--猛暑列島--
泣き笑い物語(3)
ああ、東京マリンはどこへ…
夏の真っ盛り、大型レジャープルがひとつ、マンションに生まれ変ることになった。「ワイルドブルーヨコハマ」(横浜市鶴見区)。平成4年に開業以来、ピーク時で年間80万人の客を集めたハマの名所の幕切れは、何ともあっけないものだった。
プールからマンションへ。何ともイマドキな“変身”を、複雑な思いで受け止めた人たちがいる。
東京都足立区の「東京マリン」のスタッフだ。世界最大級のスライダーで知られる開業30年の老舗プールは昨年秋、倒産の憂き目にあった。
「プール単体では黒字。僕らは寸前まで資金繰りに奔走した」と話すのは、創業者の長男、川名康之氏(32)。メーンバンク日債銀の倒産などのあおりを受け、資金繰りが悪化。過剰投資もたたった。負債総額は74億円。「来年に向け、プールの清掃を済ませたあと」の自己破産だった。
23区内の、しかも1万3000平方メートルというまとまった土地。「かなりの数のデベロッパーから買いが入った」と同社関係者。
だが、そもそも地元資産家が「汚れてしまった荒川の代わりに」と開業した“地場産業”だった。地元の応援などを受け、今春、付近に駅をもつ東武鉄道が約26億2000万円で事業の存続を前提に買収。川名氏に弟が設立した「TMエンタープライズ」が東武鉄道から運営を委託された。
「10人いた従業員のうち6人が戻ってきた」(同社スタッフ)という涙の復活だった。
だが、これには“裏”があった。
「契約は単年度。来年以降は未定」。東武鉄道の幹部から、契約直前に告げられたのだ。
つまり存続は今年の成績次第、ということになる。ならば、プールは創業以来の黒字。昨年も前年より2万人多い14万人の入場者を集めた。そこへこの猛暑。6月末以降の入場者数は前年の2割増しと好調だ。
「でも…」と、同社幹部は言いよどむ。肝心の目標数値が、東武側から提示されていないのだ。
同鉄道広報センターの福田康人氏は、「入場者数の問題ではない。価格的に高いので経営を維持するには新たな魅力が必要。それには資金が必要なうえ維持費もかかる。その兼ね合いで判断する」と話す。
現在までの好調な業績にも「来年も猛暑とはかぎらない」とつれない。「プールの存続も選択肢のひとつ」としつつも、「当社がやってきた中で商業施設、住宅など採算面からいろいろな可能性を考えている」と説明する。
ワイルドブルーヨコハマは、採算悪化から経営母体のNKKが今春、閉鎖を決定。当初は横浜市を中心に施設存続の動きがあった。米投資会社や商社が名乗りをあげたが、「条件を詰めさせていただいたが、折り合いがつかなかった」(NKK)と、結局、60億円で不動産会社に売却した。2年後、マンションに生まれ変わる。
「猛暑は追い風。思いは天に伝わっている--」。「東京マリン」スタッフはそう意気込むが…。
(内藤敦子)
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