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【イベントレポート】特別講座「美術館は静かにどこへ向かうのか」第一回「美術館の閉館は誰の問題なのか?」

【イベントレポート】特別講座「美術館は静かにどこへ向かうのか」第一回「美術館の閉館は誰の問題なのか?」

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文・写真=木村奈緒 写真=皆藤将


1月〜3月にわたり、全三回開催される特別講座「美術館は静かにどこへ向かうのか」
先日、第一回目の「美術館の閉館は誰の問題なのか?」が開催されました。

財政難による閉館、政治的・性的表現をめぐる展示規制など、近年、美術館をとりまく状況は厳しさを増しているように思えます。日本で初めての公立美術館が誕生してから約60年。社会の変化とともに、美術館はどのように変化してきて、これからどこへ向かうのか。

初回は、過去に美術手帖の編集長を務めた、美術編集者・評論家の楠見清さんをお迎えして、おもに「メディアと美術館」の観点から美術館について考えました。その模様をダイジェストでお届けします。

 

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まずは企画者の青木彬さんから、企画趣旨の説明がありました。 「昨年4月頃、清里現代美術館が閉館するというニュースが流れたとき、閉館に反対する声があがりましたが、実際のアクションにはつながりませんでした。」せめて最後にみんなで美術館と作品を見送りたい、と思った青木さんは「『未来へ号』で行く清里現代美術館バスツアー!」を企画。ツアーで美術館を訪れた4日後に、清里現代美術館は24年の歴史に幕を閉じました。

「清里現代美術館以外にも閉館した美術館はたくさんあるし、これからも閉館する美術館はあるはずですが、それを見過ごしていいのか?と思ったんです。そんな問題意識を持っている人達が集まって、共有できる場を作りたいと思い、この特別講座を企画しました。」(青木)

 

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初回の講師を務めてくださる楠見清さん。未来へ号で行く清里現代美術館バスツアーにも、特別講師として参加するはずでしたが、諸事情で参加できなかったため、今回はリベンジも兼ねてのレクチャーです。

 

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 レクチャーは、楠見さんが編集者時代に手がけたムック『Art Watching』の紹介からスタート。作品を正面からだけでなく、上下左右から撮影したり、作品の表面を接写したりしているのが特徴です。清里現代美術館にも撮影に行き、ドナルド・ジャッドの作品を色んな方向から紹介しています。実際に美術館に行って鑑賞する以上の体験ができそうです。

 

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本日のお題、「美術館の閉館は誰の問題か?」を考えるヒントとして、楠見さんは美術館、利用者、マスコミの三者を挙げてくれました。

 

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美術館の問題は誰か一人の問題ではなく、みんなの問題。つまり「公共」に関わる問題。ということで、美術館と同じく「公共性」を有する図書館についてのレクチャーも。日本や海外の新しい図書館形態の事例を紹介してくださいました。有川浩著『図書館戦争』の物語のきっかけとなった、日本図書館協会綱領「図書館の自由に関する宣言」は一読の価値あり。美術館が図書館から学べることはたくさんありそうです。

 

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ここで一旦休憩を挟みます。これまでのレクチャーを受けて、観客のみなさんに「わたしがほしい美術館、いらない美術館」を記入していただきました。後半はこのアンケートをもとに、私達が本当に欲しい美術館を考えていきます。(アンケートの隣にある「閉館した美術館リスト」はこちら→閉館した美術館2015.1.6よりダウンロードいただけます)

 

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ちなみに、このアンケート、楠見さんが編集長だった美術手帖2004年5月号で「わたしがほしい美術館、いらない美術館」という特集を組んでいたことから、今回再びやってみようということで実現しました。
休憩明け、回収したアンケート結果をホワイトボードに張り出して「私のほしい/いらない美術館」を発表します!

 

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▶いらない美術館の回答例
常設展・収蔵品のない美術館/学芸員がキュレーターと名乗っている美術館/展示が雑な美術館/その土地とつながっていない美術館/ジブリ・ディズニー系の企画展ばかり開催される美術館/鑑賞者に対し、作品の理解を深める努力をしない美術館/混んでいる美術館/夢のない美術館/作品の質問に答えられる人がいない美術館……など。

▶ほしい美術館の回答例
夜遅くまで開館している美術館/監視員が展示についてよく理解している美術館/巨大なコレクションをもつ美術館/作家を育てる美術館/作品表示の文字が大きいなど、来場者への「やさしさ」がある美術館/誰でもキュレーションできる美術館/がっつり監視されていない美術館/日本史が一望できる美術館/街の人の中心になる美術館/積極的に発信してくれる美術館/特定の建物を所持しない美術館/入場料学生無料の美術館……など。

 

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 今ある美術館に対する不満ははっきりしていますが、ほしい美術館となると、なかなか明確な美術館像がみえてきませんね……?やはり、今日ここに集まっている人達でさえ「美術館はみんなでつくるものだ」という意識は持ちにくいのかもしれません。

明確な結論や方向性は出せなかったものの、美術館の問題を考えるうえでの手がかりは見つかった第一回。この手がかりをもとに、引き続き、これからの美術館について考えていきたいと思います!

 

<次回予告> 特別講座「美術館は静かにどこへ向かうのか」第二回「日本の美術館の歴史を辿る」
ゲストに美術館史を専門とする暮沢剛巳さんをお迎えして、日本の美術館の足取りを振り返ります。 美術館の現在地を知った第一回。第二階は過去にさかのぼることで、さらなる手がかりを見つけたいと思います。 ご予約・詳細はこちらから。当日飛び入り参加も大歓迎です。是非ご参加ください。