と訴えたこと

②②-1「この呼びかけに反応した」②-2「外山合宿参加学生が各大学にアナキズム研究会を設立した」

③このアナキズム研究会はデモを行うものではなく、読書会や勉強会が中心であること

 

これらの記述は果たして事実だろうか。

 

まず①から検討する。

確かに、外山恒一SNSアナキズム研究会創設を訴えたことがある。

2020年にnoteにアップされた、2015年1月1日に発刊された「人民の敵」第4号の、2014年12月4日に収録された千坂恭二との対談において、千坂の発言を外山自身がリンクしている。

 

これは2013年の9月30日につぶやかれたツイートである。

これに限らず、いくつか同趣旨のツイートを残している*2

 

その約1ヶ月後、外山は以下のツイートをし、その「成果」を誇っている。

 

もちろん程度のほどは知らないし、どのくらいの組織実態があったのかも今となっては分からない(千坂が発言している通り、「アナ研を名乗ってはみたものの、どう活動していいのか分からなければ、結局また〝鍋〟をやるとか、そういうことになりがちなんだ。そんなことでは〝アナキズム研究会〟にはなら」ず「それなりの実体が伴わないと、そのうち飽きたらやめてしま」ったのかもしれない)。しかし、少なくとも外山恒一が「大学にアナキズム研究会創設を」と呼びかけたのは間違いない。

 

次に②-1について検討する。

 

2015年11月にアカウントが創設された北海道教育大学アナキズム研究会は「外山恒一氏の「各大学にアナキズム研究会を!」という呼びかけに感化された初代会長が作ったアカウント」とツイートしている*3

 

 

 

筑波大アナーキズム研究会はどうだろうか。

 

2014年10月22日に元の「本垢」から分離させて、アナーキズム研究会を立ち上げることをツイートしている。だが、その「本垢」を確認すると、「勝手にアナーキズム研究会を名乗ってみた。」と発言している通り、外山のツイートの時期と合致するものの、外山の呼びかけたツイート日から一日前である。

 

外山恒一イデオロギーの共感者ではない」としつつ「左右の垣根に関わらず反スタ的に学生運動を始めていくんだという呼びかけに多少の共感があって「アナ研」という名で始めてい」ると言っている。

 

つまり、細かな事情は推測できないにせよ、元々現在「塩・油・鉄」というアカウント名で発言している@ioriveurが、当初はアナーキズム研究会と名乗っていた(外山の初発のツイートの1日前なことに関する理由は不明)ものの、外山の呼びかけに思うところがあり、分離独立させ独自のアカウントを作った、ということになるだろう。

 

立命館大学アナキズム研究会も、外山恒一の呼びかけに触発されたアカウントではある。

 

 

中央大学アナキズム研究会、早稲田アナキズム研究会に関しては②-2で論じる。

 

 

國學院大學穴開きズム研究会に関しては飲み会と内々ゲバ(複数のアカウント管理者に右派と左派がおり、ある政治的イシューに対して同じアカウントから複数異論が出てタイムラインを埋めるという迷惑な現象)と穴が空いているもの(ex:ちくわ)を探すことと白ポストを探すことと革マル派学生自治会(主に中村さん)をいじることとこくぴょんのコラ画像を作りながら3割うまいぎょうざの満州を食っているだけのアカウントである。たまにデモに出ている。中の人間が國學院大學関係者というだけで、「アナキズム研究会」の流れに紹介するのは違うのではないか。自分でも言っている(なおアカウントの特性上「中の人」の意見が強く出た可能性もあるが、まあそう言っているのだからそうなのだと信用するしかない。私は個人的に外山合宿に参加した穴開きの「中の人」を知っている)。

 

 

次に②-2について検討する。

アナキズム研究会の設立をした学生ははたして外山合宿参加学生なのであろうか。

外山が自分のホームページにアップしている「我々団活動年譜」から、現在閲覧できる2019年の8月までの、外山合宿に参加した学生の所属大学をピックアップする。

 

