充分に伝えられていない
「乗車拒否」の真相

4月9日、伊是名夏子さん(右)と筆者。互いに初対面であったが、緊張せずに対話できた。支援者とともに自分の生活と人生をプロデュースしてきた伊是名さんの人間力が感じられた

 4月1日、東京都内在住の伊是名さんは、子ども2人・友人・業務として同行していたヘルパーと共に、静岡県熱海市への1泊旅行のために出発した。小田原駅でJR線に乗り換え、来宮駅まで行く予定だったのだが、来宮駅は無人駅である。エレベータはなく、階段を利用する必要がある。駅員は「1駅前の熱海駅までなら」と言い、熱海から来宮まではタクシーで移動することを提案したが、伊是名さんは応じず、来宮駅までの乗車および降車にあたっての介助を粘り強く求めた。

 結局、熱海駅から駅員4名が同乗し、来宮駅での降車時の介助、および人力で車椅子を運搬するなどの介助を行った。駅員の提案に応じなかった伊是名さんに対しては、「クレーマー」という批判もある。実際のところは、どうだったのだろうか。筆者自身も電動車椅子を利用しているため、非常に気になる。そこで、伊是名さんに出来事の詳細を聞かせていただいた。

 JR上野東京ラインを利用すれば、小田原駅から来宮駅まで、在来線で乗り換えなく行くことができる。所要時間は31分だ。伊是名さんたちは、予定していた電車の発車30分前に、小田原駅の窓口で来宮駅まで乗車したい旨を伝えた。その時点では断られておらず、「発車15分前に案内するので、そのときにまた来てほしい」と言われたという。

「車椅子で乗りたい」という旨を伝えてから発車までの間に鉄道会社で行われる作業は、まず降車駅と連絡を取り、降車介助の了解を得ることである。来宮駅は無人駅であるため、人手と機材の確保が必要になる。

 無人駅であっても、スロープ板や車椅子用の階段昇降機は配備されている場合が多い。しかし、「スロープ板のロッカーの鍵が開かない」「階段昇降機が故障している」といったトラブルがつきものだ。機材の出番が数ヵ月に1回しかないような駅では、特に機材トラブルが起こりやすい。その駅に備え付けられているのに使えない場合は、近隣の駅から運んでくることになる。台車タイプの階段昇降機なら、他の駅から運んできて利用することができる。

 いずれにしても来宮駅は無人駅であるから、介助人員とともに、動作確認できている機材を運んで使用することが最も合理的であろう。小田原駅や熱海駅なら、人員が比較的多く、機材の備えも期待できる。