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トヨタとホンダが協働する「電気のバケツリレー」とは?

2020年12月14日

トヨタ自動車(以下、トヨタ)とホンダの本田技術研究所は2020年11月26日、燃料電池バス(FCバス)を活用した移動式発電・給電システム「Moving e(ムービングイー)」を、山梨県庁前広場(甲府市)にて公開した。Moving eは、トヨタとホンダが共同で、2020年9月より山梨県富士川町などで実証実験を進めているプロジェクト。FCバスが燃料として搭載する大容量の水素を、被災地などの電力供給に生かそうという取り組みだ。

共同で実証を進めるトヨタとホンダのチームメンバー

近年、地震や台風・豪雨などの自然災害により送電網が寸断され、家庭や避難所に電気が届かないという問題が頻発している。この問題に対してトヨタとホンダは、両社の技術を持ち寄り、送電網に頼ることなく被災地に電気を届ける移動式発電・給電システムの構築を目指す。Moving eはそれを具現化するもので、トヨタのFCバスとホンダの可搬型外部給電器・可搬型バッテリーを組み合わせたシステムとなっている。

トヨタの燃料電池バス、水素搭載量を2倍に

燃料電池バス「CHARGING STATION」の後部ポートから2台の「Power Exporter 9000」に同時給電

「CHARGING STATION(チャージングステーション)」と名付けられたFCバスは、既に東京で採用されている従来型のFCバス「SORA」をベースに、搭載する高圧水素タンクの本数を約2倍にして水素搭載量を大幅に増やしたもの。これにより高出力かつ大容量の発電能力(最高出力18kW、発電量454kWh)を得ることとなり、災害時にはこのバス自体が独立電源としての役割を果たす。

そもそも燃料電池自動車(FCV)は、水素と酸素の化学反応によって発電した電気を使い、モーターを回して走る自動車。それは「動く発電機」とも呼び得るものであり、作った電気を走行のためだけでなく、外部給電用に使うこともできる。特に今回公開されたFCバスは大容量の水素を搭載しているため、作った電気を走行のためだけでなく、避難所などの電力としても十分に活用できるポテンシャルを有しているのだ。停電時には、文字どおり電気をチャージするためのステーションとなる。

このバスから電気を取り出すためのポートは、車両後部に2つ装備されている。従来型のトヨタFCバスにも外部給電用ポートはあったが、その数は1つだけだった。これを2つにすることで、より迅速に、より多くの被災者の元に電気を届けることが可能になった。

トヨタ車両でつくった電気をホンダバッテリーに給電

FCバスから取り出した電気を受け取るのは、ホンダの可搬型外部給電器「Power Exporter(パワーエクスポーター)9000」と可搬型バッテリー「LiB-AID(リベイド)E500」・「Mobile Power Pack(モバイルパワーパック)」、そしてモバイルパワーパックの充電・給電器「Mobile Power Pack Charge & Supply Concept(モバイルパワーパックチャージ&サプライ コンセプト)」などだ。FCバスから電気をチャージした各給電器・蓄電池は、その後、それぞれの避難場所に運ばれ、照明やスマートフォンなど各々必要とする電気製品のために使われることになる。

ポータブルバッテリー「LiB-AIDE500」(右)と「Mobile Power Pack」(左)

Power Exporter 9000は、FCバスから直接電気を取り出し、一般の電気製品で使えるようにするためのもの。100V×6口、200A×1口の出力端子を備えている。LiB-AID E500は最大出力500W・定格出力300W、重量わずか5.6kgの軽量・コンパクトなポータブル蓄電池。Mobile Power Packは最大出力1500Wと高出力でありながら、着脱式のバッテリーを採用することで利便性を高めた給電器だ。ちなみに、この着脱式バッテリーは、ホンダの電動二輪車でも使われているものだという。

Moving eは、トヨタのFCバスCHARGING STATION 1台に、ホンダのPower Exporter 9000×2台、LiB-AID E500×20台、LiB-AID×36台、Mobile Power Pack Charge & Supply Concept×36台を搭載して構成される。まずは、このパッケージで被災地に駆けつけ、FCバスからPower Exporter 9000に取り出した電気を、複数のLiB-AID E500やLiB-AIDに小分けして持ち運ぶ。

「CHARGING STATION」に積載される「Mobile Power Pack」の一部

「電気のバケツリレー」で分散避難をサポート

「Moving e」による電気のバケツリレーのイメージ

この取り組みのコンセプトとなっているのが、「電気のバケツリレー」という発想だ。電気のもととなる水素をFCバスで現地に運び、FCバスから取り出した電気をたくさんの蓄電池に分けて、必要とされる場所までリレーする。両社はこれを、重厚長大なインフラの欠陥を補完する、「移動式マイクログリッド」と位置づける。

コロナ禍の中にあって、災害時の避難の在り方も変わってきた。避難所の“密”を避けるために、分散避難や在宅避難というあり方が標準になろうとしている。その意味でも、電気のバケツリレーにより、被災地のあちこちに電気を運ぶことができるMoving e には、大きな期待が寄せられるところだ。

クルマから電気を取り出すことは電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)でも可能だが、Moving eほどのスケールで電力供給システムを構築している例はない。この日、説明にあたったトヨタの燃料電池開発者は、「災害時を想定し、さまざまなエネルギーを利用できる体制を構築することが大切。広域で停電していたらEVへの充電は難しいし、ガソリンスタンドにトラブルがあればガソリンも使えない。エネルギーの多様性を持つことに価値がある」と話す。

さらに、トヨタとホンダは、「Moving eは災害時だけでなく、平時にもイベントなどで日常的に活用できる“フェーズフリー”のシステム」であるとアピールする。いざというときに「使い方が分からない」などということがないよう平時にも活用し、平時と非常時という2つのフェーズをフリーにすることを提唱する(平時活用・有事利用)。両社としては、導入の間口を広げることで、コスト低減にもつなげていきたい考えだ。

 

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