第一回(2014年8月)    日大2、高千穂大、総合研究大学院大、京大、関大、阪大、西南学院大、浪人生など11名

第二回(2015年3月)    東大・京大・早大の計3名

第三回(2015年8月)    福井県立大、群馬女子大、京大、阪大、熊本大などから計9名

第四回(2016年3月)    北大・筑波大・東京理科大・ICU・京大2・同志社大金沢学院大、そして高校生1名に特別参加の愛知学院大の非常勤講師1名の計10名

第五回(2016年8月)    早大2・東京外語大・日大・滋賀大・阪大・大阪芸大・九州大など計9名

第六回(2017年3月)    聖学院大・高崎経済大・早大2・京都産業大京都精華大・京都造形芸術大・大阪芸術大・西南学院大2・九州大、そして高校生1名の計12名

第七回(2017年8月)    早大・中大2・京大5、さらに高校生とフリーター1名ずつの計10名

第八回(2018年3月)    北大4・東北学院大・信州大・上智大・早大2・慶大・成蹊大・中大・岐阜大・立命館2・神戸大・近畿大、そして半ばスタッフ側の群馬女子大OGの計18名

第九回(2018年8月)    京都工芸繊維大・立命館大・一橋大・聖学院大・亜細亜大・九州大・東京工業大2、さらに高校生1名ずつの計9名

第十回(2019年3月)    北大・高崎経済大・早大同志社大・京大・阪大・九大・熊本大、そして関西の浪人生と高校生の計10名

第十一回(2019年8月)    筑波大・明海大・早大東京海洋大・岡山大・山口大、さらに中学生1名の計7名

 

 

次に、小林が挙げている各大学のアナキズム研究会のアカウント設立月を確認する。

 

北海道教育大学アナキズム研究会

アカウント作成月 2015年11月

 

中央大学アナキズム研究会(消滅)

アカウント作成月 2017年9月

 

早稲田アナキズム研究会

アカウント作成月 2017年4月

 

筑波大アナーキズム研究会

アカウント作成月 2014年10月

 

立命館大学アナキズム研究会

アカウント作成月 2013年10月

となる。

 

外山が呼びかけたのが2013年の9月末、そしてその成果を誇ったのが10月末、さらに、人民の敵で、Twitterで盛んに言論を発表し、ついにはTwitter(及びFacebook)の発言を出版するに至った千坂の発言と認識(「外山君の呼びかけもあって全国の大学に〝自称アナ研(アナキズム研究会)〟がいっぱいできたでしょ。」)を勘案しても、外山がSNSで訴え、それが「ムーブメント(?)」として起こったのは2013年夏から2014年末の話である。若干論理と証明に難があるのは承知の上での話である。

 

北海道教育大学に関しては、外山合宿に参加した記録がない。

 

中央大学アナキズム研究会に関しては、私が当事者である。上記第七回の2017年8月に参加した中大2のうちの一人が私である。中央大学アナキズム研究会は、外山合宿でたまたま知り合った同大学同学部の杜夫ちゃんと私が意気投合して始めた団体である。その後、近年関西で色々悪い方の噂しか聞かない「池田名誉会長」や、共有のTwitterアカウントを「乗っ取り」、好き勝手なことを呟きまくった謎の挙動をする「ほー」の計4人集まった。だが、下二人の謎の挙動(政治界オルタナ圏の対人能力やばすぎ問題)や、杜夫ちゃんの定期的な連絡消失癖に嫌気がさし、最終的に作ってちょうど一年で杜夫ちゃんと私の二人で潰してしまった。

創設した初期の頃に著者に私と杜夫ちゃんでインタビューを受けている。p.302の「ファシストと言っているわりには主張がものすごくまともで分かりやすい」から始まる中央大学の学生の話は私か杜夫ちゃんのどちらかの言葉である(多分私である)。確かに外山合宿参加者ではある。だが、2013年の呼びかけに直接応答したわけではない。

