働く高齢者も多く、高齢者が活発に生活できるエリア
渋谷、原宿、代官山などの街を擁する渋谷区ですが、その一方で、神泉や代々木上原といった住宅街があるという特徴もあります。
区北部の中野区と隣接する初台や笹塚といったあたりには古い民家が立ち並び、小規模ながら商店街も充実。
高齢者が生活するにあたっても、非常に住みやすい地域となっています。
他の地域と比べても施設の数自体はそれほど多くはないようですが、北部の住宅街には商店街やスーパーなどもたくさんあり、日常生活に困ることはほとんどありません。
また、いわゆる“向こう三軒両隣”といった近所付き合いも豊富で、地域住民との関わりから楽しく、そして生き生きとした毎日を送れることでしょう。
また渋谷区は、働く高齢者が多いことも特徴です。75歳以上の後期高齢者でも約15%が働いており、今後も就労を希望する高齢者が増えると考えられる一方で、高齢者の就労機会を増やそうという民間企業の動きも活発です。
のんびりと自由な毎日を過ごすのももちろん良いですが、ある程度の刺激を受けながらの生活もまた、高齢者が長生きする秘訣でもあります。
渋谷区の高齢化は他区に比べて緩やか
渋谷区の人口は1997年を分岐点として微増に転じており、この傾向は当分の間変わらないものと予想されています。
そのなかで、高齢者の割合は一貫して高まっていますが、その歩みは極めてゆっくりとしているのが特徴です。
区内では1994年以降、子育てをする世代が各地から区内に流入し、世帯数が増加。そのため、15歳未満の年少者の割合も高齢者と同様にゆっくりと増えています。
渋谷区の高齢化率の進行速度はほかの地域と比較するとゆとりがありますが、高齢者の世帯をめぐってはいくつかの問題があります。
例えば、2011年3月に発表された報告書によると、要介護・要支援の高齢者の33.4%が単身者であること、夫婦だけで生活している要介護・要支援の高齢者は15.7%に達していることが読み取れます。
実際のところ、要介護や要支援の認定を受けた高齢者については今世紀に入ってから徐々に増えており、この状況にふさわしい介護政策を次々と実行に移していくことを求める声が区民の間から上がっています。
居宅介護支援サービスの利用率が高い
現在の渋谷区では、要介護・要支援の認定を申請する区民が少しずつ増加。2017年時点で8,446人となっており、第一号認定者が圧倒的に多く、常に97~98%前後に達しています。
介護度の状態を調べると、要支援1の方がいちばん多く、常に20%前後を維持しています。
要介護5の方はいちばん少ないですが、それでも常時10%前後となっており、きめの細かいケアサービスの供給が必要とされています。
区内で居宅サービスを受給している方は多く、区の発表によれば毎年連続して5,000人を超えていますが、地域密着型サービスや施設サービスについてはどちらも1,000人に達していません。
渋谷区は、介護サービスの実態を探るため、区内の介護事業者にアンケート調査を実施してきました。
その報告書によると、事業者が提供しているサービスの50%が居宅介護支援サービスで占められていることがわかりました。
ちなみに、訪問介護サービスや介護予防訪問介護サービスに関しては、どちらも42.4%という数値が記載されています。
渋谷区に居宅介護支援サービスを求める高齢者が多いことは間違いないため、その需要に応えられる体制をつくることが早急な課題。あまり使われていないサービスについては、情報の周知に尽力する必要があるでしょう。
介護予防のための「健康はつらつ事業」を推奨
渋谷区では、以前から介護予防サービスを推進しており、区民は自身の状況に合わせてさまざまなサービスを選べるようになっています。
施設へご自分で通所できる方によく推薦されているのが、「健康はつらつ事業」です。これは、ヨガや太極拳、体操といった内容を、ご高齢の方でもできるようにアレンジしたもので、月に数回、参加者は楽しく身体を動かせるようになっています。
同様に、ご自分で通所できる方がよく参加しているのが「高齢者健康トレーニング教室」。これは、転倒など高齢者に多い事故を防ぐために、機械や道具を用いた運動を行うもので、筋力の維持が狙えます。
また、歯が抜けるなど口腔機能が低下しがちな高齢者に向け、「歯っぴぃ健口教室」は、口の機能を維持するために必要な知識や、具体的な手入れの方法などを学ぶ内容となっています。
「セーフティ見守りサポート事業」は、高齢者の状況を絶えずチェックするサービスで、必要があれば、介護や医療といったサービスを随時仲介します。
突然体調の悪化などに備えたい場合は、無線発報機を手元に置くことができる「緊急通報システム」への申し込みがおすすめです。
