【科目】介護✕口腔ケア 【担当講師】新田実 【テーマ】とろみづけにおける注意点とポイント

こんにちは、リハビリテーション科医の新田実です。

嚥下(えんげ)障がいのある方が誤嚥(ごえん)を防ぐために、病院や介護施設、在宅などで水分や料理に「とろみ」をつけることが多く見受けられます。それにより、水分や食塊(食べもののかたまり)が口から咽喉まで送り込まれる速さがゆっくりになるので、嚥下障がいによる嚥下反射の遅れ(嚥下反射惹起遅延:えんげはんしゃじゃっきちえん)のある方にとっては、誤嚥しにくくなる効果が期待されるのです。

脳卒中やパーキンソン病などが原因で嚥下障がいのある方は、医師から水分や食事にとろみをつけるように指導されている方も多いと思われますが、実は注意が必要です。今回はとろみづけにおける注意点やポイントなどを3つほど解説したいと多います。

1:「とりあえず」でとろみをつけない

嚥下障がいや嚥下機能が低下してきた方に対して、「とりあえず」とろみをつけてはいないでしょうか。とろみには確かに誤嚥を予防する効果が認められますが、それはあくまで嚥下障がいの中でも「嚥下反射に問題のある方」の場合です。嚥下反射とは、食べものが口から食道に送り込まれる際、気管に食べものが入らないよう蓋をする動きのことです。

先述したようにとろみの効果は、水分や食塊のスピードをゆっくりにして、嚥下反射の遅れた方でも誤嚥しにくくすることです。したがって、嚥下障がいの中でも嚥下反射に問題のない方にはあまり効果が見られない対策となってしまいます。

とろみの効果の有無

とろみづけが脱水による入院を招く可能性も

さらに、とろみをつけることによるデメリットにも注意が必要です。とろみづけのデメリットとしては、「咽頭残留」と「脱水(水分摂取量の減少)」が挙げられます。

咽頭残留とは、のど(咽頭)の中の喉頭蓋谷(こうとうがいこく)や梨状窩(りじょうか)といった場所に、水分や食塊が嚥下した後にも残ってしまうことを指しますが、とろみをつけることによってこの咽頭残留が増えてしまう可能性があります。

とろみをつけた場合、水分や食塊のスピードは遅くなりますが、同時に粘着性も高くなってしまうので咽頭残留を起こしやすくなってしまうのです。咽頭残留は食事後の誤嚥の原因となってしまいますので、とろみのつけ過ぎや不要なとろみづけには十分に注意が必要でしょう。

もう一つのデメリットである脱水についてですが、これはとろみづけによって水分を補給する機会が減ってしまい、水分の摂取量が下がってしまうことが主な原因です。とろみをつけると水分やお茶などのサラサラとした喉越しが失われてしまい、「美味しくないから飲みたくない」と感じる方が多いため、結果として脱水のリスクが高まってしまいます。せっかく誤嚥防止のためにとろみづけをしても、それによって水分摂取量が減ってしまい脱水になってしまっては本末転倒です。

高齢者にとって脱水は非常に危険な状態ですし、入院の原因にもなります。なので、とろみづけによって水分摂取量が減ってしまわないように気をつけましょう。 どうしてもとろみづけが嫌で水分摂取が進まない場合は、ゼリーでの代用やとろみづけの必要性について、再度主治医と相談することが望ましいと考えられます。

とろみのつけすぎは誤嚥の原因に

2:とろみ剤をかき混ぜる動作にも一工夫!

とろみをつけるためには「とろみ剤」を水分に溶かす作業が必要になりますが、その際にも一つ注意点があります。

コップにとろみ剤を入れてスプーンなどでかき混ぜる際に、コップの中でスプーンをぐるぐると円状にかき混ぜることが多いと思いますが、この方法だとコップの中心にとろみ剤が集まってしまい、「ダマ」の原因となってしまうのです。これは流体力学の世界でも、「ティーカップ問題」と呼ばれる現象(紅茶の葉の入ったカップをスプーンでかき混ぜるとお茶の葉がカップの中心に集まってしまう)として知られています。

したがって、コップなどの容器の中でとろみ剤を攪拌(かくはん:かき混ぜること)する際には、円状にかき混ぜるだけでなく、前後にかき混ぜる動作も追加すると良いでしょう。ぐるぐると円状にかき混ぜた後に、中心部分の集りを分散させるようなイメージで前後方向の攪拌を追加すると、ダマができにくくなりますのでお勧めです。

3:減塩効果も期待できる

水分や食事にとろみをつける効果として、前述した誤嚥防止の効果が広く知られていますが、もう一つの意外なものとして減塩効果もあります。水分や食事にとろみをつけると食塊の流動性(スピード)が低下するのは先に説明した通りですが、これによって水分や食物が舌の上にとどまる時間が長くなり、味を濃く感じるという作用がもたらされます。

したがって、食事の際に汁物などとろみをつけることによって、減塩してもおいしく味わうことができるのです。最近ではとろみを利用した減塩レシピなどが各食品メーカーのホームページで紹介されており、手軽に試すことができます。嚥下障がいのある方は脳卒中後遺症が原因のことも多く、高血圧を合併していることも多いと思われます。水分や食事にとろみをつけることは「誤嚥予防」と「減塩」の2つの効果が期待されるので、とろみに対して苦手意識のある方も参考にしてみてください。

とろみづけにより味が濃く感じられる