きっかけは杜夫ちゃんのこの何気ないワンツイートだからだ(もちろん杜夫ちゃんが外山のツイートを意識したのかもしれないので、そこは杜夫ちゃんに聞いてみないといけないが、少なくとも私は直接の影響はないと認識している)。

 

 

早稲田アナキズム研究会に関しては第六回の2017年3月に参加した███████ホリと██████ハラが、ホリの上京に伴い創設した団体である。なお、早稲田アナキズム研究会の「早稲田」は「大学」ではなく「地名」であり、②-2の前半部分は合ってるとしても、後半部分は間違っている。また、②-1に関しても、██████████████「西南アナキズム研究会(後述)」にネーミングの影響を受けているであろう。何より、設立年月が2017年4月と外山の呼びかけから時間が経ちすぎている。

 

また、筑波大学に関しても、その大学から初めて参加した人は2016年3月である。筑波大学アナーキズム研究会のアカウント作成年月は2014年10月なので、明らかに時間軸がずれている。

 

立命館アナキズム研究会に関しても、立命館大学からの参加者は2018年3月が最初である。さらに言うならば、立命館アナキズム研究会のアカウントが、外山恒一の合宿に参加したことがない、と言っている。時系列もさることながら、その当人が参加したことがないと言っているのだからそうであろう。

 

 

 

 

 

最後に③について検討する。

そもそも外山は「実体など無くてもかまわない」と言っているとおり、あくまで不穏な雰囲気醸成のためのアカウント作成を呼びかけている。その時点で、デモをするのではなく読書会、勉強会中心と記述することはまったくもってナンセンスである。もっとも、自分だけの話で言うならば、中央大学アナキズム研究会は大学において、読書会以外の活動を多少した。

付言するならば、外山の呼びかけ以前に立ち上げられたサークルではあり、外山の近傍で活動していた感は否めないものの、全国大学のアナキズム研究会の中で一番活動的であった、西南アナキズム研究会を載せないのは、明らかに調査不足であろう。

直接行動(学生ハンスト実)について

私にとって直接行動、特に学生ハンスト実の人たちは「先輩」にあたる存在である。彼らと知り合ったのもハンストが終わり、「直接行動」として活動している時期である(「直接行動」が主催した「学生メーデー」に私は参加したことがある)。なので、ハンスト実についてはよく知らない。だが、今までその先輩方から聞いた話と、本書の記述の時系列に間違いがあると思われるので、指摘する。

まず、本書でどのように記述されているかを確認する。

 

15年安保、SEALDsではない、民青でもない。そして、中核派でもない学生たちがいた。彼らは「直接行動」あるいは「ハンスト実」(安保関連法案制定を阻止し、安倍政権を打倒するための学生ハンスト実行委員会)と名乗っていた。2015年8月27日から9月2日まで、参議院会館、国会正門前で「直接行動」は安保関連法案に反対するハンストを行った。ハンストには慶應義塾大、上智大、専修大、東京福祉大、立正大、早稲田大の学生が参加した。p.266

 

2015年8月、国会前でハンストを行った上智大、専修大、早稲田大の「直接行動」の学生たち p.268写真キャプション

 

私が今まで諸先輩方から聞いた話を解するに、「学生ハンスト実」が改組された組織が「直接行動」である。

では彼らはどのように発信しているか。

 

そもそも「ハンスト実」(安保関連法案制定を阻止し、安倍政権を打倒するための学生ハンスト実行委員会)は、その団体名の正式名称にもあるとおり、2015年の安全保障関連法案制定を、ハンガーストライキという行動で阻止・抗議するために立ち上げられた団体である。