また、自炊が難しい場合は、一部の飲食店で食事の注文ができる「食事券」の販売が実施されています。
なお、既存の介護サービスだけでは足りないという場合は、「ホームヘルプサービス」を利用することで、生活援助や介護予防などの支援が受けられます。
NPO団体やボランティア団体が地域包括ケアの担い手として期待される
渋谷区では、国が主導する地域包括ケアシステムのガイドラインを参考にして、生活支援サービスの多様化を目指しています。
その一環で、これまでは社会福祉協議会の下で進められてきた生活支援サービスを、新たな統合事業と一体化することを検討しているところです。
もちろん、これまで活動してきた介護事業サービス事業者との関係がなくなるわけではありません。
今後は、そのほかの各地域で活動する団体ともどんどんつながりを深めて、家政婦紹介所やNPO団体、ボランティア団体などが地域包括ケアシステムの担い手となっていくことが予定されています。
すでに、区内各地で活動する医師や事業者などで構成される「渋谷区地域包括ケアシステム検討会」の手で、サービスの実現計画が進行中です。
このような新たな地域包括ケアシステムが、各地の高齢者も手元にまんべんなくいきわたるようにするために、区では生活支援コーディネーターの配置を決定しました。
それから、日常生活圏域を単位とした協議体を設置することも予定しており、在宅医療についても、在宅介護と合わせた改革が進められているところです。
地域包括支援センターと在宅医療連携機能が提携することで、介護サービスと医療サービス両方が在宅療養者のもとに十分届くようになるでしょう。
渋谷区の福祉サービス運営適正化委員会とは?
渋谷区では、介護相談員を配置しています。いずれも福祉や介護サービス全般について、豊富な知識や経験を持つ人材ばかりで、どのような質問や相談についても、専門的なアドバイスが期待できます。
渋谷区がこのような体制をとるようになった背景には、これまでたくさんの苦情や相談が区に寄せられてきたということがあります。
実際、2010年以後に絞っても、毎年20件以上の苦情が寄せられていました。2016年については、これまでの区の努力が実ったのか相談件数は20件を割り込んでいます。
相談内容の中でひと際目立つのは、要介護度認定に関するものです。2014年以後、この件に関しての相談は、連続して10件以上に達しています。
また、介護サービスの提供内容や保険給付の内容に対して、不満を覚える方が多かったことは否定できません。
2013年は、この件に関しての相談が過半数に達していました。しかし、2016年には介護サービスの提供内容や保険給付の内容に対しての相談は大幅に減っており、数年でかなりの改善に成功した可能性が感じられます。
そのほか、保険料の額や行政の対応内容、制度そのものに関する相談など、多様な相談が持ち込まれていることが公開されています。
何かサービスに対して疑問や不満を覚えたときは、速やかに相談員に電話してみましょう。
介護付有料老人ホーム特集
介護が必要な高齢者のための手厚いサービス
介護付有料老人ホームとは、介護サービスをはじめ健康管理、食事、掃除や洗濯、入浴、排泄などのあらゆるサービスを受けることができる施設です。みなさんが“老人ホーム”と聞いて真っ先に思い浮かべるのが、この施設になるでしょう。有料老人ホームの形態のうちのひとつで、老人福祉法第29条に規定された高齢者向けの生活施設のこと。介護サービスの提供を主とする会社や医療機関など、運営母体が民間の施設のため、とにかくコストパフォマンスを重視するところ、食事など健康管理に注力しているところ、レクリエーションが豊富なところ…と、その特徴は施設によって様々です。
夫婦入居・二人部屋に対応している施設特集
高齢化が大きな社会問題となっている昨今、老老介護は由々しき問題です。そこでクローズアップされているのが、「二人部屋・夫婦入居可」という施設の条件。「それまでの生活が一変するのは、できれば避けたい」。そうお考えの方も多いでしょう。
そんな方のためにご紹介するのが、夫婦入居・二人部屋に対応している施設の数々。ご夫婦で入居前と変わらない生活が送れるのは何よりの安心と言えるのではないでしょうか?また、リビングと寝室が分かれていたり簡易なキッチンがあったりと、設備面の充実も見逃せません。
現在の世帯構造はどうなっているのか
老人ホームには夫婦で入居が可能な二人部屋という選択肢があります。なので、夫婦のどちらかに介護が必要になっても、別れて暮らすことを選ぶ必要はありません。いつまでも一緒に暮らしたいけれども自宅で暮らすのは難しい、そんな場合は夫婦で老人ホームに入ることを検討してみてはいかがでしょうか。
実際に、現在の日本では夫婦のみの世帯が増加。この事実に比例し、今後は夫婦で老人ホームに入居したいと希望する人が増えるということも予想されています。
