伊是名さんたちが、指示されたとおり、発車15分前に小田原駅の窓口を再度訪れると、来宮駅には階段しかないということを理由として、「熱海まででいいですか?」と言われたという。これは、筆者から見ても「えっ」と驚く対応だ。何もしていなかったのか。それとも、乗車手配をしようとしたが予定の電車には絶対に間に合いそうになかったのか。
筆者が伊是名さんに詳しく尋ねてみたところ、他の駅から運べる階段昇降機の可能性については、もちろん聞いてみたそうである。小田原駅の駅員は、「は~」という感じの応答だったそうだ。
「熱海駅まででいいですか?」
駅員の残念な対応にも冷静に対応
結局、伊是名さんたちは予定より1時間遅れて小田原駅から乗車した。熱海駅から、駅長を含む4人の駅員が乗車し、来宮駅で伊是名さんたちを無事に降車させ、車椅子を地上へと運んだ。伊是名さん自身は、ヘルパーに抱きかかえられて移動した。そして、予約していたレストランで、予定どおりに食事を楽しむことができた。間に合ったのは、小田原駅から乗車した時点で1時間30分の余裕がある予定を立てていたからである。
「車椅子での移動は、本当に何が起こるかわかりません。障害のある人が、何も調べていないということはありません。様々な予測をしながら行動しているものです。それなのに、このような結果になり、残念です」(伊是名さん)
筆者自身、公共交通機関の利用では、乗り換え1回につき30分の余裕を見込むようにしているが、それでもギリギリになる場合がある。複数のトラブルが重なると、1回の乗り換えで2時間が必要になる場合もある。そこに空腹や寒さが重なり、体力の限界への挑戦になる場合もある。今回の伊是名さんの場合は、幼少の子ども2人もいた。それでも、あくまでも冷静に丁寧に対応したようだ。
「小田原駅の駅員さんたちは、熱海駅までしか乗せないことが正しい対応だと考えていたようですが、そうは言いつつも『どうしましょうか』とも言っていたんです。ですから、怒りませんでした。駅員さんではなく、体制の問題ですから」(伊是名さん)