彼らは148時間ハンストを続け、その活動を終えている。

その後、横浜地方公聴会後の国会前デモで、メンバーが逮捕されたことに対する抗議活動(のち釈放)等様々な活動を経て、安保法制制定を契機とし、10月末に組織名の変更を告知。

 

さらに、12月にシンポジウムを開催することを告知すると同時に、ハンスト実の改組・新団体化を告知。

 

 

 

その予告通り、シンポジウムの最後に新団体へ改組することを提起。

その翌日にはFacebook上で、ハンスト実の総括と新団体「直接行動」の活動方針を打ち立てる。 

 

 

彼らは以降、ハンスト実ではなく「直接行動」として活動を始める。

 

 

 

このように、ハンスト実は直接行動の別名ではなく、ハンスト実が改組・新団体化したものが「直接行動」である(メンバーが被る等の実態はともかくとしても)。

本書では、p.266引用第一文目は「「直接行動」あるいは「ハンスト実」(安保関連法案制定を阻止し、安倍政権を打倒するための学生ハンスト実行委員会)と名乗っていた」だが、ここで「あるいは」という言葉を使うのは間違いであろう。

p.266引用第二文目は「2015年8月27日から9月2日まで、参議院会館、国会正門前で「直接行動」は安保関連法案に反対するハンストを行った。」だが、ハンストを行った組織は「ハンスト実」であるので、ここで「直接行動」という言葉を使うのは間違いであろう。

p.266引用第三文目は「ハンストには慶應義塾大、上智大、専修大、東京福祉大、立正大、早稲田大の学生が参加した。」だが、次の次のページ(p.268)の写真キャプション「2015年8月、国会前でハンストを行った上智大、専修大、早稲田大の「直接行動」の学生たち」にあるとおり、ハンストをしたのは「上智大、専修大、早稲田大の(中略)学生たち」であろう。他の大学の人たちは「ハンスト実」には参加したかもしれないが、ハンストはしていないであろう。

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ここで他の大学の人もハンストをしたと読める文章を書くのは間違いであろう。

また、上で(中略)と略した、p.268写真キャプション文中の箇所も「直接行動」ではなく「ハンスト実」であろう。

ホリィ・セン

これは単純な誤記である。

 

京都大周辺には何軒かシェアハウスがある。その1つ、サクラ荘を運営する京都大大学院人間・環境学研究科修士課程のホリイ・センさんはこう説明する。p.256

 

ホリイさんはサクラ荘から外山合宿(299ページ参照)に何人か送り出している。p.257

知り合いであり、教養強化合宿の先輩である人の名前は「ホリィ・セン」である。カタカナのイは捨て仮名である。

 



態度の問題

ここからは著者の態度の問題であり、事実関係等々を論じることはしない。だが、読んでいて違和感を持った箇所を指摘する。

 

第6章の副々題について

第6章は「独自に活動を続ける学生たち ーーSEALDsだけではない。俺たちもいる」という副題、副々題である。

ここで問題にしたいのは「俺たち」という表記である。

一般的に「俺」は男性の使う一人称であると理解されている。「独自グループ」の紹介の副々題の主語に「俺たち」という語を使うことに女性の視点が欠落しているのではないのか、という問題提起がまず最初のものである。

もちろん、私個人としては、総体として一人称複数形を使うその意図は理解できるし、そこまでめくじらを立てなくても良いのではないか、という気持ちもある。

だが、筆者は第9章の最後――本書本編の最後――で「すべての馬鹿げた革命に抗して」を挙げ、学生による社会運動の現場で行われた女性搾取構造の告発を強い問題意識をもって紹介している。

 

社会運動の周辺で、女子学生の人権を大きく損なうような性差別や性暴力などが起こった――それが課題である。15年安保時における負の記録、と言っていい。(p.422-423)

15年、国会前の学生による運動は、男女が平等に振る舞うことができるという意味で「過去の運動とは異なる」「新時代の」学生運動として取り上げられたが、現実は、その象徴として女性メンバーの肖像が消費され続けた。(p.425)

