遡る嘆き(魔女の旅々)

登録日:2020/12/07 (月曜日) 13:17:43
更新日:2021/02/20 Sat 16:22:32
所要時間:約 14 分で読めます




注意!!この項目には非常にきつい残虐描写が含まれているため、注意して閲覧して下さいますようお願い致します。



「時計郷ロストルフ」という国の広場にいる、金欠でお腹を空かせて、
今にも泣いてしまいそうな儚くも美しい女性は誰でしょう?

そう…私です。

悲しいことに私です。はぁ…。


「遡る嘆き」は、ライトノベル魔女の旅々のエピソードの1つ。単行本3巻に収録。
アニメでは第9話として放送されたが、とても刺激の強い内容であるために、冒頭にて注意喚起するテロップが表示されている。またこの回はOPがなく、EDに全てのクレジットが集約されている。

※本項の内容はアニメ準拠で記述してあります※

【あらすじ】

舞台は時計郷ロストルフ。
最近金欠のイレイナは、「超短期間働ける魔法使いを大募集! 大金を稼ぐチャンスです」と書かれたチラシを見て、その住所を訪ねる。
そこで会った薫衣の魔女・エステルは、「二丁目殺人鬼」と化してしまった幼馴染にして親友だったセレナを、3年前国王命令により自らの手で殺してしまっており、過去に戻ってセレナの悲しい結末を変えたいと思っていた。
そしてエステルはイレイナに、魔力共有のお供をしてもらうように依頼する。
全ての切っ掛けとなる10年前に飛んだイレイナとエステルは、悲劇を起こさないようにするべく奔走するが……

【登場人物】


  • エステル cv.内山夕実
「やり直したいんだよ…。あの子のいなくなった世界を私はもう…これ以上生きたくない。」
『薫衣の魔女』の二つ名を持つ魔女。19歳。ヤンデレその1。
幼馴染のセレナとは本当の姉妹のように仲が良かったが、魔法を学ぶため別の国に留学する事になり疎遠となる。
だが、留学から帰ってきた頃にはセレナは快楽殺人鬼と化しており、国王命令でセレナを殺害した。
やがて「10年前のロストルフに行って、セレナの両親を強盗から助ければ、セレナの未来は救われる」と考え、
過去へ移動するための魔法を研究し、限界ギリギリまで血液を抜いてまで*1、過去の世界に行くための魔力を溜め続けた。 ?「過去をかってに変えるのはいけないことなんだぞ!」
血液をギリギリまで抜き続けた影響もあり、貧血気味となっている。
10年前へ行くと自分の魔力を使い果たしてしまう為、魔力共有のできる指輪をイレイナに渡し、それによってイレイナの魔力で自分が魔法を使用できるようになる。
「出来れば働かずに金儲けしたい」と言うイレイナに戸惑いつつも「やる気が無くても魔女は魔女」と受け入れた。

  • セレナ cv.楠木ともり
「現在進行形で怪しいです。」
エステルの幼馴染だった富豪の家の少女。ヤンデレその2。
買い物で留守にしていた際、強盗に両親を殺害され、そのまま叔父に引き取られるも、そこでひどい虐待を受けたことで心に闇を抱え、人間と悲惨で救いのない世界を憎むようになった。
やがて叔父をメッタ刺しにして殺害したのちに姿を消し、エステルが魔法留学から帰ってきた頃には、人を殺すことに快楽を覚える完全な殺人鬼と化してしまっていた。
次から次に殺人を繰り返したのち、3年前にエステルの手により捕まり斬首されたという。
彼女の事は「二丁目殺人鬼」として有名になり、演劇や本にもなったほど。

「私…旅人なものですから、10年前のこの国というものに少しだけ興味があります!」
毎度おなじみ『灰の魔女』の二つ名を持つ主人公。
金儲けの甘言に釣られてエステルの家を訪ね、彼女の魔力共有のお供を務めることになる。
今回の一件が自身の心に暗い影を落とすことになろうとは知らずに……
エステルが魔女見習いになったのが10歳の時と聞き、「魔女になるまで3年かかったということですか…私は1年で魔女になりましたよ!2年遅いですね♪」と清々しい笑顔でディスっていた。


※以下ネタバレ注意


◇10年前の世界へ


10年前にやってきたイレイナとエステル。
エステルが言うには、ここにいられるのは1時間だけであり、6時の鐘が鳴ったら自動的に元の世界へ戻されるという。


私の魔力ではそれが精一杯。
けれど…十分!
それだけの時間があれば、この先の10年くらい簡単になかったことにできる!

