【処理水問題】強行は許されない(4月8日)

2021/04/08 09:19

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 菅義偉首相は七日、東京電力福島第一原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含む処理水について海洋に放出して処分する方向性を示した。近く関係閣僚会議を開き、正式決定する意向とみられる。海洋放出に一貫して反対している漁業者らを無視して物事を運ぶつもりなのか。福島第一原発敷地内からの海洋放出の強行は許されない。

 菅首相と面談した全国漁業協同組合連合会の岸宏会長と県漁連の野崎哲会長は、海洋放出によって風評被害が発生するとして「反対はいささかも変わらない」と述べた。一方で安全性を担保し国民や漁業者への説明責任を果たすとともに、陸上保管の継続を模索することなどを求めた。

 処理水を巡って政府は昨年二月の小委員会の提言を受け、海洋放出を軸とした処分方針について県内自治体などに説明した。漁業者ばかりでなく、さまざまな関係者から風評被害の再燃につながると強く反発する声が上がり、昨秋に予定していた海洋放出決定を急きょ先送りし、国民理解の醸成に取り組むとした。

 それから五カ月余りが過ぎたが、その間、政府は何をしたのだろうか。菅首相は国会答弁などで「いつまでも先送りすべきでない。適切な時期に方針を決定したい」と繰り返すばかりで、処分方針や具体的な風評対策の説明は一切なされなかった。

 本来であれば、方針を決める前に、あらためて処理水処分について考える場を設ける必要がある。処理水の安全性や移送の可否、海洋放出による影響、風評被害が発生しにくい処分方法の検討結果などを分かりやすく示すべきだった。何もしなければ処理水処分への理解が県内はもちろん、全国に広がるはずもない。結局は「スケジュールありき」「海洋放出ありき」と言われても仕方あるまい。

 政府は県漁連と「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」との約束を交わしている。これに対し梶山弘志経済産業相は先月、関係者には県や県内市町村などが含まれるとした上で「ぎりぎりまで多くの方の理解を得る努力を続ける、という意味で申し上げた言葉だ」との認識を示した。詭弁[きべん]だろう。

 原発事故から丸十年が経過した今も風評被害に苦しむ県民の感覚とは余りにかけ離れている。政府は、どんな努力をしたのだと問いたい。このままでは県内は著しい風評に再びさらされる恐れがある。それでも海洋放出に突き進むのであれば、もはや努力すら放棄していると言わざるを得ない。(円谷真路)