「男子ってバカだよね」の積み重ねが性差別社会をつくる 10代に読んでほしい「これからの男の子たちへ」太田啓子さんインタビュー
みんながモヤモヤ ツイッターで大反響
―発売直後からツイッターでの評判がすごいですね。
「すべての大人が読むべき本」とか「男性読者が本を投げ捨てず『考えてみよう』と思えるような筆致」とか、みんな反応が熱すぎて。子育て中とおぼしきお母さんだけでなく、男性や、子育てをしていない方からの反響も多い。男子大学生らしき人も。みんなこのテーマにモヤモヤしていて、それだけ社会が成熟してきているのだなと感じます。
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―一番伝えたかったことはどんなことでしょうか。
2つあります。1つは、男らしさの「呪い」から自由に生きてほしい、ホモソーシャル(同性どうしの関係性)的なものから解放されてほしいということ。もう1つは、性差別構造の中ではあなたはマジョリティー(多数派)の特権を持っているのだから、その自覚を持って、性差別とか性暴力についてあらがうような男性になるべきなんだよ、ということ。性差別は自分には関係ない、俺は性暴力なんてしない、レイプなんてしない、みたいなことを言う男性には絶対になるな!って。社会に対する責任が誰にもある。現実に性差別がこの社会では強いのだから、人ごとと思わないでほしい。性差別がある社会は男もつらい思いをしているのはその通りで、それをなくしていかないといけないのですが、同時にマジョリティーとしての特権を持っていることにも自覚的であってほしいと思います。
「お風呂をのぞく」アニメに、割り込む
―テレビや漫画には性差別的な言動あふれてますよね。大人がひとつひとつ気づいていくのは大変です。
アンテナを張っておく。息子には、人気のアニメでも「このシーンは気になる」と割り込んだり、後から伝えたりしています。たとえば、男の主人公が風呂場の女の子をのぞこうとしている場面。「ギャグとしてやっているけど、ギャグにしちゃだめなことだよ、ギャグとして描いている大人にお母さんは怒ってるんだけどね、ギャグにしちゃいけないってことを覚えておいて」と話します。子どもの反応は「そうなんだ、ママ頑張ってね」だったりしますが、たぶん伝わってはいると思う。
最近では、そのやりとりでアニメの視聴時間が削られることが嫌みたいで、言われる前から「俺もう分かってるから!」って。食品メーカーのCMで「○○は50年間、お母さんを応援してきました」というのがあって、「ねえねえ、お母さん、これ、おかしいよね! ねえお母さん!」と報告してきたりします。私のポイントを稼ぎたいという思いが強いのですけれど、分かってくれてはいる。
乱暴な行動「男の子だから」で流さない
―本の中で言及した、乱暴な振るまいなどを「男子ってバカだよね」と笑って済ます「男子ってバカだよね問題」。ついほほえましく思ってしまいがちですが、その積み重ねが「有害な男らしさ」につながる、と指摘しています。
男の子の母親をやっていると何百回もあります。男の子ってほんとバカよねって。食い下がるのは親も疲れちゃうのもわかります。でも、だから放っておいて良いのではなくて、男の子の親は女の子の親よりも頑張らなきゃいけない宿命を背負っているということではないでしょうか。
生まれつきか個人的な違いかということはどうでもよくて、目の前の言動が許せないのであれば、「男の子」であることで見逃されるのは絶対によくない。女の子のお行儀が良いのはやっぱりプレッシャーがあるからだと思います。女の子が「死ね」とか「バカ」とか言ったら大人は怒るのに、男の子が言うと「ほっとけほっとけ」ってなりがち。同じ乱暴な行動でも周りの受け止めが絶対違う。「死ね」とか、私はすごく怒りますけど、お母さんお父さんによっては私みたいに怒らない。怒ったから言わなくなるかというとそう簡単ではなく、「お母さん死ねって言っちゃだめって、昨日もおとといも言ったよね、先週も言ったよね」となってもいますが、でも、これを言ったら叱られるということを日々体験していると、違ってくると思います。