 

この問題意識自体はとても政治的に正しく真っ当な指摘であろう。運動の現場で男性により女性が虐げられた現場は多くあるだろう(と同時に自分も虐げているかを省みねばならない)(と言及することが政治的に正しい振る舞いであるとされることに作為的ないやらしさと息苦しさを同時に覚えるが)。であるならば、筆者も副々題にわざわざ男性性を象徴する(と社会的に受容されている)一人称(複数系)を使うのはいかがなものだろうか。これは事実誤認ではなく、態度の問題である。

 

「過激派」の元号表記について

第7章は「過激派」、要は中核派の章である。中核派の内情についてはよく知らないし、読んでてほーんなるほどなあ、と思った。個人的には京大熊野寮で立て看板を作っているとき*4に、本文でインタビューされていた吉田耕に「平沢進?いいね」と褒められたことが嬉しかった記憶として残っている(たしか。あと、熊野寮中核派缶バッジを吉田にもらった記憶がある*5)。あとは法政大の武田雄飛丸の父親が武田崇元であるというのは「界隈」の真偽不明のゴシップネタとして消費されていたがここでも記されておりやっぱりそうだったんだーの気持ちである。

 

さて問題はまたもや題の話である。第7章は「平成・令和の「過激派」学生――「極左暴力集団」と嫌われながら生き残る」である。

ここで問題にしたいのは、「過激派」学生を修飾する語として「平成・令和」という表記が果たして適切か、という点である。

常識から確認するが元号は基本的に天皇が変わるたびに変更される。

つまる話が元号天皇制と強く結びついたシステムである。

そして、基本的な理解として新左翼一般は天皇制に強く反対している。インタビューされている一人である斎藤郁真が、先日あった今の天皇の誕生日の記者会見の「お言葉」に強い反感のツイートをしていることは一例にすぎない。

 

 

 

 

 

筆者がそのことを知ってか知らないかは知る術はないが、それでも章題に持ってくるのが果たして適切だろうか、という疑問は残る。

もちろん、本書の題が『平成・令和 学生たちの社会運動』なので、章題に持ってくるのは必然性がないとは言えない。

だがそれなら、第1章の「2010年代から2020年代へ 学生が訴える」の章も「平成から令和へ 学生が訴える」とすればいい。本文で多様される「15年安保」も「平成27年安保」とでもすれば良い(もちろん「安保闘争」自体は「60年安保」に代表的に見られるように、固有名詞感がある言葉なのでこれはほぼイチャモンに等しいが)。

また、前の章で西暦を使ったから、後の章で西暦が続くのはちょっと…というレトリック的な理解もできなくもない。であるならば、SEALDsやそういう運動の部分を「平成・令和」表記にするべきではないのか。少なくとも、SEALDsのイシューとして天皇制に反対するだとかそういうのは聞いたことがない。これは事実誤認ではなく、態度の問題である。

(過激派の最後に、革マル派革労協両派の全学連委員の名前が列挙されていたが、その中で、解放派赤砦社が赤「砕」社と誤記されていた。「聖なる(赤い)血に塗れ」、「砦の上に我らが世界」を「勇ましく」「築き固め」るのが彼らなのだから、砕いてはいけないだろう。これでは反共集団である。)

(また、330ページの法政大の中核派として武田雄飛丸が紹介されているが、下の名前が遊飛丸と誤って記されている。)

 

右派について

これはTwitterで誰かが言っててなるほどと思ったから言及するが、本書は主に左派系の社会運動が紹介されている。だが、右派系の学生の社会運動は全くと言っていいほど紹介されていない。個人的に周囲には社会のことを真剣に考えている右派の学生の人を何人か知っているので、そこを紹介しないのは明らかに「偏り」があるなあと思わざるを得ない(と同時にその時期の右派の学生による運動がどの規模であったのか、という問題はあるが)。これは事実誤認ではなく、態度の問題である。