箒に乗りながら、イレイナに作戦を発表するエステル。


どういう作戦なんです?

約20分後、セレナの家に黒いフードをかぶった強盗が押し入り、両親をめった刺しにするから、
その前にセレナの両親を家から出し強盗を待ち伏せて撃退する。
簡単でしょ?

イレイナは、自分たちが戻る10年後のロストルフは随分と違ったものになっていそうだと言うが、
エステル曰く「過去に干渉した所で私がセレナを殺した未来は変わらない」との事。
自分達が戻るのは元々いた世界であるが、殺人鬼が生まれなかったこの世界は全く違う時間軸となって存在することになるというのだ。

するとイレイナは、「大変失礼なんですけどそれって意味あるんですか?(←ほんとに大変失礼だね byエステル)」「私たちの世界ではセレナさんは処刑されたままですし」と疑問を口にする。
しかしエステルは、こうすることで自分の気が晴れるから、と自信満々に言った。
その時、エステルはある人物を見て着陸した。その人物とは…

セレナ!

そう、まだ幼い頃のセレナだった。エステルは彼女に思わず抱き着いた。


え…え…?お姉さん誰…?

ごめんね!ずっと助けられなくて!ほんとに…ほんとにごめん!
きっと…きっと…貴女を救ってみせるから…!

エステルは泣きながらセレナを抱きしめつつそう言うが、当のセレナからは「新手の宗教の勧誘か何か」と怪しまれ、「ただ抱きしめたかっただけ」と誤魔化した。
そして自分は未来から来たと話すが、セレナは「買い物に行く途中だから」という理由で、足早にその場を去った。
エステルがセレナに冷たく当たられているのを皮肉るイレイナ。エステルによると、「口先では冷たいくせに中身はとっても優しい子」なのだという。

行きましょう。作戦開始よ!

セレナの家。
エステルは自分を「エステルの腹違いの姉」だとセレナの両親に説明する。
にわかに信じられない様子だったが、母は「確かによく似てるわね」、父は「うなじの感じとか首のラインはエステルちゃんと同じだ」と納得。
そしてエステルは留学中の(この時代の)エステルに起きた重要な話を聞いて貰うという名目で、両親を誘導する。
その様子を見ていたイレイナは…


うまくいくもんですねぇ。
後はエステルさんが戻ってきて強盗が来るのを待つばかり。
数分で黒いフードの強盗がやって来る…

しかし、いくら待ってもエステルは戻ってこず、強盗も現れない。
それと同時にイレイナは、盗みを働くためにメッタ刺しまでするのか、強盗に見せかけた怨恨からの犯行ではないか、と疑問を抱く。
すると、指輪から魔力が吸い上げられていくのを感じたイレイナは、エステルが強盗と戦っているのだと思い、その場所へ向かう。


ですが、刃物を持っていたとして魔法使い相手に敵うわけがありません。
面倒ですから、私が着いた頃には片付いていてくれると助かるのですがね。

その時、突然魔力の共有が途切れる。もう終わったのかと思い、軽い気持ちでその場所へ行ってみることに。


◇10年前の事件の真実



だが、その場所についた瞬間、イレイナは戦慄した。
そこには殺されたセレナの両親、出血しながら倒れていたエステル、そして…



右手にナイフを持ち、口を血で真っ赤にしたセレナがいた。


お姉さん、この女と一緒にいた人ですよね?

そう言いながらエステルを蹴り飛ばし、イレイナに迫りくる。


ははっ、困ったなぁ〜。
どうしよっかな〜、お姉さんも殺しておこうかな〜?

どうして…こんな…?

私両親から虐待を受けてたんです。
父にはいやらしいことをされ、嫉妬した母にはぶたれ…
それなのに家の外では仲のいい家族を演じるという壊れた家でした。
だから殺しちゃいました!これって許されますか?

笑顔を浮かべながら嬉々として語るセレナ。
そう、元々強盗殺人犯など存在しておらず、両親を殺したのは他でもないセレナ本人だったのだ。
そしてセレナは、未来の自分がどうしているのかイレイナに尋ねる。イレイナは「親友(エステル)に殺される」と答えるが……


殺される?親友に?

私に親友なんていませんが…?

そう、セレナはそもそもエステルの事を「親友」などと思っていなかったのだ。
するとセレナは、倒れているエステルこそが未来のエステルだと気づき、更に踏みつけた。
更に「どうしてエステルに殺されるのか」と尋ねるセレナに、イレイナは「貴女が殺人鬼になったから」と答え、セレナはあろうことか納得する。


だって人を殺すのって…、

こんなに…楽しいんだもの!!