ほかにも、兄弟げんかでお兄ちゃんが強いとき、弟に対して「やり返してこい」っていう親がいる。私はそれは言わないなあと。「言葉で抗議してきなさい」ですね。男なんだから腕でやり合え、という意識はお母さんにも結構あると思います。
有害な男らしさ「言葉より腕力」の内面化
―その積み重ねが性差別につながるということですよね。
有害な男らしさ、価値観ですよね。言葉でのコミュニケーションでなく腕力がものをいう、強い者がモノを言っていく。女の子とは違う解決方法を俺ら男はする、みたいな。マッチョイズムが内面化されていくのではないでしょうか。
―いっぽうで日本では性教育がとても遅れています。
性に関心があってもちろんいいと思う。でも、正しい性教育がされない一方で、少年漫画に女性アイドルのグラビアが載っていて…そんな情報しかないのはダメでしょう。いろいろ学んだ上でグラビアが入ってくるのと、グラビアがデフォルトで入るのでは全然違う。そういう現状を親は踏まえて考えなくちゃいけない。性教育に関する漫画を家にばんばんおいて、これ知ったほうがいいよ、と伝えています。「マンガでわかるオトコの子の『性』」(合同出版)という本など、とても良いですよ。女親だというのもあるし、子どもが読める情報を与えれば良いのかなと思っています。
感情を言葉に 大変だけど、必要なんだ
―対談も面白かったです。
恋バナ収集ユニット「桃山商事」の清田隆之さんはもともと文章のファンでした。ジェンダー学者ではないのですよね。ホモソーシャルに染まった人でも学び直せるということに希望を感じます。どうしたら自分の中にある価値観を見直してアンインストールできるか、ヒントを聞きました。星野俊樹さん、小島慶子さんとの対談も面白かったです。
―鍵になるのは、感情の言語化と言います。
うちの子を見ると単純に語彙(ごい)が少なくて。でも練習だと思っています。男の子と女の子の差は機会の多さの差だと思うけれど、もしかしたら大きな傾向として性差があるのかもしれない。だとしたらハンディがあるからやらなくていい、ではなく、男の子はハンディがあるからこそ頑張らなきゃいけない。大変だけど、でも必要なんだ、と促す。こういう気持ちなのかなあ、と聞いたり、言葉を与えたり。それでしっくりくれば次は自分で言えるかもしれない。言語化の機会を奪わないように、どこまで介入していいかは難しいですけれど。気持ちが通じるうれしさを分かってほしいなと思います。
女性専用車両は女性優遇?…ありえない
―相手と対等なコミュニケーションを取るには言語化が必要、と。
離婚事件を担当していると、奥さんと対等であることに耐えられない男性がいます。上下関係で自分が上じゃないと嫌。奥さんが対等なけんかをしようと文句を言っているのに、「おまえはすぐに上からものを言う」となる。上下をひっくり返されたとしかとらえられない。対等という概念がわからないのですね。権力抗争みたいな。なんでフラットにできないのかなと思いますが、そういう人は離婚事件でよく見ますよ。
―一番読んでもらいたいのは。
男の子の子育てという切り口から見た性差別社会についてのエッセイ、なのですが、このタイトルにしたのは男の子当事者に読んでほしいと思ったから。中学生にはちょっと難しいかもしれないけれど、中高一貫の男子校の図書室などに置いてもらえたらうれしい。大学で「日常生活で差別を感じることがありますか」と尋ねると、「女性専用車両」という答えがかなり多いそうで、ぞっとします。そもそも性差別があって、それに対するシェルターとしての女性専用車両だという前提が見えていないから「女性を優遇」と見えてしまう。ありえない。そうならないように、ホモソーシャルな社会に染まらない10代のうちに読んでほしいです。
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