問題だらけのジェンダーギャップ指数 信頼のできる国際的な指標とは?

文=畠山勝太
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GettyImagesより

 先月末に2020年のジェンダーギャップ指数が発表され、日本は156国中120位と、相変わらずの3桁番台であったことが話題となりました。

 毎年ジェンダーギャップ指数が発表されると、「ジェンダーギャップ指数はインチキだ。国連開発計画が出しているジェンダー不平等指数だと日本は20番前後と非常に良好な位置にいる」などの声がSNSなどで見られます。

 以前も書いた通り、指標の中には質の高いものもあれば低いものもあります。また指標ごとに重視する領域が異なるため、特定のランキングを持ち出して、日本では女性が優遇されている/虐げられていると議論するのは非常に不毛だと思います。

 特に、ジェンダーギャップ指数を持ち出した議論はどちらの側も稚拙が過ぎます。私は南アジアと英語圏アフリカを訪問・滞在して女子教育の仕事・研究もしていたので、それらの国々で仕事や研究をしたことがないどころか行ったことも無いのに、安直に日本のジェンダー状況がそれらの国々よりも悪いと言えてしまう姿勢には呆れてしまいます。

 だからと言って、前述の記事冒頭のジェンダーギャップ指数の問題点を指摘した記述だけをみて「やはりジェンダーギャップ指数は意味が無い。日本の女性は優遇されている」というのも、後半で紹介した指標や、あるいはこれまでも度々言及した教育や賃金のデータから考えれば、「何見て言ってるんだ?」と前者以上に呆れかえる意見です。

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問題だらけのジェンダーギャップ指数 信頼のできる国際的な指標とは?の画像2 ウェジー 2021.03.13

 「不毛な議論」はラジオの番組名だけで十分です。今回は一人でも多くの人が不毛な議論で非生産的な時を過ごさなくて済むように、ジェンダー平等に関する数々な国際ランキングがジェンダー平等のどの側面をどのように分析しているのか、そしてどの指標こそ参照する価値のある指標があるのかを解説してみようと思います。

独自にデータを収集する労力すら割いていない頼りない指数たち

 国際的なジェンダー指標・ランキングは数多くあります。最初に、例として内閣府の男女共同参画局のHPで男女共同参画に関する国際的な指数として紹介されている、人間開発指数・ジェンダー開発指数・ジェンダー不平等指数・ジェンダーギャップ指数の4つを見ていきましょう。

 ひとつめの人間開発指数(平均寿命・平均教育年数・国民一人当たり所得から構成される指数)はジェンダーに関連する指標ではありません。そしてジェンダー開発指数はこの人間開発指数を使ってジェンダー平等を論じようとするものであり、ジェンダー平等を分析するために作られた指数ではありません。

 またジェンダー開発指数の短所を補うために導入されたジェンダー不平等指数は、リプロダクティブヘルス(健康)・エンパワメント(教育と政治)・経済の3つの側面から分析しているのですが、指標として用いられているのが、妊産婦死亡率・10代後半の出生率(健康)、中等教育を修了している人口割合(教育)、国会議員の男女比(政治)、労働参加率の男女比(経済)の5つしかありません。

 この指数は、全世界を視野に入れているために、データの質が信用できて、かつ国際比較が可能、各国が収集しているデータしか使えないのです。これでは例えばジェンダー問題の根本にある慣習や家庭内の問題が捉えられませんし、大半の人が高校を卒業するような先進国での教育におけるジェンダー問題を捉えることもできません。

 この、出来合いの指標でジェンダー平等度合いを測定する際に直面する課題はジェンダーギャップ指数にも当てはまります。指標の選択に大きな課題があり(このことは以前も書きました)、参照する価値は国連開発計画のもの以上に低いと言えます。

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問題だらけのジェンダーギャップ指数 信頼のできる国際的な指標とは?の画像2 ウェジー 2017.11.08

 参照する価値が低いジェンダー平等ランキングは、出来合いのデータに頼り切ってしまっているため、見ている領域が狭すぎる・指標の確定根拠が弱いという欠点があります。

 一方、参照する価値が高いジェンダー平等ランキングは自分たちでデータを集めるという労力を割いているが故に、より広範に、そして指標の選定根拠がしっかりしているという特徴があります。では、具体的にどの指標に参照価値があるのでしょうか?

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