ご夫婦で同じ部屋に入居すると、自宅にいるのと同じような生活ができるのでより安心した生活が送れます。夫婦で入居できる可能性がある老人ホームには住宅型有料老人ホームや介護付有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅に加え、軽費老人ホームやケアハウスなどがあります。逆に夫婦での入居が難しい施設には特別養護老人ホームや介護老人保健施設などがあります。
夫婦で入れる老人ホームを探す場合は、電話での問い合わせのほか資料請求や施設見学などを通して、夫婦部屋の有無や夫婦で同じ部屋に入れる条件などを確認してください。ミニキッチン付きのお部屋を選べば、二人でちょっとお茶を飲みたいというときに便利。老人ホームのお部屋にはトイレ付きやお風呂付きなどもあるので、費用や場所など他の条件とともによく検討してみる必要があります。
いつまでもパートナーと暮らしたいという願いを叶えてくれる夫婦二人部屋の老人ホーム。需要はますます増えていますが、供給戸数は少なく競争率が高いということもまた現実です。もし老人ホームに夫婦で入りたいという希望がある場合は、早め早めに探し始めることが得策ですね。
夫婦入居時の料金体系は?
夫婦入居可・二人部屋の老人ホームに入りたい場合、やはり気になるのがその料金。一人ずつ別々の個室に入居するよりも、二人部屋に入った方が料金が少なく抑えられることも少なくありません。家賃は一人部屋を単純に2倍した額にはならず、一人部屋の料金に少し上乗せがあるぐらいと考えておくと良いでしょう。
一般的に、老人ホームへの入居にはさまざまな費用が発生します。家賃・管理費・食費・介護費などのほか、入居一時金が必要な老人ホームもあります。もちろん入居一時金が必要ないホーム、またそういうプランがあるホームもありますので、しっかりと比較検討してみてください。
文字通り、家賃は居室や共用施設を利用するための費用で、広さや立地、共用施設の多さなどによってその額が変わります。全額前払いのほか、前払いと月払いを併用するシステム、また全額を月払いするホームもあります。全額前払いの場合は、平均寿命などを考えた年数分前払いするために高額となる場合もありますが、一生涯追加で支払うことはありません。
管理費には、事務管理のための人件費や共用施設の維持管理費、生活支援サービスのための人件費などが含まれます。清掃や買い物代行などの費用が管理費に含まれるかどうかはその老人ホームによって違いますので、よく確認することが必要です。食費には食材費や厨房の人件費・維持費などが含まれます。食事をとらない日があっても毎月一定額負担しなくてはならないホームもありますので、注意しましょう。
そのほか、光熱費やおむつなどの消耗品費、入浴介助費、買い物代行や通院介助などの生活支援サービス費のほか、アクティビティへの参加費などが必要になる場合も。料金についてはどのくらい必要になるのか、事前に計算しておくことが重要です。
夫婦で老人ホームに入居することのメリット
老人ホームに入居しても夫婦で離ればなれにならず、一緒にいられるのは大きな魅力です。ホームによっては、夫婦どちらかが要介護状態なら入居できる夫婦部屋もあり、「私だけ入居したら自宅に残された主人が心配…」といった悩みも解決するでしょう。
特に夫婦部屋の場合、ベッドを2つ並べて置ける広さがあるため、空間が広めで閉塞感がないのもポイント。しかも老人ホームによっては別々に入居するより家賃が安く済むこともあります。
しかし、夫婦部屋のある老人ホームは数が少ないため、入居したくても順番待ちになることが多いのは気をつけるべきポイントでしょう。夫婦それぞれに個室を借りて、同じ老人ホームで暮らすことも可能ですので、夫婦入居を希望している人は個室も視野に入れながら検討することも一考かもしれませんね。
夫婦で入居すれば「自宅に残された方の食事が心配」といった悩みも解決し、介護付きの老人ホームであれば、いわゆる老老介護の問題に悩む必要もありません。夫婦部屋は一人部屋よりも広めで、浴室やトイレ、洗面台などを完備している場合も多く、中にはマンションに良く似た造りの部屋も。
加えてIH調理器が備わったミニキッチンがある部屋も多く、夫婦で好きなようにお茶やコーヒーを入れて楽しむことができます。ホームによっては外出が自由ですので、料理の好きな人は材料を買ってきて、気軽に料理が楽しめるのもメリットでしょう。
胃ろうへの対応が可能な施設特集
手厚い看護サービスが待っています
