もちろん海外では、「経済学を学ぶためには、理系並みの数学力が必要」という認識が普通で、その迷信がまともに信じられるのは日本だけである。政治学に関しても、さまざまな内容についての統計学的分析が基礎となる時代であるにもかかわらず、「算数の%が理解できれば十分」と考えるのは残念でならない。
冒頭で紹介したように、新しい入試を早大政経学部が実施したことは、その迷信を過去のものにするうえでベストタイミングであったと言いたい。
なぜならば、2019年3月26日に経済産業省が発表したレポート「数理資本主義の時代~数学パワーが世界を変える」では、「社会のあらゆる場面でデジタル革命が起き、『第四次産業革命』が進行中で、この第四次産業革命を主導し先へと進むために欠かすことのできない科学が三つある。それは、第一に数学、第二に数学、そして第三に数学である!」とまで述べている。
さらに、前後して経団連も「文系大学生も数学を必修として学ぶこと」の提言を出している。実際、最近は「数学なんか学んで、何になる?」といった内容の発言はあまり耳にしなくなった感がある。
早大政経学部の入試改革の効果
もし、算数・数学の授業時間数や授業内容の大幅削減の「ゆとり教育」に向かっている1990年代後半に、早大政経学部が今年のような入試改革を実施したならば、恐らく多くの人たちから袋叩きにされたのではないかと想像する。
当時は優秀な高校数学教員の一部でも、「教員を続けたければ、役に立たない数学の指導は忘れて、役に立つ家庭科の教員になりなさい」と肩叩きにあった。そして、テレビの情報番組にまで引っ張り出されて、エプロン姿になった元・数学教員が「役に立つ家庭科の教員として頑張っています」と言わされたものである。
上で述べたように、早大政経学部の入試改革はタイミングが良かったこともあって、困った迷信を過去のものにする効果があっただろう。しかしながら、それで万々歳とまでは至ってないことを指摘したい。それは、入試科目の「数学I・A」と実際の応用面との乖離が小さくないことである。
経済での乗数効果を考えるときは、等比級数の和の理解が必須である。数学的には同じ発想の例を挙げると、バブル経済の頃、土地評価額の9割を担保にしてお金を借りて、また新たな土地を購入して……の繰り返しがあちこちであった。最初に購入した土地の価格が1億円ならば、のべ10億円の土地を購入できることが等比級数の和によってわかる。