ナイフを手にイレイナを殺そうとするセレナ。
イレイナはとっさに杖を構えるも、何者かが投げた樽でセレナは吹っ飛ばされる。

許さない…許さない…!

樽を投げたのはまだ生きていたエステルだった。


アハハ!まだ生きてたんだ!

もっと刺しておけばよか…

するとエステルはセレナを魔法で攻撃。血で真っ赤になり、笑い出すセレナ。


セレナアアアアァァァァッ!!

アハハハ!痛い!痛いって!ハハッ!

狂ったように笑うセレナになおも攻撃を続けるエステル。


私を!ずっと騙していたの!?友達だと思っていたのに!

エステルが私を殺そうとしてる!アハハハ!

殺人鬼になる私をエステルが!アハハハッ!!

友達だと思ってたのに!
貴女がきっといい子に戻れると思ってたのに!
ずっとずっとずっと…私を騙してたの!?ねぇ!

アハハハッ!イタイ!イタイ!イタイイタイイタイッ!!

アハハハッ!!!

この…悪魔ッ!!

そしてエステルはセレナを魔法で宙に持ち上げ、その首を絞めていく。そのセレナに「人殺し」と嘲笑されながら。

これらの惨劇に恐怖するイレイナ。
彼女はとっさに、魔力共有の指輪を力ずくで外す。
しかし、指輪が外れたにもかかわらず、エステルに強大な魔力が集まっていく。


貴女との思い出なんかいらない…全部いらない。
貴女ごと全部無くなってしまえばいい…!

貴女なんて助けなければよかった!

貴女のことなんて振り返らなければよかった!

貴女の死なんて憐れまなければよかった!!

怒りと悲しみが入り混じった顔でセレナの首をさらに締め上げていくエステル。


貴女なんて死んでしまえばいいのよ!!

貴女なんて…貴女なんて…貴女なんて…!



さよなら…セレナ。


やがて6時の鐘が鳴った。
セレナの首が落ち、それと同時にイレイナとエステルは元の世界に戻っていった。


◇帰還、そして…


エステルの家。


エステルさん…。

イレイナさん…だっけ…。私何を…これは…?

エステルは、自分とセレナが映っている写真を見るが…。


覚えていないんですか…?セレナさんのこと…。

誰…?

エステルはセレナの事を覚えていなかった。
そう、彼女はセレナとの思い出を代償にセレナを殺害したのだ。


その人は…私にとって何だったの?

何でもありません。今は…もう…。

ふーん…そっか…。

居た堪れない気持ちでいっぱいになったイレイナは、報酬を持ち帰ることなくエステルの家を飛び出した。
後には未だに血を流し続けているエステルと、イレイナが飛び出した際に机から落ちた大量の金貨の入った袋だけが残った…


広場。
ベンチに座っていたイレイナ。普段はドライな彼女も今回ばかりは落ち込んでいた。
そしてポツリと呟いた。


止められなかった…。

彼女は…二度も…その手で親友を……。

その近くでは、親友同士と思しき二人の少女が楽しく語り合っていた。
やがて風に吹かれ、イレイナの帽子が空高く舞い上がっていく。

私はただの旅人……ただの魔女……。

すると、イレイナの目から一筋の涙が零れ落ち、嗚咽する…


未熟で…、

何も…できないで……!

やがてイレイナは、自身の未熟さと無力さを嘆き、大きな声で泣いた。
彼女の悲痛な泣き声は、ロストルフの空に響くのだった……

【余談】


  • 虐待に関しては、サイコパスの特徴である虚言である可能性があるが、父親が未来から来たエステルを普通なら見ないであろう、うなじや首筋で判断していたことから性的虐待を受けていた可能性があり、嘘では無いのかもしれない。

  • イレイナに勝るとも劣らない天才であるエステルであるが、後に「そのアイテム、エステルさんに渡してやれよ…」と言わせる程、高性能なアイテムが登場している。

  • アニメ版でセレナの死亡描写がリアルに描かれており、首を千切られる寸前に目玉が飛び出て血が吹き出し、首の千切れた遺体の断面から血が流れ落ち、アニメ等では綺麗な顔で描かれがちな落とされた首の表情は美少女の面影が無いほどグロテスクな顔になっていた。流石に、首を圧迫された際の失禁までは自重されていたが…

追記修正は、10年前に行ってからお願いします。


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最終更新:2021年02月20日 16:22

*1 もちろんそれとは別に魔力も溜めている