「日本は世界で◯◯位」にダマされないために 女性差別に関する報告書でみる国際ランキングの読み方

文=畠山勝太
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GettyImagesより

 「日本は世界で◯◯位」という調査結果がたびたび話題になります。ジェンダーの分野で有名なのは、世界経済フォーラムが毎年発表している「ジェンダーギャップ指数」でしょう。日本はこの男女格差を測るジェンダーギャップ指数で例年、非常に悪い成績を残しており、女性差別がいまだに根強く残っていることの証拠としてたびたび取り上げられます。ちなみに2020年の日本のジェンダーギャップ指数は153カ国中121位でした。

 以前、連載「女子教育が世界を救う」でも取り上げたように、実はジェンダーギャップ指数の順位そのものにはあまり意味がありません。なぜなら、選定された指標や計算方法に疑問が残るだけでなく、全ての国際ランキングに当てはまりますが、こうした衝撃的な順位をビジネスのために利用しようと目論む人たちが、様々な曲解を出回らせて、もはや何のためのランキングなのかすらよく分からなくなるからです。

 これに対し、質の高い報告書の場合は非常によく作り込まれており、内容を踏まえずに順位のみを強調するのはかなりもったいないことがあります。指標の大半が選定された理由がしっかりとしているので、指標のひとつひとつを確認して、どこに問題があり何を改善すべきかを考えることで、男女格差を是正するために活用できるからです。

 今年2月、世界銀行が「Women, Business and Law 2021」という報告書を発表しました。経済的な権利に関する男女格差を調査した報告書で、日本は190カ国中80位と芳しくない評価を下されていました。なぜこのような順位に位置付けられたのか、内容を確認しながら、日本は今後ジェンダー平等実現のためにどのようなアクションをとるべきかを考えていきたいと思います。

そもそもこの報告書は何なのか?

 全てのジェンダー関連の報告書やランキングには何らかの目的があります。「Women, Business and Law 2021」の場合は「女性の経済的な機会を規定する法律や規制の現状を議論すること」に目的が置かれています。

 つまり、「(私の専門分野でもある)女子教育の視点がない」といったコメントには妥当性が無いですし、この報告書では法律や規制の話がされているので、「日本は価値観や文化が違うから気にすることはない」といった日本特殊論を持ち出してくるのもお門違いになります。目的をおさえることは、報告書の内容を正しく理解するためにたいへん重要なのです。

 「Women, Business and Law 2021」では、ジェンダー関連の国際条約と照らし合わせるだけでなく、経済学分野の論文をレビューしたり、選んだ指標が女性の経済的な機会と統計的に関連があると言えるのかもチェックされています。実は冒頭で例にあげたジェンダーギャップ指数は、指標の選定がプロフェッショナルのものとは呼べず、あまり信頼できるものではありません。報告書の信頼性を確認するにはある程度の専門性が必要とされますが、「どのくらい信頼できるのか」という視点を持つことも大切です(フェアネスのために言及しておくと、世界銀行は私の最初の職場ですし、最近もコンサルタントの仕事を請け負ったので、その点が私の判断に影響を与えている可能性はあります)。

 この報告書では「居住の自由」「平等な財産権」「雇用」「賃金」「婚姻」「子育て」「起業」「年金」という8つの領域を評価しています。「居住の自由」と「平等な財産権」があることで経済的な機会が広がり(この点は、途上国特有の問題で、先進国ではほぼ解決された問題ですが)、「雇用」と「賃金」は経済的な機会の中心であり、「婚姻」と「子育て」という家庭領域の法整備が不十分では経済的な機会を得ることに支障が出てきますし、「起業」や「年金」という領域も重要な経済的な機会です。「女性の経済的な機会を規定する法律や規制の現状を議論すること」には妥当性のある項目でしょう。

 では、この8つの領域で日本はどのような評価を受けたのでしょうか?

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