日本政府もついに「温室効果ガスゼロ」を標榜、ソーラーシェアリングにできることは?
ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)について解説する本連載。菅首相が「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という目標を表明し、日本も本格的に脱炭素化に向けた機運が高まる中、ソーラーシェアリングが脱炭素化にどのように貢献できるのかについて考察します。
2020年10月26日の菅総理大臣による所信表明演説で「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という目標が宣言されました。今回は、従来の「80%削減」からさらに踏み込んだこの目標達成に向けて、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)がどのように貢献することができるかを考えてみます。
所信表明演説を受けて、再生可能エネルギー発電の増加を求める声が増していますが、国全体としてのゼロエミッションということになると、ことは電気だけの話にとどまりません。
国内で消費されるエネルギー資源の割合を、資源エネルギー庁が公表している総合エネルギー統計のデータから見ていくと、2018年度時点で一次エネルギー供給における再生可能エネルギーの占める割合は、大型水力発電まで含めても11.7%です。最終エネルギー消費に占める電気の割合を示す電化率も2018年度に25.9%ですから、再生可能エネルギー発電だけをただ増やしてもゼロエミッションは達成されません。熱や燃料といった化石燃料に大きく依存する他のエネルギー利用も含めて、打つべき手を考える必要があります。
そのために、最大限の電化を推進してエネルギー消費における電気の割合を高め、それを再生可能エネルギー発電で補うというのは一つの手段です。住宅ではかつてのオール電化に始まり、現在のZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)などエネルギー収支まで見た転換が図られています。
自動車などの電化は従来の想定以上のスピードで進むことに
また昨今は、世界的にEV(電気自動車)の販売量が増加傾向にあることから、輸送用燃料も電気へと転換していくことが可能となってきました。再生可能エネルギー発電に十分な経済性を持たせるほどの技術開発と普及を図り、電化の促進とともにゼロエミッションに向けた第一選択とすることは、十分に考えられます。
ソーラーシェアリングは日本の脱炭素化にどう貢献できるのか?
さて、その方向性の中でソーラーシェアリングはどのような形で貢献できるでしょうか。一つはもちろん、再生可能エネルギー発電の導入量を劇的に増加させるという点です。
国内の440万ヘクタールある農地面積を考慮した場合、今後の太陽光パネルの性能向上も見越して、1ha当たり1000kWpのソーラーシェアリングが導入できると想定できます。1000kWp当たりの年間の発電電力量を100万kWhと仮定すると、1万haの農地にソーラーシェアリングを導入すれば100億kWhとなり、現在の電力最終消費量の1%程度に相当します。国内の農地の5%にあたる22万haに導入できれば、20%以上の電力需要を賄える計算です。
ただ、このエネルギー量は国内の最終エネルギー消費5%程度にとどまります。エネルギー効率の改善と電化の推進を考慮しても、少なくとも国内農地の10%を活用し、最終エネルギー消費の10%以上を占めるようになっていくのが、ソーラーシェアリングの普及における一つのマイルストーンとして置けると考えます。
導入エリアは農村地に限らず
さらに、その電源としての立地が地方の農村部だけに限られないのも、ソーラーシェアリングの特徴です。人口集中地帯である関東平野には60万ha以上の農地があり、東京都・千葉県・埼玉県・神奈川県だけでも22万ha以上になるため、その全域をソーラーシェアリングに活用したと仮定すると、ここだけで国内の電力需要の20%を賄えます。風力発電、水力発電、地熱発電のようにエネルギー源となる自然資源の偏りが大きくない太陽光発電であれば、需要地である都市部の近くでもまとまった再生可能エネルギーを確保できることが強みとなります。
都市近郊でも再生可能エネルギーを生産できる(写真:小田原かなごてファーム)
2050年のゼロエミッションを目指すには、まずその時点で想定される一次エネルギー供給構造と部門別のエネルギー需要などを設定し、それを達成していくために2030年や2040年といったマイルストーンを置くことが必要です。その上で、現実的な普及しつつある技術の積み上げや、イノベーションが必要とされる部分などを整理していくことになりますが、そこでは各地にポテンシャルが分散するソーラーシェアリングが占める役割は、非常に重要なものになるでしょう。
2020年11月19日 カテゴリー: 未分類