胃ろうとは、物を食べたり飲んだりすることができない、または難しいといった「摂食嚥下障がい」を持つ人が、栄養を補給するために胃に開ける穴のこと。数カ月おきにカテーテルを交換する必要がある胃ろうでは、医師や看護師による定期的なケアが必要不可欠です。また、例えば認知症患者では、自分で胃ろうを引き抜いてしまったり…といったトラブルもあるため、24時間看護サービスを導入している施設がほとんど。ここでご紹介するのは、そうした手厚いサービスが受けられる施設ばかりなので、胃ろうをしている方でも安心して入居をご検討ください。
胃ろう対応可の施設では手厚い介護・看護が
胃ろう(PEG:Percutaneous Endoscopic Gastrostomy)とは、病気や障害などで口から食事が摂れない方、または食事を気管につまらせやすく、誤嚥性肺炎を起こす可能性の高い方に対して行う「長期栄養管理法」です。
内視鏡を使い胃に小さな穴をあけて、そこに栄養を送るための胃ろうカテーテルを取りつけます。胃ろうカテーテルはお腹の皮膚と胃壁をつないでいるので、外部からカテーテルをとおして、直接胃のなかに栄養を送ることが可能となっています。この方法なら食事を飲みこむことができない、また誤嚥性肺炎を起こしやすい方でも安心して生活することが可能です。肺炎は高齢者の死因第3位。じつは高齢者にとって怖い病気です。できるだけリスクを避けてほしいという観点から、医師や介護スタッフが胃ろう造設をすすめる場合もあります。
従来は鼻からチューブをとおして胃に直接栄養を送っていましたが、患者が苦痛を感じることや介護者の負担が重いことが課題でした。今は、胃やお腹の皮膚に穴をあけ外から栄養を送ることで喉にチューブを入れる必要がなくなり、嚥下訓練や発声練習がしやすくなっています。胃ろうを造設しても食事は口から摂取可能です。胃ろうの必要がなくなった場合は、取り外すこともできます。胃は再生力の高い臓器なので「ろう孔」はすぐに回復するのです。
胃ろうの手術は大がかりなものを想像してしまいますが、大きな出血もなく5~10分程度で終わります。傷もほとんど目立ちませんしお風呂に入ることも問題ありません。できるだけ清潔にすることが望ましいため、PEG周辺部は石けんでよく洗い、きれいにしておくことが推奨されています。
こちらの表は「胃ろう造設者数」をまとめたものです。一般病院(一般病院・療養病棟・精神・結核・感染症病床)には16万9,543人の方が入院しています。さらに特別養護老人ホームや介護老人保健施設、訪問看護では25万6,555人もの方が胃ろう造設をされています。かなりの数の方が胃に直接栄養を流しこむ栄養摂取法で生活されています。つまり胃ろうはそれだけ安全な方法なのです。今後もさらなる高齢化により、胃ろう患者が増えることが予想されます。
<全国の胃ろう造設者数の推計結果>
胃ろう増設者数の推計 | 一般病院 | ||||
---|---|---|---|---|---|
合計 | 急性期 病院 |
慢性期 病院 |
ケアミックス 病院 |
||
一般病床 | 75445人 | 25866人 | - | 49579人 | |
療養病床 | 医療保険 | 60137人 | - | 28406人 | 31731人 |
介護保険 | 30954人 | - | 14643人 | 16311人 | |
精神・結核・感染症 | 3008人 | - | - | 3008人 | |
一般病院での合計 | 169543人 | 25866人 | 43049人 | 100629人 | |
特別養護老人ホーム | 36667人 | ||||
介護老人保健施設 | 21475人 | ||||
訪問看護 | 医療保険 | 9168人 | |||
介護保険 | 19702人 | ||||
合計 | 256555人 |
胃ろう造設した高齢者が老人ホームに入居する場合「胃ろうである」ことを理由に拒否されることは、以前にくらべて少なくなりました。胃ろうに対応できる老人ホームのスタッフが看護師だけだったため、胃ろう対応可能な老人ホームが少なかったのことが問題視されていました。今は研修を行えば介護職員でも対応可能となっています。
もし不安な場合は、老人ホームのパンフレットに医療・看護体制が明記されていますのでそちらを参考にしてください。もしわからないなら直接老人ホームに「胃ろうに対応できるかどうか」と確認すると安心です。老人ホームによっては、介護職員が研修を受けていない、看護師が常駐していないなどの理由で入居を断られる可能性があるため注意が必要です。
胃ろうに対応できる老人ホームを調査してみましたが、医療・看護体制がある程度ととのっているという共通点があります。看護師が日中、または24時間体制で勤務している、介護士が24時間体制で施設に常駐しているのがその特徴です。胃ろう対応可の介護施設なら、手厚い介護・看護サービスが期待できます。
老人ホームにおける胃ろう患者の受け入れ条件は?