 

終わりに

 

人民新聞2021年2月15日、通巻1741号8面において、前述した「直接行動」の橘内優一が、本書で紹介された仮名A氏が「特定可能な形で出身学校名や活動歴、その他重大なプライバシーや虚偽の事実が無断で掲載された」と指摘している。A氏は著者と出版社に抗議。橘内が著者に取材したところ、著者は「事前にAさんへ掲載確認できなかったことを後悔し、申し訳なさを感じている」とコメントしている。

橘内はこの書評を「ジャーナリズムに誠実さを求めたい」と結んでいる。私としても同感で、今まで多かれ少なかれ何らかの運動に関わってきて、さらに筆者からも取材を受けた立場として、ジャーナリズムに誠実さを求めたいと思っている。



【純粋な感想】

・私は基本的にSEALDsとかその辺の社会運動に対して批判的なので、彼らがどのようなモチベーションで動いていたのかを知れて勉強になった。その中でも、SEALDs近傍で写真を多く撮っていたカメラマンの日本大・植田千晶の行動は素直にすごいと思った。横浜地方公聴会の、シットインなどの逮捕覚悟の抗議運動に対して、逮捕者を絶対出さない、というSEALDsの原則を曲げてでも、撮影しに行ったという姿勢は素直にすごいと思う。「行くなと言われて、はあと思った。写真を撮る人が現場に行かないのはおかしい。特に危険な思いはせず、伝えなければと思いシャッターを切りました」(p.75)という精神がとても良いと思った。

・私は2020年に、他の大学の例に漏れず、中央大学の学費減額を求める署名を始めた。結果は惨憺たるもので、大学の堅固さを知った。その過程で他大の学費減額運動をやっている人と知り合ったのだが、どことなく見え隠れする「民青」感が否めなかった。運動仲間から「あそこは民青」とか「民青のフロント団体」という噂は聞いており、彼らの言動を観察するに、なんか別の違う団体(上の組織)がありそうだな、という気配がした。だが、それを問うこともなく、私を含め多くの大学の学費減額運動は敗北衰退していった。筆者にはそこをもっと突っ込んで取材してほしかった(もちろんメインが15年安保なのだから致し方ないのだが)。さすが曲がりなりにも歴史と伝統を誇る日本随一のセクト日本共産党を「相談相手」とする、これまた共青以来の歴史と伝統を継ぐ組織と言ったところであろう。p.166で筆者が「組織に閉ざされた一面があり」「民青という組織の公開、情報発信が大いに求められる。」と言っているとおり、一筋縄では行かないのであろう。だが、そこはジャーナリスト、もうちょっと頑張ってほしい。情報が天から降ってくるわけではないことは私なんかよりよくご存知のはずである。

・第9章のp397で、若者の政治参画をテーマにNPOで活動している大空幸星が紹介されている。大空さんは大学の学費減額を求める署名運動に関わっているという。私も学費減額の運動をしているとき大空に誘われ、Slackのチャンネルに入った。だが、自己紹介をして以来何の進捗もなく、そこからそろそろ一年が経とうとしている。どういうことやねん。

 

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*1:個人的には酒が入った時の彼のあのうるさい歌声はいつまでも耳に残って迷惑なのでやめてほしいと思う。田中の歌声を社会問題として提起すべきとは思う。

*2:https://twitter.com/toyamakoichi/status/391502847885340672

https://twitter.com/toyamakoichi/status/392682812475572224

*3:なおこのアカウントはその後ほぼ全ていくつかのbotツイートを垂れ流すアカウントと化しているので、最初期の「中の人」が手書きで打ったであろうツイート(Twitter  Web Client!)がなんとなく哀しい

*4:https://www.bengo4.com/c_23/n_7906/

*5:このツイート画像にある中核派缶バッジがそれである。 https://twitter.com/culture_human/status/1115615156724097025