イギリスのワクチン接種、7月末までに全成人に=保健相
イギリスのマット・ハンコック保健相は8日、新型コロナウイルスのワクチンについて、イギリスの全成人が7月31日までに接種を受けられる見通しだと述べた。
人口約6700万人のイギリスのワクチン接種事業は今月初め、キリスト教の復活祭にかけての連休中にいったん実施件数が減少したものの、その後は元のペースに戻り、これまでに2回の接種を完了している人は600万人を超えた。
英政府統計によると、7日までにイギリス国内で1回目の接種を済ませた人は3180万7124人、2回目の接種を終えた人は609万1905人。
7日には、新たに1回目のワクチン接種を受けた人は9万9530人、2回目の接種を受けた人は40万8396人だった。イギリスでは4月初めから、2回目の接種を受ける1日ごとの人数が1回目の人数を上回っている。
8日に新たに確認された新規感染者は3030人で、昨年12月末から今年1月初めに一時、1日6万人を超えていたピークから9割以上、減少した。陽性判定から28日以内に亡くなった人は8日、53人で、今年1月半ばに1日1000人を超えていたピーク時から、死者数も減少が続いている。
英インペリアル・コレッジ・ロンドンが実施する追跡調査「React」によると、イングランドではワクチン接種事業が進むに連れて、新型ウイルスの感染や死亡が減りつつあるという。3月後半にイングランドで14万人から検体を採取した結果、陽性者は227人で陽性率は0.2%(500人に1人)だった。ワクチン接種が進む65歳以上の人の陽性率は1000人に1人だった。2月4日~23日に同様の調査をした際には、イングランドで推定200人に1人が感染していたという。
アストラゼネカ製ワクチンをめぐる議論
ハンコック保健相はさらに、国内の18歳~29歳の850万人全員に2回行き渡るだけの、米ファイザー製と米モデルナ製のワクチンを確保していると話した。
イギリス政府はファイザー製ワクチンを4000万回分、モデルナ製ワクチンを1700万回分、発注済み。そのほか、他社の認可待ちのワクチンについても、すでにヴァルネヴァ社と1億回分、ヤンセンファーマ社と3000万回分について合意している。
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イギリスではファイザー製とモデルナ製のワクチンに加え、英アストラゼネカ製ワクチンの接種事業を進めている。アストラゼネカ製ワクチンと血栓の関係が指摘されるなか、英予防接種・免疫合同委員会(JCVI)は、同ワクチンを受けた内「ごく少数」の人に血栓が発見されたことから、29歳以下の若者にはアストラゼネカ以外のワクチンを提供するよう提言している。
JCVI副委員長のアンソニー・ハーンデン教授は、アストラゼネカ製ワクチンは引き続き全ての年齢層に利用可能だが、高齢者に比べると新型ウイルスの感染リスクが低い30歳未満の若者には、別のワクチンを選択肢として提供する方が安心だと、委員会として判断したと説明した。
こうした状況でハンコック保健相は、アストラゼネカ製ワクチンは安全で、2回目の接種後に珍しい血栓が見つかった「証拠はない」として、1回目の接種をすでに受けた人は2回目も受けるよう呼びかけた。また、1回目の接種の順番になったという連絡を受けたら、その機会を活用するよう市民に促した。
保健相は、イギリスの医薬品当局がごく少数の人に血栓ができたという事例を把握できたのは、ワクチン接種事業の体制が安全に機能しているからだと述べ、接種事業の安全性は信頼できると主張した。
「このワクチンをめぐる安全確保の仕組みは実に敏感に反応するようにできているので、100万人に4人という(珍しい脳血栓ができる)確率の出来事も検知する。これは、長距離フライトに乗る際のリスクと同じくらいの確率だと聞いている」と、保健相はBBCの朝の情報番組「ブレックファスト」で話した。
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英医薬品・医療製品規制庁(MHRA)はアストラゼネカ製ワクチンが血栓の原因となった証拠はないとしつつ、何らかの関係を示す兆候が増えているとしてる。欧州医薬品庁(EMA)は、ワクチン接種によるメリットがリスクを上回るという見解を示している。
MHRAはイギリス国内のアストラゼネカ製ワクチンの使用と血栓の関係について、次のように報告している。
- 3月末までに2000万回の接種を実施した後、79人に血栓がみつかり、19人が死亡した。血栓ができるリスクの確率は100万分の4、血栓で死亡する確率は100万分の1
- 珍しい血栓症になった人の約3分の2が女性だった
- 死亡したのは18歳から79歳の人で、そのうち3人が30歳未満だった
- 記録されている血栓症の症例はいずれも1回目の接種後に確認された。ただし2回目の接種を受けた人数がまだ少ないため、このことからは結論は導けない
ハンコック保健相は、新型コロナウイルスによる感染症COVID-19は「ひどい病気」で、長期的に続く症状は他の年齢層と同じように20代の若者にも影響し、「場合によっては生活が破綻(はたん)してしまうほど体を衰弱させる副作用」が長く続く危険もあると指摘。それだけにワクチン接種は重要だと述べ、自分も「健康な42歳」として、順番が来れば「どのワクチンでも進んで受ける」のを楽しみにしていると話した。
最大野党・労働党のサー・キア・スターマー党首は、自分がすでにアストラゼネカ製のワクチンを受けたと明らかにし、2回目も受けるつもりだと述べ、ほかの人も同様に接種を受けるよう呼びかけた。
「何より大事なのは、このワクチン接種事業をできるだけ早く展開することだと思う。それこそが、パンデミックから確実に抜け出す方法だ」とスターマー党首は述べた。
欧州各国はそれぞれアストラゼネカ製ワクチンの使用について個別に判断し、多くの国が高齢者への使用に限定している。オーストラリア政府は、50歳未満の人にはファイザー製ワクチンを使うべきだとしている。
血栓症の専門家で、ワクチンと血栓症の関係についてMHRAの調査に協力しているキングス・コレッジ・ロンドンのベヴァリー・ハント教授は、アストラゼネカ製ワクチンが血栓の原因なのか分かっていないと話す。
ワクチンを受けた4日後や、さらにその後に、「経験したことがないほどのひどい頭痛」を訴えて診察を受ける人たちがいるため、早期の対応が症状改善につながる可能性があると、教授は指摘する。
血栓で家族を失ったがワクチン接種を推奨
英中部ウォリントンの弁護士ニール・アスルスさん(59)は3月17日に、オックスフォード/アストラゼネカ製のワクチンを受けた。
きょうだいのアリソン・アスルス博士(薬学)によると、ニールさんが頭痛や吐き気がするようになったのはその約1週間後で、さらにその8日後くらいには視力を失い始め、今月2日に入院した。
その後、脳に「巨大な血栓」が見つかり、4日夜に亡くなったという。
「人間として、家族として、彼がこんな目に遭ったことに私は激怒している」ものの、ワクチンを受けるよう強く勧めるとアスルス博士はBBCに話した。
「社会全体としては、ワクチンを受けた方が、受けないよりも多くの命が助かる。血栓のリスクはごくごくわくずかで、私のきょうだいはものすごく運が悪かった」のだと、アスルス博士は話した。
博士自身はファイザー製のワクチンを受けているが、家族にはほかにもアストラゼネカ製のワクチンを受けた人が複数おり、その人たちには2度目の接種を受けるよう勧めているという。