2012年から、所定の研修を受けた介護職員が胃ろう患者に対応できるようになったため、以前よりも胃ろう患者受け入れ可能な老人ホームが増えました。しかし、受け入れ条件によっては入居ができない事例もあります。わかりやすくまとめていますので、ご参考にしてください。
1.認知症を発症した胃ろう患者は、受け入れがむずかしい……胃に直接栄養を送っている間は、できるだけベッドに横になり安静にしなければなりません。ところ認知症を発症するとソワソワと落ち着かなくなり、居室や共用部、また居室へと移動してまわる多動の症状がでるケースも。その場合、胃に確実に栄養が落としこまれているかどうかが確認できませんし、患者が認知症でアチコチ動きまわると栄養剤が逆流する可能性もあります。お腹につくられた胃ろうカテーテルは痛みやかゆみを感じることもあり、興味本位でいじるとカテーテルが抜ける場合もあります。患者の安全が確保できない場合は、胃ろうによる治療ができません。胃ろう治療が必要なうえに認知症を発症している場合、入居前に老人ホーム側との十分な話し合いが必要です。
2.たん吸引を行うかどうか……喉や口のなかに分泌物(痰など)を自力で外に吐きだすことができない高齢者は、看護師や研修をうけた介護スタッフにより機械を使って吸いとる必要があります。放置していると誤嚥性肺炎を引きおこす可能性も。嚥下状態(飲みこむ力)に問題のある高齢者は、吐きだす力も弱い傾向にあります。そのため胃ろう患者は、同時にたん吸引が必要なケースもあるとされており、これら異常行為が可能な看護師や介護スタッフが常駐する老人ホームでなければ対応できません。入居後に問題とならないように、入居前に施設側と話しをしておく必要があります。
3.介護スタッフが胃ろうの研修を受けているかどうか……胃ろうは医療行為のひとつなので、ずっと看護師のおこなう仕事とされてきました。ところが最近は、研修を受けた介護職員であれば胃ろう患者に対応できるようになり、以前にくらべて患者の受け入れが可能な老人ホームが増えています。ところが介護職員が研修を受けていない、看護師が日中、また24時間常駐していない、安全性を十分確保できない施設では入居を断られるケースもあるため、注意が必要です。
延命治療としての胃ろうをどう考える?施設入居前に考えてみよう
「胃ろう」は何らかの理由があり、口からの栄養摂取ができなくなった方に対して行われる医療行為です。口から栄養が摂れなくなる原因としては、口腔内のガンにより痛みで食事が摂れない、喉頭ガンや咽頭ガンにより食事がのどを通らない、脳卒中やALS、パーキンソン病などの神経性の難病により食事を食べることができない、また食べても吐き出してしまうなどがあります。このような嚥下障害により、胃ろうを造設することは純粋な「医療行為」です。腎臓の機能が低下した場合、人工透析を受けることになりますし、糖尿病の患者はインスリン注射で血糖値のコントロールをすることもあります。これら医療行為と胃ろうとは、まったく同じ医療処置のはずです。
ところが胃ろうに関してだけは「医療行為」や「医療処置」ではなく「延命治療」であるという認識をもつ方も多く、人によっては「胃ろうは不要」と口にする方もいます。なぜ胃ろうが延命治療と考えられてしまうのでしょうか。胃ろうを必要としている方のなかには、ある日突然脳梗塞や脳出血で倒れ、判断力や理解力が回復しないまま家族の意向によって胃ろうを造設する場合があります。認知症になり自分の意志で食事が摂れなくなった場合、胃に直接栄養を送る方法を採用するケースも。脳卒中で意識がなくなったり認知症で正しい判断がくだせない状況になったにも関わらず、胃ろうによって命をつないでいる状況が傍目には「延命治療をさせられている」ようにうつってしまうのです。
