日本の良いところ・改善が必要なところ―セクハラに対する罰則規定が必要だ
日本は「居住の自由」「平等な財産権」「子育て」「年金」の4つの領域で満点を取っています。
「子育てで満点!?」と驚かれた方もいると思いますが、内容を確認すると理解できると思います。この領域で評価されているのは、「14週以上の産休・育休が保障されているか」「政府が産休・育休のかかるコストを負担しているか」「父親の育休は保障されているか」「妊娠を理由とした解雇に罰則が設けられているか」の4点です。男性の育休取得率があまりにも低いので勘違いしがちですが、日本は法・規制という点では整備がきちんとなされている国です。問題は慣習の方にあることを浮き彫りにする結果だとも言えます。
もちろん日本には待機児童や他の先進諸国と比べても低い家庭・教育への公的支出といった法・規制にも関係する問題は依然として存在しています。これらが評価項目から外れているのは、女性の経済的な機会という点からいえば、次に述べる課題の解決の方が優先度合いが高い、ということなのかもしれません。
日本が改善すべきところは、女性の経済的な機会のど真ん中にあたる「雇用」です。特に、日本に関する2ページのレポートで言及されているのが、セクハラに対する罰則規定の問題です。
「雇用」領域で、日本の法整備は「就職」と「性別に基づく差別に対する罰則規定」の項目は良いとされていますが、「職場でのセクハラに対する法制度」「セクハラ加害者に対する罰則・被害者に対する救済措置」の2項目で法整備の必要があるとされています。男女雇用機会均等法の中でセクハラ防止措置は確かに明記があるのですが、罰則規定がないため不十分だとされているようです。
就活でのセクハラは毎年のようにニュースになっていますし、セクハラ問題も近年メディアを賑わせています。セクハラに限らずハラスメント全般に関する法整備はすぐにでも取り組む価値が高いでしょう。
その他の日本の改善点
その他、日本が改善の必要があるとされている項目は以下の通りです。
「婚姻」-「再婚に関する男女平等」:女性のみにある「100日間の再婚禁止期間」が引っかかっています。元々、父子関係の問題を防ぐために設けられた規定のようですが、現代ではDNA鑑定も可能になっているので、確かに不必要な規定になっています。
「起業」―「金融アクセスへの男女差別」:アメリカに住んでいると金融アクセスへの差別は教育政策分野にいても見かけるぐらい激しく議論がされています。日本ではアメリカほどには顕著にこの分野で差別が無いのかもしれません。しかし、予防措置として法整備をしておく価値は十分にあるでしょう。
「賃金」―「鉱山・建築現場などで女性も男性と同様に働けるか」:労働基準法64条2の妊産婦等の坑内業務の就業制限が引っかかっています。あまりに専門外のため私には是非がわかりません。
「賃金」―「同一労働同一賃金の義務化」:日本でも大企業は昨年から、中小企業もこの4月から徹底が求められることになりました。来年の報告書ではこの点の分だけ日本のスコアも上昇するはずですが、この報告書で評価項目として入ってくるぐらいには同一労働同一賃金の徹底は女性の経済的な機会にとって重要なので、徹底的に実施される必要がある、というのは重要なポイントです。
まとめ
この手のジェンダーに関する国際ランキングが出ると、その国際ランキングが視野に入れているポイントから外れたところを指摘しながら日本の後進性を嘆いたり、逆に日本特殊論や国際ランキングの不備を指摘してそこから学べる・学ぶべきポイントをすべて無視したりしてしまう、という両極端なリアクションが起きがちです。
確かに、ジェンダーギャップ指数の教育分野のようにそもそも方法論として論外過ぎるものもありますが、この世界銀行の報告書はそれよりは方法論として健全です。特にセクハラに関する罰則規定の甘さや、同一労働同一賃金の重要性辺りは学ぶべきところが大きいですし、金融アクセスへの差別防止など「言われてみれば確かに」というポイントもあります。
人間の体重は水分量や筋肉中のグリコーゲン量で数キロぐらい簡単に変動するのに、ダイエット中に脂肪が落ちたかどうかではなく、僅かな数値上の体重の増減で一喜一憂するのがバカバカしいのと同程度には、この手の国際ランキングの順位に一喜一憂するのはバカバカしいことです。
課題は何で、それを克服できたのかどうか(≒脂肪を落とせたのかどうか)で一喜一憂できるようになりたいものです。そしてメディアには、順位をセンセーショナルに報道するのではなく、どの項目で引っかかって順位が低いのか、せめてその項目の羅列ぐらいは報道で触れて欲しいと思います。
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