たとえ脳卒中で意識不明になってもその後回復し、嚥下リハビリで食事を摂取できるようになる方や、リハビリやレクリエーションで認知症の症状が緩和した場合、自分の意志で食事が摂れるようになった方もいます。胃ろうは、いつか回復するであろう嚥下機能回復までのつなぎでしかありません。もちろんなかには病状が回復しないまま、長期間栄養を外部から補給し続けることもあります。だからといって「無意味な延命処置、医療費のムダ遣い」とは言えません。治療として必要なものだと判断されたものに対して第三者が「ムダ」とは言えないはずです。
ただ胃ろうに関しては賛否両論ある現実を考え、脳卒中や認知症になる前に自ら「食事を経口摂取できなくなったときは、胃ろうを希望します」または「希望しません」と、ハッキリ意思を示しておくことが重要です。本人の気持ちがあらかじめ示されているなら、家族もその意向を優先させることができます。本人のしっかりした意思がベースにある以上「胃ろうはムダ」という議論が起きることもありません。
老人ホームに入居後、なんらかの事情で胃ろう造設が必要になることもあります。そのとき、本人がしっかりと状況を理解、判断、決断できればいいのですが、そうではない場合は家族が戸惑うことになります。あらかじめ「胃ろうは必要」「不要」という意思を、家族に伝えておきましょう。
胃ろうの処置は医療行為じゃなくなった!?老人ホームにおける介護士の役割とは?
胃ろうの処置は医療行為とされており、老人ホームでは看護師しかできないとされてきました。ところが看護師がいない時間帯に胃ろうの処置が必要なケースで、違法と知りつつ介護職員が胃ろうの処置を行う事例が起きていました。違法であっても必要に迫られて対処していたのですが、やはり問題があるということで介護士や看護師から「介護職員も胃ろうの処置ができるようにしてほしい」という声があがったのです。
そこで2012年から、一定の条件を満たした介護スタッフも胃ろうやたん吸引ができるようになりました。ある一定の条件を満たすその「条件」とは、定められた研修を定められた事業所で受講することです。受講時間は約50時間で、座学と実技がからなります。実技では実際に看護師から直接、胃ろうやたん吸引の技術や注意点を学びます。座学と実技でとくに問題がなければ、受講者(介護士)による胃ろうとたん吸引が可能となります。胃ろうとたん吸引はセットで研修を受けるように指導されています。
介護職員がこれら医療行為を行いやすい理由は、看護師よりも長い時間老人ホームに勤務していることがあげられます。看護師が24時間勤務する老人ホームは少なく、これが「胃ろう患者が介護施設に入所できない大きな理由」となっていました。ところが介護職員が一部の医療行為を行うことにより、入所者にとって大きなメリットがうまれます。痰がのどや口腔内にいつまでも残っていると誤嚥性肺炎を起こす可能性が高くなりますが、常勤介護士がすぐにたん吸引で処理できれば誤嚥性肺炎のリスクも低減され、入所者にとっても安心です。
老人ホームを選ぶときには介護士がきちんと研修を受けているかどうか、そして24時間胃ろうやたん吸引に対応できるかどうかを確認しておくとよいでしょう。
要支援の方が入居可能な施設特集
介護保険の認定で「要支援」と認定されるのは、将来的に要介護になる可能性があり、日常生活が適度に送れる人。介護保険が適用されるサービスは自宅で利用できる在宅サービスのみで、内容も介護予防的なものになっています。
将来を見据えていざ介護が必要となった場合には転居することなく住み続けられるのか、他の施設への転居が必要かということも、老人ホームを選ぶ際には大切なポイント。施設に入居するなら「デイサービスを利用できるか」「日々の生活支援の充実度」などをチェックするようにしましょう。
「要支援」と「要介護」は何が違う?
老人ホームを探している際には「要介護以上」という入居条件を見かけることも多いはず。現在の介護保険制度には「要支援1・2」「要介護3・4・5」という認定階級があり、数字が大きいほど介護度も高いわけですが、この「要支援」と「要介護」の違いは何でしょうか?
そもそも、介護保険サービスを利用するためには「認定」を受ける必要があります。「要支援」認定を受ける人は、介護サポートは必要としていないものの、一人での日常生活が難しく、生活サポートが必要な状態のこと。居宅サービスも「介護予防訪問介護」「介護予防福祉用具貸与」というように、名前に「介護予防」と付いたサービスであれば利用可能です。
一方の「要介護」とは、その名の通り介護が必要な状態のこと。「訪問介護」や「訪問看護」など、多彩なサービスが受けられます。要支援と要介護で大きく違うのは、要支援の方が基本的に介護保険に適用されるサービス量が少ないということ。「本当は毎日デイサービスに行きたいけど、週1回しか介護保険が適用されない…」といった場合もあるのです。
老人ホームへ入居する際のポイント
最近は要支援の方も受入れ可能な老人ホームも増えました。「要支援だけど一人暮らしは不安…」という人は遠慮なく入居申請を出すと良いでしょう。グループホーム(認知症対応型共同生活介護)であれば認知症の診断書を用意することで要支援2から入居でき、民間の有料老人ホームは要支援1でも入居可能なホームも少なくありません。
要支援・要介護も入居条件のポイントですが、介護保険の第1号被保険者である65歳以上を入居対象としている老人ホームが多いことから、年齢もその要件のひとつです。条件が揃えば40歳から64歳までの人も入居できる場合があるので、地域包括支援センターなどに相談してみるのが良いでしょう。
また、「必要な医療ケアをしてもらえるか?」も重要なポイント。医療体制に関しては老人ホームによってバラバラで、「要支援の方も受け入れ可能」と謳っている老人ホームでも、ご自身が必要とする医療ケアは受けられない可能性があります。施設見学を含めた入居前のタイミングで必ず入居前に確認しましょう。
要支援の人でも入居可能な老人ホームの種類
入居条件は老人ホームの種類によって異なります。「要介護以上」を入居条件にしているホームも多いですが、上記のように、要支援の人が入居できる施設もあります。
要支援の人でも入居できる老人ホームには有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅、ケアハウスなどがあります。有料老人ホームは介護付有料老人ホームや住宅型有料老人ホーム、健康型有料老人ホームなどに分かれているため、入居できるホームも実は多いのです。
有料老人ホーム
要支援の人でも入居できる有料老人ホームは、そのどれもが民間企業の運営。介護付有料老人ホームは24時間介護スタッフ常駐で、常に安心して介護を受けられるのが魅力です。
住宅型有料老人ホームは完全個室。基本的にデイサービスのようなレクリエーションや身体介助などはありません。介護が必要な人は外部の訪問介護やデイサービスなどを利用するスタイルです。
健康型有料老人ホームは介護度の低い人だけが入居できる施設。60歳から入居できるのが魅力ですが、介護度が上がると退去することになるのがネックと言えるでしょう。
サービス付き高齢者向け住宅
「認知症でない」といった条件があるものの、要支援の人はサービス付き高齢者向け住宅にも入居可能です。完全個室で食事や簡単な清掃といった生活サポートが提供される一方、介護サービスは付いていないのが特徴。そのため、ヘルパーステーションなどの訪問介護事業所や、デイサービス事業所が隣接している所も多いようです。
サ高住は外出が自由なので気楽に暮らせるのが魅力。さらに24時間体制での見守りサービスがあり、夜中の体調不良などにも対応してもらえます。
軽費老人ホーム・ケアハウス(軽費老人ホームC型)
ケアハウスと呼ばれる「軽費老人ホームC型」は、「一応自立した生活が送れるけれども、身体機能の低下や一人暮らしへの不安があり、経済的に生活が困難な60歳以上の高齢者」が入居対象です。要支援の人も条件が合えば入居可能です。
生活困窮者の支援が目的ですので、料金が比較的安いのが魅力。他の軽費老人ホームと違い、介護度が高くなっても退去せずに済みます。料金が格安なのもあり、入居待ちをしている人が多いという点がネックですが、簡単な生活サポートなども受けられるので人気のある施設です。